彼ら彼女らの物語は終わらない   作:田んぼ二キ

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6.そうして川崎沙希は真実を突き付ける

「それで、肝心の依頼についてまだ聞いてませんでしたよね」

 

 

あっ、と思い出したような顔をして小町が言った。

 

 

「由比ヶ浜、昼休みから進捗あったか」

 

 

知らないやつもいるので、説明してやる。

 

 

「昼休みに戸塚と会ってな。その時にある程度の事情は聞いた。それで他の部活にグラウンドを貸してくれるように打診してもらっている」

 

「大志くんの依頼も同じ?」

 

「入ったのはいいすんけど、練習できないのが辛くて……依頼は戸塚先輩と同じっす」

 

 

期待を胸に入った高校生にとって部活は一つの青春の形だと思う。縦社会の厳しさやモチベーションの維持など将来役に立つ部分もあるだろう。大学になるとテニサー=ヤリサーの構図が誕生してしまうが……いや待てよ戸塚もやがてそうなってしまうのか。

 

 

「八幡、そんなに気にしないでよ。大志くんみたいに一年生ならいっぱい入ってきてくれてるから!」

 

 

ぞいポーズの戸塚。どうやら俺が気に病んでいるとみえたらしい。あえて言う必要はあるまい。

 

 

「あーそれ多分戸塚先輩の影響じゃないですか?」

 

「確かにそれはあるかもっす」

 

「何言ってんだお前ら、そんなことは当たり前だろう。戸塚いるところに天使ありって七不思議もあるし」

 

「ヒッキー、さいちゃんを怪談にしてるし……」

 

 

ちなみに残りは、特別棟の雪女、屋上のヤンキー……うーんあとは特にないな。そもそも知らんし。

 

 

「え? もしかしてお兄ちゃん知らないの?」

 

「なんかあんの?」

 

「あー私は生徒会で参加してましたけど部活紹介は基本一年生しか参加しませんからね」

 

「戸塚先輩、まだ誰にも言ってなかったんですか?」

 

「言えるわけないよ……だって恥ずかしいもん」

 

 

頬を紅潮させ、膝に手を載せる。制服を着ていてもこの威力。ジャージだったら死んでいたのでは? 俺得空間では?

 

 

「なになに! さいちゃんどうしたの」

 

「ううん別に何もしてないよ」

 

「いやー戸塚先輩のあの姿はやばかったなー」

 

「あれは仕方なく……」

 

 

さらにもじもじする戸塚。すると一色は戸塚に携帯を見せた。自然由比ヶ浜と雪ノ下の目にも入ったようで、驚嘆の表情を浮かべる。

 

 

「さいちゃんこれって」

 

「あの男に見せるのはやめたほうがいいわね……」

 

「一色さん撮ってたの!」

 

「生徒会でも必要になるときが来るかなと」

 

「そんな機会一生ないよ……」

 

 

脱力した様子で答える。というか俺に見せてはいけないものとは。

 

 

「一色、俺にも……」

 

「先輩に見せるなら条件呑んでもらってもいいですか?」

 

「なんで俺だけ条件付きなんだよ」

 

「じゃ戸塚先輩の写真はいいんですね」

 

「なんだ? 土下座すればいいのか」

 

「必死すぎだから、どんだけ見たいの?」

 

「最初に出てくるのが土下座……私なんでこんな人好きになったのかしら」

 

 

雪ノ下の発言は聞き捨てならないが、今はそんなことより戸塚の写真だ。

 

 

「八幡そんなに見たいの?」

 

 

何だろう、おかしい普通の言葉なのになぜかいやらしく聞こえるのは気のせいだろうか?

