見届け人、来る!   作:ちびっこ

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見届け人の時間・8

 

特訓の授業にフリーランニングが追加された。烏間先生はオレに強制はできないけど、危険と判断したら助けてやってくれないかと頼まれた。もちろん烏間先生は責任を持って助けるつもりらしいけど、念には念をってことで声をかけたっぽい。そりゃ危なかったら殺せんせーが助けるだろうけど、烏間先生は殺せんせーに頼むわけないもんね。訓練だし標的である殺せんせーも気にしないから、オレもいいよと返事をした。

 

だからなのか、殺せんせーがつまらなそうだった。特訓の時間は普段オレと遊んでる時間だからね。まさかみんながある程度出来るようになったら、ケイドロをしようと声をかけるとは思わなかったよ。それでもオレには関係ないと思っていれば、烏間先生とロープを繋がれた。

 

「……おい、なんだこれは」

「ソラさんは大切な証拠品です。もし無くしてしまえば、我々警官は生徒たちを捕まえるための理由がなくなる」

「え。オレってどっちの味方なの?」

「警官です。ソラさんは宿題が二倍になっても屁でもないですからねぇ。テストの時も宿題のように真剣にやってくれればいいのですが」

 

チラチラとオレを見るから、明後日の方向へ視線を飛ばす。というか、宿題増やされたらオレも嫌なんだけど。リボーンが酷かったからこなせるだけ。

 

「もちろん警官側が勝てば、ソラさんだけは宿題が二倍ではありません。ただソラさんへケーキをプレゼントするかは、烏間先生本人が判断するとしましょう」

 

どうする?と烏間先生に視線を送ると、ため息を吐きながら了承した。

 

最初の3分間に泥棒役の生徒達は逃げる猶予を与えられる。その間、オレと烏間先生は軽い打ち合わせをする。

 

「烏間先生は好きに動いていいよ。オレが合わせるから」

「……だが」

「気持ちはわかるけど、多分それがオレへの課題。訓練を見てるから合わせられると見越してのロープだろうし。それにちゃんとオレが一番合わせやすい人を選んでる」

 

のんきにお茶を飲んでる殺せんせーに言いたいことがあるだろうに、烏間先生はグッと堪えてオレの提案に頷いた。まぁ烏間先生への課題はオレの存在をどうするのかってところだろうね。手綱を握るまではいかなくてもいいけど、ストッパーの1人になれってことでしょ。殺せんせーが死んで地球が崩壊しない未来を考えればわからなくはないかな。烏間先生はそこまで気付いてるかは知らないけどね。

 

何度かチラチラと確認してたけど、ロープを絡ませずについて来てるとわかれば徐々にスピードを速めていった。……にしても、この人やっぱ戦闘狂な気がする。オレが問題なく付いて行けば行くほど喜んでるよ。あと逮捕だっていう顔が似合いすぎる。まぁイリーナ先生を捕まえる時だけは盛大なため息を吐いてたけど。だってね、烏間先生だけならまだしも、オレが一緒にいることを知ってるのに襲おうとしてたからね。先生としていろいろダメだった。

 

イリーナ先生のことは置いといて。生徒達を順調に烏間先生が捕まえていったけど、トラブルが起きた。殺せんせーが物に釣られて牢屋に送った子達を逃していく。一回だけならまだしも、絶えず起きるからついに烏間先生がキレた。殺せんせーはドヤ顔でここから先は泥棒の性能があがっていますよと言ってるのを見て、まぁ意図はわかったよ。けどね、納得出来るかは別問題。キレてるのは烏間先生だけじゃないの。

 

「正座」

「ソ、ソラさん……?」

「殺せんせー、せ・い・ざ」

 

オレの迫力に負けたのか、信州そばを横に置いて大人しく座った。

 

「例えばさ、殺せんせーが並んでやっと買えたデザートをオレが横から奪ったらどう思う?オレ、しばらくの間やろうか?」

「そ、それだけは〜……」

「殺せんせーがやってるのはそういうこと。すっげーあの子がイライラしてる。オレは2人に気を配ってんの、わかってる?ちょー大変」

「すみませんでした……」

 

殺せんせーにはフンっと鼻をならして、烏間先生にはいつものように行こっかと声をかける。烏間先生はもちろんオレの味方だから、お前が悪いという顔をしてからみんなを捕まえるために動き出した。

