その後すぐにスクアーロが叫びながら来たから、わたしが引っ込もうとすれば小脇に抱えられた。もちろんXANXUSにだよ。他の人には許さないからね。にしても、やっぱりわたしよりこの子の方が隠すのが上手いね。わたしに変わったから気付いたみたいだし。
気付かずに殺せんせーを投げろって訴えたのもあるし止まらないだろうなぁ。仕方ないからポイっと殺せんせーを烏間先生へ投げる。それを見たXANXUSはさっさと歩き出したよ。けど、烏間先生が慌てて声をかけてきた。
「ま、待て。彼女をどこへ連れて行く気だ」
「ふふっ。ほんと良い人だね。ね、ちょっとだけ待って」
足は止まってくれたけど、さっさと済ませろって舌打ちされちゃったよ。
「えっと、ここの後処理はそこの人がやってくれるよ。日本政府への根回しとかもね」
「う゛お゛ぉい!?」
なにぃ!?みたいな顔してるけど、そのためにXANXUSは連れてきたんだと思うよ。ほら、やれって睨んでるじゃん。とりあえず約束通り、あの3人は逆らう気はなかったよと伝える。ついでに烏間先生には声は大きいけど割と常識人だから、そっちの意見も少しは聞いてくれるよと教える。褒められてるけど丸投げされたことには変わらないから、スクアーロは嫌そうな顔していた。
「あと、どこかに連れて行く気はないよ。まだ状況的にみんなと離れること出来ないし、残った子達の方へ行くだけだよ。ただ、わたしはこれ以上動くなってさ」
「……もしかして、ソラさんも感染しているの……?」
「本調子ではないかなぁ」
はぁ!?みたいな顔をみんなにされた。や、みんなみたいに熱は出てないよ。それを聞いてこの薬を作ったっぽい人が慌てて栄養剤を渡してきた。
「ん、本物っぽいね。あの子達には渡しておくよ」
「ソラちゃんも飲んでよ!」
「薬、嫌いなんだ。飲まなくていいなら絶対飲まないよ、わたしもあの子も」
もう1人のわたしがイジられたって言っちゃったのもあって、息をのんじゃったよ。まぁでもそれで納得したとわかったのか、XANXUSは歩き出して屋上から飛び降りた。もちろん銃を使ってくれたから、落下の衝撃はなかったよ。抱え方はアレだけど、気を使ってくれてるっぽい。
地上についたらイリーナ先生が慌てて宝石を投げてきた。あ、やっぱ無事だったけど危なかったんだね。すげーXANXUSには良い顔して、わたしには怖かったわよ!って訴えてきた。まぁXANXUSに睨まれて逃げ越しになってたけど。これはわたしにもさっさとつけろってことだろうなぁと装着する。一応それで機嫌が戻ったのか、スタスタと歩き出したよ。相変わらず、なんでわかるの!?ってもう1人のわたしはツッコミしてたけど。
スクアーロ以外にもちゃんと部下を連れてきたみたいで、その内の1人が車で送ってくれることになった。車に向かって「出せ」っていう一言で動くし、王様だねぇとわたしは車の中にあった水を勝手にもらう。ゴクゴク飲んでると、視線でどうなんだと問われたから答える。
「大したことないよ。超直感がこっちを優先して反応しなかったぐらいだし。ちょっとダルいかなぁ程度」
やっぱ頑丈だよね、この身体。骸達もボロボロでも動くもんねぇ。経緯が経緯だから、絶対感謝なんかしないけど。
「ベスター」
GARURUと迫力たっぷりの鳴き声とともに白いライオンが現れた。夢ではわたしも可愛がってたけど、直接会うのは初めてだよ。撫でようとしても逃げる事はないから誰かわかってるね。まぁXANXUSの躾がいいんだろうけど。でもなんでここで出したんだろうね。そりゃリムジンだし広いよ。けど、ベスターがうろつくには狭い。コテンと首を傾げていると、ベスターの頭がわたしの膝にのって、顔がお腹に埋もれたよ。ナッツと違って戯れるタイプじゃないんだけどなぁと思ってたら、暖かい炎を感じた。
「……ベスター、そんな器用なこと出来たんだね」
当然だろという感じでXANXUSは目をつぶってるけどさ。調和と分解で治療しようとするなんて、わたしが居るから起きた変化でしょ。ほら、もう1人のわたしがすげー衝撃うけてるからね。私たちの影響でオレが変わったなぁと思ったけど、XANXUSも変わってたよ。……や、普通に考えればそうだよね。オレよりXANXUSの方が未来で一緒に居る時間は長かったはずだもん。少なくとも子どもの年齢から逆算すれば5年後にはそういう関係になってたし。
