卑の意志を継ぐ者   作:新グロモント

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66:やめておけカカシ、そんな術は……

 志村ダンゾウがセカンドライフを送る少し前。

 

 うちはサスケに敗れた志村ダンゾウの遺体をトビが回収。目的は、うちはシスイの万華鏡写輪眼。だが、それを見て挟間ボンドルドは一つ思ったことがあった。

 

「おやおや、私は連れて帰って頂けないのですね。まぁ、うちはサスケ君の治療もありますから仕事は致しますが。さぁ、うちはサスケ君こちらへ」

 

 連れてくるだけ連れてきて、自分だけ帰る雇い主に若干のクレームを入れたいと思う挟間ボンドルド。アジトまでの距離はそこまでないとはいえ、挟間ボンドルドとてS級犯罪者である。裏事情などを何も知らない、名誉のためだけに死をも厭わない優秀な忍びがいたら戦いになる。

 

「あぁ、頼んだ」

 

 素直に治療を受け入れるうちはサスケ。今の彼の状態は、瞳力の使いすぎで一時的に視力が低下している。他にも、チャクラの使いすぎという事もあり倦怠感がある。医療忍術では、肉体的な不調は治せるがチャクラ不足はどうしようもない。

 

「トビさんが一人帰ってしまったので、アジトまでは私がお送りしましょう。それまで、チャクラ回復に努めて下さい」

 

「ボンドルド、貴様のチャクラを俺に分けろ。どうやら、お客さんの登場だ」

 

 志村ダンゾウを倒した場に来たのは、春野サクラであった。音隠れに両親を移住させて、大蛇丸と握手までし、うちはサスケの子を妊娠しており、挟間ボンドルドの配下になった女だ。

 

「サスケ君!! それに、ボンドルドさん」

 

「安心して下さい。うちはサスケ君、彼女は私の部下です。表向きは、木ノ葉隠れに所属しておりますが、有事の際にはコチラ側です」

 

 挟間ボンドルドは、次に会った際に渡そうと思っていた約束の物を懐から取り出した。巻物に封印されているのは、春野サクラの完全コピー体。白ゼツの能力も活用して作った為、綱手クラスの医療忍者でも無い限り違和感には気がつけないほどだ。

 

 春野サクラは報酬を受け取り、うちはサスケの治療の手伝いに入る。

 

「事情は後で聞く。サクラ………ありがとう」

 

「いいのよ、サスケ君。貴方が無事なら」

 

 たった一言だったが、うちはサスケの感謝の気持ち。それだけで、春野サクラは10年は戦える。子供を妊娠させて、碌に生活費も渡さない、更には怪我したときにだけ頼っているにも関わらず、この一言だけでだ。

 

 そんな夫婦の時間も終わりが迫る。

 

 挟間ボンドルドの白眼には確かに、ここに迫ってくる新たな存在を発見していた。世界最高峰クラスの日向ヒナタの白眼は、実に便利な道具だ。有象無象の白眼とは異なり、何か明確な目的をもって白眼を使うと、勝手にその場所を透視してくれる。その気になれば、砂漠に落としたコンタクトレンズすら見つけられるだろう。

 

「夫婦の再会に水を差すようで申し訳ありませんが、はたけカカシさんがコチラに迫ってきております。春野サクラさんの事が露見するのは、まだ尚早です。とりあえず、揉めた結果、うちはサスケ君が春野サクラさんを殺す感じで行きましょう。大丈夫ですよ。お互いに強力な『祝福』を持っています、はたけカカシさんが間に合うように祈れば、本気の殺意でも防がれます。最悪の場合でも、私がいますので死ぬ事はありません」

 

 春野サクラが事を起こすならば、忍界大戦中が理想的だ。戦争中ならば、忍者が一人程度行方不明になったところで気に掛ける余裕などない。

 

「ボンドルド、貴様を信じるぞ。俺は、殺す気でやる……サクラ、お前も本気で俺を止めろ」

 

「分かったわ」

 

 誰が見ても疑わない様にするための本気の戦い。殺意がなければ、はたけカカシの眼は誤魔化せない。仮に、節穴の眼となった彼でも、その戦闘経験はある。手加減などしていては、要らない不信感を与えてしまう。

 

………

……

 

 はたけカカシは絶妙なタイミングで春野サクラを助ける事に成功した。まるで、近くで出待ちしていたかのようなタイミングでの登場。そして、彼がうちはサスケに放った台詞は…堕ちたなサスケであった。

 

 堕ちるところまで堕ちたのは、木ノ葉隠れが主な原因であり、その次代火影である彼が口にしてはブチ切れるのも当然。更には、暗部出身者であり志村ダンゾウとも深い関係だ。

 

 しまいには、うずまきナルトまで合流を果たす。彼も同じく、ギリギリのところで春野サクラを助ける神業を見せた。現れる瞬間まで、挟間ボンドルドの白眼を持ってしても認識できない程であり、正にその場に突然出現したといっても過言ではなかった。

 

 うずまきナルトは、挟間ボンドルドを見て実に申し訳なさそうな顔をする。

 

「挟間特別上忍……この間はすまねーーってばよ。あの時は九尾に意識が飲まれててそれで。だから、決して俺の意思でやったわけじゃねーーってばよ」

 

「分かっておりますよ、うずまきナルト君。私と君の仲じゃありませんか。あぁ。そうでした君に渡して欲しいと彼女から頼まれていた物がありました。チョコはお嫌いではありませんでしたよね?」

 

 挟間ボンドルドは、綺麗にラッピングされたハート型の箱をうずまきナルトに投げた。そこには、彼の母親が愛を込めてと書いた手書きのプレートが添えられている。

 

