挟間ボンドルドが印を組む。使用忍術は土遁をメインにして闘う。そもそも、変化の術を使っているとはいえ、中身は黒い鉄仮面を付けた状態に変わりはない。つまり、口から使用する忍術は軒並み使用できない。
だが、彼にとっては問題は無かった。驚異的な防御力と自己再生機能を持つ外装。更に、鮫肌の鱗を分析及び培養し、外装に取り込む事でチャクラ吸収機能まである。対忍術兵器としてはこれ以上のものは早々ない。
「土遁・土流壁。悪いですが、貴方には興味がありません」
挟間ボンドルドの戦略は実に簡単だ。敵小隊を纏めて相手にする必要はなく、各個撃破していくというやり方だ。土の壁を利用し分離、その上で逃げ場がない直線的な空間で一体一の状況を作り上げる。
本来防御に利用される事が多い土流壁を有利なフィールド造りに利用する方法だ。
「自分ごと閉じ込めてどうする。逃げ場がないぞ!! 風遁・風の刃」
密閉空間で確実に殺したと相手が思うほど……その術は完璧であった。自ら目がけて走ってくる敵に確実に命中した。だが、相手の勢いは止まらない。即座に離脱しようにも忍術で土壁を崩壊させるか、迫る敵を攻撃するかで迷いが生じる。
「判断が遅いです。初手で逃げれば可能性がありましたが、残念です」
砂の忍者が、クナイで迎撃をする構えだ。だが、医療忍者としてチャクラコントロールに極めて優れており、瞬間火力で言えば綱手を上回る事も出来る程の男を止めるには足りなかった。言うならば、クナイ一本でダンプカーの衝突を止められるかという事だ。
クナイは、挟間ボンドルドの拳にぶつかった瞬間に砕け散り、砂隠れの忍者の肉体を四散させた。その勢いは、人間一つでは止まらず土壁に当たり、作り上げたフィールドを全壊させる。
土壁が崩壊し、光が差す場所に現れる挟間ボンドルド。
それを待っていた砂隠れの忍者達は、警戒レベルを引き上げた。無傷で仲間を一人殺したのだ。しかも、戦い始めて一瞬の出来事であった。
「テマリ様、口寄せを倒しに行った者達が戻るまで時間を稼ぎましょう」
「――それは無理だ。未だに交戦している気配がない。道中でやられたとみて間違いないだろう」
壁一面の的とも言えるリュウサザイ。だが、その影に複数のタマウガチが配置されており、近付く忍者が居れば襲いかかる手筈だ。部隊を分けたことが裏目に出ていた。そもそも、あんな目立つ的が囮である事を考えないのは忍者としてどうなのだろうか。
「おやおやおや、どうしたのですか? 私を捕らえないのですか? 砂隠れの忍者は、優しいのですね」
「捕まえるとも。だが、その前に一つ聞いておきたい事がある。貴様、どうやって砂の国に潜入した。暁の事もあって、警戒は厳重に行っていたはずだ」
テマリは時間稼ぎにでた。現状の部隊では、目の前の忍者を拘束する事が難しいと判断。最悪、逃げられる可能性もあるので応援を手配するように仲間に指示する。その意図を汲んで一人がその場から離れていく。
「簡単な事です。革新的な風影には、敵は多い。その敵とは、外だけに限らないという事ですよ。風影が無事ならば、貴方がココに派遣される事もありませんでした。それが良い証拠です。心当たりがあるはずですよ」
「っち。これだから、上層部のやつらは」
挟間ボンドルドは、いかにもありそうな事を口にした。組織のトップとは、旧体制であれ、現体制であれ、敵はいるものだ。実際、木ノ葉隠れの里ですら、内輪もめは多い。だから、それっぽい事を言えば、相手が勝手に深読みしてくれる。
「あぁ、言い忘れましたが彼……お仲間が行った方向にも私の口寄せが」
「ギャーーーーー」
並みの忍者では、タマウガチに傷をつける事すら難しい。未来予知並みの気配察知能力に上忍でも振り切れない速度で追いかけてくる獰猛な存在だ。
「テマリ様、もしかして私達は待ち伏せされていた……という事でしょうか」
「その通りですよ。ですが、安心してください。貴方も直ぐに仲間の元へ送って差し上げます」
テマリの部下が不安げに口にしたその言葉に、答えを教える挟間ボンドルド。
異質な岩隠れの忍者を相手に、最適解を考えるテマリ。文字通り並みの忍者では歯が立たない。当然、テマリとて確実に勝てるとは言えなかった。だが、テマリは不思議と落ち着いている。
彼女は自分の事を良く理解している。なんだかんだで生き残る…謎の強運。過去から今に至るまで、危機的状況に何度も陥ったが全て生き残ってきた。仲間は、なぜかクナイが当たって絶命する事もおおいが、彼女は違った。
クナイが当たっても何故かかすり傷。軽傷より酷い怪我をした事など、産まれて片手も無い。通常の忍者ではあり得ないレベル。
だからこその過信。優れた忍者である事は間違いない。実力もある。だが、それを支える『祝福』という存在を彼女は理解できていない。これから、彼女が闘う相手は、『祝福』を集め、その身に宿した挟間ボンドルドという存在だ。
つまり、『祝福』というアドバンテージが意味をなさない。
「いいか、私がコイツを足止めする。その間に、応援をよんできてくれ」
「――わかりました、テマリ様。ご武運を」
唯一残っていた仲間の一人を逃がす。そして、立った一人残ったテマリであった。
その様子に挟間ボンドルドは理解に苦しむ。そもそも、敵対勢力の排除に来たのに逃げ帰る始末。更には、自らがその場に残るなど自殺行為だと思わないのかと。一人で、部隊をほぼ壊滅させた相手に何故そこまで自信がもてると。
「闘う前から逃げ出すなど弱腰ですよ。雷遁・
応援を呼びに下がった砂隠れの忍者に対して、容赦なく忍術を放つ。光が壁に乱反射してターゲットを追う。
「風遁・掛け網!!」
瞬時に技の特性を理解したテマリが、広範囲の風遁で
「無駄です、この術は、ターゲットに当たるまで自動追尾です」
「くっそ!! ――っ、まさか、今の忍術にそのよく分からないネーミングセンス……貴様、岩隠れの者じゃないな。雲隠れの里の者だな」
彼女がそのような理解をするのも無理はない。極めて高度な雷遁に加え、術へのネーミングセンスが独特であった。それこそが、雲隠れの里へ共通認識。だからこそ、思い違いするのも無理はない。
「おやおやおや、一体何を根拠に。しかし、これで、貴方を逃がす訳にはいかなくなりました。さぁ、抵抗してください。私の『祝福』がどの程度まで強化されたかテストをしたい」
………
……
…
その日、砂隠れの精鋭達が戻る事はなかった。後に残された現場には、多数の忍具とテマリの物と思われる血痕が残っていた。だが、何処を探しても死体はない。この日、砂隠れは風影だけでなく、その姉も命を落とす。残念な事に風影ほど『祝福』の強度が高くない彼女に救いは無かった。
だが不幸中の幸いな事は、生存者が一人だけおりテマリの末路を知る事が出来たというものだ。その生存者から、岩隠れを装った雲隠れの仕業である可能性も伝えられ、砂隠れはより混沌の時代へと突入する。
次話で風影当たりの話を挟んで、ビックダディサスケ編かしらね。