挟間ボンドルドは、少し悩んでいた。
今後のためにも、どのタイミングで手を貸すのが一番美味しいのかと。原作キャラの成長には、しっかりとポイントが設けられている。少年期において、その一つがこの波の国での事件であった。
「うちはサスケ君が首を刺されたタイミングがベストでしょうかね」
原作キャラ達との好感度は上げておいて損はない。最小の努力で最大の成果を手に入れる。それが、挟間ボンドルドの今回の方針であった。事実、現状のタイミングを考えてもソレしか選択肢がなかった。
波の国への進入に際し、事前に合流していたら船に同乗できたのだが、そんな物はとうの昔に出航している。原作組達は霧隠れの抜け忍である桃地再不斬と第一回目の死闘をしている最中だ。
第二回戦目で負傷するタイミングまでは時間がある。つまり、貧しい波の国を調査や観光をする時間程度はあるという事だ。貧しい国では飯を食うため、子供を売りに出す親も少なくない。つまり、親は金銭を得て、子は大事にされる家に貰われるというシステムが存在する。
「いいですね、お金で合法的に材料が手に入る国は」
第二回目の戦闘はおおよそ1週間後……ソレまでの間に、金に物を言わせて物資を買い込む男が度々、波の国各所で報告された。だが、現金一括払いであったため、合法である事から誰も咎める者はいない。忍者とて、金を出せばお客様なのだ。
………
……
…
挟間ボンドルドが波の国に入り、合法非合法問わず様々な物資を買い漁っていた。ソレを聞きつけた者達が金欲しさに色々と持って集まる。その中身には、道中で見つけた忍者の死体から剥ぎ取った物資や外来種の獣など様々だ。子供を売る者達がその何割かを占めた
やる事がないからヤってできた子供を育てず売るという鬼畜外道だ。
「おやおや、どうしたのですか? みなさん、お集まりになって」
「忍者様、お願いです。どうか、この子を買ってくれませんか」
「うちの子も!! 祖父の代までは忍者でした。才能もきっとあるはずです」
売られる子供達としては、この日が来たかと目が死んでいた。貧しい国が故にそういった事情をよく見てきた証拠である。
「少々予定数より多いですが、問題無いでしょう」
挟間ボンドルドは、集まってきた子供を全て買い上げた。
"祝福"の譲渡にはかなりの数を消費する。それに加え、母体として優秀な子供もいるかもしれない。金など新薬を作って売れば生活に困らない金額を稼げる男だ。
◇◇◇
はたけカカシは写輪眼の反動で一週間程度、碌に動けない状態になっていた。
次の戦いに向けて少しでも勝率を上げるべく、下忍達の修行を行っている。ある日の夕食時に、タズナの娘が思いの丈をぶつけた。父親を護衛している忍者だからこそ、多少の事は目を瞑っていたが、流石に限度というものがある。
「ねぇ忍者さん、町でちょっと噂になっているんだけど……貴方達と同じ額当てを持った怪しい格好の男が子供を買い漁っているって。いくら貧しい波の国だからって、子供を買わないでよ。大人として恥ずかしくないの!!」
「カカシ先生サイテーー!!」
「そりゃ、擁護できねーーてばよ」
「見損なったぜ」
無実の罪で責められるはたけカカシとしては、理不尽であった事は言うまでも無い。松葉杖なしでは歩行も困難なのに、どうして女……しかも子供を買ってナニをするのだと。確かに、エロ本が愛読書である事から異常性癖である可能性は濃厚であったが、今回ばかりは無実である。
「まてまて、お前等!! 俺は、ずっとお前等の修行に付き合っていただろう。それに、忍者なら再不斬達の可能性だってあるのに、何で俺を疑う!!」
「えぇ~、だってカカシ先生の愛読書ってイチャイチャパラダイスってエロ本じゃん」
「そうよね~、それにカカシ先生は未婚だし。稼ぎがある上忍で未婚って、特殊な性癖があるとしか……」
「ノーコメントだ」
ドンドンと立場が追い込まれていく、はたけカカシ。
日頃の行動が物を言う。だから、誰も擁護できなかった。
「よーーし、わかった!! 明日は、修行の成果を見るための実技訓練とする。その忍者を捕まえるぞ」
自らの立場を守る為、威厳を回復する為、第七班は原作にはない予定外の行動を取ることになった。
………
……
…
翌日、第七班は聞き込みを開始し、僅か一時間で目的の人物を発見した。彼の周りには人だかりが出来ている。
「安心してください波の国の皆さん、お金には余裕があります。順番に購入しますので、焦らず並んでお待ちください」
「まだ、生後半年なんです。どうか、どうか……この子をお救いください」
この母親は、波の国では子供が不幸になる事を理解していた。それどころか、あと何年生きられるかも分からない。満足な食事など母親もここ何年か取れていない。それなのに、赤子など育てるのは不可能。
よって、藁にもすがる思いで挟間ボンドルドの元を訪れたのだ。
「さぁ、これをお持ち帰りなさい」
