卑の意志を継ぐ者   作:新グロモント

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 数の有利が無くなった。奈良シカマルは、この状況をどう乗り切るか高速で思考する。何よりマズイのが、殺したと思っていた挟間ボンドルドの謎の生還。医療忍者として、里の忍者の健康管理まで行っていた事もある男だ。

 

 言い換えれば里全ての忍者のデータを持っている。

 

 この状況、挟間ボンドルドの取る道は複数存在している。ある意味選びたい放題。

 

「秘伝忍術の影真似の術ですか、よろしければ外しましょうか?飛段さん」

 

「なんだ、先生はコッチに加勢してくれんのかよ。しかし、先生も俺等と同じなら同じって言ってくれよ。てっきり、死んだと思っただろう。後!! あんまガキに心配掛けんな。わかったな」

 

「これで墓を建てる費用が浮いた」

 

 アスマ班としては最悪の事態。忍術を知られているという事は対抗策もセットだ。暁レベルの者達に術の詳細が漏れれば、同じ手はほぼ効かなくなる。

 

「シカマル!! 絶対にボンドルドを生かして返すな。里の情報が全て筒抜けになる」

 

「死んでも蘇るような奴をどう殺せって言うんだよ。それに、この状況で簡単にやれるかってんだよ」

 

 猿飛アスマの言うとおりだ。挟間ボンドルドが持つ木ノ葉隠れの情報を欲しがる隠れ里は多い。引き込む事で戦争になったとしてもそれ以上のリターンが見込める。なにより、綱手レベルの医療忍術の使い手が里に来るのならば両手を挙げて歓迎する所だろう。

 

「その巫山戯た能力、あんた何なんだよ。同じ里にいて、それだけの能力を持っているなんて聞いた事もないぜ」

 

「忍びが手の内を全て晒すのは良くありませんよ、奈良シカマル君。私は、挟間ボンドルド。今や、綱手様に切られた一介の忍者にすぎません。それにしても、君達は本当に素晴らしい。私たちに足りない試練をもたらし――プルシュカを完成に導いてくれました。試練は愛をより深くします」

 

 挟間ボンドルドが長々話している間に誰も動かない異常事態。歴戦の忍者である角都にすらその影響がおよんでいた。通常であれば、話している隙をみて、奈良シカマルを襲い最低限、影真似の術を解く程度の働きはしていた。

 

「ねぇパパ。なんでみんな動かないの? ねぇねぇ、私が闘っても良いよね。パパの仇だもん」

 

「恐らく、アスマ班に強い『祝福』持ちがいる事が原因でしょう。角都さん、飛段さん、プルシュカも混ぜて宜しいですか?」

 

「構わないがやり過ぎるなよ。出来れば死体の原型くらいは残しておけ。換金できなくなる」

 

「マジかよ。丸焦げになってたら治してくれよ」

 

 暁メンバーが普通に子供であるプルシュカを戦いに混ぜることを承諾する。その理解不能なやり取りがアスマ班の思考を混乱させた。最悪、プルシュカを人質にして、挟間ボンドルドだけでも何とかしたかったが、想定外。

 

「プルシュカ。あちらに居る人相の悪い二人組、神月イズモさんとはがねコテツさんは、気持ち狙わない程度にしてください。よい『祝福』が取れそうですので」

 

「えぇ~そうなの? じゃあ、パパを殺した髭の人は?」

 

「飛段さんの獲物です。角都さんは、プルシュカの攻撃で残った人で好きな方をどうぞ」

 

 挟間ボンドルドは、医局に勤めていた医療忍者。定期検診では採血もあり、その検査を担当した事もある。彼の研究資料にはその血液もある。名門と呼ばれた者達の血液を彼が保有しているのは当然で、その中には猿飛アスマの血液も含まれる。

 

 それを口寄せして、挟間ボンドルドは飛段に手渡した。当然、木ノ葉隠れの者達には見えないようにして。

 

「おぃおぃ、随分と用意が良いな先生。これってもしかしなくてもアレか」

 

「そうです、アレですよアレ」

 

 その様子にアスマ班の連中は一歩さがり、集合する。このフォーメーションならば、どのような事態にでも対応できるという自信が彼等にはあった。

 

「パパ見ててね!! 火遁・業火滅却」

 

 うちは一族とうずまき一族の血を引いている挟間プルシュカが得意とする火遁。圧倒的チャクラ量も秘めており、術一つ一つの完成度も教科書に載るレベルであった。

 

