卑の意志を継ぐ者   作:新グロモント

37 / 82
37:ビックダディサスケ

 挟間ボンドルドは、カツユを口寄せして人海戦術で物的証拠の隠滅を謀る。念には念を入れて、アジトごと焼き尽くす算段で各所に火薬や油を撒き散らす。掌サイズにまで小さくなったカツユは、実に可愛らしい。愛らしい声から育ちの良いお嬢様である事が伝わる。

 

「忙しいところ、手伝っていただき大変助かります、カツユ。子供達と保母さん達は無事でしたが、まさか留守電の削除を忘れているとは、大蛇丸様も抜けておりますね。カツユがいち早く気がついてくれて本当に助かりました」

 

『そうですよね。でも、ツムギちゃんだけがパパから離れるのを嫌がっていたみたいです、だから、サスケ君と一緒にいると思います』

 

 うちはツムギ……大蛇丸とうちはサスケの待望の第一子。産まれながらにして写輪眼を開眼している。その為、大蛇丸としても期待している子供だ。だが、子供を持てば人が変わる事は良くある。大蛇丸が望むレベルの器になった時、母としてどうするかは正直誰も知るよしはなかった。

 

「おやおや、うちはサスケ君と一緒という事は、カカシ班の皆様ともご対面という事になります。彼等がうちはサスケ君を真の仲間だと思うのならば、祝いの言葉でも贈るでしょう」

 

『そうですよね。それはそうと……ヤマト様がボンドルド様の動向を知る為、木分身をだしているようですが、どうしましょう』

 

「留守電情報以外は、証拠は残っていませんでしたので問題ありません。カツユは引き続き、火薬と油のセットをお願いします。大蛇丸様が引き上げると同時にアジトを破棄したと思わせます」

 

 その時、ズドンとアジトに地響きがはしる。震源の場所へ足と運ぶ挟間ボンドルド。その道中でナルト達と合流を果たす。合流後に、サイの目的がサスケの暗殺である事を連絡され、彼は狙いをサイに定めた。

 

………

……

 

 通路の開けた先にサイを見つけ、春野サクラが動こうとしたところを挟間ボンドルドが止めた。

 

「落ち着いてください。サイ君の扱いは私に任せてください。火影様よりこの件に関して特命を受けておりますので、うちはサスケ君を暗殺など絶対にさせません、彼にはそれ相応の報いを受けてもらいますので安心して私に任せてください」

 

「離してください、私の手で殴らなきゃ気が済みません」

 

 春野サクラは、殴っただけで許してあげる。もはや、そんな事態ではない。火影直轄の暗部情報を渡していた事は事実として分かっている。書類は本物。里に戻ったとしても重罪は確定だ。

 

「安心してください。春野サクラさんが殴る位は、生かしておきます」

 

「ちょ、ちょっとボンドルドさん。まさか!?」

 

 ヤマトは気がついた。だが、既に時は遅い。

 

 挟間ボンドルドの手がサイにターゲットをあわせた。彼の腕に備え付けられた筒から飛針の様な暗器が銃弾並みの速度で発射される。忍者が投げる手裏剣の様な生ぬるい速度ではない。更には、細く鋭くこんなモノを実質回避不能。

 

「私は、火影様よりサイが不穏な動きをした場合、排除するように命じられております。本件に関しては、独自権限を有しております」

 

「なぁ、ちょっと待てってばよ。なんなんだよあれ!」

 

「これは、シェイカーといって薬物を仕込んだ針を相手に飛ばす絡繰りです。安心してください、余程当たり所が悪くない限り死ねません(・・・・・)。人間性を喪失しただけですので、どうぞ殴ってあげてください」

 

 シェイカーが飛ばす針は、刺されると同時に体内に薬品を注入する仕組みになっている。注入される薬品は仙術チャクラの修行で助けると言われる「妙木山」、「湿骨林」、「龍地洞」の三箇所から彼が個人的な伝手で手に入れた劇薬。その効力は、人間を別の生物に変える事が出来るモノであり、仙術チャクラを極めた者でなければ致命傷だ。

 