「気持ちいいなぁ」
なんて言ってたら、寝ろって言われた。や、わたしが寝ちゃったら竹林君と奥田さんが困るでしょ。って思ったけど、律さんの存在を思い出した。ポケットから出すと任せてくださいとジェスチャーを送ってくれたから、わたしは甘えて眠ることにした。ちょっと血生臭いかなと思って衣装チェンジ。あと薬をXANXUSに渡して、おやすみなさい。
●●●●●●●●●●
起きると、わたしは高級そうなソファの上で眠っていたことが判明した。どこからコレ持ってきたんだろうね。や、どう考えてもスクアーロが用意したんだろうけど。隣にはちゃんとXANXUSがいたよ。わたしと違って寝転んでなかったけど眠ってた。あと代わりに警戒してくれたから銃を握ったままだった。偉そうには眠ってるけどね。ちなみにXANXUSの足元にはベスターが眠ってた。それは多分わたしの治療をしてたのもあって、戻せなくなったんだろうけど。
離れた位置にはみんなが揃って眠ってるのが見えた。部屋じゃなくて雑魚寝になったのはまだ治ってなかったのもあるだろうけど、XANXUSが指示したんだろうな。や、正確にはXANXUSに睨まれたスクアーロが言ったんだろうね。絶対、何往復もさせられてる。仕方ないよね、スクアーロだもの。
枕と掛け布団はみんなと一緒のものを使ってたけど、XANXUSには何もかかってないね。使ってたものをかけようとしたら、銃を握ってない方の手で掴まれた。……いけると思ったんだけどなぁ、起こしちゃったよ。そりゃ警戒してたけどさ、わたしだから問題ないかなぁって。まぁそんなことなかったね。
「おはよう、XANXUS」
声をかけたけど反応がないからコテンと首を傾げる。や、いつも返事はないよ。ただちゃんとこっちは見るの。そのままグイッと引き寄せられて、べったりと抱きつく形に。
「えっ、ちょ、XANXUS?」
「……るせぇ」
「もう。悪いのはXANXUSだよ?」
仕方ない人と思って、ふふっと笑っていればグイッと顎を掴まれた。や、ちょっと待って!?ヘルプ!ヘルプ!
「……お前、酷くない?」
オレに変わった瞬間に覚醒したのか、ポイっと投げ捨てられた。いやまぁちゃんとソファの上だったけどさ。最悪の目覚めだろうけど、絶対お前が悪いよとオレは目で訴える。寝ぼけたお前が未来の経験に流されて手を出そうとしたんだからさ。そうじゃなかったらオレだって邪魔しないっての。わたしが動揺して、オレ今顔真っ赤だし。
けどまぁ、こいつもヒバリさんと一緒で謝ったりしないからさ。わたしは謝って欲しいわけじゃないからそこは流すよ。ただ覚悟してから手を出せとは思うけど。お前はボンゴレ側の人間なんだからさ。継承された経験に流されて手を出せば、不幸になるだけだよ。もうオレらは存在を隠してないんだからさ。まぁ言わなくてもこいつはわかってるから口には出さないけどね。呆れはするけど。
はぁとオレが呆れたため息をついてると、もう大丈夫と判断したのか去っていこうとしたから引き止める。お礼言ってないでしょとわたしに声をかけると、恥ずかしがってるけどちゃんと出てきたよ。
「その、XANXUSありがとうね。ベスターも」
言うだけ言って、わたしは引っ込んじゃったよ。それがわかったのか、XANXUSは今度こそ去っていった。こっちは周りが障害なんだよなぁとオレは困ったように頭をかく。……いやいや、今いい雰囲気だったじゃん。なんでわたしはオレにヒバリさんをお勧めしてんの。そりゃあの人はマフィアとかボンゴレとか頑なに認めずに進んでいくだろうけどさ。あいつは本当に欲しくなったらちゃんと動く男だからね。そう悲観するのはやめようね。……あ、違うの。ヒバリさんはちゃんとどっちも相手してくれそうだからアリなんだ。
……魔性の女っていうのはオレじゃなくてわたしだよ、絶対。
