卑の意志を継ぐ者   作:新グロモント

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46:奇跡は起きないから奇跡という

 戦いが始まると同時に、本気の角都により即座にメンバーが分断された。そして各々が担当する相手と対峙する。

 

 挟間ボンドルドの相手は、肉弾戦特化の秋道チョウジ。彼自身も決して弱くない。術中に相手が嵌まればまず勝てるだけの一撃必殺を持っている。だが、それだけだ。

 

 秘伝忍術というのは、極めて強い。だからこそ、尖った才能を更に伸ばす者が多い。しかし、それで勝てるのは二流の忍者までだ。一流の忍者に戦法がバレていては勝利の道は遠のく。

 

「正直申し上げますと、秋道タカカズさんが来られたらどうしようかと思っておりました。あの四代目にも勝るとも劣らない時空間忍術の使い手である木ノ葉隠れの"黄ばんだ閃光"。まさに、彼こそが秋道一族が産んだ傑作だと思っております。ですが、ここに来たのが君でよかった、秋道チョウジ君」

 

「僕だって、戦えるんだ。アスマ先生の仇を討つんだ」

 

 誰もがその名を悪い意味で知っている秋道一族の最高傑作。だからこそ、そんな男と比較されたら誰だって劣等感を抱く…かもしれない。

 

 秋道タカカズは、四代目火影から個人指導を受けて時空間忍術の才能を開花させた。おかげで、他国の忍びからは、"閃光"が来たと報告がされた場合、"綺麗な方"か"汚い方"かと言われる始末。

 

 そんな汚い方がうずまきナルトの両親を隠した原因の一端も担っていた。汚い方の閃光を育てた綺麗な閃光……どれだけの男性が痔の被害になったか数えるのも億劫だ。当然、そんな男を育てた四代目は里の男達から恨まれていた。だというのに、四代目は被害にあわず、綺麗な嫁まで貰う始末だ。だからこそ、子供の安否を考えて、四代目の子供であると知られるのはまずかった。

 

「お前の忍術は聞いている。当たらなければ問題無い。肉弾針戦車!!」

 

 秋道チョウジが、髪の毛を針のようにして、肉体を回転させる。そして、左右に移動しながら挟間ボンドルドとの距離を詰める。挟間ボンドルドの火遁を警戒しての行動ならば正しい。正面からきては、ただの的だ。

 

 だが、本人はくそ真面目なのだろうが左右に動かれたところで、移動速度はたかがしれている。この程度の動きで的を外すようなら忍者などやっていない。今までの敵ならば、持ち前の謎の幸運で、何故か全ての攻撃が外れたり、その回転力に弾かれただろう。

 

 しかし、直進してこない肉弾戦車に意味など無い。

 

「では、試させて貰いましょう。火遁・枢機に還す光(スパラグモス)

 

 発射と着弾がほぼ同時のこの技。身体能力が向上しているこの肉体で外しようがない一撃であった。綺麗でも汚くもない一筋の閃光となった光が全てを焼き尽くす。一点集中された火遁を防ぐには羅生門クラスの防御が求められる。

 

 だが、当たらない。確実に捉えた瞬間に放たれた火遁・枢機に還す光(スパラグモス)であってもだ。

 

 秋道チョウジが転がっている地面が偶然にも陥没。その影響で、掠る程度で終わってしまう。

 

「だから言っただろう。当たらなければどうということはないって!! くらえぇーーーー」

 

「これは興味深い。本人を守る為、環境へも作用するのですね。では、これはどのように回避されるのでしょうかね」

 

 秋道チョウジの肉弾戦車が挟間ボンドルドに当たる手前で、彼は地面に沈んだ。

 

 地を這う肉弾戦車には、極めて有効な忍術…土遁・黄泉沼。嘗て、自来也がプルシュカへの教育用に残した映像から学んだ忍術であった。この術は、術者の力量で規模も深さも変わる。秋道チョウジが沈んで窒息するくらいの深さは十分にあった。

 

 挟間ボンドルドは長々と会話していたわけではない。チャクラをしっかりと練り込んで、秋道チョウジが回転するタイミングで印を結んで術を行使していた。白眼でも無い限り、相手の印を確認する方法は彼にはない。

 

 ボコボコと沼の表面に気泡ができる。

 

 沼の下では、秋道チョウジが異変に気がついて大急ぎで浮上してきていた。沼の底に付けば、勢いに任せて這い上がれたかも知れないが、人間息を止められる時間は限られている。何より沼地だ。通常の水中と違う事を考えると早々に這い上がる方向にシフトしなければ溺れ死ぬ。

 

「ぶっは……死ぬかと…おも」

 

 這い上がってきた所に秋道チョウジの額にコツンと何かがあたる。

 

 今までの優しい敵達ならば、這い上がってきてから闘う準備が整うまで待ってくれていた。だからこそ、秋道チョウジも水中にいる時に攻撃されなかった事を不思議に思わないでいたのだ。

 

「この距離で外れるようでしたら、是非貴方を研究したい」

 

 ゼロ距離での火遁・枢機に還す光(スパラグモス)。これで外れるようなら、もはや神が味方していると言っても過言でない。だが、彼の『祝福』は、諦めない。近くで闘っていたはたけカカシが何故か飛段の猛攻をかいくぐってクナイを投げてきた。

 

 良くある事だ、ここでクナイを止めると何故か秋道チョウジが生き残る。だが、起爆札でも傷が付かない防御を誇る挟間ボンドルドの外装がある限り、避ける必要性は発生しない。つまり、死を回避する術は無い。

 

「チョウジ!!」

 

「火遁・枢機に還す光(スパラグモス)

 

 手や足、もしくは腹部などであったなら万が一にも助かったかも知れない。だが、医療忍術でも頭部を破壊されては助ける事は不可能だ。それは、もはや医療忍術の領域にはない。

 

 黄泉沼が赤く染まる。それは、本当に地獄にある沼のようだ。

 

 カツン

 

 はたけカカシが投げたクナイが挟間ボンドルドにあたる。だが、傷一つ付かない。今まで数々の窮地の仲間をクナイ一本で救っていたはたけカカシも驚いていた。

 

 奇跡は簡単には起きないから奇跡という。

 

「飛段さん、しっかりとはたけカカシ上忍のお相手をしていてください。ダメですよ手を抜いたら」

 

「わりーな、先生。苔で足を滑らしちまってよ~。つか、そっちはもう終わったのか。じゃあ、とっとと加勢してくれ」

 

 一人一人とこの世から存在が消えていく木ノ葉隠れの忍者達。ミイラ取りがミイラになる時は、そう遠くないかもしれない。

 

 




山中いのさんとかもいい『祝福』もってそうだよね。(にっこり)


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