 先ほどまで人間の形をしていたサイ。だが、脇にシェイカーの針が刺さってから数秒もせずに別の生き物に変わり果ててしまった。まさに、必殺技だ。

 

「そ、そんな何もここまでやらなくても」

 

「何を仰いますか春野サクラさん。彼は、里の裏切り者。ですが、うちはサスケ君に対しては、火影様から特に命令を受けていません。だから、安心してください。さぁ、あの光の先に貴方が望む未来が待っていますよ」

 

 裏切り者のサイの末路と愛するうちはサスケを比較する事など春野サクラには必要がなかった。どちらが大事かと言われれば後者であると即答できる程に。そして、何年も会えなかった彼に会うため、春野サクラは光が注ぐ場所へと走った。

 

 走った先が天国であると信じて。

 

「ボンドルドさん、一応聞きますが……サイを元通りには出来ますか」

 

「そう言うことを前提にしていませんでしたので、不可能です。後で、私が回収しておきますので火影様には予定通り暗部を処理したとお伝えください。うずまきナルト君も早く行ってあげてください。うちはサスケ君があそこにいるかもしれません」

 

 うずまきナルトと同じくヤマトも走って行った。

 

 

◆◆◆

 

 春野サクラは、光が差す場所へと足を運ぶ。大蛇丸のアジトの一部が崩壊し、外から光が差し込むその場所へと。サイが奇っ怪な生命体に変わり果ててしまったが、彼女にとってはサスケの方が優先であり、気にとめない。

 

 そして、見上げた先に愛していた男……ビッグダディとなったうちはサスケがいた。

 

「さ……さすけ君?よね」

 

 春野サクラが驚くのも無理はない。うちはサスケは、とても同世代とは思えないほど大人びていた。うちはイタチを若干若くしたような風貌であり、苦労人なのか顔の皺と目元のくまがよく目立つ。

 

「ぱ~ぱ」

 

「あまり大きな声を出すな。子供が泣くだろう」

 

 抱っこ紐で子供を抱いている男性。世間一般的にはイクメンと呼ばれる存在。若いのに子育てと忍術修行の両方をこなすとは、エリートの血筋は伊達じゃ無い。

 

「ね、ねぇサスケ君。もしかして、その子……サスケ君の子供じゃないわよね」

 

 春野サクラは、認めたくない現実を直視する。子供の瞳が写輪眼であっても、愛した男の子供だとは信じたくなかった。写輪眼ならば、彼の兄であるうちはイタチの可能性もある。

 

「そうだ、俺の子だ。俺は大蛇丸の所で一族復興を成し遂げ。イタチを殺す力を付けた」

 

 春野サクラの心にトドメを刺しに掛かるうちはサスケ。彼には、人の心が無いのだろうか。だが、追い打ちを掛けるかのようにオロチママまで登場する。

 

「サスケ君、危ないから子供は私が預かって置くわ」

 

「まぁま」

 

 子供が母親に抱きしめられた。

 

 丁度その時、ヤマトとうずまきナルトも到着する。大蛇丸が子供を抱きしめるその姿は、敵側からみれば赤子を人質にとっているようにも見える。実の母親が実の子を抱いているだけなのに、何故か不安になる。

 

「嘘よ、サスケ君。お願いだから嘘だと言って大蛇丸が母親だなんて」

 

「さ、サスケ。一体、この二年間にナニがあったんだってばよ」

 

「みんな落ち着け、これは幻術だ。幻術解除を早くするんだ」

 

 幻術ならば酷い内容だったで済む。だが、現実なのが更に酷い。

 

 すでに、サイが成れ果てと化している事などナルト達の頭の片隅にも残っていなかった。一時期は仲間として行動していたのに酷い忍者だ。

 

「ナルトも居たのか。ナニがあっただと……この二年、俺は一族復興のため、4桁に迫る女を抱いた。今じゃ、子供の数は300人を超えた。どうしたナルト。笑えよ」

 

「わ、わらえねーってばよ」

 

 サスケのやつれ具合を見れば、笑えない。健康状態は良いのは分かるが、色々とすり減っている感が否めなかった。

 

「さ、300人って。嘘でしょ、大蛇丸だけじゃなくそんなに沢山」

 