 

「そこ左に行って」

 

疑問を浮かべてそうだけど、オレの言った通りに烏間先生は動いてくれた。オレが助言しなかったら通っただろうルートにBB弾が飛んでくる。

 

「狙撃か……!」

「泥棒側から仕掛けちゃいけないルールはないし。BB弾に当たれば、オレという証拠を無くしたことになるって考えでしょ」

 

これは結構大変だよと烏間先生に視線を送る。だってね、コツを掴んだのか小隊を組んで連携をとりはじめた。さらに警官側はあくまでも捕まえる前提だしね。同じように反撃はするのはご法度でしょ。もちろん証拠品であるオレもね。

 

「だが奴がいれば、1分で全員捕らえることは可能だ」

「そんなことないでしょ。プールがあるんだから」

 

はっ……!と烏間先生は息をのんだ。そう、オレらはこの状況の中でプールのある場所まで辿り着かないといけない。

 

「狙撃手の方へオレ達が釣られたら、向こうの勝利は確定だった。プールの存在に気付けば、オレ達の動きは読みやすくなる。というか、気付いてると思って仕掛けてきたんでしょ」

 

話を聞いて知ってるだけの烏間先生ならまだしも、オレは授業でちゃんと参加してたからね。プールの存在を忘れることはないよ。

 

「だから殺せんせーが狙撃手を捕まえるまでオレ達は身動きしにくい。狙撃手は速水さんと千葉君だけとは限らないしね。狙撃手を活かすために捕まろうとする子も居るだろうし。小隊を組んでる子達を無視すれば、オレへ暗殺をしかけてくる。良い手だと思うよ」

「……立場が逆転するとはな」

「こういうトリッキーな考えはカルマ君っぽいよね」

「ああ。……しかし」

 

そこで言葉を止めた烏間先生はポケットからケイタイを取り出す。ヒョイッとオレも覗き込めば、てへっという顔をした律さんが居た。

 

「……まぁ律さんは中立とは言ってなかったもんね」

 

地味にショックを受けてる烏間先生の反応にオレは苦笑いする。オレのケイタイには律さんが入れないから、位置情報がばれて計算されてしまったのは烏間先生だけの責任になるからね。

 

「んーっと、プールを目指すつもりでいいんだよね?」

「当然だ」

 

諦めたつもりはないみたい。でもどうするの?とオレは烏間先生に視線を送る。証拠品でも動くのはセーフだから避けるのは出来る。けど、このロープが邪魔なんだよ。狙われてるのはオレなのに、オレが烏間先生に合わせてる状況だからね。烏間先生はニヤッとオレをみて笑った。……まじ、この人戦闘狂。この状況、楽しんでるよ。

 

 

「……恨まれそう。烏間先生のことが大好きな人たちに」

「何を言ってる」

「オレも酷いけど、烏間先生も相当だよ?」

 

はぁ?みたいな反応している烏間先生にオレは重症と何度か頷く。……にしても、良くやるよね。まさかオレを背負ってプールまで向かうなんて。たしかに密着すれば、ロープが絡むことはないよ。けど、狙われてる中でオレを背負ってする動きじゃないからね。カルマ君も絶対呆れてる。

 

「……しっかり食べてるのか」

「食べてるってば。三食ちゃんと食べるようになったのは、この一年ぐらいだけど」

 

顔は見えないけど、多分怖い顔してそう。日本で野宿生活していたのは知ってるから。そりゃ測ってなかったけどリボーンにツッコミされない程度には維持してたんだけどなぁ。あいつ、正体わからない時も女っていう理由だけで対応甘かったし。……や、でもたまに持ってきてたよな。お裾分けかと流してたけど、あいつなりに心配してたのかも。クロームと違ってオレはリボーンからなら受け取って食べたし。……あれ?もしかしてヒバリさんがオレと食事しようとするのはもう少し健康的な身体にしようとするためなの?

