卑の意志を継ぐ者   作:新グロモント

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60:ゲス外道

 親しき仲にも礼儀あり。それに乗っ取り、挟間ボンドルドは長門が操る天道と一緒に、嘗ての恩師にご挨拶に行く事にした。過去現在含めて色々とお世話になっている身として、最低限の筋は通すべきだと考える。

 

 その道中、巨人が転がったかのような惨状が広がっていた。周囲にあった建物は、崩壊しており、その残骸が彼方此方に飛び散っている。まだ、避難が終わっていないのにこれほどまでの広範囲に被害を出す忍術を使うとは、木ノ葉の里の忍びは人の命をなんだと思っているのか。

 

 Q.逃げ遅れた人の命について、どう思いますか?

 A.どうせ暁に殺されるんだから、忍術に巻き込んだとしても結果的に同じでしょ。(肥の意思)

 

『ボンドルド様、あそこの鉄筋の下に夕日紅さんと夕日ミライちゃんが。残念ですが、秋道チョウザさんの忍術で下敷きになって……私の治療では、せいぜい延命が限界です。子供の方は、夕日紅さんが庇ったこともあり無事です』

 

「おぎゃーおぎゃー」

 

 周りの騒ぎが大きすぎて誰にも子供の泣き声が届かない。医師として苦しんで居る人を見捨てるわけにはいかない…と言っている挟間ボンドルドは、人知れず命の炎が尽きそうな夕日紅を瓦礫の下から救った。

 

 だが、医療忍術でどうこうできるレベルではない。下半身が既に切れており、カツユの治癒力でギリギリ生きているだけだ。そんな夕日紅は、最後の力を絞ってチャンスを待っていた。救ってくれた人には悪いが、自らの全てを掛けて幻術に落として子供だけでも救わせる気でいる。

 

 だが、幻術を掛けようとした相手が挟間ボンドルドであると知り、行動を止めた。

 

「最後に言い残す事はありますか?夕日紅さん」

 

「こ、子供を……。ねぇ、死んだらアスマに会えるかしら」

 

 夕日ミライを挟間プルシュカが抱き上げた。助産した初めての子であり、多少思うところは彼女にもあった。

 

「大丈夫よ!プルシュカが、ミライちゃんの面倒を見てあげるから。でも、死んだら髭のおじ……お姉さんには会えないと思うな」

 

「こらこら、ペットじゃ無いのですから安請負はダメですよ。しかし、情操教育の一環としては良いでしょう……数日程度になると思いますがね」

 

 この状況下でも平然としている挟間一家に子供を預けられた事こそが夕日紅にとって最後の『祝福』であった。

 

「ありがとう」

 

「いいえ、医師として当然の事をしたまでです。それと、どのような形であれアスマさんにお会いしたいという希望……叶えて差し上げましょうか?無論、対価は頂きますが」

 

「全てを……私に出来る全てを貴方に捧げるわ挟間ボンドルド」

 

 まさに即答であった。全てを失いかけたこの状況。もはや失う物など彼女はないと思ってる。子供が救われて、アスマと再会できるならば来世を全て捧げてもいいと思っている。

 

「その言葉が聞きたかった」

 

 安心し緊張の糸が切れた夕日紅は、そのまま息を引き取る。悲しい事に、誰にも知られずに瓦礫の下敷きとなって死ぬ。

 

『埋葬致しますか?』

 

「いいえ、後で(・・)本人に埋葬先を聞きましょう。もしかしたら、宗教的な事から火葬とかだったら、失礼になりますからね。封印術を施して持ち帰ります」

 

「パパ、プルシュカは先に赤ちゃん連れて帰っていいかな?一足先に、髭のお姉ちゃんの所に行きたいな~」

 

 赤子を連れて逆口寄せでは、影響が未知数である為、移動は地道に陸路となる。今の木ノ葉隠れの里の状況をしれば他国の忍びが押し寄せてくる可能性もある。普通の子供ならば行かせないが、普通で無いのが挟間プルシュカだ。

 

 既に、口寄せの術でタマウガチを呼んでおり、帰る気満々だ。

 