 

 

「ああ、見せてくれ」

 

「……いいよ」

 

 

少し逡巡した後、覚悟を決めたように首を振った。

 

 

「戸塚先輩が言うなら仕方ないですね、先輩一つ貸しですよ」

 

「分かったからはよ」

 

 

腕を伸ばして携帯を受け取る。そこに映っていたのは、女性用のテニスユニフォームを着た戸塚。白を基調とし、長めのソックスの先には回転しただけで下着が見えそうな短いスカート。へそがチラリズムしている半袖のシャツ。頭にはヘアバンドをし、そしてなによりその愛らしい顔には化粧が施されていた。

俺は尊さのあまり過呼吸を起こしかけた。真のメインヒロインはここに居たのか? いやそもそも邪な考えを持つこと自体おこがましい。俺は僧侶になるべきなのか……。俗世から解放されなければ。

うっかり戸塚教開くレベル。

 

 

「どうしたのこれ」

 

「皆が、悪ノリしちゃってさ。これなら一年生も入ってくるからって」

 

「化粧はどうしたんだ」

 

「川崎さんにお願いしたんだ」

 

「途中で怖くなったけどね」

 

 

川崎のいうことも分かる。例えばA5ランクの肉を家で焼くか、プロが焼くかという話だ。ただ焼いても美味しいが、プロがやるとその深みやコク、美味しいががより引き出される。これはそういうことだ。は?

 

 

「川崎、生まれてきてくれてありがとな」

 

「いやあんた泣くことないだろ」

 

「今日は戸塚記念日としよう」

 

「いやいや私の誕生日ですからね。忘れてませんか?」

 

「一色おめでとう」

 

「うわー棒読み」

 

 

携帯を返しながら、一色の誕生日を祝う。もう少し喜んでくれると思ったのだが。

 

 

「こほんこほん、話が脱線してます! それにもう下校時刻だよ」

 

 

小町に言われて、気づく。外を見れば夕焼けが、そして時計を見ればとっくに下校時刻となっていた。

 

 

「一色さんの誕生日祝いをしようと思っていたのだけれど……困ったわね」

 

「一色なら明日でもいいでしょ。それより由比ヶ浜。部活の奴らからはなんて」

 

「えっと、まだ全部じゃないんだけど、無理だって。ごめんねさいちゃん」

 

「いいよいいよ。もともと、そんなこと頼むつもりじゃなかったし」

 

 

たとえ希望的観測でも期待していたのだろう。取り繕うような無理しているような。戸塚にとっては最後の年だしな。

 

 

「なら別の方法考えるか、戸塚今日予定あるか?」

 

「特にないけど」

 

「サイゼに行こうぜ。俺も付き合うし」

 

 

戸塚に言うと、なぜか女性陣は固まってしまう。その中で一色は急に立ち上がった。

 

 

「みなさんちょっと」

 

 

黒板の傍で手招きしている。それから女性陣だけで井戸端会議を始めた。

 

 

「なんすかね」

 

「俺の悪口じゃないの?」

 

「ははは、そんなことはないと思うよ」

 

「それより戸塚行こうぜ」

 

 

出来れば暗くなる前には着いておきたいしな。

 

 

「じゃまた明日な」

 

 

俺たちが準備を終えても、まだ話し込んでいたので俺たち男子勢は教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

「雪乃先輩まずいですよ、先輩ってあんな頼れる人でしたっけ」

 

「あはは、昔からさいちゃんに対してあれだったし」

 

「確かに戸塚先輩はテニスの王子様って呼ばれてはいますけどあれは異常ですよ」

 

「でも戸塚先輩性格もいいですからね。案外兄と趣味被っているようですし」

 

「もしかしてヒッキーとさいちゃんって休みの日とかも遊んでるの?」

 

「結構二人きりで遊んだりはしてますね。たまに家来ますし」

 

「真のメインヒロインは戸塚先輩だった……」

 

「私とはあんまりデートしてくれないのに……」

 

「ゆきのん……」

 

「だ、大丈夫ですよ雪乃先輩! 付き合う前からちょくちょく遊んでいますし」

 

「そ、そうよね。もちろん私は疑っていないわ」

 

「雪乃先輩。ほんと先輩のこととなると可愛くなりますよね。まあ普段から可愛いんですけど」

 

「あんたらねぇ、戸塚は男子だよ」

 

 

この日、私たちの言葉が重なったのは言うまでもない。お兄ちゃんのことだから見守ろうと思ってたけど、……雪乃さん不安よな。小町動きます!

 

 

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