 

「オレめっちゃ心配されてた!?口説かれてるとしか思ってなかったよ!?」

 

き、気付かなかった……。見つかったら食事というルールで納得したのはそういう考えもあったんだ。よく考えたら、オレの体型知ってたもんね。……あれ、太らせて食べようとしてるイメージも湧いたんだけど。わたしもすげー笑ってるし、強ち間違いではないっぽい。

 

「……やっぱ、感謝するのはやめよう。巧妙な罠だった」

「その、だな。もう少しまともな奴は居ないのか」

「んー居なくはないけど、ずっと一緒に居ると気持ち悪くなる。オレらは殺気が渦巻いてる方が安心出来るんだよ。まぁ一人だけ例外が居るけど、傷つけてばっかりなんだよね」

 

まだまだ考えが甘いのもあるんだろうけど。だからといってマフィアを継いでからのオレの方が良いって訳でもないし。ただ側にいるってだけならそっちの方が楽だけどさ。

 

「それに……あの子がオレらを包容する器があるのはわかってるけど、収まりたいわけじゃないんだよ。やらないけど、支配する側がいいって感じかな」

 

歪んじゃったけど、わたしも気質は大空なんだよね。そこにマフィアの王になったオレの性格を模範して作ったからね。もう頂点に居るのが当然って考えなんだよ。ダメツナの経験も継承してなかったら、かなりヤバかった。

 

「だからこうやって背負われるのはすげー気持ち悪い」

「……そうか」

 

はっきり言っても、烏間先生はオレらを降ろさない。見届け人として扱っては居るけど、生徒で見届け人なんだろうなぁ。イリーナ先生にはプロの殺し屋で先生として扱ってるのにね。やっぱ年齢なのかな。

 

「っと、お喋りはここまでかな」

「手を離すなよ」

「わかってるってば。ここまで我慢したんだし、最後まで付き合うよ」

 

フッと笑って、烏間先生はみんなが待ち構えてるところへ突っ込んでいった。やっぱタッチした時、凶悪な顔をしてるんだろうなぁと捕まったみんなの顔を見てオレはそう思った。

 

結局、烏間先生が一般人とは思えない動きをして警官側の勝利に終わった。みんなは宿題が二倍になってて落ち込んでたから、思わずあははとオレは笑ったら何人かに暗殺を仕掛けられた。殺せんせー用の武器でだったけどね。もちろん避けたよ。

 

カオス状態だったのもあって、優しい烏間先生はみんなにケーキを奢るといって止めてたよ。まぁ作戦とか良かったしね。オレらのせいでちょっと攻撃的な気もしなくもないけど。この子達も影響受けちゃってるのかなぁと眺めてると大丈夫ですよという風に殺せんせーに頭を撫でられた。そこは先生の領域ってことかな。

 

もちろん烏間先生はオレに奢ってくれたけど、イリーナ先生と殺せんせーには奢らなかった。……まぁわからなくもないかな。

 

 

●●●●●●●●●●

 

 

椚ヶ丘市で下着ドロが出没した。目撃情報が殺せんせーを表したものみたいで、オレが教室に来たらすぐに昨日の深夜に殺せんせーがどこで何をしてたか聞かれた。けど、オレも夜はふつーに寝てるからね。知らないとしか言えなかった。

 

「そ、そんな……」

 

殺せんせーに肩をゆさゆさされるけど、しょがないじゃん。知らないのは知らないし。そもそも遅くまで一緒に居たら、寝る時間ですよって注意するのは殺せんせーの方でしょ。

 

「うーん、オレ見届け人だからあんまり言いたくないけど……どう考えても殺せんせーの暗殺の一手でしょ。あまりにも酷いものなら、オレの直感に引っかかるってば。悪いことしてるなぁって」

 

あ。という顔をみんながした。卑劣な行為を……!とぐぬぬって殺せんせーがなってた。

 

エロに関して日頃の行いが悪いといっても、信頼関係は結ばれてるのもあって他にもあるんじゃないかとみんなで探す。そうするとすげー出てきたよ。いくらなんでもこれは酷いんじゃね?となった。まぁ殺せんせーが持ってた大量のエロ本も出てきて、冷たい視線を集めてたけど。でもその反応から、やっぱ殺せんせーが犯人じゃないよねって空気にもなった。仕掛けられた中では出席簿が一番ヤバかった。女子の胸のサイズを書いていて、一瞬で女子を敵にまわした。もちろんオレもわたしも。

 

見届け人としてこれ以上は口を出すのはなぁと黙ってたら、不破さんが推理したよ。殺せんせーを誘き寄せる罠じゃないのかって。殺せんせーなら真犯人を捕まえようとして、次の現場を推理すると見越して罠を仕掛けてるって。オレもそこは同意見かな。殺せんせーと夜に出かけられる人は行こうぜってなったよ。殺せんせーも怒ってるし、みんなを止めることはなかった。まぁ遅い時間だから、家に送るのは譲りませんとは言ってたけど。

