卑の意志を継ぐ者   作:新グロモント

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72:貴方達の旅路に…溢れんばかりの…祝福と呪いを

 

 5万人を超える忍連合と真っ向から衝突する挟間一家。忍連合側も前回の夜襲で学んだ。近接戦闘で乱戦に持ち込まれれば不利になる。可能ならば、中距離・遠距離で討ち取りたいところだ。

 

 距離を詰めてくる挟間一家に、土影オオノキが前面に立つ。

 

「塵遁・原界剥離の術」

 

「仙法・火葬砲」

 

 お互い必殺の一撃であり、術同士が相殺される。土影という忍連合を支える一角を倒す事は暁側にとって有利に働く事は間違いない。その為に挟間ボンドルドは、一騎打ちなど想定しない。

 

 挟間一家がやる事は、乱戦に持ち込み忍術に使用制限を掛けることだ。なんせ、時空間忍術が封じられているのだから暁側も相手の忍術を封じる動きにでるのは当然だ。

 

「まさか、相殺されるとは。そっちに行ったぞ風影!」

 

「そうはさせないんだから!風遁・真空連波」

 

 挟間プルシュカが風影の行動を妨害し、風影と土影を100m圏内に捕らえることに成功した。初見で万華鏡写輪眼の能力―上昇負荷の特性を見抜くのは不可能。挟間一家は、この場で影を最低一名は殺したいと考えている。忍連合の最高戦力を削げば、それだけで士気がだだ下がりになる。

 

「私の眼と感覚では、お二人とも本体です。プルシュカの方は?」

 

「同じだよ、パパ!」

 

 砂分身とか岩分身とかそんな術ではない。塵遁と絶対防御の砂を確かに確認した。だが、影クラスともなれば、謎のイザナギ現象が発生する。それでも、やってみる価値はあると思い挟間ボンドルドは、娘の万華鏡写輪眼を解禁する。

 

 その能力の範囲に挟間ボンドルド自身もいるが問題ではない。だからこそ、敵はその能力の特性を理解するのに、更に混乱する。まさか、敵味方問わずに作用する術だとは考えにくいと思うからだ。

 

 挟間プルシュカの眼が万華鏡写輪眼へと変わった。だが、その眼の変化は、コンタクトレンズによりバレることはない。

 

「プルシュカは、地上の敵を。私は、上空の土影と風影を狙います……雷遁・明星へ登る(ギャングウェイ)

 

「油と風遁をお願いね。火遁・業火滅却」

 

「任せておけプルシュカちゃん」

 

「油は父ちゃん、風はまかせとき」

 

 挟間プルシュカが、3mという絶妙な高さに調整した業火滅却を維持しつつ敵陣に特攻を仕掛ける。忍連合の中には土遁で炎を防ぐ者もいるかもしれないので、そういった逃げ方をした者達をすり潰していく。

 

 だが、大半は皆ジャンプして回避をする。忍者ともなれば5mの垂直ジャンプすら可能だ。3mの炎に対して、安全を考慮して4m程度以上は誰もが飛ぶ。だが、4mというのは、上昇負荷の対象となった者には致命傷となる。

 

能力の負荷の効果。

 1m上昇で軽い眩暈・吐き気。

 2m上昇で重度の眩暈・吐き気・頭痛。

 3m上昇で平衡感覚の消失・幻聴・幻覚。

 4m上昇で全身への激痛と穴という穴からの流血。

 5m上昇で全感覚の喪失と意識の混濁・自傷行為。

 6m上昇で人間性の喪失・死。

 7m上昇で確実な死。

 

 鍛え抜かれた忍者であっても、経験したことがない苦痛が襲い掛かり碌に動けなくなる。飛び上がった忍者達がボロボロと地面に自由落下していきそのまま火に飲まれて死んでいく。

 

 その様子に忍連合側は何かしらの術かと想像するが、理解は出来なかった。この上昇負荷は、「発動時に挟間プルシュカを中心とした半径100メートル圏内」がネックとなっている。その為、挟間プルシュカが一度術を切って、再度発動するまではターゲットになっていなかった者は効力の対象とはならない。

 

 だが、効力の対象となった者は術が切れるまで何処にいてもその対象となる。

 

「この雷遁、自動追尾か……うっ」

 

 土影が雷遁・明星へ登る(ギャングウェイ)を避けるために3m上昇した。突然襲い掛かる不調に、土影であろうとも忍術が維持できなくなる。落ちるだけの存在となった土影に挟間ボンドルドは狙いを定める。

