卑の意志を継ぐ者   作:新グロモント

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波の国編の完結になります。


07:独女

 千手綱手は木ノ葉隠れの里において名門中の名門……初代火影の孫。

 

 血筋、才能、美貌といった全てを兼ね備えていたが、彼女は未婚のまま既に半世紀の時を過ごしていた。その気になれば、火影すら夢ではない地位であった。だが、何処で道を間違ったのか、彼女は今日も賭博で大損していた。

 

 大損に大損を重ねるあまり、賭博業界では『伝説のカモ』と呼ばれる程の知名度。今ではそこに酒まで加わり、手遅れ感満載の女性が出来あがる。

 

 そんな彼女の私生活は、一人の従者シズネとカツユによって支えられていた。

 

「いたたたぁ。あぁ~、昨日も飲み過ぎたね。カツユーーー、悪いけどお水持ってきて~」

 

 普段なら、『ツナデ様、お水をお持ちしました』と優しく声を掛けてくれる存在(カツユ)が不在。不思議な事に掃除も洗濯も溜まっていた。家事全般全てをカツユに依存している千手綱手。

 

「カツユが掃除も洗濯もしていないなんて珍しい。最後に会ったのはいつだったか……いててて。シズネーーー!! 水!!」

 

 隣の部屋で寛いでいた従者のシズネがようやく目が覚めた主人の為に行動を始める。

 

「もうお昼ですよ、ツナデ様。カツユ様が居ないからって掃除洗濯をサボったら駄目です」

 

「……待て、シズネ。カツユが不在になるなんて私は聞いてないぞ!! 居なくなったら、誰が私の分の掃除と洗濯をするんだ」

 

「そりゃ、ご自分でやられてはどうですか?」

 

 千手綱手も一人暮らしの経験くらいはある。だから、掃除洗濯は出来る。だが、やりたいとは思っていない。怠ける事ができるなら怠ける!! それが、彼女の生きる道だった。

 

「シズネ!! 私を甘く見るな。居ないならば、口寄せで来て貰えば良い。私は、カツユの優しさに何処までもつけ込むぞ。甘く見るな!!」

 

「駄目ですよ、ツナデ様。本日、カツユ様はデートなんですから。呼び出したら怒られますよ」

 

 千手綱手は、忍術で若い肉体を保っていたが幻聴が聞こえるようにまで老いたかと本気で思っていた。契約主ですらデートなんてした事がないのにデートだなんて、ありえないと信じられなかった。

 

「嘘をつけシズネ。私とシズネとカツユの独女三人衆の誓いを忘れたのか。我ら三人、生まれし日、時は違えども姉妹の契りを結びしからは、心を同じくして独身を貫き、彼氏持ちを救わずと誓っただろう」

 

「医療忍者として、駄目な発言をしていますよツナデ様。私にはまだ可能性がありますから、それに混ぜないでください!! それに、一体いつそんな誓いをしたんですか、全く記憶にありませんよ」

 

 シズネの記憶にないのは、今即興で千手綱手が思いついたからだ。独女生活も仲間が居れば怖くない。その仲間に勝手に引きずり込んでいる。

 

「よし!! ならば、カツユに聞いてみよう。シズネが聞いたデートも聞き間違いに決まっている。私とカツユの仲だ、付き合いだって一番長い。きっと、呼び出したら『ツナデ様、ちゃんとお掃除とお洗濯は小まめにしないと駄目ですよ。お昼ご飯は、消化に良い物をご用意致しますね』と言ってくれるに決まっている」

 

「なんか、嫌な予感がするな~。私は、ちゃんと言いましてからね。カツユ様がデートって……」

 

「口寄せの術!!」

 

 千手綱手は、自信を持ってカツユを呼び出した。

 

 カツユが雌として優れている事は彼女も知っている。だが、天元突破しすぎた母性が原因で2代目カツユがいつまで経っても誕生していない。某3忍が口寄せで呼び出す存在で、2代目がいないのはカツユだけであった。

 

 完璧すぎる女は敬遠される。それも、また真理である。

 

 白い煙が晴れた先には、マフラーを巻き、お弁当を携えた見慣れた口寄せ動物のカツユ。普段と違いそこはかとなくおめかしまでしており、完全にお出かけスタイルであった。

 

『まだ、待ち合わせまで30分も……なんだ、ツナデ様ですか。シズネ様、今日は用事があるので緊急の要件以外では呼ばないでとお願いしておりませんでしたか』

 

「わ、私はちゃんとツナデ様にもお伝え致しましたよ。カツユ様が今日はデートだと。でもツナデ様が信じてくれなくて」

 

「そ、そんなカツユ。私を裏切るのか」

 

 千手綱手は、涙まで流して崩れ落ちていた。信じていた独女に裏切られた。これでは、年齢=彼氏居ない歴の最高値が自分になってしまうと。

 

『どうしたんですか、ツナデ様。泣かないでください、私とツナデ様の仲ではありませんか。ささ、困った事や悩んでいる事があったら私に打ち明けてください。一人で悩むより皆で悩んで、解決策を考えましょう』

 

「その通りだな、カツユ。私の早とちりかも知れないのに迷惑を掛けた。シズネが、カツユがデートで家事洗濯と私のご飯を作ってくれないと聞いてな。そんな事ないよな」

 

『そうなんです!! 今日は、デートなんですよ。仕事報酬で大金が手に入ったからと、五つ星ホテルのスイートルームなんです。一度でイイから、泊まってみたかったホテルなんですよ。あ、そろそろ時間なのでシズネさん、後の面倒はお願いしますね。くれぐれも、呼び出さないでください』

 

「あ、はい。そこで魂が抜けたようなツナデ様には、よーーく言っておきます」

 

 千手綱手は、自らの数歩先どころか遙か先を歩むカツユに完全敗北した。

 

『あ、それと産休と育児休暇の届けです。どーーーしても、呼び出したいときは事前に一言伝えてからでお願いしますね』

 

「ちょーーーと、待ったぁーーーー!! カツユまだ戻るんじゃ無いわよ。デートなら百歩譲って許してあげるわ。でも、産休と育児休暇ってどういう事よ!! 」

 

『どうと申されましてもツナデ様。子()りですよ。もう、名前も性別も決めているんです。大きくなったら、ご紹介に参りますね』

 

 カツユが口寄せの術を解除してその場を去る。

 

 残された独女二人はいたたまれない空気が半端ない。完全に、トドメまで刺して帰るあたり、どこぞの忍者にそっくりだ。

 

「つ、ツナデ様お気を確かに。2代目カツユが産まれるんですから、良いニュースじゃないですか。ここは、大人の対応ですよ」

 

「そ、そうだな。そうと決まれば、盛大に祝ってやらねばならん!! 賭場でじゃんじゃん稼ぐぞ」

 

 人間と口寄せ動物とでは、違うという事で気を取り直したツナデ。

 

 だが、真実を知ったときツナデの心は耐えられるだろうか。

 




GWだからといって、張り切りすぎました。

次章は、中忍試験編です。


カツユは可愛い。これが真実。

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