 

決まった内容をあとで教えてと律さんにこっそり声をかけて、オレは新聞を持って烏間先生のところへと向かう。

 

「うーん。やっぱ烏間先生はないか」

「何がだ」

「や、知ってるでしょ。みんな盛り上がってるし。この下着ドロの犯人だよ」

「なになに、カラスマが下着ドロだったの?もう、たまってるなら言ってよね。イテテテ、ごめんなさい!」

 

ほんと毎回良くやるよねとイリーナ先生に呆れた視線を送る。

 

「なぜ一瞬でも俺を疑った。暗殺者の仕業だろう?」

「や、よく考えなよ。この校舎に入ってこれる人じゃなきゃ、仕掛けられないじゃん。殺せんせーは鼻が敏感なんだよ。そりゃ術師の可能性もあるけど、その場合はオレの直感に引っかかるだろうし。もっと有効な手はいくらでも思い付くってば。あとは女の人がこういう罠を仕掛けるなら、もうちょっとドロドロするかなぁって」

「そうねぇ。言われてみれば、あいつが巨乳好きと知ってる男がやった感じがするわね」

 

でしょでしょとオレは頷く。説明するのは難しいけど、女っぽくはないんだよ。同性だからわかる独特な雰囲気を感じ取れない。

 

「この校舎に出入り出来て、殺せんせーのことを知ってる男の人ってそんなに居ないでしょ。国家機密なんだから。暗殺のためといっても、烏間先生がないと判断したように理事長先生もないかなって。となると、ここに出入り出来る烏間先生の部下で男の人、上からの指示だったら従うしかなさそうだし。あとは殺せんせーのことをよく理解しているシロとか。まぁ凄腕の暗殺者が来て、一つも痕迹を残さなかった可能性もゼロじゃないけど……」

「そんな腕があるなら、こんなくだらないことしないわよ」

「だよね。暗殺者も術師も腕が良ければ良いほど、プライドも高いんだよ。そりゃ殺せんせーには有効だけど低俗すぎる」

 

つまりこの案を考えた奴は低俗とオレが批判したからか、イリーナ先生はニヤついてた。そういや、最近オレが潜入のプロとしては認めてることを知ったもんね。ピアノを聞くためにお金を払おうとしたからね。上機嫌でタダで弾いてくれた。チョロくない?って思ったのはヒミツ。

 

オレの話を聞いて、烏間先生は動き出した。防衛省に問い合わせとかするんだろうね。まぁかなり上からの指示なら烏間先生でもどうしようもないけど。もし烏間先生の部下なら、相談ぐらいはしてほしいよね。直属の上司は烏間先生なんだから。まぁ部下じゃなくても、烏間先生も今日の夜は来るでしょ。以前のシロの暗殺方法は酷いものだったから。

 

その日の夜、オレ達は次に狙われるであろう芸能プロの合宿施設に居た。ちなみに烏間先生がいろいろと手を回して、ちゃんと協力は得られたらしい。まぁ烏間先生がいるなら不法侵入とか出来ないよね。真面目だもの。

 

じっと待ってると黄色のヘルメットを被った人物が現れて、殺せんせーが簡単に捕まえた。あまりにもあっさり過ぎてオレ達は首を傾げたよ。絶対罠だと思ったのにねって。特にオレはシロと思ってたし。

 

ガポッと殺せんせーがヘルメットを取ると、烏間先生の部下だった。予想を全くしてなかったみんなは驚きのあまり一瞬止まる。オレはチラッと烏間先生を見たよ。視線でわかったのか、すまないと漏らした。もう止められなかったんだねとオレは察して、対先生シーツの檻のポールの上に立つ。この人……鶴田さんを守るために烏間先生は実行する道しかなくて、暗殺計画に支障が出るから話せなかった。でもシロは危険とわかってるから、生徒達のためにやってきたってところかな。あっちこっち気を遣って大変だねぇ。

 