1ヶ月は食べられるだけの金銭をポンと挟間ボンドルドは渡した。
その様子を確認した第七班の者達は、自らの担当上忍に対して申し訳無い事をしたという気持ちで一杯だった。
「カカシ先生、疑ってごめんなさい。あの人、確か……挟間ボンドルド特別上忍でしたよね」
「その通りだ、サクラ。医療忍術のスペシャリストだ。だが、なぜココにいる」
同じ里の忍者。それも医療忍術が使える者ならば、現状渡りに船だ。写輪眼の反動で動けない体の回復も改善できるチャンスが到来した。更には、修行での疲労回復にも効果がある事は間違いなかった。
挟間ボンドルドが加われば、勝率があがる。
◇◇◇
挟間ボンドルドは、少し甘く見ていた。
貧しさが予定の数倍以上で、一度買い付けを始めたら、わらわらと大量の人が毎日訪れてきたのだ。それにより、原作組と桃地再不斬の第2試合が始まる前に見つかってしまった。
彼は、人混みをかき分けて第七班の前まで移動する。
「これは、はたけカカシ上忍。このような所でお会いするなんて偶然ですね。お元気そう…では、なさそうですね」
「あぁ、少しばかり強敵が現れてね。今すぐ……は、無理そうだ。あの集団を捌いたら、俺達が拠点としている場所まで来て欲しい。話はそこでしよう」
「えぇ、分かりました」
挟間ボンドルドは、買った材料に口寄せの契約をさせていた。これで、里に帰ってから呼び出すという算段だ。こうすることで、誰にもバレずに大量の材料を仕入れられる。忍者とは、卑劣であった。
………
……
…
ハッキリ言って、挟間ボンドルドはタズナ家に歓迎はされていない。
波の国で子供を買い漁った忍者だ。子供を持つ親として複雑な感情を抱くのは無理もない。それなのに家に招き入れたのは、護衛をしてくれている忍者からのお願いでもあったからだ。
「ご存じの方もいるかもしれませんが、自己紹介を。挟間ボンドルド、彼等と同じ里の特別上忍です。どうぞ、お見知りおきを」
挟間ボンドルドの容姿は、第七班の忍者と比べても異質。忍者のマネをした変態と言われた方がしっくりくるレベルだ。
「本当に、この人も仲間なの? 忍者ってのは騙す事が本分みたいじゃない。敵だと思ったら実は仲間だったりとか……本当に大丈夫なのよね?」
「おやおや、手厳しいですね。私自身も他の方と比べて少々歪なのは理解しているつもりです。では、疑われるという事なので素直に引き下がりましょう。それでは、第七班の方、失礼致します」
同じ里の仲間を見捨てて、この状況では何を言っても帰らないと思っていたタズナの娘は誤算した。護衛任務の手助けに派遣されたと考えていたのだ。
「ちょっと、アンタ!! 仲間を見捨てて帰るのかい」
「帰る?またまた、不思議な事を言いますね。疑わしい存在が近くに居るより離れた方が安心するでしょう。それに護衛の依頼を受けたのは第七班の方々です。私はただの旅行者とでも思ってください」
はたけカカシの回復具合を把握できた挟間ボンドルドは、第2試合が近い事を理解した。それにターゲットの家も把握。後は、事が終わり次第、任務に移るだけだ。
タズナの娘とのやり取りを見て、はたけカカシだけが何となく事情を察した。任務中の仲間を助けるのに金銭は発生しない。それは当然のことだ。だが、プライベートで負傷した怪我は、ソレは別だ。
「挟間ボンドルド特別上忍……俺の治療だと、幾ら掛かる?」
はたけカカシは、担当上忍として存在しない任務を続行する事を選んだ。成長中の下忍をこの状況下で里に帰すのは今後のためにならないと判断したのだ。
「人が良いと身を滅ぼしますよ。事が終わった後に、私の邪魔をしないのであれば――この程度でお引き受けしましょう」
挟間ボンドルドが提示した金額は、第七班が受け取る予定だった報酬金額の2倍であった。だが、はたけカカシの出費はソレだけに留まらない。下忍達にもポケットマネーから偽りの報酬を出す必要もあったのだ。
「はぁ~、足下見るね。追加料金も出すから、手伝いは?」
「ソレは出来ない相談ですよ、はたけカカシ上忍。私がここにいる意味を分かっておりますよね」
第七班の任務は失敗しても構わない。なにしろ、依頼自体が存在しない。だが、ケジメ案件は失敗が許されない。不要な戦闘で負傷し、唯の民間人への粛正ができないなど忍者失格である。
「まぁ、多少上乗せして貰えれば、確実に殺せるタイミングで忍術がどこからか飛んでくる事はあるかもしれませんがね」
はたけカカシは、3倍のお金を挟間ボンドルドに支払った。
その様子に第七班や元依頼主達は怪訝な顔をしている。仲間同士なのに何故金銭のやり取りが発生するのかと。この後、どのように説明して取り繕うかと悩むはたけカカシであった。
困った人に救いの手を差し伸べる忍者……たまには、こういう忍者もいていいよね!!
タダで人助け(任務)を行う忍者:はたけカカシ
金を払って人を助ける忍者:挟間ボンドルド
両名とも似たもの同士だよ。