見届け人、来る!   作:ちびっこ

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見届け人の時間・11

「……帰るぞ、イリーナ」

「カラスマ?」

 

ああ、やっぱりねとオレは頷き、ポケットにしまう。今回イリーナ先生はE組のみんなのために頑張って抵抗したからね。キーはそっち系統だと思っていた。オレは純粋なE組の生徒じゃないから届かなくて無理だったんだよね。まぁ単純な単語だけでマインドコントロールが解けたのは烏間先生が言ったからだと思うけどね。好きな人で、認めてほしくて、必要とされたくて……E組でさ。ついこの間、オレが中途半端とか言っちゃったしねぇ。

 

「っ、なんだ。お前か……」

「あはは、ごめん。邪魔しちゃって」

「くだらんことを言うな」

 

本当に言葉が足りない人だよね。オレの気配を察知して反応したのはいいけど、イリーナ先生がスネちゃってるじゃん。

 

「イリーナだったか。すぐ動くんじゃねぇぞ。脳に負担がかなりかかってるはずだ」

「……あんたの知り合い、変な奴ばっかりね」

「否定はしないけどさぁ……。ロヴロさんにもうちょっと裏のこと教えてもらいなよ。リボーンは超有名人だからね。ロヴロさん、多分コイツに変な奴とか言ったと知ったら顔真っ青になるよ。ほんと、イリーナ先生が女の人で助かった」

 

女の人だから聞き流してくれてるけど、男なら絶対にボコボコにしていたよ。オレがホッとしてると、烏間先生がイリーナ先生の怪我をみつつ声をかけていた。

 

「イリーナ、動かなくていいが手伝ってはもらうぞ」

「……よくわかんないけど、やってやるわよ。私の力が必要なんでしょ」

「ああ。そうだ」

 

空気を読んで、オレはリボーンの口を塞ぐ。その代わりって言ったらなんだけど、咳払いをしたよ。イリーナ先生に邪魔しないでよって睨まれたけど、うぜーって言われるよりはマシでしょ。

 

烏間先生の作戦を聞いて、オレは見届け人として邪魔しないようにと下へ先に降りることにした。

 

●●●●●●●●●●

 

烏間先生って受け身を取ったとはいえ、あの高さから落ちて無傷とか一般人の枠から外れすぎ。まぁだから殺せんせーの言った通り、E組にやってきたんだろうけど。そして何より容赦ない。オレはオレを模範して出来た人格だから、急所を殴られた痛みもわかるから花屋の人が不憫すぎて……。いやまぁ花屋の人との攻防とか、その前に決定的なスキを作った殺せんせーとの連携とかいろいろ凄いところはあったよ。でも全て感想がソレに持っていかれた。

 

オレが烏間先生にドン引きしてると、その烏間先生は何とか殺せんせーだけを殺すことは出来ないのかと唸っていた。最終的に殺せんせーが煽って開けさせたけどね。

 

「つーか、さっさとイリーナ先生を迎えに行きなよ。多分そろそろ動いてもいけると思うし」

「そうだな。君達が来るのを待ってるだろう」

 

烏間先生は相変わらず鈍感という視線をみんなからもらっていた。

 

「……帰るという言葉で彼女の意識が戻った。君達と過ごすあの教室に帰りたかったんだろう」

「ビッチ先生がそんな風に思ってくれてたなんて」

「嬉しいよね、早く迎えに行きたいね」

 

まぁもう烏間先生が開けちゃったしいいよねとオレはリボーンに降りてもらって牢屋をこじ開ける。

 

「俺達の苦労って一体……」

「バカ言ってんじゃねぇ。さっさと行くぞ、おい」

 

スパコーンって頭を叩いた寺坂君の荒っぽい行動に苦笑いしつつ、誘われたからついていくことにする。最後の「おい」はオレに対してだろうしね。オレが迎えに行きなよって言ったから、オレはその中に入るつもりがなかったとバレてたんだろうなぁ。

 

渚君を気にしつつ、のんびりと後ろから歩いてるとカルマ君がやってきた。ほんと悪い顔してるねぇ。

 

「頼まれたことはやったけど、律さんがいつも通りに戻らないと無理じゃない?」

「殺せんせー」

 

はやい。こういうことには全力投球だよ。殺せんせーもクラス全員が揃った方がいいと思ったんだろうね、すぐさま律さんを戻してくれたよ。というわけで、カルマ君のケイタイに送信っと。