イトナ君とシロの作戦はうまくいっていたよ。シロの話では烏間先生にバレちゃったのは計算外だったらしいけど、殺せんせーをフィールドに誘い込めればいいだけだから、特に問題はなかった。本当の計算外は殺せんせーの学習能力だった。ヒバリさんが良いところまでいったから、狭いフィールドで戦うことに危機感はあったもんね。対策してないわけがない。そして更に飛び道具の、エネルギー砲。まぁ殺せんせーはまだ納得してないみたいだけど。XANXUSはほんの少しの溜めの時間で撃っちゃうからねぇ……。

 

殺せんせーは放つ前にチラッとオレを見たから、クルっと回転する感じで避けることにした。シロの前では夜の炎は使いたくないしね。ただオレが思った以上に余波が凄かった。ちょっと流されたもん。まぁ問題なく地面に着地したけど。

 

オレと違って直撃したイトナ君は、触手につけたグローブしか壊されてなくて、更に打ち上げられて落下したところを殺せんせーが助けていた。他のみんなも問題なさそうだね。ちゃんと殺せんせーも角度を考えて放ったみたいだし。

 

「い……痛い。頭が痛い。脳みそが裂ける……!!」

 

イトナ君の必死な声に視線が集まる。健全に維持するには莫大なエネルギーが必要で、それに比例して金もかかる。毎日メンテナンスをしなければ、地獄のような拒絶反応があるらしい。視線は送らなかったけど、眉間にシワが寄った。カエデちゃんは、メンテナンスをしていないと思ったから。……殺意がオレに向いてるならまだやりようがあるけど、殺せんせーに向いてる限り、厳しい。こういうのは第三者の立ち位置で止まるはずがない。わたしはオレと共存してるから抑えることが出来ているんだ。バミューダはオレに勝てないと悟ったから妥協案をのんだ。決して止まったわけじゃない。

 

カエデちゃんには今のところ何も出来ることはないと割り切り、今問題が起きてるイトナ君をどうするのかとシロに視線を送る。けど、こいつは簡単にイトナ君を見捨てた。

 

「ははっ。やっぱ、お前は殺したくなるタイプの男だよ」

「ソラさん!」

「……わかってるよ。オレが見届け人である限り殺さない」

 

この学校を卒業した後は知らないけど。隠れた言葉に気付いただろうけど、誰も何も言わなかったよ。狙われてる張本人は怖い怖いと軽い感じで言ってたけど。これはオレを舐めてるんじゃなくて、命をかけて殺せんせーを殺しに行くからだと思う。……恨みかな。

 

シロのことはどうでもいいからほっといて、イトナ君をどうするかだね。オレから視線が外れないんだよなぁ。殺気は漏らさなかったけど、強さに執着しているのもあって、オレから目を離さないんだよ。本能的な問題でさ。

 

「見届け人として確認するけど、もうイトナ君は君の手から離れたと解釈していいんだね?」

「ああ、いいとも」

「烏間先生、オレが手を出してもいいでしょ」

「……何か手はあるのか?」

「ショック療法かな。もっとやりようはあるだろうけど、鬱陶しいのがいるし」

 

大空のオレと山本、獄寺君がいれば外せそうな気がするからね。最後にお兄さんに手伝ってもらえれば完璧でしょ。だけど、イトナ君を見捨てたくせに、シロもオレから目を離さないからそれはなし。

 

「ソラさん、イトナ君は先生との敗北からこのような状態になりました。おススメはできません」

「じゃ、どうすんの。オレが一歩でも動いたら反射で襲いかかってくるよ、絶対。オレが彼の視界から消えると一目散に逃げるだろうし。そりゃ手荒だけど、勝算がないわけじゃない」

「……寺坂君とカルマ君、ですね」

 

さすが、殺せんせーだね。生徒のことをよく理解している。急に話を振られて、あ?みたいな顔してる寺坂君と、いつものように飄々としているカルマ君にオレはニッコリと笑顔を向ける。

 

「絶望的な実力差があっても、オレのこと殺したいと思えるのかって話。同じ歳の君たちじゃなきゃ、イトナ君には響かないんだよ」

「……やってやろうじゃねーか」

「バカだけじゃ無理でしょ」

 

ほら、乗ってきたよ。二人の様子を見て、今のところ他に手はないのもあって殺せんせーは仕方ありませんねと許可したよ。

 

