卑の意志を継ぐ者   作:新グロモント

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リアル都合で更新が遅くなっており申し訳ありません。
年度末などは色々と……月月火火水木金が毎週のように続いており。


77:魔剣アンサラー

 カツユによる盛大な開戦の狼煙。その効果は絶大であった。たった一度の攻撃が地形を変える程であり、人がゴミのように消し飛んだ。忍連合の総兵力4万の約半数が消滅する。今までは、総力戦において人数が多い方が有利だと思われていたが、完全に同数。怪我人などを考慮すれば、忍連合の戦える人の数は、暁側の同数以下になってしまっている。

 

 生き残った忍者達は、自らの陣営を確認するが酷い有様。人や物資は吹き飛び、作戦本部は倒壊して指揮系統は皆無。頼みの綱であった尾獣は、尾を何本か犠牲にしている。

 

 忍界の核兵器とも言える尾獣を遙かに上回る存在が立ちふさがっている。人柱力が来たからと言って、あの桁はずれた存在に勝てるビジョンを浮かべる事が出来ない忍者は多かった。

 

 そんな中、忍連合内部に成り代わりの術で潜んでいた白ゼツが、息のある忍者の首をはねて叫ぶ。

 

「俺は、今からでも暁側に寝返るぞ!! 生きたい奴は俺に続けーーー」

 

 その煽りは実に効果的。混乱に乗じて、寝返るならば絶好の機会だった。それに、死に損ないの忍者なら手を貸すふりをしてトドメを刺すのは容易い。今ならば、追い忍が来ることもない。

 

 忍連合側に植え付けられた悪意は芽吹き始める。信じられるのは自分だけ。自分の身を守れるのも自分だけ。誰かが守ってくれるわけではない。

 

………

……

 

 そんな悪意満ちた忍連合の混乱を利用するのは、暁側として当然だった。トビが寝返り組を作戦本部に送り込む。それから、プルシュカと湿骨林の愉快な仲間達を忍連合の本陣営に送り届ける。

 

 挟間プルシュカのコンディションは、絶好調。挟間ボンドルドより、全力を出す許可も出ており、あらゆる忍術が解禁されている。四影を相手にするのに、出し惜しみなどもっての外だ。

 

 忍連合側は、目の前に突然現れた湿骨林の愉快な仲間達を目の前にし、蛇に睨まれた蛙となる。口寄せ動物は、多種多様だ。中でも一番多いのが、術者のサポートをする能力を有するタイプになる。つまり、全体的に見れば、口寄せ動物たちの戦闘力は低い。だが、湿骨林から連れてこられた者達は、ぶち抜けて戦闘力特化タイプばかりであり、忍連合側はそれを肌で実感していた。

 

 そんな湿骨林の原生生物達から一歩前にでる挟間プルシュカ。

 

「私ね、パパとママの事が大好きなの。パパは、皆の為に色々な薬を作って沢山の人を助けたわ。ママもそんなパパを支える為にいっぱい頑張ってたの。でも、忍者の人は、パパに対して酷い事をしただけでなく、殺そうとしている。だから、私もこれから酷い事をするけど、悪く思わないでね」

 

 挟間ボンドルドが作った新薬で命が助かった者達は、数多い。将来も考えれば、この戦争で死ぬ人数より多くの命を救う。殺した数より救った数が多い忍者など希有だ。だが、そんな事実を知る忍者は、挟間ボンドルドについて詳しく調べた作戦参謀達位だ。

 

 忍連合になんとなく参加している忍者達からすれば、露程も知らない情報だ。第1部隊隊長である雲隠れの忍者であるダルイも知らない。腐りかけている忍連合の中では、雲隠れだけが組織としてしっかりと行動ができており、ダルイは挟間プルシュカの隙を狙っている。

 

 子供とて、容赦はしないのが一流の忍者である。

 

「雷遁・黒斑差」

 

 ダルイの十八番である忍術。雷遁の中でも極めて威力が高く、殺傷能力も抜群だが……当たらなければどうという事は無い。黒豹の形をしたチャクラが挟間プルシュカに当たるが、透過する。他の忍者達も目の錯覚かと考え、得意忍術を使うが全てすり抜ける。

 

 湿骨林の原生生物達は、挟間プルシュカからターゲットが変わった瞬間、持ち前の危機察知能力で瞬時に離脱して、各々が狩り場へと向かう。殺気に対する反応速度が尋常で無く、中忍レベルでは追う事すら困難であった。

 

 その出来事に、現場にいた忍者達に絶望感が漂う。全ての忍術や体術が透過するという状況には、彼等は身に覚えがあった。事前情報では、うちはマダラの能力だと言われる隔絶した特殊能力。そんな、類を見ない能力の使い手が二人も存在するなど想定外。

 

「す、すり抜けた。マダラと同じ能力なのか」

 

「そんな能力が世の中に二つもあってたまるか。マダラが幼女に変化している方が可能性が高い」

 

 忍連合の推測が飛び交う。あの歴史に名を残すうちはマダラが幼女姿でパパとかママとか口走るなど非現実的。うちはマダラが転生して、別の場所でライバルと切磋琢磨している可能性の方がまだあると言う物だ。

 

「うーーん、30人とちょっとか~……もうちょっと人が多い場所で使いたかったけどいいかな」

 