はぁと何度目になるかわからないため息を吐き、オレは立ち上がる。律さんにオレらが寝てる間にどうなったか聞く前に、殺せんせーに嫌がらせしないとね。イリーナ先生には軽いお仕置きをね。2人とも一緒に覗いていたのは知ってるからね?とオレはにっこりと笑顔を向けた。
正座のしすぎで足が痺れてるイリーナ先生を視界から外しながら、オレは律さんに話を聞いた。……ん?殺せんせーはちょっとね。そういうところも先生に似ちゃってさ。オレ、男には容赦ないの。まぁリボーンよりは可愛いもんだよ。もしかしたら、意気投合するかもしれないし。
で、律さんの話によると、先に根回しをしてくれたんだって。だから竹林君と奥田さんはビビリつつもちゃんと薬を受け取ることができたらしい。あとわたしが眠ってたのもあって、あいつはちゃんと抱きかかえてくれてたみたい。そういうのもあって怖いけど怖くない印象もあったんだって。つーか、最初からそうしろよと思う気もするけど、あいつが横抱きするとか衝撃しかないよなと思うオレも居る。ちなみに後で合流した人達もビビったんだって、ライオンが居たから。まぁすげーXANXUSに似合うっていう空気にもなったみたいだけど。
予想通り、スクアーロは元気いっぱいに走り回る羽目になっていた。わたしはベスターを枕にぐっすりだったけど、ロクな椅子がねぇと用意させたりとか。あとは夜食とか、こんなもの食えるかって何度かしてたって。忙しいからわたしを起こせばそれどころじゃなくなるのもあって、器用に小声でキレてたらしい。そんなのを見てると、もうみんなも慣れたみたいでスルーして眠ったんだって。スクアーロには同情が集まったみたいだけど。
そのおかげなのか、烏間先生との交渉も比較的スムーズだったみたい。これは烏間先生に直接聞いたよ。責任感の塊だからね、寝ずにいろいろやってたから。園川さんの偽物はヴァリアーが回収したけど、あの殺し屋3人は防衛省が引き取ることになったんだって。これだけ騒ぎを起こして、何もないとか出来ないからね。まぁ今回の騒動はわがまま王の気まぐれで終えたっぽい。表も裏もね。ちゃんと情報を掴んでる人達は見せしめと気付くだろうけどね。
理由が理由だし、9代目も納得するだろうから、イタリア政府からもなんかあるだろうね。そんなに大きいマフィアなのか……みたいな顔を烏間先生にされたけど。
「というか、海外の有名どころの会社はアウトだね。オレに対して相当な圧力ってそういうことだよ。日本の経済が破綻する」
「……日本の企業は大丈夫なのか?」
「うーん、まだ大丈夫かな。でも時間の問題だよ。提携とかしないと世界に乗り遅れるから。境界線は引かれてるけど、裏と表は密接に関わってんだよ。特に今の裏のトップは穏健派なのもあって正攻法で稼ぐから。だから転げ落ちたら一瞬なんだよね」
それはオレとわたしにも言えることだけどさ。なんて思ってると、ポンっと頭に手が置かれた。
「お前の責任ではない。そもそも、あいつはいい大人だ。誰がお前を恨むか」
「あはは、ごめんってば」
相変わらず優しいお仕置きだねぇと烏間先生を見る。
「今回の件で、裏の世界はかなり抑えられたと思うけどさ。表の世界では見届け人の力を落とそうとするだろうね」
「……ああ。おそらく日本政府からも賞金を出すと言うだろう」
だよねーとオレはため息を吐く。オレはオレで野放しにしたくないだろうから、見届け人はやってくれと言うんだよ。けど、これ以上好きにはさせたくはないんだよ。
「オレは逃げ切れる自信も、どこでも生きていける自信があるからいいよ。問題は表の世界が天秤にかけることかな。あの子達と殺せんせーをさ。オレは離れるわけにはいかないから、呑まなくちゃいけないだろうね。手を出せるのは本当にギリギリだよ。でも出した瞬間にさ、オレは見届け人失格なの。だからオレが殺せんせーを殺してそいつに賞金をあげるのはいいけど、オレがプロ失格になってまであの子達を助けたってなると、また違う問題が起きるんだよね。……オレへの暗殺受けといた方が良かったんじゃない?」
烏間先生は上の意向次第でしょ。断っちゃったせいで、うまく交渉しにくくなっただろうし。
「……くだらん。お前はプロとして動け」
「はーい」