「君たちは少し離れましょう」

「で、でも……!」

「気になるのであれば、律さんを通してで十分です」

「渚君、これは強さとかじゃなくて、気質の問題だよ。肝試しでオレに暗殺を仕掛けた寺坂君と、この前のケイドロでオレを殺す計画を立てたカルマ君が適任なだけ。……君達には君達の良さがある、それを殺しちゃいけないから君達を離れさせるんだよ」

「ヌルフフフ。また先生のセリフを取られてしまいました」

 

よく言うよ、オレから伝えさせたがってたくせに。っと、オレがちょっと緩んだ空気を出したせいで、イトナ君が苦しそうな声をあげた。慌てて殺せんせーは3人を避難させて戻ってきた。マッハ20はやっぱ速いねぇ。

 

「烏間先生とその部下の人も、気をつけてね。油断すると……心、折れるよ」

 

悪いけど頼むねとオレが声をかけると、ノリノリで返事がかえってきたよ。まっ我慢しなくていいもんね。

 

「ふふっ。相変わらず、あの子は優しいね。あとでわたしを抑えるのに苦労するのにさ。……ね、君程度でわたしに刃向かうつもりなの?面白いこと考えるね」

 

なんだ、もう終わりなの?と首をかしげる。ちょっと死ぬ気の炎を身体から出しただけなのに。それにこれでも調和して禍々しさは少ないのにね。イトナ君の戦意は完全に萎えちゃったみたいで、ヘナヘナと座り込んじゃったよ。

 

「そうだ、この炎のこと知りたいんだっけ?いいよ、教えてあげる。この炎は絶望から生まれるんだ。反動なのか、復讐心がずっと消えないけどね」

「ソラさん!」

「もう、殺せんせーもわたしを止めるの?しょうがないなぁ。あの子と入れ替わるよ」

「……今日は助かりました。またお話しましょう」

「ふふっ、楽しみにしてるね」

 

ふぅと息を吐き、オレは死ぬ気の炎を抑える。バミューダにちょっと小言いわれるかも……と遠い目をする。まぁそれだけで済むだけマシなんだけど。あいつらもオレを捕まえたくはないみたいだし。被害と労力を考えるとバカらしくなるみたい。気持ちはわからなくない。オレらは簡単に捕まらないし、運良く捕まえたとしても絶対抜け出してわたしが皆殺しにするからね。大人しくオレが耳を傾けてるだけ、向こうもまだマシだと思ってる。

 

「って、そうだ。殺せんせー、触手は取れた?」

「それは問題ありません」

 

あとは立ち直れるかの話かぁと寺坂君とカルマ君に視線を向ける。ビクッと肩が跳ねたけど、乗り切ったよ。先に乗り切ったのは寺坂君だった。まぁ気合を入れるために叫んでたけど。いつのまにかカルマ君も乗り切ってて、寺坂君にバカは叫ばないといけないのかねぇと煽ってた。この二人が乗り切っちゃったら、大人も乗り切るしかない。クックックと笑いながらシロは去って行ったよ。それを見て、烏間先生は頭を抱えていた。そのあとはしっかりしろと部下の頭を叩いてた。かなり痛そうな音がしたけど、八つ当たりではないはず。……多分ね。最初から相談してくれてたら、もっとやりようがあったのは事実だし。

 

「んーっと、大丈夫だよ。シロって言う奴は、そんな器じゃないし。身体はなんとかなるかもしれないけど、心の器が足らないもん。つーか、そんな簡単に手に入られるなら、オレらに依頼来ないから。オレが知ってる中で使えるのは二人だよ。そのうちの一人は復讐心を浄化されて成仏した。もう一人は復讐を達成して篭ってる。でも……やっぱ復讐から離れられてないのかな。復讐して手に入れた物のそばにずっと居るから。本人は満足してるから良いんだろうけど、傍から見ればすげー暗い。オレは電気ぐらいつけようよ!?って何回かツッコミした」

 

綺麗に見えるから、なかなかつけようとしない。まぁあいつらは篭ってるけど、ちゃんと仕事してるし。いやまぁ狙われないように監視と牽制も含めてるんだろうけど。

 

「その、お前の復讐は……」

「……そこを聞いちゃうのが烏間先生だよね。良いところでもあるんだけどさ。んー……この世界、全部かな」

 

言葉が詰まった烏間先生を放置して、オレはイトナ君と寺坂君に視線を向ける。二人で声をかければいいのに、カルマ君は寺坂君に任せたっぽい。まぁ側にはいるけどね。寺坂君のストレートの言葉の方がイトナ君に通じると思ったんだろうね。