 子供が使う忍術だと、内心甘く見ていたアスマ班の者達。だが、印を結ぶ速度が目で追えず、火遁の規模が横にも縦にも信じられない規模。うちはマダラと同じレベルにまでは至っていないが、0.5マダラ並みの規模だ。

 

「すっげー威力だな。こりゃ、ジャシン様への生け贄は無理だな」

 

「全くだ。これじゃあ、死体が残るかどうか」

 

 ぼさっと見ているだけの飛段と角都。普段からの行動ではあり得ない。死んでも死なないような忍者がこの場に三人もいる。だからこそ、本当に死ぬのを確認するまでは、攻撃の手を緩めるべきではない。どのような方法で生き返ってくるか検討も付かないのだから。

 

「飛段さん、サクッとお願いします。きっと、死んでいません。この程度で死んでいるならば、貴方達と対面した時点で死体になっています。お二人とも何故この絶好の攻撃の機会に手を緩めるのですか?」

 

「その通りだな。この火の中でも俺の硬化なら耐えうるか」

 

「減った心臓はコチラで補充しますので、お願いします。私も手伝いますので」

 

 敵を目の前にして手を止める現象。それを強制的に進める挟間ボンドルドであった。暁の二人が本来の実力を十分に発揮すれば、アスマ班の連中に勝ち目は無い。格下虐めなどせずに、全力で殺しきる…これが対『祝福』持ちへのベストアンサーだ。

 

 挟間ボンドルドから受け取った猿飛アスマの血液を舐めて、儀式を進める飛段。

 

 肉体を硬化させて、業火滅却の中を進み敵陣特攻を仕掛ける角都。

 

 扇ぐだけで暴風を生み出す忍具…テマリの遺品である鉄扇まで持ち出して、盛大に火遁を援護する挟間ボンドルド。

 

 火と風の相乗効果で辺り一面が火の海と化す。

 

 父と娘のコラボ忍術とも言える。そんな馬鹿げた火力の前では、生き残る事すら困難。全てをなぎ払い死体すら残らない筈――本来ならば。だが、アスマ班は誰一人欠ける事無く生き残った。

 

 奈良シカマルが影真似の術を使い仲間を覆った。土遁を使おうが、水遁を使おうが全てをなぎ払える攻撃であったが、影という謎の特性を上手に活用し生き残る。その代償に、ほぼ全てのチャクラを使い切るが、生き残っただけ上出来だ。

 

「嘘!? 生き残った」

 

 挟間プルシュカが驚愕する。得意とする火遁における最大忍術を使い、挟間ボンドルドからの援護もあった。だというのに、無傷で生き残る異常者達に。

 

「驚くことはありません、プルシュカ。これが『祝福』なのですから、今度は良く狙ってください。大雑把な狙いでは、彼等には届きません。そういう絡繰りが世に存在しているのです」

 

 『誰かに当たればいいや』では、決して攻撃が当たらぬ埒外の存在達。だが、確実に狙いを定められる忍術ならば話は別だ。それが、飛段の忍術。

 

「すっげーーな、先生の言ったとおりじゃねーか。だが、その運もここまでだ。貴様は、呪われた!! さぁーーーて、どこからやってやろうか」

 

「パパって物知り。じゃあ、これだったらいいのね。風遁・真空玉」

 

 挟間プルシュカが大きく息を吸い込む。そして、チャクラを混ぜ込んだ風の弾丸が飛段の急所を何度も打ち抜く。心臓、膵臓、肝臓、腎臓、肺…人間が必要とする主要臓器全てにダメージを与え、不死身でなければ確実に死ぬ。

 

「いってーーな。なんて事をすんだよ。折角の儀式が台無しじゃねーーか」

 

 神聖な儀式が台無しになって嘆く飛段。

 

 仲間割れかに思えたその光景を目の当たりにしたアスマ班。もしかしたら、敵を騙すなら味方から理論で、実は挟間ボンドルドが味方であったと淡い期待をしてしまう。

 

 だが、そんな都合の良い現実は訪れない。接近してきた角都に構えていた猿飛アスマに襲い掛かる即死級ダメージ。

 

「ごふぅ」

 

 全身から血を流し、地面に伏した猿飛アスマ。

 