うまくやってくれることを信じるよとオレは烏間先生から離れた。これ以上は邪魔しちゃ悪いしね。殺せんせーの暗殺計画立ててるし。って、忘れてた。慌てて回収しに行って、殺せんせーを烏間先生に返す。
「か、烏間先生ーー!!」
「……お前、何をした」
完全防御形態なのに殺せんせーは泣きながら烏間先生に助けを求めてるからね。流石に違和感あったみたい。
「殺せんせーと似たような趣味を持ってる人に会わせただけだよ」
ニッコリ笑えば、殺せんせーはブルブルと震えたよ。烏間先生はため息を吐きながらも、どうせお前が悪いんだろと殺せんせーを怒ってた。うん、やっぱ普段の行いだよね。そして間違ってない。ちなみにルッスーリアに預けただけだよ。殺せんせーなら分かり合えると思ったんだ。方向性が正反対だけどね。
さて、オレももう一眠りするかなぁとみんなのところへと向かった。
●●●●●●●●●●
みんなが起きたのは夕方近くだった。オレはそんなに長く寝てないよ。XANXUSのおかげでぐっすり寝た後だしさ。神崎さんも体調が良くなってたから、忘れずに携帯を返したよ。
起きたみんなと一緒に烏間先生の暗殺を見届けた。残念ながら失敗に終わったけどね。殺せんせーは復活したらよく頑張ったとみんなの頭を撫でたよ。もちろんオレらにもね。
みんながちゃんと揃ったし、真面目な話でもするかなぁと思ったら、なぜか暗殺肝だめしになった。まぁせっかくの旅行だったし、良い思い出も必要かな。
「って、オレも参加するの?」
「ヌルフフフ。もちろんですよ」
誰とペアになるのかなぁと思ったら、寺坂君とだったよ。いろいろあったけど、別に仲が悪いってわけじゃない。ただ2人きりってなると寺坂君は気まずいだろうなぁなんて思いながら声をかける。
「どっち持つ?」
「……貸せ」
はいはいとオレは懐中電灯を寺坂君に渡して、歩き出した。オレはこういうのダメだったけど、リボーンに無理矢理克服させられたなぁ。まぁわたしはこういうの大好きみたいだから、びっくりするほど問題ない。殺せんせーの怖い話を聞いて、1分間椅子に座れと言われ視線を向ける。
「殺せんせーって、やっぱバカだよね」
「同感だ」
カップルベンチを見たオレらは深く頷いたよ。他のペアを見て、変だと思ったよ。いい雰囲気になってる人達ばっかりだしさ。
「まぁオレ達はもうちょっと話せってことなんだろうね」
フンっと鼻を鳴らしながら寺坂君が座ったから、オレも座る。でも何を話せばいいんだろうね。そう考えてる間に過ぎそうだなぁなんて思ってると寺坂君が口を開いた。
「……お前は何のためにこの教室に来たんだよ」
「んー見届けるためかな。殺せんせーの暗殺もだけど、君たちの未来もね。だからもしこっちの世界に興味があるなら、斡旋ぐらいはしてあげるよ?」
「誰が行くか!」
扉が開くのを視界に入れつつ、それでいいんだよとオレが満足そうに頷く。寺坂君はブツブツと文句を言いながら歩き出した。
「だいたいてめぇは余裕ぶりやがって腹が立つんだよ!」
「そういわれてもねぇ。実際、余裕だし?」
「ケッ。オレ達じゃお前を本気で悔しがらせることは出来ねぇってか」
「君たちの未来に期待するよ」
なめくさりやがってと拳を握る姿に、あははとオレは笑う。今じゃ無理とはっきり言っちゃったもんね。
「オレとわたしはこういう生き方しか出来ないからね。そういう意味では君たちは可能性を秘めた塊だよ。だから……」
「んだよ」
「オレとわたしがこの世界を滅ぼしたくないって思うような未来を作ってね?」
「……あのタコより先に暗殺した方がいいだろ」
「え?今更?」
気付くの遅いねと続けてオレが言えば、オレに寺坂君は暗殺をしかけてたよ。まぁ殺せんせー用のナイフだから意味ないんだけどね。でもそこはちゃんとね、避けてあげるよ。
殺せんせーのことは放置して、最後までそのノリで帰ってきたから、すげー寺坂君は疲れてたよ。みんな、何があったの!?みたいな顔をしてた。オレは何もしてないよ?と答えると、絶対ウソだって顔された。酷いよね。
で、やっぱり殺せんせーはカップル成立を狙ってた。まだ懲りないんだと呆れた視線を向けてると、オレにお鉢が回ってきた。