 

「いつもこんな感じなのか?」

「カルマ君はこれが通常運転だね」

 

お前とも通ずるところもあるよねと視線を送る。ドSだし、楽しむためには苦労を問わないところとか。ちょっとやりすぎて、理解されにくいところとかもさ。でもまぁ根はいい奴なんだよね。喧嘩っ早いけど、自ら進んで暴力は振るわないし。いやまぁオレにはケンカ売ってきたけど。

 

「ヒバリとオレに似てるってことは、おめーのど真ん中だな」

 

ブハッと噴いた。ゲホゲホとむせてると、みんなが振り返ったから何でもないよと手を振る。不思議そうにしつつも、イリーナ先生に会うために階段を上ることを優先してたよ。

 

「ヒバリさんはまぁ……うん、なんだかんだ言いつつも自覚してるよ。だからそこはわかるけど、お前もかよ。や、好きだけどね?そこに入れんなよ。あとカルマ君もね」

「まっ、あいつはよえーから候補にすら入らねーか」

 

うん、それはあってるけどね。オレが守んなきゃいけない人は絶対にそういう風に見れない。オレはわたしのことで手一杯だからさ。それにカルマ君に失礼だから。カルマ君は奥田さんみたいなタイプが好きみたいだし。正反対のタイプのオレとか冗談じゃないと思うよ、絶対。友達としてはいいと思ってるだろうけど、そういう対象には入ってないってば。あとオレが言ってることをサラッと無視すんなよ。なんでオレはお前がタイプってなってんの。

 

「つーか、せめてオレより身長が高くなってから、そういうこと言ってよね」

「そういうところが鈍チンなんだぞ」

 

や、意味わかんないし。でも、わたしとリボーンが揃って呆れたため息ついてんだけど。

 

「え。オレって、お前のことそういう意味で好きなの?赤ん坊だよ?」

「おめー自身が性別の概念があやふやなのもあるが、オレの本当の姿を知ってるせいで、余計にわけわかんなくなってんだろ」

「うーん。……つーか、別にいいじゃん、お前はお前だし」

「おめーがそれでいいならいいぞ」

 

そうしてと何度か頷く。実際、その姿でオレに自覚しろとか無理だから。ヒバリさんに押し倒されても自覚しないで、ただただぶん殴ろうとしたんだよ、絶対無理でしょ。そもそも自覚する必要なんてないじゃん、だってリボーンだよ。……わたしも鈍いねと呆れつつも納得してくれたよ。だってね、自覚してどうすんのって話だもの。リボーンはまだ赤ん坊の姿だからね。オレもわたしも後どれぐらい成長に時間がかかるかも知ってるしねぇ。

 

なんでこんな話になったんだろと思いつつ、イリーナ先生の元にたどり着いた。みんなに囲まれて嬉しそうな顔してるね。殺し屋としてはほんと向いてないよねと呆れつつも、オレも笑ったよ。おめーも甘いなとはリボーンに言われたよ。オレはオレじゃないけど、オレでもあるからね。割り切れるけど、甘いのは間違いないだろうね。

 

割とほんわかな空気が流れてる中で、相変わらず真面目な烏間先生は防衛省の連絡とかして忙しそうだった。まぁイリーナ先生が動けるか自分の目で見るまで安心出来なかったから来たんだろうけど、空気読めないよねみたいな視線をみんなからもらっていた。

 

『ったく、敵の罠に引っかかるとはどういうことだ。だいたいお前はプロとして自覚が足りん』

 

聴こえてきた音声にオレは思わず噴いた。まさかすぐやるとは思わなかったよ。でもカルマ君らしいとも思う。その音声の主である烏間先生はものの見事に固まっていた。けど、それは一瞬でカルマ君のケイタイを掴もうと手を伸ばしたよ。カルマ君はそれを読んでたのか、すぐさまオレにケイタイを投げてきたからカエデちゃんにパスする。バッと烏間先生の視線がケイタイに移動したのもあって、慌ててカエデちゃんはケイタイを渚君にパスした。そこからはもうクラスのノリが発揮して、ぐるぐると回る。その間もケイタイからはグチグチとイリーナ先生への注意が垂れ流しになる。だからイリーナ先生が怒りでプルプルと震えていた。

 

仕方ないなぁ……と手をあげればケイタイがちゃんと回ってきた。タイミングもそろそろなのもあって、烏間先生は必死だったよ。

 