 

 挟間ボンドルドの武装や忍術については、風影も事前ミーティングで知っていた。だからこそ、次放たれる忍術が分かっており、それを回避する為に動く。うずまきナルトの九尾チャクラを纏った状態ですら拘束する程の水遁。そんな者を人間に使ったら、圧力でバラバラになってしまう。

 

「水遁・月に触れる(ファーカレス)……閉じろ」

 

「土影ーーーー!!」

 

 落下する土影を囲う様に展開される挟間ボンドルドの忍術。だが、風影の砂が土影を拾い上げ、上空(・・)へと持ち上げた。下から狙われた術に対して上に逃げるというのは正しい判断だ。だが、それが決定打になる。落下したポイントより更に2メートルほど上まで持ち上げた事により、再度1m~3mの上昇負荷に加え、4mと5mの上昇負荷まで追加される。

 

 何が起こったか理解できない風影。唯一分かっているのは、土影が息をしていないという事だけだ。鍛え上げられた若者でも昏倒するレベルの上昇負荷を短時間で何度も与えるなど、鬼畜の所行。

 

 その様子は、しっかりと他の忍者達にも目撃されていた。挟間ボンドルドと挟間プルシュカの存在は注目されており、全ての挙動に注目が集まっている。だからこそ、風影が助けたとおもったら、実は土影にトドメを刺していたなんて状況も見逃されることはない。

 

 この状況を利用するのが白ゼツだ。混乱に乗じて、忍連合側の忍びと入れ替わっている。その中には、岩隠れになりすました者もおり、白ゼツが成り代わりの術の本当の使い方を披露する。

 

「やはり、砂隠れはこの機会に土影様を亡き者にする気だったんだな!!俺は、見ていたぞ、助けるふりをしてトドメをさした瞬間を」

 

「砂隠れは、我々岩隠れが風の国境付近の村を襲ったなど、ありもしない罪を捏造し里の評判を露骨に下げてきた悪だ。土影様はな、誤解は解けるといってお前達が何と言っても笑って許されたお人だぞ」

 

「風影様がそんなことするはずないだろう。むしろ、岩隠れの連中が暁とグルじゃないのかよ。海上での死者……岩隠れだけ露骨に少なかったのを知らないとは言わせないぞ」

 

「毎年毎年、岩隠れが原因でどれだけの被害が砂隠れに出ていると思っている。風影様をこれ以上侮辱するなら暁の前にお前等から殺してやる」

 

 両者の忍者が言い争う。だが、全て成り代わりの術で変化している白ゼツ達だ。しかし、周囲の者達はそれを知らないし、共感を得られる言葉を多々並べる。言い争いはヒートアップして、ついには成り代わりをしている白ゼツが、両者の陣営の忍者を襲う。

 

 飛び交うクナイや起爆札。

 

 その状況をみて咄嗟に風影が砂を使い拘束に走るが、無駄であった。捕まった者は、起爆札を使い自爆し、風影が圧殺したかのような演技を披露する。

 

「落ち着け皆の者!!」

 

 風影が誇る絶対防御の砂が、忍連合を拘束するのに大量に使用される。つまり、この時、防御が手薄となる。その隙を見逃すほど挟間プルシュカは甘くはない。風影に注目がいった隙に必殺の一撃を準備していた。

 

 忍連合が、凄まじい熱量を感じたときには既に遅かった。

 

「ナルトお兄ちゃんから教わったとっておきだよ!!仙法火遁・螺旋手裏剣」

 

 螺旋丸に火の性質変化を加えた挟間プルシュカ必殺の一撃。当たれば、超高温で相手を焼き尽くす。砂による絶対防御であれ、中身の人間が人間の範疇である限り耐えられる限界温度は決まっている。

 

 風影は、投げられた火遁・螺旋手裏剣を見て死を悟った。死んだはずのカンクロウやテマリが手招きしている幻を見る。だが、砂隠れの未来のため、まだ死ぬ事はできないと風影は覚悟を決めた。

 

 大量の砂によるガードは間に合わない。だったら、土影を盾にして術を早期に発動させて逃げれば良いという事に閃く。その考えは正しかった、何かしらの目標に当たることでその周囲を巻き込んだ火炎地獄が出来上がる。

 

「悪いな土影。砂隠れの未来のためだ」

 

