卑の意志を継ぐ者   作:新グロモント

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59:あ…ありのまま、今起こった事をお話します!

 木ノ葉隠れの里の各所で悲鳴が鳴り止まない。建物は崩壊し、火災も発生していた。そんな中、忍者は協力して襲撃犯である暁の討伐にある程度(・・・・)頑張っていた。勿論、里に忠誠心がある者ならば死をも厭わない。

 

 だが、考えて欲しい。現状、里の為に死んだ者達へどのような事を火影がしてきたか……既に噂程度は出回っている。だからこそ、下手に死ねない。死ねば残された家族が酷い目に遭う可能性がある。つまり、死ぬ気で闘うのでは無く、死ぬ気でやり過ごす方向にシフトしている。

 

 事実、忍者達だって分かっている。重大な事件というのは、往々にして数名の突出した忍者が解決する。だから、周りで適当にやり過ごす事こそが正しい忍道であると。彼等が今待ち望んでいるのは火影から派遣されたカツユではない。この事件を早期に解決してくれる忍者の派遣だ。

 

 交換留学してきた砂隠れの忍者やOB忍者達は、ある程度頑張っている。だが、カツユ経由で火影のサポートを得ている暁というS級犯罪者に太刀打ち出来るような者が里に何人も居るはずが無い。

 

 そんなやられ役の忍者達を見て、情けないと思う立派な木ノ葉隠れの忍者も居る。その名は、猿飛木ノ葉丸。エリート一族に産まれた将来を約束された存在。その彼の戦いを近くでじっくり観察しているのが挟間ボンドルドだ。

 

 挟間一家は、予定されていた仕事を完了した事を暁に連絡をして、自由行動が許可された。元々、木ノ葉隠れの里から犯罪者認定された身である為、思うところもあるだろうから好きにしろと。

 

『ボンドルド様、暗部養成部門『根』も今回の一件に介入してくる模様です。綱手……さまから『根』の者達にも付けと。能力が割れたら直ぐに連絡します、また居場所も逐一教えますね』

 

「頼みましたよ、カツユ。プルシュカ、貴方は地獄道と猿飛木ノ葉丸君のどちらが勝つと思いますか?」

 

「地獄道。勝てるはず無いじゃん。だってパパが作ったペイン六道システムって、私でも苦戦するもん。もし、あんな鼻水垂らしてそうな子供が勝てたら、晩ご飯は嫌いなピーマンだけでもいいわ」

 

 ペイン六道の一つである地獄道。能力的に戦闘向けではないが、木ノ葉隠れの里を警備していた中忍クラスをばったばったと倒している。AI機能が搭載されており、息の根をしっかりと止めるサービスも忘れない。その為、近くには彼の家庭教師を務めていた特別上忍エビスの亡骸が転がっている。

 

 今、その地獄道によって何かを尋問されている猿飛木ノ葉丸。死ぬ5秒前である状況で、助けに来る忍者はいない。救援にくる忍者がいれば、カツユが気がつけるが反応を検知できずにいる。

 

「では、私は猿飛木ノ葉丸君に賭けましょう。もし、私が賭に負けたら晩ご飯にはプルシュカが好きな物を作ってあげます」

 

「えっ!?」

 

『えっ!?』

 

 完全に勝利を確信していた挟間プルシュカと全ての忍者を監視していたカツユが思わず、驚きの声を上げた。

 

 地獄道に捕まっていたはずの猿飛木ノ葉丸が突然消えた。この現象は影分身しかあり得ない。だが影分身ならば今までに幾度も消滅する衝撃を受けていた事もあり、その説明が出来なかった。挟間プルシュカの写輪眼を持ってしても、いつ影分身と入れ替わったか判別はできていない。

 

 カツユにしてみても、猿飛木ノ葉丸には付いていた。だからこそ、それが本体である事は疑わない。だが、地獄道に捕まっていた肉体が消えたと同時に別の場所に自らが出現する謎事象を経験した。

 

『ぼ、ボンドルド様。猿飛木ノ葉丸君の『祝福』を回収する前にお伝えしておきます。私は、今、彼の『祝福』をちょっぴりですが体験しました。い…いや…体験したと言うよりまったく理解を超えていましたが……。あ…ありのまま、今起こった事をお話します!』

 

 あまりの出来事にカツユも動揺を隠せなかった。

 

『私は、彼に付いていたと思ったらいつの間にか消滅して別の場所に再出現していました。な…何を言っているか分からないと思いますが私も何をされたのか分からなかった…。頭がどうにかなりそうでした。幻術とか体術による超スピードとかそんなチャチなもんじゃ断じてありません。もっと、恐ろしいものの鱗片を味わいました』

 

 地獄道を通じて、長門自身も驚いていた。確実に本体を捕らえていたはずなのに、実は影分身でしたという……忍術に精通しているからこそ、影分身などではないと言い切れるだけの自信が長門にはあった。そして、長門もこれこそが、挟間ボンドルドが言っていた『祝福』であると肌で感じた。

 

「安心してください。プルシュカと私の二人で彼を捕らえて『祝福』の回収をします。プルシュカ、猿飛木ノ葉丸君を捕らえるまでに邪魔が入らないように全てを排除してください。手伝ってくれたら、ピーマンじゃなくてニンジンで許してあげます」

 

「任せてパパ!!プルシュカ本気でやるから」

 

………

……

 

 猿飛木ノ葉丸は、うずまきナルトから教わった螺旋丸で何とかペイン六道の一つを倒す事に成功して安堵していた。高難易度の術を連発したため、彼のチャクラは既に底を突いている。

 