「イリーナ先生」

 

怒りで震えつつも、声をかけたのもあってちゃんとケイタイを受け取った。なによこれ!と止めようとしたイリーナ先生の手がピタッと止まる。消そうとしたのもあって画面を見ちゃったのかな。かなり真剣な表情してたもんね。

 

『だが……好ましいと思ってる』

 

ボフンと真っ赤に染めあがって、スキだらけだったイリーナ先生からケイタイを奪って烏間先生は動画を消した。けどまぁ、遅かったね。みんなニヤニヤしていたよ。リボーンはうぜーって言ってたけど。

 

「……勝手に消して悪かったな」

 

辛うじてそれだけ言ってカルマ君にケイタイを返したよ。相変わらず真面目すぎて笑える。オレの中でわたしが爆笑中だよ。

 

「カ、カラスマ……」

 

流石イリーナ先生わかってる。と言いたいところだけど、これは天然だろうなぁ。このタイミングで上目遣いとかさ、男からすればグラっとくるよね。烏間先生も声を詰まらせて、諦めたのかため息を吐いて嘘をついた覚えはないと言ったよ。きゃー!と殺せんせーが一番うるさかった。空気読んで、みんなが叫ぶの我慢してたのにね。

 

肝心のイリーナ先生はいろいろあって精神疲労が溜まったのか倒れた。でもまぁ幸せそうに倒れてるからいいんじゃないかな。ちゃんと烏間先生が支えてたしねぇ。

 

面白いものが見れたし、オレはそろそろ帰るかなぁとリボーンに視線を向けると頷いた。烏間先生が呼んだ防衛省の人間が来るまでには去った方がいいだろうしね。

 

「……どこへ行くつもりだ。沢田ソラ」

「あはは。また明日」

「コラ、待て!」

 

素直に止まるわけないじゃんとオレは速攻逃げたよ。オレが撮ったとバレたみたいだし。いやまぁ烏間先生はイリーナ先生に声をかけてた時にちゃんと生徒達に聞こえないようにトランシーバー切ってたからね。そもそも動画だからオレしか犯人はいない。でもさ、あそこで削除出来ただけ良かったじゃん。オレは聞いてて苦いコーヒーを飲みたくなったし。

 

「というか、怒りをオレに逸らすのも計算してあそこで流したよね、絶対」

 

もう!とオレが口を尖らしていたら、気を抜けばすぐ見つかることになるぞとリボーンは楽しそうに言った。あーもう、リボーンが完全に気に入っちゃったよ。多分カルマ君が探ってても、面白そうだからと全部見逃すんだろうなぁ。一番厄介なやつを味方につけやがったとオレは笑った。

 

●●●●●●●●●●

 

 

次の日には烏間先生も落ち着いたのか動画の件は何も言ってこなかった。顔を合わせた瞬間に、思いっきりため息を吐かれたけど。すぐに切り替えて、いろいろと教えてくれた。殺せんせーが生徒達の安全を再要求したし、烏間先生も生徒達に頼んで要望書を書いてもらって政府を納得させた。出来れば烏間先生はその手をやりたくなかったんだろうなぁと思う。そりゃ生徒の安全は願ってるよ。けど、生徒達がそれを提出するってことは政府に不信感を募らせてるってことだからね。中間管理職だよ、ほんとに。

 

大人達の思惑がいろいろ絡み合ってるねぇと思いつつ、オレは進路希望と書いた紙を見つめる。みんな周りを伺ってるから、一番はオレでいいかと立ち上がる。書けた人からでいいって言ったしね。

 

「え?ソラちゃん、もう書けたの?」

「や、真っ白。オレはこの紙の枠に当て嵌まんないだろうから」

 

ヒラヒラと手を振って、教室から離れた。一人ぐらい盗み聞きするかなと思ったけど、そんなことはなさそうだね。

 

「やはりソラさんが一番でしたか」

「え。なんでそう思ったの?」

「ソラさんは自立していますし、周りが放っておくとは思えません。モテモテですからねぇ」

 

このモテモテは普段使ってるような意味じゃないんだろうなぁ。

 

「殺せんせーの想像通り、口説かれちゃってね。3年間は並盛で過ごすことにしたよ」

「そうですか」

 

オレの進路希望用紙は真っ白だけど、殺せんせーはそのまま受け取ってくれた。残すわけにはいかないことを理解してるからね。

 

