卑の意志を継ぐ者   作:新グロモント

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25:医療行為

 木ノ葉隠れの里の火影である綱手は、部下のフォローも忘れない。病院に担ぎ込まれた上忍二人の見舞いもしっかりと行う。通常の警邏コースから外れ、自主的に広範囲をカバーしていた者であっても、上に立つ者として労いの言葉を掛ける必要があった。

 

「特別チームを作って、当たるべきです」

 

「俺達上忍二人が居ながら…」

 

 そのような事は綱手としても分かっている。分かっていて、下忍のみで構成しているのだから、同じ事を何度も言われたくはなかった。ボンドルドの様に確信しているわけではないが、今回の選抜に疑問を感じる輩を抑える必要があった。

 

「私とて馬鹿ではない。手は打ってある」

 

 上下社会が厳しい忍者業界とは単純だ。上の者がこれ以上追求を許さぬ姿勢を出せば、勝手に下が思い違いをする。何より、火影が既に手を打っていると言っているのだから安心するのも当然だ。

 

 それが、暁及び大蛇丸と友好関係を築き上げ、同盟国から戦力を抽出しあわよくば抹殺して戦力低下を狙うなど……恐ろしい手だ。

 

 そんな病院の一室に真っ黒い服を着込んだ男…挟間ボンドルドが現れる。

 

「おやおやおや、綱手様ではありませんか。偶然ですね」

 

「ボンドルド確か、貴様には休暇の指示を出したはずだが」

 

 今回の一件が一段落するまで大人しくさせる予定で休みを出したが、病院に足を運ぶとは思っていなかった。

 

「綱手様、私は医師ですよ。患者がいるなら、治さないといけません。里は人手不足と今仰っていたじゃありませんか。それとも、綱手様自身が治療を?」

 

 医療忍術に長けた綱手が病院にきて、上忍二人と世間話をして帰るなど異常事態である。人手不足ならば、医療忍術を使って直ちに上忍を現場復帰させるのが筋であった。なにより、今回の敵と交戦経験があり生き残ったのだ。追加要員としてこれ以上の助っ人は早々いない。

 

 だというのに、おかしな事だ。

 

 医療忍術で右に出る者が居ないと評判高い火影の綱手が何もしない。これでは、裏が有りますと言っているようなモノだ。

 

 そして、その事に綱手自身も気がついた。流石にこの場に来て治療行為をしないのはおかしい。ボンドルドの言葉で上忍達もその事を考え始めた。一介の上忍二人の見舞いに組織のトップが現れる。医療忍術のスペシャリストが何の医療行為もしてくれない。

 

「無論、そのつもりだ。一人はコッチが診る。もう一人は任せたぞ」

 

「えぇ、勿論です」

 

 本当は、病院に必要な薬品を取りに来ただけのボンドルド。その道中で綱手を見かけたため、様子を見てみたら怪しい行動をしていたので助け船を出した。

 

 ボンドルドが病院から出たのと同じ位のタイミングで、サスケ奪還に向かった下忍達が重傷で帰ってきたが、用事が済んだ病院に休みの者が長居するのは良くないと帰路についた。

 

 

◇◇◇

 

 病院で一仕事を終えた挟間ボンドルドは、秘密の施設へと戻った。

 

 そこには、幾つもの円柱型のガラスケースが並んでいる。その中には、人間が浮かんでおり生命維持が行われ、着々と成長している。

 

 その様子をカツユとプルシュカが見回る。母と子が手を繋いで、歩く場所としては些か後ろ暗さがあるところだ。

 

『あらあら、みんな大きく成長してますね』

 

「ねぇ~、ママ。これがパパの研究のアンブラハンズ?」

 

 プルシュカは、ガラスケースの中身をよく観察した。だが、高度な研究である為、まだ幼い彼女には理解しきれない。

 

「おや、プルシュカも興味がありますか。彼等は、私のスペアです。暁に健康診断にいったお陰で更に研究が捗りました。もう間もなく完成しますよ、私だけの忍術……精神隷属(ゾアホリック)が」

 

『流石、ボンドルド様です。この子達の育成も私が管理しておりますので万全です。安心してください。安定供給できるシステムができましたら、湿滑林にも同じ施設を建造しておきます』

 

「えぇ、そちらは頼みましたよ。必要な機材は、手配しておきます。久しぶりの休みです。家族水入らず、過ごしましょう」

 

 火影からの命令で家族サービスをしろと言われたのでそれを素直に遂行する部下。

 

 今頃病院は、運び込まれてきた重傷の下忍治療に一人でも有能な医療忍者が欲しいところだが、知ったことではなかった。

 

「わーい、ママ。パパと一緒にお風呂にはいろう。それから一緒に料理して、一緒にねるの!みんなで川の字になろうね。プルシュカが真ん中だからね」

 

「それは、良いアイディアですね。休みをくれた綱手様に感謝しないといけません」

 

『え!? あの綱手様がボンドルド様にお休みをくれたんですか。きっと、良くない企みがあって墓穴でも掘ったんでしょうね。ですが、後で甘い物でも差し入れに行ってあげます』

 

 契約している口寄せ動物にすら、そのように言われる始末の真っ黒な綱手。だが、どちらにしろ公式にトップから休みが貰えた以上、その恩返しを律儀に行うカツユは偉かった。

 

 そんな家族の時間を過ごしている最中、木ノ葉隠れの里にある挟間ボンドルドの家には、定期的に忍者が訪れていた。追撃部隊が想定以上に重傷であった為、その治療に優秀な医療忍者が必要であり、下忍の担当上忍が幾度となく訪れている事を彼等は知るよしもない。

 

 後々、火影の勅命で休暇をエンジョイしていた事を知ったら担当上忍達はどのように思うだろうか。

  




次は、『サスケ君、貴方がパパになるのよ』をお送りする予定です。

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