「構いませんよ。但し、産まれたばかりの赤子はデリケートですのでカツユに包んで貰ってくださいね」

 

「分かったわ、パパ!!それじゃあ、先に帰っておくからね~」

 

 元気に手を振って、去って行く挟間プルシュカ。それを見送ってから、カツユもある事に気がついた。

 

『露骨に暁の戦力を遠ざけられましたね。夕日紅さんを死に晒して、彼女の『祝福』を悪用して、プルシュカちゃんを遠ざけるとは……やりますね小娘(綱手)の『祝福』』

 

「仕方ありません。では、急ぎましょうか。アレは、今を逃すと手に入る機会がない貴重品ですので」

 

………

……

 

 どこもかしこも戦場となっており、特定の人物を探すのは一苦労だ。だが、カツユナビゲータのお陰で、時間ロスを発生させない。これも綱手が暁側にもたらした恩恵の一つだ。

 

 挟間ボンドルドは、長門の天道が闘っている場所が目的地。その周囲には、戦いに敗れた忍者達が生き埋めになっている。その中に、意識はあるがやられたフリをして嵐が過ぎ去るのを待つ魂胆の連中もいる。そんな連中にも、カツユは指示通りしっかりと治療を行いチャクラを消費させていく。

 

 その一人に、はたけカカシも含まれていた。だが、彼は里に忠実な犬である為、本当に命を賭けて戦っていた。お陰で天道の能力を火影に知らせる為、そのチャクラを限界近くまで消費して仲間を援護した。

 

「流石は、長門さん。コピー忍者として名高いはたけカカシさんを倒すとは。彼も相当な強者だったのですが…」

 

「何も問題無い。これだけのバックアップがあって、負ける方がおかしい。で、先生は何の用事だ?プルシュカと一緒に帰ったと思ったが」

 

「貴重な物資回収と火影様にご挨拶をと思いまして。これでも、五代目火影様は師でもありました。不幸な行き違いがありましたが、ご挨拶もなしに別れるのは失礼かと」

 

 挟間ボンドルドは、チャクラ減衰により仮死状態となったはたけカカシの元へと足を運んだ。カツユを経由してのチャクラ補給のお陰でギリギリ生きている。仮死状態であった為、ペイン六道システムが死んだと誤認識しておりトドメが刺されていない。

 

 だが、暁でもない挟間ボンドルドは必要以上に手を汚さない。

 

 はたけカカシの左目の箇所に軽く触れた。そして、来る途中に回収した鮮度の良い死体の左目と入れ替えておく。これで彼の最大の目的は達成される。挟間ボンドルドがこのSSR万華鏡写輪眼を入手できる唯一の機会であり、それを見事に成し遂げた。

 

 そして、写輪眼を確認して大事に懐にしまい込む。この時、長門ですら見切れぬ早業での入れ替えであり、挟間ボンドルドの元に万華鏡写輪眼がある事を知る者は誰も居ない。

 

「では、いくぞ。後で大技をやるから、挨拶をしたら直ぐに撤退しろ。プルシュカは、ただの子供ではないが、親がついているべきだ。里の異変を感じて、出払っている者達が戻ってくる可能性もある」

 

「確かにその通りでしたね。分かりました、挨拶を終え次第、プルシュカを追いましょう。皆様もちゃんと帰ってきてくださいね。次の飲み会の幹事は、長門さんなんですから」

 

「そうだったな」

 

 次回の飲み会に、ターフの側を走っている先生を呼ぼうかと考えていた長門がここに居た。

 

◇◇◇

 

 想定以上のチャクラ消費に徐々に老化が目立ってきた綱手。まるで、火影クラスが何人も術を乱発しているかの如く感じている。だが、それだけ激闘で、暁側を追い詰められていると考えれば悪くもなかった。

 

 そして、火影がいるその場に、暁の長門と挟間ボンドルドの二人が訪れた。両名の登場に火影直轄暗部が即座に反応して迎撃態勢を取る。綱手も相手の方を向き、顔を確認する。

 

「お前は……」

 

「お久しぶりです綱手様。今は三忍も貴方だけだ。少し貴方と話がしたい。先生は、悪いが俺の後にしてくれ」

 