 猿飛アスマの行動不能を確認し角都は狙いを変える。チャクラ不足の奈良シカマルでなく、神月イズモを狙う。圧倒的タフネスを利用した物理攻撃による打撃。その攻撃が、神月イズモの腹部に直撃し、20メートルほど後方に吹っ飛んだ。

 

「なるほど、先生の言うとおりだな。雑に狙わず、一人一人を確実に殺す気でやらねばいけないな。俺とした事が、悪い癖で手加減するところだった」

 

 肋骨が粉砕された神月イズモは立ち上がることも出来ない。本来あるべき実力を発揮した暁の力はこのレベルであった。じわじわなぶり殺すなどナンセンス。

 

 残されたのは、はがねコテツと奈良シカマル。だが、どう考えても明るい未来は待っていない。実力差的に考えて、チャクラ不足で碌に動けない奈良シカマルを置いていったとしても逃げ切れる可能性は低い。

 

 対策を思考するはがねコテツの元に神月イズモを回収した挟間ボンドルドが近寄る。

 

「安心してください、神月イズモさんはまだ生きております。ですが、私は貴方の身体も是非欲しい」

 

 はがねコテツが知る挟間ボンドルドからは考えられない速さ。腕ではなく尻尾を使った攻撃。想定外の攻撃であった為、はがねコテツは防ぐ事も出来ず地面にたたき付けられ、意識が飛びかける。

 

「くっそっ」

 

「おかしいですね、今のは攻撃の瞬間にチャクラを放出したのに五体満足とは。やはり、よい『祝福』をお持ちのようです。逃げられては面倒ですので、大人しくしてもらいます」

 

 挟間ボンドルドが数カ所を軽く撫でただけで、はがねコテツは大人しくなった。

 

 挟間ボンドルドの新しい身体には、とてもよく見える眼が付いていた。そんな、どこぞの里最強と言われる一族の眼と精密チャクラコントロールが可能な技術が合わされば、点穴を利用してチャクラを封じる事など造作も無い。

 

 戦利品の神月イズモとはがねコテツを連れて帰ろうとする挟間ボンドルド。残る一人である奈良シカマルの扱いをどうするかと角都は考えた。

 

「おい、まだ残って居るぞ」

 

「そのようですが、時間切れです。お互いに彼を狙わなかった…いいえ、狙えなかったと言う事が全てを物語っております。彼は、今の我々では手に余るという事です」

 

 前の肉体を回収し帰り支度をする挟間一家と暁の元に木ノ葉隠れの増援が都合の良いタイミングで到着する。更には、同時に暁トップからの最優先の帰還命令。

 

 だが、アスマ班の唯一の生き残りである奈良シカマルと木ノ葉隠れの増援達も見送ることしか出来なかった。強敵が自ら帰ると言っているのだから、引き留める必要など何処にもない。

 

 

◇◇◇

 

 大蛇丸は、取り乱すママ友カツユを落ち着かせていた。錯乱していた原因が挟間ボンドルドの死だと聞かされる。そして、いち早く穢土転生で生き返らせようとする。正直、あのレベルの人材を悪用されては、大蛇丸にも不都合であったし……なにより、天才には同じレベルで会話ができる良き理解者は必要だと思っていた。

 

「まったく、こんなサービスしてあげるなんて滅多にないんだからね」

 

『……あれ?でも、この肉体って』

 

「なに、何か文句あるの? ボンドルド(・・・・・)ルフの身体じゃ不満っていうのかしら。ボンドルドが作った身体よ」

 

『いえ、でもその身体だとチャクラが…』

 

「後で良い体を用意してあげるわ。それまでの仮初めの肉体よ。安心しなさい……いくわよ、穢土バ生の術!!」

 

………

……

 

 一向に復活の兆しが無い。つまり、魂が浄土にないと言う事になる。

 

「カツユ。本当に、ボンドルドは死んだのよね?」

 

『えぇ。ですが、愛の力で今蘇りました。愛って素晴らしいですよね、大蛇丸様』

 

 なんでも愛で片付けるんじゃ無いわよと怒りたくなる気持ちを抑える大蛇丸とママ友カツユの可愛らしいやり取りが音隠れの里であった。

 




木ノ葉隠れの里の様子をやりましょう!!

あぁ、そうだ。暁の皆様にレグをご紹介しなければ。逆口寄せすれば、まだ無事のはず。

書いておいて、言いたくないのですが…ボンドルドルフってくっそ言いづらい。

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