6億枚の起爆札を使った忍術。単発忍術規模で言えば、第四次忍界大戦における最大クラスだ。影クラスであってもその中心地にいれば肉片すら残らない。そんな事は忍者であれば誰もが容易に想像が出来る。
事実、爆発の震源地には巨大なクレータが形成されている。その中心地に何一つ残っていない。しかし、その中心地に向かって歩みを進める挟間ボンドルドの姿があった。
何一つ残っていない中心地ではあるが、挟間ボンドルドには一つの確信があった。この程度で死ぬならば、既に殺されていると。理不尽紛いの「祝福」を持っているうずまきナルトを正攻法で倒すには、並大抵の努力では不可能だ。それこそ、6000億枚の起爆札を同時に使って地図を書き換える程の威力を不意打ちで当てない限り難しい。
震源地に辿り着いた挟間ボンドルド。カツユも周囲を警戒する。遠くに居る本体も蟻の子一匹逃さぬように監視を怠っていない。
『やりましたか?あの爆発を直撃させたのです、私だって相当削られますよ』
「おやおや、気が早いですよカツユ。私としては、尾の一本でも削れればいいと思っております。下手をすれば無傷ですよ」
仙人モードの感知にすら掛からないうずまきナルト。更には白眼を使っても姿形すら確認出来ない。その異常性に挟間ボンドルドは一つの仮説を立てた。
うずまきナルトの「祝福」に妨害されて感知不能となる可能性は十分にある。だが、白眼に至っては、日向ヒナタからの戦利品であり彼女自身の「祝福」が少なからず宿っている。その眼を通じてうずまきナルトを見失うなどあり得ないのでは無いかと。
ようするにだ、最初から影分身(笑)でした。本体は別の場所にいますという答えだ。これこそが最悪の展開だ。六億枚の起爆札を使って、倒したのが影分身のみとかイカサマもいい加減にしろと言うレベル。
『ボンドルド様、影も形も気配もありません』
「うずまきナルト君を我々の常識で計ってはいけません。影分身が一人でも生きていれば、それが本体となる。それが彼だけが使える忍術です」
うずまきナルトを殺すには、影分身を全て殺す必要がある。1匹でも生きていれば100匹は居ると思えとは良く言った言葉だ。真面目に忍術を修行している忍者からすれば、巫山戯るなと言いたくなるだろう。
何も知らない者が聞いたら冗談だろうと思う事だが、それを裏付けする事象が発生する。今まで何もなかった空間に突如うずまきナルトが出現。挟間ボンドルドの真下の地中から螺旋丸を片手に飛び出してきた。
「油断大敵だってばよ!」
「全く、理不尽な忍術ですね。ですが、予想の範疇ですよ」
挟間ボンドルドは、うずまきナルトの攻撃を避けて鋭利なツメとなった左手で彼を貫いた。その瞬間、ポンっと煙の如く消える。そして、消えた影分身の代わりに突然三人の影分身が出現した。しかも、今度は風遁・螺旋手裏剣を準備した状態での登場だ。
これには、挟間ボンドルドもカツユも苦笑いしそうになった。
消えたと思ったら別の場所に出現し、更には必殺の一撃を放とうとする寸前だ。
『あ、ありえません。今まで、ソコの空間には確かに何もありませんでした。それに、あの起爆札を直撃して、無傷とかどんだけなんですか』
『馬鹿め、あの程度の起爆札なんぞかすり傷程度にしかならんわ』
九尾の言い分には無理があるだろうと、正直誰もが思った。木ノ葉隠れの里を完全に消滅させられるほどの威力を誇っていた火遁・起爆炎陣。それの直撃でかすり傷で済むはずが無い。事実、挟間プルシュカとカツユのコラボ忍術で尾を3本消し飛ばしたのだから、それを考えれば数本は失ってもおかしくは無いはず。
「お願いだ、挟間特別上忍。降伏してくれってばよ。挟間特別上忍じゃあ、俺には勝てないってば」
「おやおや、うずまきナルト君はもう勝った気でいるんですか。貴方は昔に比べて格段と強くなりました。ですが、私も引けない一線というのは持ち合わせております。どうぞ、必殺の一撃を放って下さい」
うずまきナルトは迷っていた。風遁・螺旋手裏剣は、間違いなく必殺の一撃だ。万が一、挟間ボンドルドが死んだ場合、この戦争を終わらす術が無くなってしまうのではないかという危惧。
しかし、うずまきナルトは風遁・螺旋手裏剣を放った。今の彼には、忍連合を支えなければならないという重要な責務がある。
「それでいいのです。口寄せの術!!」
挟間ボンドルドが口寄せの術を行使して、連れてきた祈手達を呼び寄せた。その内の一体が風遁・螺旋手裏剣の前に立ちふさがる。両手を前に出して、真っ向から受け止め術を吸収し始めた。
「嘘だろう。その術は長門の。あれは、輪廻眼がないと使えないんじゃ無いのかよ」
「何を不思議に思っているのですか、うずまきナルト君。ペイン六道システムを近代改修したのは、私です。それに、輪廻眼とは写輪眼の先にある物です。うちはマダラさんと行動を共にした私が何かしらの方法で眼を手に入れていたとしても不思議ではないでしょうに」