「勿論です。私の用件は、長門さんの後になります」

 

 綱手は、危険を承知で火影直轄暗部を下げようかと思った。暁に軍事物資を売っていた事や挟間ボンドルドが知る数々の秘密事項を知る者が増える可能性が有り、非常に悩ましい選択を迫られていた。

 

 それからは、大国が小国を食い物にしているとか。ナルトを守れるかなど色々と重要な話があった。だが、綱手は最終的にうずまきナルトを使った力業での解決をすると暗に示唆して話が終わる。

 

………

……

 

 挟間ボンドルドの番が回ってきた。

 

「綱手様、私達の間に色々な行き違いがあり、袂を分かつ結果になってしまいました。最後にご挨拶ができず申し訳ございません。ですが、これからは貴方に師事された医療忍術で一人でも多くの人を幸せにしていきたいと思っております。それと、プルシュカも元気ですのでご安心ください。最後に、貴方が一番ご懸念されている事でしょうが……忍者は信用が第一です。私はこの里で知り得た情報は、人様には教えませんのでご安心を」

 

「貴様!どの面下げて私の前に顔を出せた。何が、安心しろだ、出来るか。安心させたいなら、この場で死んでいけ挟間ボンドルド!貴様が、里の忍者に懸賞金を掛けたのは分かって居るぞ。一体何の恨みがあるんだ。カツユまでたらし込みやがって!!アレは、私のものだぞ」

 

 周囲で話を聞いていた火影直轄暗部達も恨みが無いはず無いだろうと思っていた。事実、彼等も例の挟間ボンドルドの秘密施設であったイドフロント襲撃に参加しており、色々と挟間ボンドルドを貶める手伝いをした者達だ。

 

 感情にまかせて言葉を口にする姿は、まるで年寄り。実年齢を考えれば、どこぞの相談役である老害達にも近いから無理もない。だが、カツユ自身が聞いているそばでそれを言う事がどんな結果となるかすら、考えていない。

 

 口は災いの元である。

 

『実家に帰らせて頂きます』

 

 カツユの冷徹な言葉が響く。既に、綱手のチャクラ残量は枯渇目前であり、最後の最後で暁メンバーのチャクラを満タンまでチャージして帰って行った。口寄せ契約したものたちを大事に扱わない典型的なパターン過ぎて草すら生えない状況。

 

「先生……うずまきナルトの場所が割れた。もうここには用事が無い」

 

「おや、長門さんは、うずまきナルト君の居場所が知りたかったのですか。その事を教えて頂けたのでしたら、お答えしましたのに。妙木山で仙術の修行をしております」

 

 長門は、今まで会議で一言でもうずまきナルトの居場所を調べに行くと伝えたかどうかを考えた。だが、思い出せばそんなことは誰にも伝えていなかったと気がつく。そもそも、暁は尾獣を集めており、木ノ葉隠れの里に行くという事は必然的に人柱力を探しに行くと理解してくれるものだと考えていた。

 

「過ぎたことは仕方が無い。先生は予定通り避難を。飛段と角都には、衝撃に備えるように連絡をしておく」

 

「それでは、綱手様。どうぞ、私の傑作であるペイン六道システムをご賞味下さい。欠点や改善点にお気づきの場合は、ご連絡頂ければ謝礼をさせて頂きますよ。幸い、懐事情は温かいので」

 

 挟間ボンドルドは、ベニクチナワを口寄せして背にのる。まだ、木ノ葉隠れの里では見せた事がない飛行能力を持つ希少な口寄せ動物だ。

 

「ボンドルド!!」

 

「おや、お別れの挨拶ですか綱手様」

 

「地獄に堕ちろ、このゲス外道が」

 

 師からの冷たい言葉に心を痛める挟間ボンドルドがここにいた。

 

 そして、忍界においても最大級の破壊力を持つ忍術…神羅天征が里に直撃する。

 




最低限の物資の回収が終わった!!
ペイン襲撃編……どないしようかな。

余り長くなるとあれだから、後1.2話挟んでから次の章へ行きますわ!

そういえば、ヒナタ様の眼って高純度の白眼とか聞いた事があるような気がする。



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