「ソラさんに誤魔化しは聞きませんから、はっきりと言います。先生は君の将来が一番心配です」

「あはは。だろうね」

「君達の心の中にこの教室がどれほど残るか……おそらくソラさん自身もわかっていないのでしょう?」

 

素直に頷いたよ。オレとわたしはこの教室のことを気に入ってるし、みんなの将来も見届けるつもりだよ。でもオレらはこの教室に仕事として来た。仕事の延長なんだよね、全部。カルマ君がオレを探すっていうなら面白いと思うし将来に期待している。けど、オレからは絶対に会いに行かない。それが答えでもあるんだよ。卒業してからみんなが巻き込まれて助けても、顔は見せない。裏の世界の人間だから。

 

「先生……先生達の心配もわかるけど、オレらは大丈夫だよ。オレにはわたしが居るし、わたしにはオレが居るから。なんとかなるよ」

「ええ。わかってます」

 

わかってても心配ってところかな。何度も伝えても効果がないから言わないだけで。特に殺せんせーは死んじゃうとわかってるから。死んだ人の言葉はオレらに響かない。話は終わりとオレは立ち上がり、廊下へと出る。

 

「盗み聞きはどうかと思うよ、烏間先生」

「……何のことだ?」

 

烏間先生にウソは似合わないよと声をかけて、オレらは教室に戻った。

 

「終わったから、次の人どうぞ」

「えっと、どうだった?」

「んーオレがこれからどうするかわかってたみたい。笑われないかなとか恥ずかしいと思ってる人は気にせず行ってきたら?」

 

殺せんせーだしなぁという空気になって、何人かが進路希望の紙に書き始めていた。ちゃんと考えてる人は考えてるよね、やっぱ。

 

オレは終わったしとぼーっとしていれば、視線を感じたからニッコリと笑う。慌てて渚君はトイレと言って離れたよ。多分殺し屋としての才能が開花されちゃって、オレの怖さをより感じてるね。あれからオレに話しかけてこないし、間違いないだろうなぁ。まぁ殺せんせーがなんとかするでしょ。しばらくは渚君に近づかない方がいいかなーとオレは目をつぶった。

 

 

●●●●●●●●●●

 

殺せんせーに全部任せていれば、渚君の問題は全部解決したみたい。渚君にはごめんねと謝られたから、多分そう。まぁオレは何が?って返したけどね。それがオレの気遣いだと思ったのか、渚君は笑ってたよ。

 

渚君との関係も元通りになると学園祭の時期になった。またA組とE組の対決で盛り上がってるらしい。毎回毎回よくやるねとオレは思う。

 

どうすんのかなーと黙って聞いてると、山の素材を使ったもので何とかする方針に決まったみたい。つーか、ラーメンとかよく考えるね。

 

「あんた、今回は静かだね」

「オレいつも静かじゃね?」

「よくやらかすじゃん」

 

オレ、カルマ君にどう思われてるの?と思いながらも教える。

 

「素材を集めるのは大丈夫だけど、料理とかサッパリだもん」

 

バッとみんなが振り向いて、嬉しそうに殺せんせーがやってきたよ。……前にも似たようなことあったなぁ。

 

「ソラさんの意外な弱点ですね。ヌルフフフ」

「うんうん。出来るイメージがあったよ」

「そういう機会がなかったんだよ」

 

野宿生活だったし、継承した方でも母さんが居るから京子ちゃん達が未来でボイコットした時ぐらいだよ。ボスになれば、料理を作る機会はないし。専属シェフが居るからね。

 

「作ってあげたりしないの?」

「ないない。2人ともオレらにはそういうことを求めてない。まぁわたしは母さんと一緒に料理したいと思ってるから、いつかやるかもしれないけど。失敗しても弟が死ぬ気で食べてくれるでしょ」

「そんなに出来ないの?」

「や、そこまで酷くないよ。舌は肥えてるし、変なものはオレが入れさせない。感だっていいし、失敗しても焦げた程度でしょ。弟は毒とわかってても、食べきったことがあるからそう言っただけ」

 

どういうこと!?みたいな顔をされた。……いやほら、ビアンキが居るからさ。オレには全然絡んで来ないけどね。殺しに来たら返り討ちにしちゃうからリボーンに止められたんだと思う。だからなのか、家の中に居ても全然会わない。

 

「オレが出来んのはコーヒーを入れるぐらいだよ。リボーンが好きでさぁ」

「それならドングリコーヒーというのはどうでしょう?」

 