「これって、もしかして……」

 

「そうです。このご時世で世間のイベントを皆様忘れがちですが、彼女(クシナ)は忘れておりません。大事な君の為に、手作りだそうです」

 

 完全に取り残される他の者達。だが、時間稼ぎには十分であった。はたけカカシの出現とその他メンバーが来た事で簡単には逃げ切れないとトビの元へ連絡が届き、お迎えが到着する。

 

 そして、チョコを大事にしまい込んでうずまきナルトは真面目にうちはサスケと向き合う。思いの丈をぶつけて、必ず友達として木ノ葉隠れの里に連れ帰ると明言する。正に感動的な瞬間だ。

 

 だが、今現在うちはサスケは、S級犯罪者の中でもトップだ。五影会談襲撃に加え、暫定六代目火影を殺している。そんな奴を、里に連れ帰るなどして無事で済むはずが無い。木ノ葉隠れの里は、各国の協定で決められた捕虜が謎の変死を遂げる場所。S級犯罪者なんて、捕縛された事実すら闇に葬られる。

 

 その事実を知るからこそ、春野サクラは涙を浮かべた。

 

「ナルト、あんたは…」

 

 そんなことをしたら、うちはサスケが死んでしまう。絶対に殺される。それは、仮に火影にうずまきナルトが就任しても同じ事だ。暁襲撃を撃退した里の英雄の一人である志村ダンゾウの命を奪った事は、木ノ葉隠れの里において彼の事情がどうであれ、既に手遅れだ。

 

 はたけカカシもうずまきナルトの言葉を聞き決意した。

 

「マダラは俺がここで処理する」

 

 はたけカカシ……暁襲撃により仮死状態となった事が原因で、瞳力が低下していた。里に残っていた医師の診断では、写輪眼のような特殊な眼についての正確な情報を知る者は少なく、ろくな診断はされていなかった。すなわち、様子見しましょうとなっている。

 

 はたけカカシとしても視力が低下した訳でもなく生活に困らないので、問題視はしていない。いざとなれば、きっと写輪眼が戻ってくると信じていた。彼も強い『祝福』があり、今まで何だかんだで色々とやり過ごしてきていた。

 

 今こそ、写輪眼が復活の時と意気込んでチャクラを眼に集中させる。

 

「神威!!」

 

「やめておけカカシ、そんな術は……え!?お前は、その眼」

 

 トビは見てしまった。はたけカカシの左目に、大事な写輪眼が影も形も無い事を。これには、トビも驚いた。何時かは回収する予定であった眼が行方不明。しかも、当の本人はそれに全く気が付かず、神威とか格好良く瞳術をつかおうとしているのだから、笑うに笑えない。

 

「どうしましたトビさん、早くうちはサスケ君を連れて帰りましょう」

 

「少し黙っていろ、今はそれどころじゃ無い。カカシ!お前は、左目を何処にやった?そうだ、写輪眼の事だ。まさか、今まで気がつかなかったのか?」

 

「まだ、ダメだったか。仮死状態の後遺症で一時的な物だ……と、聞いている」

 

「ボンドルド、少し診てやれ。木ノ葉隠れの里にいるヤブ医者では役にたたん」

 

 暁の協力者のポジションである挟間ボンドルド。彼に対して、はたけカカシを診てやれという程、トビは焦っていた。はたけカカシの言うとおりならば、問題は無い。だが、本当に行方不明ならば由々しき問題だ。

 

「構いませんよ。安心して下さい、診察するだけですので」

 

「わかった。だが、変な事をしたら分かっているな」

 

 はたけカカシもそれを受け入れた。あまりに敵が動揺するので、本当に写輪眼が無くなっている可能性を考え始めた。勿論、敵の診療を受けるという不安はあるが、相手はあの挟間ボンドルドだ。診察する医療忍者として彼ほどの適任者はそうそういない。

 

 挟間ボンドルドの診察は数秒で終わる。

 

「はたけカカシさん、良い知らせと悪い知らせのどちらから聞きたいですか?」

 

「良い知らせからで……」

 

「左目に仮死状態の後遺症は確認出来ません」

 

「わ、悪い方の知らせは!?」

 

「残念ながら左目は、写輪眼ではありません。ただの眼です。仮死状態になったことで写輪眼が喪失した事例などは私は聞いた事がありません。うちは一族の死後は遺体も含めて一族が回収しておりましたので私でも診る機会がありませんでした。他の可能性としては、誰かに抜き取られたという可能性もあります。木ノ葉隠れの里は……五代目火影の暁対策で他国の忍者も多数いました。戦火に紛れて秘伝忍術などが外部流出したと、裏世界では有名な事です」

 

 裏世界のブラックマーケットでは、木ノ葉隠れの里からの流出品が多くある。各国の者達が色々と買い漁っている事実もある。はたけカカシは、自分の眼もそういったマーケットに出回ったと信じた。

 

「カカシ、次会うときまでに必ず眼を取り戻しておけ。いいな、絶対だぞ」

 

「それでは、皆様。寒い日が続いておりますので、お体には気をつけてください」

 

 暁メンバーを見送った木ノ葉隠れの里の者達。

 

 はたけカカシは、写輪眼を失った事実を知る。

 うずまきナルトは、サスケに思いの丈をぶつけ、チョコを持ち帰る。

 春野サクラは、夫と再会し、兄弟子から報酬を受け取る。

 

 表向きこそ無事だが、第七班は崩壊寸前だ。




ついに忍界大戦編にいきます!
ナルト…長編人気漫画だけあって長いですわ。

完結作品がすくないのも納得がいくほどに。

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