「余裕を持ってる人は違いますね、ソラさん。とても良い感じだったじゃないですか。ええ、とても。ヌルフフフ」
「オレをからかってどうすんの。あいつといい感じなのはわたしだからね。まぁあいつもやっぱ男だったんだなってオレも思ったけど」
なんて言ってると、オレの言葉にわたしが動揺したのか頬が熱くなってきた。あ、殺せんせーの言葉には動揺してないよ。オレと一緒にないなって思ってたから。
「こういうのを見たかったんです!先生は!!」
「表情と顔色があってないけど、それはいいんだ……」
オレは殺せんせーを蔑んだ視線を送ってるからか、渚君は苦笑いしながらツッコミしてた。
そのあとイリーナ先生と烏間先生が仲良く?出てきたから、みんなゲスな顔になった。……やめときなよ。こういうのは周りがあれこれすると拗れる可能性があるからね。実際、ヴァリアーはやらかしちゃったしさ。今は大人しく見守ってるけどね。中途半端に手を出すのが一番良くないんだよと思いながら、オレはみんなのゲスな行動を呆れつつも見守り、旅行を終えた。
●●●●●●●●●●
結局説明のないまま夏休みを終えようとしている。一応、みんなはオレの連絡先は知ってるんだけどね。律さんも入り込めてないけど、メッセージとかは送ることが出来るし。これは多分知らない方がいいと判断して、聞かない選択をしたっぽい。なんとなく寺坂君がそういう流れにした気がする。
「ソラさん」
「あ、オレも誘ってたの?」
「当然です!」
夏祭りのお知らせというプラカードを持ちながら、殺せんせーがウロウロしてるのは知ってたけどさ。断られた時のショックな感じを見てるから、いいよと軽く返事をした。
そのことにオレは後悔しつつ、待ち合わせ場所である夏祭り会場へとやってきた。
「あれ?元気ないね?」
「……浴衣がちょっとね」
「え?似合ってるよ?」
女の子達がフォローしてくれてるけどさ、そういう意味じゃないんだよ。何を思ったのか、殺せんせーはすげーニヤニヤしていた。
「みなさん、観察力が足りませんね」
「あー!思い出したー!風紀委員長っていう人のペットと一緒だ!」
倉橋さんが柄を指しながら言うから、オレはあってるよと力なく頷く。ヒバード柄の浴衣なんだよ。ヒバードと浴衣には罪はないんだけどさ!!
「……実はさ、ここに来る前に母さんに夏祭りへ行くって言ったら、浴衣を着せたがったんだ。母さんのはなんかクソ親父を思い出して嫌で断ろうとしたの。すると、母さんがニコニコの笑顔でコレを持ってきたんだ。オレの知らない間に母さんと仲良くなっててさ。唖然としてる間に着せ替えされた。そのまま写真を撮られて、あの人に送っておくわねと母さんに言われてさ。さすがにこれはダメだと抗議しに行ったけど、何が悪いかあの人わかってないの。思わずあの人の師匠に掴みかかって教育してって訴えてる間に待ち合わせ時間がきた。今、ここ」
確かにないね……みたいな反応された。だよね、ニヤニヤする展開じゃないんだよ。片割れのオレも衝撃すぎて固まったままだった。多分今頃、復活して抗議しに行ってるね。ヒバリさんは楽しそうにバトルするだけで効果はないけど。さらに疲れてフラフラで帰ったら、夏休みの宿題を放り投げて行ったことを思い出して真っ青になるだろうね。リボーンが許すわけないから徹夜確定。可哀想な、オレ。
「ほんと……母さんを利用するのはダメだよね。せっかくの初浴衣だったのに、最悪だよ。ふつーに渡してよね、オレもわたしも喜べないじゃん」
「ええ!?」
ん?とオレが首を傾げてると、この柄でもいいの!?と聞かれた。
「や、だって、あの人が用意した家はヒヨコグッズばっかりだし。ちゃんと渡されたら着て、見せに行ったよ」
まぁ浴衣を着る機会はそうないんだけどね、動きにくいし。それに下着よりマシでしょ。最初の時に用意されたのを見て、そこはどうかとオレも思ったね。もったいないから使ったけど。もちろんそれは見せない。
次元が違うね……とコソコソと会話された。でもさ、君たちも収入ゼロの野宿生活をしたらわかると思うよ。そんなの気にしてられないからね。