 土壇場で覚醒する風影。己の命と死んだ命……どちらに価値があるかは明白だ。

 

 土影バリアを利用し、挟間プルシュカの必殺の一撃をギリギリ回避に成功する風影。その勇姿を目に焼き付けた岩隠れの忍者達。

 

「素晴らしい。機転の利かせ方、忍術に対しての洞察力、どれをとっても一流です。やはり、貴方は風影に相応しい」

 

 称賛する挟間ボンドルド。その称賛とは裏腹に、命が助かった風影の忍連合における立場は確実に悪くなりつつあった。

 

………

……

 

 やはり、無勢に多勢。白ゼツ爆弾も活用して大軍を相手にしていたが、挟間ボンドルドと挟間プルシュカのチャクラも限界を迎えていた。仙人モードが解けた頃合いで、雷影と火影が前線に現れて、挟間一家を追い込んだ。

 

 その結果、火影が息絶えそうなボンドルドに声を掛ける。挟間ボンドルドの現在の状況は、上半身と下半身が分かれておりいつ死んでもおかしくない。

 

「ボンドルド。貴様が、化け物に変えた者達を戻す方法を教えるならば、プルシュカの命だけは保証してやる」

 

 挟間ボンドルドの横には、血を吐いて死にかけの娘がいた。仙人モードを使い切った状態で雷影と一戦を交えて、生きているのだから称賛に値する。対峙した雷影とて、無傷ではない。これを年端もいかない子供がやったのだから、称えられるべきだ。

 

「ははは、パパ。ごめんね、負けちゃった。ねぇ、パパ。私、パパの力になれたかな」

 

「勿論です。プルシュカ、よく頑張りましたね。後の事は、パパに任せてもう寝てなさい。おつかれさまです」

 

 忍連合と影達に囲まれた状況で挟間プルシュカが息を引き取った。娘を抱き寄せる挟間ボンドルド。そして、集まった忍連合へ精一杯のエールを送る。

 

「どうか…どうか貴方達の旅路に…溢れんばかりの…祝福と呪いを」

 

 挟間ボンドルドも同じく息を引き取った。その瞬間、湿骨林を中心とする地震が発生した事を知る者はこの場には居なかった。

 

 両名の遺体の変化に一番早く気がついたのは火影。崩れ落ちる様に遺体がボロボロになり、中から全くの別人が出てくる。挟間プルシュカとは似ても似つかない子供と知らない男。

 

 勝ちどきを上げる忍連合に対して、この事実は情報封鎖される。数千人の死者と土影を失う激戦で倒したのが影武者でしたとか、冗談にもならない。

 

 

◇◇◇

 

 忍連合が初めての戦果を挙げたと喜びをあげる最中、忍連合に新たな情報が飛び込んだ。暁の重要拠点が風の国……主に貴重な水源がある場所で発見された。そこには2万人の白ゼツ、うちはマダラ、挟間ボンドルド、挟間プルシュカが確認されたと。

 

 耳を疑う報告だった。挟間一家は、忍連合が大量の死者を出して討ち取ったはずなのにと。ここで影武者などだったと影達は報告を出来ないため、転生忍術で生き返った事にする。次は、時空間忍術だけでなく、転生忍術も封じる秘策をもって確実に倒すと。

 

 だが、忍連合は今や5万人を下回った。土影を失った事により、連合の結束がほぼ崩壊に近い状態。帰りの海路で襲われるのは明白。更には、砂隠れに反感を抱いている岩隠れの忍者を大量に国内に引き入れる不安が砂隠れにはあった。

 

 忍連合が出立を決めた前日、風影が土影バリアを使い窮地を逃れた映像が世界に公開される。更には、忍連合が物資を買い漁ったお陰で水の国の物価上昇率が異常値になった事や海路でくノ一を暴行して海に捨てた事実などが露見する。

 

 その悲惨な事件で亡くなったくノ一に対して故郷である雷の国で丁重に埋葬される映像が流れる。そこには、暁メンバーのトビ、挟間ボンドルド、挟間プルシュカが手を合わせる様子も一緒にだ。

 

 暁の目的はどうあれ、一般人視点で言えば良識があるのはどちらなのかは明白であった。

 




鬼鮫さんにはログアウトして頂き、八尾と九尾を忍連合に合流させようかしら。
そして、ログアウトした鬼鮫さんも走る事に…。

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