卑の意志を継ぐ者   作:新グロモント

19 / 82
いつもありがとうございます。




19:冤罪

 とある宿場町で三忍の一人である綱手は、迷っていた。悩みの種は、下忍の頃からの付き合いがあり、文字通り腐れ縁の大蛇丸から持ちかけられた交渉だ。大蛇丸の両腕を治す代わりに、最愛の恋人と弟を大蛇丸が蘇生させるという内容だ。

 

 死人を蘇らせるなど、不可能に近い。だが、二代目火影が開発した穢土転生の術について彼女は知っており、それを大蛇丸が会得していると考えた。

 

「どうしたものかな」

 

「考えるまでもありませんよ、綱手様。三代目を殺したと明言している大蛇丸を私達二人で殺れるチャンスです」

 

 綱手の従者シズネは、この機会を逃さない方針を提示する。

 

 綱手にとって、恩師である三代目を殺した大蛇丸は確かに憎い。だが、半ば里を捨てて長い時間放浪をしている彼女にとって、里への忠誠心など希薄だ。寧ろ、恋人と弟と一緒に新しい人生を歩めるのなら、それはそれで悪くも無いと考えている。

 

 そんな悩みをしている最中、居酒屋に奇妙な一行がやってきた。大人二人と子供二人。挟間一家は、この宿場町でうずまきナルト達と偶然出会い行動を共にする事になった。

 

「おやおや、本当に我々までご相伴に預かっても宜しかったので?」

 

「なーに、構わん。お目当ての人物は同じだろう。また、暁の連中に出くわすかもしれん。戦力は多いに越した事はあるまい」

 

「パパ~、早くお席についてご飯!! プルシュカ、お腹へったぁ~」

 

「エロ仙人、挟間特別上忍も早く飯にしようってばよ」

 

 聞き覚えのある声に思わず席を立った綱手とシズネ。そして、自来也と挟間ボンドルドと眼があう。

 

「自来也!! それに、ボンドルド。なんで、お前達がココにいる!?」

 

「これは、綱手様ではありませんか。探しましたよ」

 

 昼間に大蛇丸に会い、夜にはもう一人の三忍と出くわす。

 

 この時、綱手の中では挟間ボンドルドが何故ここに居るかという方が疑問であった。綱手とボンドルドの関係は、言わば師弟関係だ。医療忍術の開祖と言える綱手。その技術を一番吸収したのが挟間ボンドルドだ。

 

 かつての同僚と弟子。再会も束の間で、綱手の足下にポテポテと可愛らしい女の子が近付いてきて、足にしがみつく。

 

「なんじゃ、この子供は」

 

「大きなママ(を呼び出せる人)!! やっと、会えたぁぁぁ」

 

 状況を理解して、わざと言葉足らずで場を混乱させるプルシュカ。子供だから許される可愛らしい悪戯である。

 

 だが、いきなり知らない子供からママと呼ばれるのは女性側からしたら、困惑の極みだ。

 

「つ、綱手様!! いったい、いつ産んだんですか!? 旦那は誰なんですか!? 私達の誓いは? 裏切り者ーーー!!」

 

「落ち着けシズネ。お前は、私にずっとついて回っていたんだろう。そんな事が無かったこと位分かるだろう。私は、こんな子供を産んだ覚えはない」

 

「ひ、酷いよ。ママに会うのが楽しみでパパと一緒にここまで来たのに。プルシュカは、ママにとって要らない子なの?」

 

 涙目で情に訴えかけるプルシュカ。その騒ぎを聞いた周りの客からも、綱手は白い目で見られる。当然、自来也やうずまきナルトもそれに賛同する。ココまでの道中で、純粋無垢なプルシュカに一定以上に心を開いた二人。

 

「なぁ、エロ仙人。俺ってば知らない女性を悪く言うのは好きじゃ無いんだが、控えめに言って最低だってばよ」

 