「さ、サクラちゃん!!」

 

 全身の力が抜け落ち、体重すら支えられなくなった春野サクラ。うずまきナルトが支えて何とか体勢を保つ。

 

「おやおや、みなさん何故固まっているのです。貴方達の仲間が子供を授かったのですよ。あたらしい命がこの世に産まれた。祝ってあげるのが、仲間ではないでしょうか。おめでとうございます、うちはサスケ君、大蛇丸様。可愛らしいお子様ですね」

 

「ふん、誰かと思えばボンドルドまで来てたのか」

 

「ありがとう、ボンドルド。でもね、もうすぐこの子にも弟が産まれるのよ。祝わせてあげるわ」

 

 うちはサスケと大蛇丸は、挟間ボンドルドと面識もある。アジトでも話すし、出産にも立ち会った。だが、建前上、敵対している雰囲気をだした。

 

「ま、まってよサスケ君。大蛇丸が妊娠しているって嘘よね。だって、大蛇丸は男じゃない――あれ、じゃあツムギちゃんは誰が産んだの」

 

「あぁ、今はサスケ君の子供を産むために女に転生しているのよ。安心しなさい。コレが今の本当の姿よ」

 

 自らトドメを刺されに飛び込む春野サクラ。

 

 大蛇丸が今現在うちはサスケの子供を妊娠中で、先ほどまでその状態で闘ってたという驚愕の事実を知ることになる。そして、何より、大蛇丸の姿が黒髪ロングの巨乳大和撫子で登場し、女として敗北を経験させられた。

 

「あぁ、もうダメ。私こんなの耐えられない」

 

 震えた手で自らの頸動脈にクナイを近づける春野サクラ。だが、挟間ボンドルドが手を押さえて、医療忍術で気絶させる。

 

「冷静さを欠いていますので、眠らせました。コチラから突然の訪問をしたのに恐縮ですが、仲間が何もしないうちから潰れてしまいましたので、帰らせて貰えないでしょうか」

 

「まったく、貴方達は何をしにきたのよ。人様のアジトに無断で忍び込んで破壊活動して帰るなんてテロリストよりたちが悪いわ。だけど、争いは胎児や育児にも悪いから帰してあげるわ、感謝しなさい」

 

 不要な争いなど誰も望まない。木ノ葉隠れとしても目的通り、スパイと接触してアジトまで特定した最低限の任務は果たしている。

 

「勝手に決めんな!!俺はサスケを連れ帰るって決めてんだよ」

 

「落ち着きなさい、うずまきナルト君。今やうちはサスケ君は沢山の妻と子供を支える身です。それを我々の一存で連れて帰るなど、貴方は家族を引き裂きたいのですか。うずまきナルト君なら分かるはずです、両親がいない子供のつらさを」

 

 うずまきナルトの中で急激にうちはサスケを連れて帰る気が失われていく。

 

 子供には親が必要だ。親が居ない苦労を誰よりも知っているうずまきナルト。もう、あの頃には戻れないラインまで来ている。それを初めて理解したときであった。

 

「サスケ!! お前がなんて思っていても俺はお前を友達だと思ってる。だから、いつでも頼れよ」

 

「ウスラトンカチが、人の気もしらないで。勝手にいつまでも待ってろ」

 

 うちは夫妻が立ち去った。

 

 だが、いい話で終わっている感じこそすれど、木ノ葉隠れがやったことはどう見てもテロ行為。その代償でサイが成れ果てとなり、春野サクラが精神的なダメージで戦線離脱。ヤマトの大蛇丸に様付けする動画が残される。

 

 代理隊長ヤマトの初の任務で、隊を半壊させた。

 




再開編はいったん終了ーー!!
次は、暁の不死身コンビ編であってますよね。


どこかで音隠れの里だけの新ギャンブル……競バをご紹介したいと思っています。
ハシラマックイーン
ヒルゼンスキー
トビラマテイオー
ミナトブルボン

元火影達の熾烈な争いが見れるチャンス。
二代目の卑劣なステップが炸裂しそう。
そして賭け事が大好きな五代目も見学にくるとか、ありじゃないかな。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。