この後、みんなと周り始めて思ったのは人のこと言えないでしょの一言だった。暗殺教室で学んだことで大暴れしてんじゃん。射的の景品を取りまくるなんてリボーンぐらいだと思ってたよ。……山本も似たようなことしてたっけ。オレは大人しく殺せんせーが作ってる屋台で買い物して、お腹を満たしてたよ。一般人に迷惑をかけることなんてしないってば。
●●●●●●●●●●
二学期も始まり、相変わらず始業式をサボってると竹林君がE組からA組に移動していた。みんな怒ってるけど、オレはふーんって感じなだけ。殺せんせーとオレのことは話してないみたいだしねぇ。どっちかというと昨日決まった賞金アップの方が気になる。表向きは暗殺の難しさからプラス百億されて、団体で暗殺を成功させれば更に百億追加が決定したんだって。烏間先生が会議が終わってすぐメールを送ってくれた。まぁそれはオレにサインさせるためだったけど。やっぱり日本政府が用意したものは生徒の安全について書かれてなかったから、烏間先生も難しい顔をしてたよ。
「ソラさんはなんとも思ってなさそうだね……」
「まぁあり得る展開と思ってたし。オレも理事長先生にA組へ誘われたもん」
オレも懲りずにまた声をかけるとは思わなかったけど。それを聞いた殺せんせーはオレの肩を揉み始めた。もしかして、接待してるつもりなの?
「や、オレがE組を離れるわけないでしょ。何度もいうけど、オレは見届け人。まぁ理事長先生がそれを理解してても声をかけた理由はなんとなくわかるけどさ」
「え?成績が良いからじゃないの?」
「その理由なら真っ先に彼が誘われてるでしょ」
そう言ってカルマ君に視線を向ければ、みんながそこ突っ込んじゃうの!?みたいな顔をしていた。や、別に興味ないでしょ。カルマ君はA組に戻ることにはさ。
「竹林君は理事長先生の教育理念に沿う素晴らしい人材として誘われた。オレは理事長先生の教育理念に合わないから、排除したくて誘ったんだよ。オレらは簡単に人を殺せるからね、この学校に悪影響しかないの」
「簡単に……」
「そ。オレが普段抑えてるけど、わたしはちょっとした拍子で人を殺すタイプなの。オレもわたしにつられて、殺した方が楽だなぁとか思う時もあるし。オレらは命を軽く扱いすぎるんだよ」
「そんなことはありません。あなた方はこの教室を守りたくて来てくれたのでしょう?」
そう言って殺せんせーは頭を撫でてくれた。
「……否定はしないけどさ。生きてる間だけなんだ。死んじゃったら……どうでも良くなるんだよ。そういう感情が欠落してるんだよね、家族が死んでもなんとも思わないかもしれないんだ。君達は感情を殺すぐらいならいいけど、失ってしまわないようにね。取り返すのは不可能だよ」
ごめんね、殺せんせー。余計なことを言っちゃったねと視線を向けると首を振った。
「まっ別にA組に行くことが裏切りってわけじゃないんだし、怒るのはやめてあげなよ。なんかいろいろE組のことを言われたかもしれないけど、今更じゃん。そういう仕組みとわかってて、みんなも受験したりこの学校で過ごしてたんだからさ。彼を責めることじゃない」
ゔ……と何人かが言葉に詰まってたよ。小学生の時に親の言いなりに受けたって人も居るだろうけど、それもどうかと思うんだよね。自分の人生じゃん。なんて偉そうに言ったけど、ダメツナだった記憶と経験があるオレは人のことあんまり言えないんだけどね。大人になった経験があるから思える話なんだろうなぁ。血筋関係のことは今でもオレのせいじゃないって言い張るけど。
「ただ……彼はどこまで殺せるんだろうね」
何を?みたいな顔をしている人たちにオレは自分で考えなよと笑顔で誤魔化す。みんな、オレのこと慣れてきたよね。絶対話さないって察して聞き出すのをやめたもん。
ほんと竹林君は大丈夫なのかな。なにも訓練を受けてない人が今までE組で楽しく過ごしてたのに、貶さないといけなくなるんだよ。仲違いしたならまだしも、感情の制御とか出来るのかな。まぁそれは殺せんせーもわかってると思うから大丈夫でしょ。
数日後、烏間先生に朝から呼び出されて学校集会に出ないかと誘われた。オレに強制出来る権限がないのは烏間先生もわかってるから、なにか理由があるんだろうけどわからなくて首を傾げた。