 

「でもまぁオレを通してだけど、この子も少しはこの世界を楽しんでるよ」

 

防衛省の人間としては思うところがあるだろうに、烏間先生はオレの頭を撫でて一緒に見守った。

 

 

数日後、触手の後遺症もなく、普通に学校へ来たイトナ君は殺せんせーに殺すと宣言した後、オレにも殺すと宣言した。

 

「……寺坂君のがうつっちゃったかぁ」

「寺坂と一緒にするな」

 

や、一緒だよと思いながら、オレは殺せんせー用のナイフを避けた。

 

●●●●●●●●●●

 

イトナ君がクラスに馴染むのにオレは時間がかかると思っていた。けど、オレの予想に反してすぐに馴染んだよ。すげーくだらないことで男子と一致団結したから。もちろんオレが見つけて、カメラに合わせてニッコリ微笑んであげた。殺せんせー用のBB弾を撃ってきたのは良い度胸してるとも思ったよ。当たらないけど。

 

しばらく廊下で正座させていれば、暗殺バトミントンから帰ってきた女子が何事!?みたいな顔をしてた。巻き添えをくらった渚君と磯貝は苦笑いしていたよ。止めなかった人も同罪として扱ったからね。ちなみに偶然カルマ君はオレと一緒にいたから免れて、動画をとってる。だから男子からは裏切り者というような視線を向けられている。全然堪えてないけど。

 

そしてオレは黙ってたんだけど、カルマ君が女子に暴露していた。最低と蔑んだ視線を向けられてるところも、ちゃんと撮ってた。カルマ君にネタを提供してしまった男子が悪いからオレは助けなかった。というか、ラジコンを壊さなかっただけ優しいと思ってほしいぐらいだよ。せっかく作ったんだから、壊すのは可哀想だと思ってさ。直感で女子に危険が迫ってることに気付いて止めたけど、最初は殺せんせーの暗殺目的だったんだろうし。ちゃんとBB弾は仕込んでたからね。

 

でもこうやって説教してる相手や、アタフタしてる相手を見ると、誰が誰を好きなのかよくわかるね。カルマ君は絶対そういうのもネタにしたくて、女子に教えたでしょ。やっぱネタを提供した男子が悪いね。

 

「あんたはコイツらに正座させたけど、そこまで怒ってないよね」

「そりゃ未遂だったし」

「ふーん。もし撮られてたら?」

「や、短パン履いてるし」

 

少年漫画のお約束を破っちゃダメ!となぜか女子の不破さんにツッコミされた。

 

「たとえ短パンを履いてなくても、そんなヘマはしないよ。だって、軽い気持ちでして殺されるなんて可哀想じゃん」

 

死、確定!?みたいな顔を正座中の男子がした。

 

「や、イトナ君以外は知ってるでしょ。どう考えてもヤバそうな奴らに好かれてるって。物騒な結末になるに決まってじゃん。力と金と権力も持ってんだからさ」

 

裏社会、怖っ……みたいな空気になってた。でもオレの予想では一番めんどくさいのは過保護のオレだと思う。物騒なことはしないし、なんならあの二人を止めてくれるよ。けど、絶対しつこい。男から守ってあげなきゃって頑固モードにも突入してるから、超めんどくさい。ヒバリさんはよく付き合ってると思うよ。まぁそこはヒバリさんだからね……。

 

結局、盗撮はやめようという流れになった。そうそう、盗撮は犯罪だよ。

 

 

 

数日後、木村君や狭間さんが名前を気に入らないという話から、コードネームをつけて呼び合うことになった。これもクラスに馴染ませるってのもあるんだろうね。でもみんなの名前を考えるの大変じゃない?オレらはそういうセンスないよ?XANXUSとの間に出来た子どもは多分あいつがつけただろうし。日本名じゃなかったからね。

 

「でもさ、ソラちゃんはもうコードネームなんだよね?本名じゃないって言ってたし……」

 

そんなこと言ったかな?と思ったけど、浅野君に言ったかもしれない。真名は別にあるからウソじゃないし。

 