はいはい、やりますよとオレは殺せんせーの提案に頷いたよ。どうやっても参加させるでしょと苦笑いしつつ受け入れた。

 

●●●●●●●●●●

 

文化祭一日目。オレはあんまり人目につかない方がいいと思って裏方で居た。ちょうどいい言い訳があってよかったよ。結局誰もオレが入れるコーヒーの味を上回ることが出来なかったから。山ぶどうジュースは誰でも入れられるし、飲み物係になれた。

 

つっても、オレの心配を他所にわざわざ旧校舎まで来るのはこの教室で知り合った人ぐらいしか居なかった。リアカーとかも準備してたんだけどね。やっぱ遠すぎたみたい。でもなぁ、みんながせっかく頑張ったしなぁ。

 

「ソラさん、どうしました?」

 

……殺せんせー、もうちょっと心配してる顔を作りなよ。すげーニヤニヤしてんだけど。はぁとため息を吐いてオレとわたしは結局折れた。オレらが手を貸さなきゃA組といい勝負にすらならないとわかってたんでしょ、絶対。

 

「明日、オレの知り合いが来るけどいい?」

 

オレの言葉にみんなが緊張していた。いやまぁ気持ちはわかるけどね。オレの知り合いって普通の人じゃないから。

 

「……沢田ソラ、どんな奴だ」

「んーっと、もしこのクラスで裏の世界に進みたいって思う子が現れたら、オレが紹介しようと思った人」

 

烏間先生がジッとオレを見て、ポンっと頭に手を置いたよ。多分、これは謝罪と感謝かな。オレが言うまで、そういうところまで頭が回ってなかったんだと思う。まぁみんなが良い子だったから、そんな子は現れなかったからオレのいらない心配だったんだけどね。

 

「ねぇ、もっと教えてよー」

「すげーイケメン」

 

ゴクリと女子が喉を鳴らしてどんなタイプのイケメンかと聞いてきたから、白馬の王子様タイプと教えてあげた。それを聞いた男子がぶちぶちと文句言ってた。裏の世界で居る奴は顔面偏差値がおかしいんじゃないかって。気持ちはすげーわかる。

 

「あとは……あの人の師匠で、オレらの兄弟子にあたる人」

「ちょっと待て!?」

 

ガシッとオレの肩を掴んだ烏間先生の反応にみんな納得していた。絶対やばい奴じゃん……って感じで。

 

「あのね、オレもバカじゃないから。つい最近まで一般人だった子にぶっ飛んでる人を紹介しようとは思わないよ。マフィアのボスだからちょっと常識が一般人とズレるところもあるけど、ふつーに良い人だよ」

 

本当に信じていいのか?みたいな顔をしている烏間先生に頷く。信用してくれたみたいで肩から手が離れたし、オレはケイタイを操作してディーノさんに電話をかける。

 

「もしもし。……や、あの人はやらかしてないよ。……ああ、うん。今学校でさ。……やっぱ調べてたんだ。……言うと思った。まぁその通り文化祭中。んでさ、売り上げほしくて貢いでほしいんだ。……いいよ、わたしも我慢するって。……よろしく」

 

予想はしてたけど、オレらはディーノさんにとって可愛い妹分だったよ。心配で調べてたみたいだし。干渉されるのが嫌と察してるから何も言ってこなかっただけで。

 

「というわけで、千人ぐらい来るんじゃない?」

「「はぁー!?」」

「え、聞いてなかったの。貢いでってオレが頼んでたから部下を連れて来るよ。普段頼らないからウキウキと空港に向かってんじゃない?」

「……空港?」

「うん。海外に住んでるから」

 

普通って一体なんだ?とみんなが首をひねって、烏間先生は頭を抱えていた。や、オレちゃんと言ったじゃん。常識は一般人とズレてるって。それでも立ち直りが早いみんなは、大慌てで明日の準備をし始めた。

 

 

文化祭二日目。朝から準備していると、イケメンだー!と誰かが叫んでいたから、みんなが揃って表に出たよ。一応オレが呼んだし、ちゃんと向かったよ。一番最後だったけど。

 

みんなは本当にイケメンだった……という顔をしていた。気持ちはわかる、ディーノさんは日本人が浮かべる外国人のイケメンって感じだもんね。ディーノさんは困ったように頬をかいてたけど、ロマーリオさんは誇らしそうだね。なんて呑気に観察していれば、オレの姿が見えたのかディーノさんはオレの名を呼んだ。