 近くに倒れているエビスや里の忍者を救えなかった事を一人悔やむが……だれも、彼を責める事は無い。だが、万が一、優秀な医療忍者が近くにいれば助かるかも知れないと、疲労困憊の身にムチを打ち助けを呼ぶ為、立ち上がった。

 

「早く、医療忍者を呼びに行かないとなコレ」

 

「おやおや、医療忍者をお捜しですか。猿飛木ノ葉丸君。偶然にも、私は医療忍者ですので宜しければお話を伺いましょうか」

 

 猿飛木ノ葉丸が振り返ると手の届く距離に、黒い鉄仮面を付けた黒装束の男がいた。その身体には何処にも身分を表す忍者の額当てが付いていない。その為、里在住の医療忍術が使える一般人という事になるが、猿飛木ノ葉丸の本能がそれを否定した。

 

 そして、思い出す。以前にニュースで見た木ノ葉の里が出したS級犯罪者の顔を。普通、犯罪者の顔なんてよっぽど恨みでも無い限り覚えていない。だが、黒い鉄仮面に紫の縦ラインが入った男なら記憶にも鮮明に残る。

 

 逃げようとした瞬間、手をしっかりと握られた。

 

「離せ!!誰かぁぁぁーー、ここにS級犯罪者がいるぞーー」

 

「点穴を突いても消えない。なるほど、今度こそ本体ですね。あぁ、叫んでも無駄ですよ。S級犯罪者が居る場所に誰が好んで来るんですか。里全体に暁が攻撃を仕掛けているんですから、里を守る為に頑張れる忍者は既に出払っていますよ。寧ろ、S級犯罪者が居る場所から遠ざかっているらしいですよ……カツユから聞くに」

 

 猿飛木ノ葉丸は、暁に対して行動に出られた勇気は素晴らしい。だが、後先考えない行動がどのような事に結びつくのかをよく考えるべきである。

 

「わ、わかった。俺を人質にするんだろうコレ。俺はこう見えて三代目の孫なんだから」

 

「それに何の価値があるんですか?三代目が凄いだけであって、貴方には何の価値も……いいえ、ありましたね。貴方が持つ『祝福』を貰いに来ました。大丈夫ですよ、これでも何百とやってきたので手慣れたものです。ほんの数秒で痛みすら与えません」

 

 挟間ボンドルドが印を結んで魂を献上するため死神を呼び出した。そして、死神の姿が見えてしまった猿飛木ノ葉丸は恐怖ですくみ上がった。これから死ぬ事を直感しており、救いは無い事も同時に理解する。

 

 死を目の前にした猿飛木ノ葉丸は、ペイン六道の一つを倒した事を誇って死ぬ事が出来る…ある意味、忍者として里を守って死ぬんだと一定の理解を示した。

 

『ボンドルド様、地獄道の治療も完了しました。あ、猿飛木ノ葉丸君。貴方の年でペイン六道の一つを倒せるなんて凄いですよ。でも、うちのプルシュカちゃんの方がもっとすごいですけどね』

 

 猿飛木ノ葉丸……火影から遣わされたカツユが実は暁の治療も行っていた事実をいち早く知り、五代目と暁の関係に勘づく。だが、それを誰にも伝える事が叶わず、この世を去った。これにより、猿飛一族の血を引くのは先日産まれたばかりの女の子だけとなる。

 

 

◇◇◇

 

 木ノ葉隠れの里内で暁と闘う為、広範囲の忍術で応戦するのは理解出来る。だが、忍術による流れ弾による被害で負傷者が増えるという二次被害が発生していた。

 

 一般人(・・・)や子供の避難を優先するため、元忍者などはその優先対象とはならない。それに、夕日紅の出産情報を知る者は現状、挟間一家だけだ。そして、今その事実を知る者が一人増えた。

 

「紅先生も早く避難を……って。子供?」

 

 奈良シカマルは、妊娠中の夕日紅を避難所に連れて行くために来た。だが、困った状況になった。妊婦なら、一人に気遣えば何とかなる。だが、産まれたばかりの子供が側に居ては戦火の中を連れて行けるのだろうか。

 

「シカマル、貴方は里の為にいきなさい。私の方は大丈夫だから」

 

 夕日紅には計画があった。今ならば、自分に向けられていた監視の目が無い。子供を連れて遠くの国に行くならば今しか無かった。子供は小さく危険が伴うが、今後子供に地獄を見せるくらいならば今のチャンスを不意には出来ない。

 

 幸いな事に音隠れの里に自分を支援してくれている人が居ることは分かっていたので、事情を話して身を寄せる気でいた。

 

「でもよ、そんな身体じゃ動けないだろう。おれが避難所まで連れて行くから大人しく待っててくれ」

 

「シカマル!貴方は、木ノ葉の里の忍者なのよ。今何を優先すべきか考えなさい。私と子供の事を思ってくれるなら、早く行って頂戴」

 

 挟間ボンドルドが夕日紅に渡した薬は、数日分。産まれたばかりの子供を音隠れの里まで連れて行く日数には不足しているが、道中の病院で何とか都合をつける予定だ。

 

「………わかった。だが気をつけてくれよ」

 

 S級犯罪者が襲ってきている里で、応戦しているこの状況でどう気をつけろというのだろうかと夕日紅は思っていた。近くで、秋道チョウザが倍化の術で闘っており、どれだけの人間が下敷きになっているか彼はしらない。

 

 倍化の術で一緒に大きくなる服を身につけている秋道チョウザ……彼の服の染みに、もうすぐ彼女の染みが加わる事になる。




もうちょと、里で色々と回収してから話が進む予定!!
『根』の参戦で、信楽タヌキも死んで貰いますわ…さらばBORUTO世代。

里での若干の時系列は、おおめにみてね!

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