「まぁ裏の世界ではソラで通ってるかな」

「それって誰がつけたの?」

「どっちだろ。オレでもあるし、わたしでもあるかな。あの時、性格が混ざり合ってオレらもよくわかんないんだよね。限界を迎えたあの子がオレという人格を作り上げてすぐだったし」

「ええっと、どうしてソラって名前にしたの?」

「うーん……もう空になれないと悟ったから、ソラって名前をつけたのかも。別に空になりたいわけじゃないんだけど、無くなるのは嫌で名前だけでも残そうとしたんじゃないかな」

 

地雷しかなかった……みたいな空気になった。

 

「まっ、気にせずつけていいよ。今日一日オレもわたしもみんなが考えたコードネームに付き合うってば」

 

そう言ったことをオレは後悔した。わたしはすげー笑ってたけどね。というか、よく笑えるよね。『昼ドラ』とか酷くない?いやまぁ全体的に酷かったけど。オレらのは完全にXANXUSとヒバリさんとの関係から付けたでしょ。イリーナ先生の『ビッチビチ』よりはマシなのかも知れないけど……。でもないわ、やっぱり。

 

あと、無作為にひいたものって言ってたけど絶対ウソだ。オレは特徴を捉えつつまともな名前を考えたのに一つも選ばれなかったし。だから殺せんせーを『永遠なる疾風の運命の皇子』とは呼ばず『バカなるエロのチキンのタコ』と呼んだ。つーか、殺せんせーが自分で考えたのもダサくない?間違いなくオレよりセンスないね。

 

●●●●●●●●●●

 

放課後、なんとなく殺せんせーについて行かなかったら、浅野君にケンカを売られたらしい。オレ、居なくてよかった。絶対絡まれたもん。まぁ今回は体育祭での勝負だったから、オレが居ても喧嘩は売られなかったかもしれない。浅野君は紳士タイプな気がするから。裏の目的があるけど、オレには仕掛けてこないんじゃないかな。あっても嫌がらせの範囲。

 

「渚君と入れ替わる?」

「オレは別にいいけど」

「僕がやだよ!?ソラさんもカルマ君を止めようよ!?」

 

や、渚君のその反応を見たいがためにカルマ君は提案したのに、オレが止めるのは違うでしょ。にしても……棒倒しとか懐かしいね。並中では棒倒しなのに、総大将を落とせば勝ちだったもんね。まぁオレは経験と記憶はあるけど、実際にやったことはないんだけど。

 

「オレも一肌脱ぐかな」

「男装するの!?」

「違うってば。女子でもやれることはあるでしょ。まぁこういうのはカルマ君が一番得意なんだけどねぇ」

 

オレがクラスのためにちょっとヤル気を出したからか、すげー殺せんせーは嬉しそうだよ。

 

「何するの?」

「君達の秘密兵器はイトナ君なんでしょ。彼を目立たせないために、女子の方でオレが同じ種目で一位をとって目立てばいいじゃん」

「でも借り物競走はE組には不利だよ」

「そうそう。お題が毎年曖昧でE組は何度もやり直しさせられるんだよ。一位をとるのは厳しいって」

「やり直しさせなきゃいいんでしょ。ついでに浅野君がイラついたら儲けもの」

 

浅野君、可哀想……という空気になった。なんで!?

 

 

体育祭当日。オレは渚君にこっそりと話しかけられた。お題の方に何か仕掛けたの?って。オレらがコソコソ話してるのを見て、カルマ君もなになにってやってきたよ。

 

「やってないよ。不正に気付かれたら意味ないじゃん。まぁ忍び込んでお題は見に行ったけどね。目的のものをオレが直感で引けばいいだけ」

「……どのお題にするの?」

「何個か候補があったけど、一番引きたいのは『イケメン』っていうお題」

「イケメン?」

「そう。君なら誰を連れて行く?」

「浅野学秀」

 

だよねとオレは頷いた。一番効果的だもの。オレとカルマ君の考えに、うわぁ……と渚君はドン引きしていた。

 

「で、でも浅野君を連れていけるの?」

「今日の朝に仕掛けといた」

「なにを!?」

「たいしたことしてないよ。ちょっとぶつかって謝られたから、大丈夫だよって答えただけ」

 

疑問符がいっぱいの渚君の反応にオレは笑った。カルマ君はなるほどねぇみたいな顔してたから、思いついたっぽい。まぁ女にしか出来ない技だから渚君がピンと来ないのもわかるけどね。

 

 

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