 

「今日はありがとうございます」

「気にすんな。オレも気になってたし、部下達にもうまいもん食わせられるしな」

「相変わらずですね。でもその部下の人達は?」

「一度に押しかければ、困ると思ってな。わけてくるように言ってある」

 

良い人だ……みたいな顔をみんなしていた。いやだから言ったじゃん。多分わたしにも気遣って、そういう風にしてくれたんだろうし。

 

「助かります。開店までもうちょっとあるんで待っててください」

「いや、オレは手伝いに来たんだ。部下を連れてきたオレが言うのもなんだが、昨日の今日で大変だろ?なんでも言ってくれれば、やるぜ」

 

良い人でイケメンだ……みたいな顔をみんなしていた。いやだから言ったでしょ。

 

「ぁー……オレなんかしたか?」

「ギャップが酷いだけです。特に一番最近だと、オレの知り合いで来たのはリボーンだったんで」

「……なるほど。引っ掻き回したのか?」

「リボーンにしては大人しかったですよ。一撃で気絶させただけでしたし」

「随分優しい対応だな。おめーら、ラッキーだぜ」

 

やっぱりソラちゃんの知り合いだ……みたいな空気になって、みんなが動き出したよ。

 

オレが容赦なくいろいろ頼めば、嬉しそうに手伝いだしたディーノさんを見て、みんなも声をかけ始めたよ。良い人だ……という念が毎回聞こえてきたけど。そういや、ディーノさんも普通に名前を出していた。名前がわかんなかったらお前らが困るだろ?という感じでサラッと教えてたよ。まぁディーノさんは日本に住んでないしね。

 

開店するとさっそく部下の人達が来て、ディーノさんが揶揄われていた。和気あいあいとしてて、ちょっとみんながビックリしてたよ。

 

「ディーノさんって本当にマフィアのボス?」

「ウソついてどうすんの」

「そうなんだけど……想像と違って……」

 

渚君がそう思うのもわかるけどね。一瞬でも殺し屋になった方がいいかと考えたから特にさ。

 

「うーん、土地持ちのマフィアって言えばわかりやすいかな。昔からその街に根付いてて、確かディーノさんで10代目だよ。だから住人との距離も近くてさ。そりゃ抗争とかあるけど、そこに住んでる人達を守るためでディーノさんから仕掛けることはないよ」

「マフィアといっても、いろいろあるんだ……」

「や、ディーノさんはかなり珍しいタイプ。マフィアなんて……ロクなもんじゃないよ」

 

オレの冷めた声に渚君は心配するようにオレの名を呼ぶから、悪かったという風に頭を撫でた。

 

「お?仲良いんだな、お前ら」

「……渚君はオレと似てるけど、オレとも違うから。これからもまっすぐ育ってね」

「え……う、うん」

 

はい、これが注文分だよと渚君にドリンクを預けて見送る。気にはしてそうだけど、ディーノさんが任せとけと囁いてたから素直に戻っていったよ。多分オレが触れられたくないと気付いてるから。

 

「後悔、してるのか?」

「まさか。ただ……オレがもうちょっと上手くやれば、この子の手をここまで汚さずに済んだかなとは思う。オレはリボーンがディーノさんのところに居るって知っていたのに。リボーンなら……オレの先生なら上手く導いてくれたんだろうなぁって。この教室に来て、そう思ったよ」

「……今からでも遅くないぜ?」

「わかってるってば。リボーンにはすげー甘えてるよ。それにこんな話をして、わたしはすげー怒ってるしさ。二人で決めたことってね。……あーでもやっぱ後悔してるかも。泣きベソかいてたディーノさんを見たかったなぁ」

「なっ、オレは泣きベソなんてかいてねぇよ」

「そうなんだ。今度リボーンに聞いてみよっと」

 

リボーンは卑怯だぜ!?と焦ってるディーノさんをスルーして、あー忙しいとオレはディーノさんが持ってきた注文分のコーヒーを入れた。

 

 

みんなと必死に動き回り、ついに完売となった。正確に言えば、生態系を壊す前に打ち止めだけどね。部下の人達がみんな食べれたし良かったよ。もちろんディーノさんとロマーリオさんもね。二人は昼頃に休憩してとみんなに座らされて食べてたよ。にしても、たった一日なのに慕われすぎ。ディーノさんはマフィアのボスだよ?そりゃ良い人だけど。でもまぁ最後に部下が食べた分を一括でポンっと出したところは、みんなの目が飛び出しそうになってたね。……というか、間違いなく飛行機代の方がヤバイから。ふつーに日本語を話してるから、みんな忘れてるでしょ、絶対。