「伝言を頼まれたんだ。浅野学秀からだ」
「うわぁ……。えっと、ごめんね」
烏間先生が表の担任だからね。でもそっちのルートから来るとは思わなかったよ。
「いや、教師の連絡網から来ただけだ」
「そうなんだ。でもそこまでしてきたなら気になるし出ることにするよ」
オレがそういえばホッとしてたよ。前のテストの点数は向こうの先生も知ってるはずだからね。なんか向こうで言われてたのかも。 ……うーん、今度の中間テストはどうしようかな。なんも考えてないんだけど。
出るといっちゃったし、着替えて真面目に参加する。カルマ君に珍しいねって言われたよ。や、君も珍しいじゃん。なんて喋ってたら、渚君に出席するのが普通だからね!?ってツッコミされた。ちょっとその声が大きかったのか、不良だとかいろいろと囁かれた。
「カルマ君、言われてるよ」
「え、なに言ってんの?あんたのことじゃん」
どっちもだよ!?と見知らぬ誰かにツッコミされたから、ナイスと親指を立てる。渚君はさっきのでツッコミしにくい空気になってたからね。けど、すげーイラッとされた。おっかしいなぁと首を傾げてると浅野君がやってきた。
「久しぶりだね」
「えっと、総合一位おめでとう。オレ、ワースト一位だったよ!」
ヒクッと頬を引きつらせたよ。それでもなんとなくオレの性格がわかったのか、軽くため息を吐いて切り替えて言った。
「君は約束通り……一位をとった。だからこそ言うよ。強者への道を捨てるなんてバカのすることだ。A組への打診を断ったことを後悔するといい」
「あはは。それなら問題ないね。後悔するかはオレが決めることだから。他人に判断されることじゃない」
ニッコリと微笑むとその態度いつまで通せるかな?みたいな感じの顔で去っていった。チラッと横目でカルマ君を盗み見る。多分オレがやったことに気付いたかもね。……まぁでも手を抜くことはないかな、今更だし。オレがヤル気がないのはわかってるしね。
浅野君と話したせいでオレへの視線が変な感じになってるけど、無視して大人しく並ぶ。しばらくすると、竹林君のスピーチが始まった。オレは居なかったけど、前はE組のことをボロクソに言ってたらしい。けど、今日は居心地がいいと言い切った。メイド喫茶の次にらしいけど、それも竹林君っぽいよね。
みんなポカーンとしてるけど、オレは大爆笑。そんなオレよりわたしの方が笑ってたね。一応空気を読んで笑い声は出さなかったけど、ずっとニヤニヤしてた。けど、ダメ押しに竹林君が賞を記念品の盾を壊したら、わたしが我慢できなかったみたいで口笛を吹いちゃった。口笛を吹いたら満足したみたいで、オレに戻ったけどね。また丸投げされたなぁと思いつつも、機嫌の良かったオレはニコニコしながら去ることにした。これ以上、出席する意味はなさそうだし。
体育館から出る直前に、浅野君のおかげで良いもの見れたよって笑顔でバイバイと手を振ってあげた。ピキッていう音が聞こえたのはきっと気のせいだね。
後日、訓練の時間で新たな暗殺ステップとして火薬の取扱いを一名に完璧に覚えてもらうと烏間先生は言った。オレはその資料の束を見た瞬間に、ついリボーンに覚えられされたことを思い出してゲンナリしたよ。みんなもうわぁって顔してるけど、自分の意思で戻ってきた竹林君がその資料に手を伸ばした。
チラッと殺せんせーに視線を送ると丸の顔になってたから、ヒョイッとオレはその資料を勝手にとってペラペラとめくる。
「その替え歌にするのはオレには難しいけど、要点をまとめるのは手伝ってあげるよ」
「……あの良さをわからないとは君もまだまだ甘いね」
クイッとメガネを押し上げながら言われたから、あははとオレは笑ったよ。そりゃね、そっちの分野にはオレも敵わないってば。
●●●●●●●●●●
カエデちゃんがぶっ飛んだ暗殺計画を立てた。オレはこれに引っかかる可能性がある標的もどうかと思うと苦笑いする。や、それが殺せんせーなんだけどね。オレの知ってる暗殺集団も変わり者だけど、こういう計画は絶対立てないからね。ある意味新鮮だよ。面白すぎて、思わず写真をとってオレに送ったよ。多分家でなにこれー!?って叫んでる。リボーンはニヤニヤしてそう。こういうぶっ飛んだ系は好きだもの。ただしお金を出す防衛省にはおめーらバカだろって絶対言う。
