「それでお兄ちゃん、戸塚さんたちの為に何かいいアイデア出た?」
「アイデア自体は出たんだが、どれも実現は難しいな」
先程やって来た女性陣に他校に試合を申し込んでも相手にされない可能性が高いこと、場所を借りるにしてもやはりある程度金がかかることをかいつまんで伝える。
雪ノ下はふむと顎をしゃくり、由比ヶ浜は唸りながら考える。俺のコーラメロンジュースを飲みほした一色は携帯に夢中だ。
「おい、一色もう少し真剣に考えろよ。戸塚の前だぞ」
「先輩。そこまで言うのは若干というか死ぬほど引きます」
「というか元々お前のミスだろ。生徒会の金でグラウンド借りれるようにしろよ」
「いやいやそれこそ職権乱用ですから」
やれやれと言った感じで一色は首を振る。
「それに私、プロムで色々やらかしましたからね。あれ普通に押し通した案件ですし」
「押し通しちゃったんだ……」
「結果に結びついているのだからいいじゃない」
「よくないですよーあの頃寝不足でお肌荒れてましたし」
雪ノ下の参入によりいくらか仕事が減ったとはいえ、初めての試みだった。何事も初めては勝手が分からないし正解も探り探りだ。寝不足になるのは致し方無いがあんまり思わなかったな、クマも見たことないし。
「ほーん」
「だからちょっと濃いめの化粧だったんですよねー」
「いつもはいろはちゃん薄いからね」
ほぼ毎日顔合わせてたのに全然分からなかったわー、いろはすぱないわー。
これが女の子の魔法というやつか……一色さては月にかわっておしおきしてたな。
「ほほー男を操るには化粧は薄目……メモメモ」
「お米ちゃんも人のこと言えないよね? 新入生なのに地味に攻めてきてるよね」
「ほへ?」
「うわうっぜー。それ下地だけはやってるじゃん」
「小町は生まれた時からこの肌ですけど? それいうなら生徒会長が化粧やっている問題について」
「生徒会長は学校の顔だからね唯一許されてんの」
「この人ほんとくそだわ」
やはりこの二人混ぜるな危険なのではと思い始める。なんか妙に気が合ってるんだよなあ。小町が一色とともに俺を使い倒す未来が見えてくる。ん?案外悪くないのでは……ありよりのあり。
「戸塚君、あなたは部のために何ができる?」
顔を上げ、一色達の言い争いに一瞥もせずそんな曖昧模糊とした問いを雪ノ下は問いかける。
「僕に出来ることならなんでもするよ」
「なんでもね……ならあるわあたった一つの方法が」
ん?今何でもするって言ったよね。とでも言わんばかりの圧。しかしながら戸塚は当然のように自分に出来ることならと身を差し出した。その答えを待っていた、口には出さないがそんな表情が雪ノ下からは伺える。
「雪ノ下さんそれは一体……」
「奉仕部の原理原則は、困っている人に手を差し伸べる。そして今の部長は小町さんよ。だからそれについては私ではなく小町さんが言うわ」
「えっと、小町それ知らないんですが」
「小町さん、初依頼よあなたなら出来るわ」
「丸投げに近いと思うんですけど……なんか兄に似てきましたね。そうやって勝手に期待するとこも」
口調とは相反して、口元が少し緩んでいる。こんな言い方をするのは、ある程度気心が知れた奴に対してだけ。俺が知っているのは家族ぐらいだ。そんな小町を雪ノ下は微笑を称えながらじっと見守っていた。
そも小町が奉仕部を続けてくれる保証はない。今はあってないようなものだし、小町自身何か問題を抱えているというわけでもない。それでも、小町の言う通り雪ノ下も含め俺もそして彼女もあの放課後の教室が続いてほしいと期待している。あの場所で始まり、そして完結した物語。小町が部長となっているのはその延長線にすぎない。俺たちの奉仕部はあの二人がいればそれで成立するから。
「あなたならきっと出来るわ」
背中を押すように優しい声音。耳にかかった髪の毛を払い、小町の頬に手を伸ばす。感触を確かめるかのようにゆっくり撫でるその様は小さい子をあやすようなそんな印象を受ける。
「分かりました……そろそろ私も兄離れしなきゃですもんね」
ともすれば、聞き逃してしまうほど小さな声で小町は言った。
「千葉の兄妹なら兄離れする必要はないんじゃ……」
「お兄ちゃんうっさい」
「お、おう」
割と怒気を持っていたので、思わず後ずさる。といっても雪ノ下から数センチ離れた程度だが。あまり怒ることの少ない小町を目にした周りは意外そうな顔を浮かべる。少しの沈黙のあと、気づいた小町は首を振る。
「っは、いけないいけないスマイルスマイル。あ、お兄ちゃんは家でお説教ね」
「理不尽なんだよなぁ」
小町はやると言ったらやる。家族だから分かる。そんな事実知らないほうが良かったなぁ。