「そうじゃの~、儂もあの言い方は無いと思うがな。綱手よ――遠路はるばる可愛い娘が訪ねてきたんだ。もう少し、言い方があるだろう」

 

 周囲に誰も味方が居ない綱手。日頃の行いが酒とギャンブル、そして借金漬けなら当然だ。

 

「プルシュカ、あまり綱手様を困らせてはいけませんよ。それに、初対面の人にはちゃんと自己紹介をするように言いましたよね」

 

「はーーい、パパ!! 私、挟間プルシュカ。木ノ葉隠れの里から、おっきなママに会う為にここまで来たの」

 

 その瞬間、綱手の中に衝撃が走る。自らをママと呼ぶ存在の名字が挟間。つまり、挟間ボンドルドの子供であるとようやく理解出来たからだ。

 

「おやおや、綱手様。今、必死でプルシュカの年齢から、当時の事を逆算されていますね。酒で記憶を無くす事も多いでしょうし、忍術で記憶を封印する事も出来ます。当てにはなりません」

 

 当然の事だが、綱手は無罪だ。そもそも、里を出て以来、挟間ボンドルドと会ったことすら無い。だが、忍術とは便利だ。記憶が操作できないと言い切れないのが事実。それを可能にするだけの技術を綱手は持っていた。

 

『ゆえちゅ』

 

 プルシュカの帽子の中から飛び出して、娘の手の中で現状を堪能するカツユ。同じミスを踏まないカツユは、声色を変えているので綱手はカツユの存在に気がつけない。

 

 掃除、洗濯、料理と一家に一台の口寄せ家政婦扱いされていた事に多少は思うところがあり、今の現状を見れたのでチャラにしてあげるカツユは優しい。

 

「この子供が、ボンドルドの子供?それになんじゃ、この不細工な生き物は」

 

「不細工じゃないもん!! この子は、メーニャママだよ!! おっきなママの代わりにプルシュカとずっと一緒に居てくれたくれたママだもん。酷い事言わないで」

 

 あたりが騒がしくなる。娘がはるばる会いに来たのに、知らぬ存ぜぬだけでなく、母親代わりの生き物に対して暴言を吐く。周囲の客からは酒が不味くなると苦情まで届き始めた。

 

「大丈夫ですよ、プルシュカ。パパが、貴方の事を更に愛しましょう。綱手様に、身に覚えが無いと言うのですから、仕方ありません。本当のママでは、無いのでしょう。本当のママは、メーニャ(カツユ)ママだけです」

 

「綱手よ、お主はいつからそんな薄情になったんだ。確かに、お主とあまり似ていないかもしれない。だが、この子には何の罪も無い。それなのに、遠路はるばる会いに来た子供を無碍にするなど、言語道断!! みてみろ、このボンドルドの父親っぷりを、お前には母親としての自覚はないのか?」

 

 責め立てる自来也。だが、綱手に自覚などあるはずもない。プルシュカの件で彼女が知る事など何もない。しかし、周りがここまで言うとなると、本当に記憶を自ら封印したのではないかと綱手は、考え始める。

 

 そうなると弟子であった挟間ボンドルドと肉体関係があったという事になる。素顔を知らない弟子とそんな関係になるだろうかと。この状況になっては、無いとも言い切れない。

 

 よって、綱手が出した結論は、とりあえずママに成りきってプルシュカを抱くことにした。母性が目覚めればきっと、我が子なんだろうと。

 

「そ、その悪かった。記憶に無くてな……ほら、プルシュカだっけ?ママだぞ」

 

『はぁ? プルシュカちゃんのママは、私ですよ綱手様。いっぺん死んでみる?』

 

 ママに成り代わろうとする綱手にガチ切れで本来の美声で殺意を表すカツユ。

 

 全ての真実を知る挟間一家。だが、知らない者からみたら、産みの親VS育ての親で子供を巡っての醜い争いに見えるだろう。

 

 




ボンドルドは、嘘なんて一つもいってない!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。