実際、烏間先生は頭を抱えていた。オレを危険視してるから賞金を結局出すハメになったからね。今までは暗殺計画に必要な経費だけ、防衛省持ちだったからさ。そりゃ新たに増やした賞金は各国から集めたみたいだけど、イタリア政府は出さなかったみたいだし。ボンゴレのことを知ってる国も乗り気じゃなかったらしい。オレが思ってる以上に首脳会議は揉めて、日本が負担した金額はかなり多い。まぁオレの知ったことじゃないけど。
みんなが一生懸命作ってる姿をオレは教室から眺める。殺せんせーは暗殺計画をたてたカエデちゃんのために三連休は学校に寄らないみたいだしね。そう簡単に死ぬことはないだろうからオレはこっちに居ることにしたの。殺せんせーが三日も生徒から離れるってことだから。
こんな大かがりな暗殺はそうそうないだろうからってことで、律さんの本体を動かしてしっかりと記録してもらう。オレの余計なお節介かもしれないけど、カエデちゃんには特に必要かなって思ってさ。律さんも計画を立てたカエデちゃんに編集したものを送ってあげたらと言っても疑問に思わなかったみたいだし。見届け人として触手のことは黙ってるけど、あの触手は危険だからね。殺せんせーとオレ以外には向かわないようにしたい。まぁカエデちゃんは暗殺を止めれる可能性があるオレの意向に従って動いてくれると思うけどね。
「沢田ソラ」
オレがボーッと見てたら、烏間先生に声をかけられて振り向くとドサっと大量の本を積み上げられた。
「……なにこれ」
「三日間、無駄にするなと俺に預けて行った」
うげぇと顔を歪める。
「それも医学書じゃん。なに、オレ医者になれって言うの?どう考えても逆なんだけど」
「お前なら出来ると見込んでだと」
「そう言われてもねぇ。オレらがメスを持ってるのは殺すためだよ」
「……あいつの考えはわからんが、覚えておいて損はないだろう。お前は医者にかかりたくないんだろ?」
はぁとため息を吐きながら手を伸ばす。このタイプのオレへの説得は殺せんせーより、烏間先生の方が強いとわかって置いて行ったんだろうな。実際、殺せんせーなら死んでも別に良いじゃんって答えてた気がする。根が真面目すぎて烏間先生には言いにくいんだよね。結構言っちゃってるけどさ。
「ってかさ、オレへの暗殺難易度あげていいの?」
「たいして変わらん」
まぁねと返事をし、オレは巨大プリンが出来るまで読み更けた。
結局カエデちゃんが立てた暗殺計画は失敗に終わった。オレは最初からわかってたけどね。プラスチック爆弾に臭いがする材料を使ってたから。要点をまとめる時にちゃんと教えたけど実践は初めてだったから抜けちゃったんだろうね。見届け人だから、実践時は声かけれないし。集団で暗殺するなら、ダブルチェックってことでもう1人ぐらい覚えた方がいいとオレは思うんだけどなぁ。暗記が得意じゃないとキツイ量で難しいから提案はしないけど。実際、あの時に手を挙げたのは竹林君だけだったし。
殺せんせーに分けてもらったプリンを食べてるとカエデちゃんが話しかけてきた。
「ソラちゃんから見て、私の考えた暗殺どうだった?」
「良かったよ。だって、オレにもプリンがまわってきた」
暗殺計画はダメダメだったかぁとカエデちゃんはガクリと肩を落としていた。……いや、落とした風に見せていた。だってオレはちゃんと良かったと教えたからね。彼女には通じてる。カモフラージュ暗殺としては良かったって。
「まっ今回のことを活かして新たな暗殺計画たてれば、ワンチャンあるんじゃない?オレには通用しないけど」
「手厳しいよ〜……。でも頑張るね」
多分肯定してくれる人も欲しいんだろうなぁと思いながら、手伝わないけど応援はしてるよと答えてあげた。
次の話にコードネームの回もあるけど、作者のセンスがなくて一つしか浮かばなかった。
結構難しい。特徴を捉えつつ、酷いのに怒るほどでもないものじゃないといけないからね。
ちなみに作者が思いついたソラのコードネームは三文字。読みだと四文字。