「うーゆきのんヒント頂戴!」
さっきから真面目に考えていた由比ヶ浜は頭を抱えている。知恵熱でも出てるのか。
「他校と試合すればいいのよ」
「でも他校はだめなんじゃ……」
「これ以上は答えになるから駄目よ」
口元に手を当てて、雪ノ下は答えた。何やっても絵になるなこいつ。
「なんか雪乃先輩、先輩と付き合ってから女っぽくなりましたね……」
「私は元々女なのだけれど」
総武高を強豪校と仮定すると、運動部に所属していない俺でも大体予想は出来る。弱点や特徴など知る機会になるし、この時期ならなおさら他校にとっては試合をしたい。だが戸塚は昼休みにもそして独自にスクールに通っているにもかかわらず、自分はあまり強くはないと言っていた。俺は実際に戸塚の試合を見ていないので何とも言えないが、戸塚が言うのであればそうなのだろう。総武高で可能性があるとすれば葉山ぐらいか。
雪ノ下は戸塚に覚悟を問いた。なし崩し的に由比ヶ浜に、そして奉仕部に相談することとなったが、戸塚は最初自分で解決しようとしていた。となれば覚悟はほとんど決まっているといっていい。
戸塚を含む三年生にとっては最後の夏。今の時期にもとめるのは練習できるグラウンド、出来れば強い高校……引き受けてくれるには総武高が強いチームである必要がある。強豪校の二年生、あるいは一年生なら戸塚達にとっても丁度いい相手かもしれない。去年まで中学生だが強豪校ともなればそれなりに成績を……。
「はーん、そういうことね」
三年生は三年生同士試合をすればいいのか。その相手にとっては
「小町ヒラメキ!」
俺がたどり着いたその後小町も答えが分かったようだ。そういうの俺とか奉仕部がいる時だけだと思っていたが、家の外でもああいうこと言う子なのねでもそんなところも。
「かわいんだよなぁ」
「可愛いんすよね」
声が重なる。一人はシスコン。もう一人は恋する男の子。やっぱこいつ滅では? 必殺八幡人の出番では?
「じゃ、小町ちゃん教えてもらっていいかな?」
「もちろんです。一年生ながら奉仕部の部長を務める小町に任せてください!」
「こういうところも似ているわね。もう教育上悪いから比企谷君別居したほうがいいわよ」
「兄妹ならこんなもんだろ。多分知らんけど。お前のとこも似ているぞ、からかうのが好きなとことか」
いつも通り言い合いになりそうな空気。だがそんな中小町が雪ノ下の肩をぽんと叩いた。
「雪乃さん、プランAですよ! 実行しましょう」
「あの、小町さん本当にやるの? まだ私準備が……」
「こういうのは付き合いたてが肝心なんです。あまり遅いとタイミングが掴めませんからね」
「そ、そうかもしれないわ」
からかい乃下さんになったり、赤乃下さんになったり、忙しい奴だな。と思ったら俺に真剣な顔を向けてきた。
「比企谷……八幡」
「え、どした」
何度か息継ぎをして、雪ノ下は俺の名を呼ぶ。同意とも取れないようなあいまいな返事を返すが、まだ何か言うことがあるらしい。珍しくもじもじしている。
「は、ち。はちがや。まん。そのえっと。ひきま、はまち、は、は、は、ち、は」
もはや単語にもならない言葉を繰り返す。最後の方は壊れかけのラジオのようになっていた。
「何お前くしゃみでもすんの?」
俺の馬鹿にした発言も、聞こえていないようだった。
「雪乃、あんまり無理すんなよ。わかってるから」
肩に手を載せ、雪ノ下の意識を取り戻した。
「いえそういうわけにもいかないわ。あなたにはもう言ってもらっているのに」
「俺は気にしてないから。お前のペースでな」
「ごめんなさい。でも頑張るから」
そんな顔すんなよ。今にも泣きそうな、ともすれば消えてしまいそうな表情を雪ノ下は浮かべた。もう名前の呼び方ひとつで俺たちの関係性は変わることはないのだから。
うーんでもこんな雪ノ下珍しいな。写真に納めたい。
「こほん、まあ少しは進展が見えたかもですね。では気を取り直して、戸塚さんにお教えしましょう。たった一つの冴えたやり方を」
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くっそ長くないか?
いい加減しつこいんだが(特大ブーメラン)
まあ余談ですが近況報告です。緊急事態宣言が解除されたんで来月からお仕事です。引っ越しなので更新頻度落ちるかもですけど、絵とか描いてくれたら(チラ)、感想とかもらえたら(チラ)色々はかどりそうです。
ではではまた後日。
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