 

片付けの途中でディーノさんは帰っていった。本当は最後まで手伝いてぇけど、オレ達が居たら全員揃って喜べねぇだろ?って。栗に擬態していた殺せんせーに視線を向けて言ったのもあって、素晴らしい人格者ですねと珍しく嫉妬もせずに殺せんせーが褒めてたよ。

 

「いえ。そもそもソラさんが紹介するならと考えていた人ですから、当然でしたね」

「あはは。まぁ今日はかっこ悪いところが見えなかったしねぇ」

 

オレの言葉に殺せんせーは不思議そうにしてたよ。今日はずっと部下の人が側にいたからね。殺せんせーの目にもディーノさんは隙もなく、完璧な人に見えたんだろうね。多分ディーノさんがオレらに頼られてすげー嬉しがってたから、常に部下の誰かが側にいたんだよ。部下の人の並々ならぬ努力の結果。

 

「ソラさん、君の『縁』も素晴らしいものですよ」

「ありがとう、殺せんせー。でもね、オレにとってはわたしが、わたしにとってはオレが、一番の縁ということは変えられないよ」

 

卒業してからもみんなと、そしてもっと広い視野で世界を見てほしいと思ってることはわかってるよ。でも変えられないよ、オレとわたしはさ。みんなと同じように太い縁で繋がり続けることは出来ない。

 

「ソラさんは先生にもっと甘えていいんですよ。ソラさんはE組の生徒なのですから」

「うん。でもオレらは見届け人だから」

 

死んでほしくない、なんてオレらの口からは言えないよ。同じ過ちを繰り返すとわかってても、それは言えない。

 

「オレらはこの教室をただ見届けるよ」

 

さて、話は終わり!とオレは殺せんせーの元から離れて、みんなに声をかける。

 

「みんな、ディーノさんが打ち上げのお金を置いて行ってくれたんだけど、どうするー?」

 

えええ!?みたいな顔をしてたから、百万の札束を見せる。みんなが驚いたり、磯貝君が凄い反応をするのはいいよ。けどさ、殺せんせーが息を荒くして近づいてくるのは違うと思う。

 

「ディーノさんのことだから、残っても受け取らないだろうからパーっと使い切ればいいと思うよ」

「そんな大金どうやって……」

「や、一瞬だよ。人間の欲って怖いから、すぐになくなる。まっ、健全に使うなら、どこか貸し切りにしてご飯でも食べに行くとかは?店員さんが来る時だけ、殺せんせーに隠れてもらったらいいじゃん。殺せんせーが普段の姿でみんなと食べに行ってゆっくりするとか、なかなか出来ないよ?」

 

急に降ってきたお金じゃ良い案も出なかったみたいで、オレの案が通ったよ。打ち上げに相応しい使い方というのもあったんだと思う。

 

「でも店ってどこが良いのー?」

「そういうのは烏間先生に任せればいいでしょ。防衛省の人間なんだよ、機密を話せるような店とかは絶対知ってるよ。それにそういう店は騒がしくしても勝手に入ってきたりしないし」

 

みんなから期待の眼差しを向けられた烏間先生はため息をしつつも頷いたよ。さすがに今日すぐにとはいかないみたいだけど。前金がいるかも知れないしと烏間先生に預けた。特にみんなから反対はなかったよ、烏間先生だからね。

 

 

打ち上げの日、これは黒歴史になるんじゃないのかなぁとオレは眺めていた。そりゃさ、パーっと使えとは言ったけど、オレも一日で百万が消えるとは思わなかったよ。ちなみに最後まで冷静だったのはオレとカルマ君と烏間先生だけだった。いやまぁカルマ君もその空気に当てられて興奮してたよ。けど、わかってて楽しんでた。わたしもそっちタイプだったし。だからなのか、次の日に学校に行けばみんなが頭を抱えていた。3人以外でケロッとしていたのはイリーナ先生だけだったよ。カエデちゃんもちょっとショックだったみたいだし。

 

「百万円が……百万円が……」

「結局、身の丈にあった生活が一番なんだよ」

 

オレのつぶやきがトドメになったのか、嘆き声が旧校舎に響いた。

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