挟間ボンドルドの切り札の一つ、輪廻眼。うちはイタチの眼と白ゼツから採取した柱間細胞を用いて開眼させた輪廻眼。それの一つが既に挟間ボンドルドの手中にはあった。
「影縛りの術!」
祈手の一人が、影を伸ばしてうずまきナルトを拘束する。奈良一族の秘伝忍術。うずまきナルトほどではないが、えげつない忍術だ。九尾の行動すら止めることが出来る。
「なんで、シカマルの忍術を。くっそ、解けねーー」
「あぁ、それは彼の子供ですからね。秘伝忍術を使えるのは当然だと思います」
信じがたい事実にうずまきナルトも驚きを隠せなかった。同期の子供がまさか、挟間ボンドルド側にいるなんて誰が信じられるだろうか。
「こ、子供って。シカマルには」
「お忘れですか、下忍の卒業試験で何があったかを。その時に皆様からご提供頂きました遺伝子は全て私が管理運用しております。だから、木ノ葉隠れが滅んでも忍術は後世に継承されますのでご安心ください」
忍術とは使い方一つで、戦況を左右する。
「グェイラ。心転身の術」
「あいよ。心転身の術!!」
うずまきナルトの体に乗り移る
「屍鬼封尽」
心転身の術を使った必殺の方法。乗り移った肉体で屍鬼封尽を使う。これにより、死神に魂ごと捧げる。当然、死神に魂を奪われる前に体は本人に返すというやり方だ。この方法は、うちはマダラにすら有効となる。
事前に用意していた小動物の魂を死神に喰わせたタイミングでうずまきナルトに肉体を返す祈手。
「っ!!九喇嘛」
死神を退けることなど不可能。だから、うずまきナルトがとった手段は、九尾の尻尾を魂に似せる事で見事に即死忍術を回避して見せた。犠牲となった尾は一本。咄嗟の判断力に挟間ボンドルドは思わず称賛してしまった。
「素晴らしい。まさか、必殺の一撃をそのような方法で回避されるとは想像しておりませんでした。ですが、これで残りは5本。あと何回防げますかね」
「多重影分身の術!!もう、同じ手は通じないってばよ」
数十体にも及びうずまきナルトの影分身。これでは、もう本体に心転身の術を当てるのは不可能だ。減っても補充されてしまいイタチごっこになる。
だが、それならそれでやりようはあると挟間ボンドルドは、うずまきナルトに語りかける。
「うずまきナルト君。禁術がなぜ禁術と言われるかご存じですか?」
「どういう意味だってばよ。そりゃ、危ないからじゃねーのか」
「その通りです。例えばですが、影分身は経験をフィードバックできます。そのフィードバックは一方的な物であり、拒否することは出来ません。これがどういう意味があるかご理解頂けますか?」
「わからねー」
うずまきナルトにとって、影分身は修行にも使える便利な術程度の認識であった。
「そうでしょうね。貴方は、今までだした影分身達を把握しておりますか?つまり、こう言うことですよ、うずまきナルト君。口寄せの術!!」
対うずまきナルトの切り札。
湿骨林にある不屈の花園で保存管理されていたうずまきナルトの影分身。影分身はダメージを負うと消えてしまう。だからこそクオンガタリとカツユが一生懸命延命し続け何年も生かされ続けた影分身。
呼び出された存在は、生きているのが不思議なレベルの影分身だった。死んだ方がマシだと思える地獄を何年も経験しており、溜められた経験値は莫大だ。
「……も、もしかして、それって俺の影分身」
「えぇ、その通りですよ。随分昔に捕まえておりました。こういった場合に備えた切り札です。彼が死んだ瞬間に流れ込むであろう、莫大な経験は凄まじい物ですよ。うずまきナルト君、禁術を不用意に使うべきではありません」
不屈の花園で管理され続けたうずまきナルトの影分身が本体を確認した。唇が僅かに動く。声にはならないが、影分身達はハッキリと理解した「コロシテ」と言っているのだと。
挟間ボンドルドが死に体の影分身にトドメを刺そうとする。
「や、止めてくれってばよーーーーー」
「影分身の皆さん、明日は我が身かも知れませんよ」
フィードバックを察したうずまきナルトの影分身達が即座に術を解いた。その瞬間、最年長の影分身がようやく術を解かれる。
不屈の花園で過ごしたおぞましい日々がうずまきナルトに流れ込んだ。死なないように丁重に管理され、体の内側からナニかに改造され死ぬ事も許されない日々。栄養補給はクオンガタリが口から入り、決して自決はできない。
その日々を一気に経験したうずまきナルトの心肺が停止した。
年度末つらたん…。
必中即死忍術をこれでもかと回避するうずまきナルトを頑張って倒さなければ。
影分身を使った必中攻撃。
やはり、これに限りますわ。
心から殺していくスタイルで行かねばなるまい。