32:疑い
綱手は、此度の大蛇丸接触に向けての人選に悩んでいた。
春野サクラが持ち帰った情報――暁のサソリが大蛇丸の所に潜入させていたスパイと密会する予定がありその時間と場所だ。実に余計な情報であった。そもそも、火影として大蛇丸とは秘密裏の同盟関係が築かれており、そのような情報を持ち帰られても扱いに困る。
だが、無視も出来ない。
ここで大蛇丸の所に誰も向かわせなければ不信感が募る。火影としての地位を守り、中の不満を外に向けるためにも大蛇丸には表向きは敵でいてもらわねば困る。それが綱手の出した結論だ。
そこで何度も火影に呼び出されたことがあり、裏事情を知っており、ナルト達へ同行を許してもおかしくない人物が火影の執務室に呼ばれる。
「挟間ボンドルド、カカシ班に同行して影ながらサポートしろ」
「どちらをでしょうか?綱手様」
この場合、ナルト達をサポートしてサスケ奪還に協力しろなのか、大蛇丸側をサポートして密約がバレないようにしろなのか、どちらなのかと聞いている。
勿論、挟間ボンドルドは答えなど分かりきっていた。呼ばれた人選を考えれば当たり前の事だが、口にだして相手に言わせる事が大事だ。ハッキリとしない命令で後から認識齟齬があっては宜しくない。
「ちっ、大蛇丸の方だ。同盟関係が露見しては色々とマズイからな。カカシ班には、貴様が追加要員で配属される旨も伝えている。医療忍者が二人体制となるが、相手が大蛇丸ともなれば、多少人数が多くても問題ない」
「そうですね。大蛇丸様の所には、綱手様からの出産祝いなども色々あるでしょうから、万が一の場合には全て廃棄しておきます」
あの大蛇丸から出産しましたと年賀葉書を貰った時は、綱手も冷静ではなかった。しかも、写っているのが悟りを開いたかの様な仏面のサスケとなのだから、意味が分からなすぎて知恵熱を出したほどだ。
ちなみに、その年賀状は、挟間ボンドルドの元にも届いた。流石、忍者業界の常識人の大蛇丸であった。そのお返しに、綱手も挟間ボンドルドも出産祝いも届ける仲である。
子供が出来れば人が変わるというのは、良くある事だ。
「あぁ、だからこそ貴様を選んだ。今回、カカシ班はカカシが入院のため、火影直轄の暗部を代理として付ける。貴様も知っている人物だが、任務にあたり名をヤマトと命名したから覚えておけ。また、『根』から一人新人もカカシ班に増員される。あのダンゾウからゴリ押しされた。分かっていると思うが、気をつけろ。場合によっては、貴様の判断で処理して構わん」
「分かりました。大蛇丸様には事前に電話で詳細を伝えておきます。しかし、Sランク任務に続いて、またSランク任務ですか。そろそろ、信頼できる暗部に一人くらい真実を伝えて、使える駒を増やして頂きたいですね。私とて、暇では無いのですから」
今回のSランク任務は、挟間ボンドルドに限って言えば危険が全く無い任務でもあった。年賀状を送り合う知り合いの家にお邪魔しに行くだけ。往診で何度も行ったことがあり今更である。
挟間ボンドルドは、火影の執務室を後にする。そして、またSランク任務で家を空ける事を家族に説明する事に頭を悩ませる。少しは家庭持ちに配慮し、働き方改革をすべきでは無いかと彼は真剣に考えていた。
◇◇◇
カカシ班の新しいリーダーに任命された火影直轄の暗部であるヤマト。彼は此度の任務における人選を確認し、胃痛を感じる。己を含んだ5人小隊。
火影直轄暗部のヤマト。
九尾の人柱力のうずまきナルト。
暗部養成機関『根』の新人サイ。
火影・千手綱手の弟子の春野サクラ。
これだけの人選でも正直意味不明といえるレベルだ。普通の小隊では、まずあり得ない。問題児をここまで一点に集めた構成など面倒を見る方の胃がすり減る。
今回はそれに加えて、綱手に次ぐ医療忍術の使い手である挟間ボンドルドも加わる。ヤマトにとって、彼が唯一の癒やしであった。常識人……任務経歴からも実力十分で、病院での勤務態度も素晴らしく患者からの信頼も厚い。暗部の任務柄、彼の世話になった忍者も数多く、その手腕を高く評価されていた。
だが、そんな彼に対してヤマトは特別任務を火影より受けている。
「挟間ボンドルド特別上忍が大蛇丸と繋がっている証拠を押さえろか。嘘だと信じたいが、木ノ葉崩しの時には様付けで呼んでいたとか。分かるよ、声に反して何故か異様な雰囲気があって、胡散臭いのはさ。はぁ、いやだな~」
仲間が世話になった事がある医療忍者を疑わなければいけない。しかも、挟間ボンドルドは綱手の一番弟子でもあると周知の事実。つまり、綱手本人が一番辛かろうという事をヤマトは思っていた。
だが、綱手は万が一に備えて全ての罪を挟間ボンドルドに着せる下準備を整え始める。知りすぎた忍者は、使い道があっても扱いに困る。挟間ボンドルドには、木ノ葉隠れの里と大蛇丸との繋がり抹消を依頼し、裏では挟間ボンドルドが大蛇丸と繋がりがある証拠をあつめろと命令する。
後日、思いも知れぬ所から大蛇丸と木ノ葉隠れの里の繋がりが露見したときに、挟間ボンドルドがやっていたと責任を押しつける。ヤマトが何も見つけられなければ、それはそれでよいと汚い計算をしている。
勿論、挟間ボンドルドを切るという行為は綱手にとっても危険な事であるのは承知している。場合によってはカツユと致命的な仲違いになる。しかし、そこは卑劣様と同じ血族の腕の見せ所だ。
そんな事情など知らず任務を真っ当する意気込みをしているヤマト。彼の元に、黒装束の鉄仮面――挟間ボンドルドが現れる。
「おやおや、待たせてしまいましたか、ヤマト隊長。お元気そうで何よりです」
「お久しぶりです、ボンドルドさん。何時も仲間がお世話になっています」
「気にすることはありません、同じ里の仲間ではありませんか。我々が日々安全な暮らしを送れるのは、暗部の方々が支えてくれているからこそなりたっています。それに、私のような古い人間にできる事は、未来の里を担う有能な忍者に助力するくらいなものです」
「ははは、そうですね」
圧倒的な人格者の発言。そんな人間を疑わなければいけないとは、嫌な任務だと本気で思うヤマトであった。
再開編もサクサク頑張るぞ……年末の合間に頑張る!!
ナルトのSSって基本的にどこあたりまでやるのが一般的なんだろうか。