「忍術で相殺しろ!出来なければ死ぬぞ。水遁を使える物は前に出ろ」

 

 誰かが叫んだ。その彼は、水の国で挟間プルシュカの忍術を目撃した事がある。挟間プルシュカの火遁で焼け焦げた者、逃げようとして化け物へと変貌した者、それを思い出させた。

 

 防いでも膨大な熱量で焼け焦げて死ぬ、回避したら化け物にされる……ならば、対抗する術は一つであった。忍術を忍術で相殺する他ない。それは、挟間プルシュカと対峙した際の正解の一つである。ただし、同じ攻撃が行われるならばという注釈もつく。

 

「パパから教わった時空間忍術"神威"のちょっとした応用よ」

 

 火、水、風、雷、土などのチャクラ性質の外にある時空間忍術。それに対抗するには、同じ時空間忍術しかない。時空間忍術とは、口寄せ契約に使われる忍術であり基本的に口寄せの術=時空間忍術と認識されている。だが、一部の天才達は、時空間忍術にそれ以外の使い道を示した……その代表例が逆口寄せや飛雷神の術などの物質移動。

 

 しかし、SSR万華鏡写輪眼の能力は、神威空間に物質移動させる事が出来る。つまり、細く鋭く一部空間を吸い込み閉じる事で物質を容易く切断する二次元の刃とする事が可能。物資を取り込む量を極めて少なくする事で広範囲の空間をマス目状に分割可能となった。

 

「「「「「水遁・水流壁」」」」」

 

 大勢の忍者が、水遁による壁を形成する。忍連合が収集したデータ上、挟間プルシュカが得意とする忍術は火遁だと知れ渡っており、妥当な対応だ。相手は一人、尋常で無い火力の火遁であっても一点集中で防げば何とかなるという密集形態での布陣。

 

「パパとママの痛みを味わって………魔剣アンサラー!!」

 

 挟間プルシュカの前方に次元を切り裂く刃が走る。水遁の壁を切り裂き、背後にいた忍者達を細切れに切断した。切断されるまで、忍者達は己の状況が正しく認識できていない。視界がずれた事でようやく自分が斬られた事に気が付いた。

 

「すみません、雷影様。俺はここまでのようです」

 

 肉体が分割されて崩れていく最中、長である影へ思いを言葉に出来る忍び。それだけで、十分立派な最期であった。

 

 ダルイ含む第1部隊が事実上、挟間プルシュカと湿骨林の愉快な仲間達により壊滅した。

 

………

……

 

 4影達は、カツユと挟間プルシュカのコラボ忍術を無事にやり過ごす。キラービーとうずまきナルトが盾となり、風影の絶対防御で全員が無傷……影達だけは。だが、守る者を厳選したお陰で、作戦本部の者達は瓦礫の下敷きとなり相当数の死者がでた。

 

 更には、挟間プルシュカ襲来による第一部隊が壊滅した報告もなされる。

 

 4影達の行動は決まっている。敵の数を確実に減らす。未だに、誰も主力を討ち取れていない状況であり、忍連合陣営に突撃してきているならばこれ以上の好機は存在しない。

 

 雷影が無事な者を捕まえて指示をだす。

 

「九尾と八尾を最前線から引き戻して、プルシュカの討伐に向かわせろ。儂達も合流して、各個撃破する」

 

「無理です、雷影様。キラービー様は、うちはマダラと交戦に入ったと連絡がありました。同じく九尾のうずまきナルトは、挟間ボンドルドと交戦しております」

 

 その報告に影達は考えた。

 

 誰から討ち取るべきかという選択。八尾と九尾の実力は、忍界最高峰クラスで簡単には負けない。だからといって、万が一があってはいけない存在達だ。

 

「ここは、挟間プルシュカから討ち取るべきだ。上手く生け捕りに出来れば、挟間ボンドルドとカツユを押さえ込める。先の戦闘で能力も割れている。私達が全員で迎え撃てば、勝てない相手でもない」

 

 火影の意見を誰もが一考し、承諾した。強くても子供。更には、その父親と母親を押さえ込める鍵となるならば、相手の戦力を大きく削ぐ事ができる。最善の一手だ。

 

 影達が挟間プルシュカ討伐に出かけた留守の隙に、暁側に寝返った忍者達が作戦本部及び感知部隊の生き残りを皆殺しにする事件が発生する。仲間のふりをして、サクッと殺していけば実に容易い仕事。

 

 

◇◇◇

 

 音隠れの里において、戦時中であっても平和の祭典は行われる。長距離ステイヤー達の熱い死闘が観客達の心に響く。

 

 レースの勝者は似非お嬢様風なバ体。そのライバルは、ハナ差で敗れてしまう。だが、双方が全力を尽くした素晴らしい試合であった。勝者が敗者を見下すような事は行われない。

 

 お互いがお互いの実力を認め、試合後には握手を交わす。そんな、美しい姿が大スクリーンに映し出されていた。

 

「認めよう。長距離において、貴様の右に出る者はいない」

 

 漆黒の衣装に身を包んだステイヤーが、ライバルに告げる。ライバルも笑顔で応える。そんな美しい世界が忍界とは遠いようで近い場所にある。

 

 

 




挟間プルシュカと影達が決着したら、ボンドルドとナルトのお話の予定です!

ここに来て更新がほぼ週次レベルとなり申し訳ありません。

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