東方偽奏録   作:戯言遣いの偽物

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11・狂人4人〜four lunatics〜

「ふぁぁ・・・むにゃむにゃ。」

 

「立ったまま寝ないでください。眠いのはわかりますけどそんなに堂々と箒持ったまま立って寝ないでください。僕が処理に困ります。」

 

義縁はそう霊夢に言う。

 

義縁は白玉楼の時に決めたように毎朝博麗神社にお参りに行っているのだ。ただ、1人参拝客が増えようが霊夢は興味なさげだった。彼女が1人の時に神社でやることといえば適当にそこらを箒で払うかお賽銭箱を念入りに覗き込むか暇そうにぼーっとするくらいだ。

 

「わかってるわよ。うるさいわねぇ。お賽銭入れなさい?入れないと許さないから。」

 

「入れましたよ。そんなに怒らなくても・・・」

 

「あんたねぇ。初めここにきた時、参道の石畳に大穴開けたのとその杖頭に当てたこと忘れてないわよ!」

 

「いやあれは不可抗力・・・いえごめんなさい。」

 

とりあえず謝る義縁。

 

「ふん。お賽銭入れて弁償しなさい。そして暇だから付き合いなさい。」

 

「えー、ちょっと行くところがあるので・・・」

 

「バイト?そんなのいいのに・・・。まぁいいわ。ならさっさと行きなさい。くれぐれも妖怪には気をつけなさいよ。」

 

と、ひらひらと手を振りながら素っ気なく言う霊夢。

 

「相変わらずですね。わかりました。ではさようなら。」

 

「バイバイ。ふぁぁ・・・」

 

欠伸をふかす霊夢を横目に義縁は少し笑って大階段を下りた。

 

 

          *

 

「やぁやぁ。髃樕君?体調は大丈夫かね〜?見たところ安定しているようだねぇ〜?結構結構。」

 

「・・・ぎゃあぎゃあうるさいのである。Dr.エグゼ。拙者は無論大丈夫である。纏わりつくでないベタベタ鎧に触るでない!」

 

幻想郷某所。髃樕は白玉楼から移動し集合場所に着くや否や白衣の少年に纏わり付かれていた。

少年はピンクの髪に緑と紫のオッドアイ。白衣はダボダボで袖や裾がズルズル擦っている。白衣の下は黒のニットにグレーのチノパンを履いていた。

 

「そういうなよ〜全くつれないねぇ〜?僕ちゃん医者だからさ〜そういうの気になんだよねぇ〜。そう言わずにさ〜診せろ診せろ診せろよ〜。」

 

「うざいのである。」

 

「え〜ケチ。」

 

「エグゼバイアス。そんな纏わりついてやんなよ。」

 

と、口を尖らせるDr.エグゼの後ろから近づく人間がいた。オウだった。相変わらずの露出度の高い彼女は軽々とDr.エグゼを抱き上げる。

 

「オウレアか。だから僕ちゃんのことをエグゼバイアスと呼ぶんじゃないよ。Dr.エグゼと呼びなさい。そして抱き上げるんじゃない!!」

 

「あんたも(アタシ)のことをオウレアって呼ぶじゃない。かーわいーねぇー。」

 

オウは抱き上げたDr.エグゼに頬を擦り付けてご満悦な様子だ。オウの大きく膨らんだ胸にDr.エグゼの後頭部が沈んでしまっていた。そんな状態のDr.エグゼは髃樕が来た時とは打って変わってげんなりとしていた。

 

「・・・」

 

それを髃樕が無言で見つめていた。

 

「まぁまぁそう騒ぐなお前たち。やっと我らが集まったのに早速喧嘩するんじゃないよ。」

 

後ろからパンパンと手を叩く音がする。それと同時にカチカチと金属同士が打ち合わせる音もする。三人(?)が振り向くとボロボロのローブを羽織った男(?)がいた。顔はフードによって見えず、ローブから出た手の指には血の色をした宝石がついた指輪がはまっていた。

 

「・・・ヴィザ。お前いつからいた?」

 

「最初からだよ。気がつかなかったお前らが悪い。そうだろう?オウ?・・・さてさて?『アレ』はどうだね?髃樕?」

 

「・・・順調だろう。『計画』に支障はない。打ち合いが楽しみだ・・・」

 

と言いながら髃樕はクツクツと笑う。鎧が揺れてカシャカシャ音を立てる。

 

「まぁまぁそう興奮するな。いつかはあるだろう。とりあえず俺と髃樕はちょっかいをかけてみた。俺も大丈夫だとは思う。『あの方』を困らせることはないだろう。」

 

「で?『あの方』はいつ来るのかい?エグゼバイアス?」

 

「Dr.エグゼと呼びなさい。心配するな。色々あるが必ずおいでになる。僕ちゃんが保証するよ。」

 

「あーそうかい。ならいいのよ。」

 

「まー、報告がないなら解散だけどどうする?」

 

「てめー、クソ適当に(アタシ)ら集めたな!?こんな話程度なら通信機でよかったじゃねぇか!」

 

「いーじゃん。何日かに一度くらいは情報を共有したり親睦を深めるのもいいじゃないか。」

 

キレ散らかすオウの言葉の暴力をのらりくらりとかわすヴィザ。

 

「ヴィザールさ。僕ちゃん達は『あの方』に仕えてるとはいえ目的も信条も全く違うのさ。僕ちゃんは色々あって医者稼業も研究もやれなくなったし、そんな時に『あの方』に誘われたから来ているだけだよ。『あの方』に感謝はあるしそれなりに尊敬してるけど、君たちのことは〈検体〉としか見てないからね。君たちのような珍しい〈検体〉はなかなかないよ?だから馴れ合いはしないよ?ベタベタはするけどね?」

 

「・・・全く面白い奴だな?エグゼバイアス。」

 

「君ほどじゃないよヴィザール。」

 

「「・・・」」

 

双方黙り込む。

 

「まぁいい。話はそれだけだよ君たち。各々『計画』を進めるなり『アレ』にちょっかいをかけるなり自由にするがいい。」

 

「ヴィザが(アタシ)達を取り仕切ってんのかはわからないけど、そういうなら自由にさせてもらうわ。じゃあね。」

 

と言って、オウはDr.エグゼを下ろすと去っていった。

 

「拙者も行くとしよう。では御免。」

 

髃樕もオウに続いて去っていった。

 

「ふむ。じゃ、僕ちゃんも行くよ。・・・そういえば今『何枚』だね?」

 

「二枚だろう。なに、まだ始まったばかりだ。のんびりしようや。」

 

「・・・そうだね。『我らが主のために』。」

 

「『我らが主のために』。」

 

そう言ってDr.エグゼはポテポテと歩いて暗闇に消え、それを見送ったヴィザは地面に沈むように消えた。

 

         *

 

「ふぅ・・・疲れた・・・。働くのはいいね。なんでかはわからないけど。」

 

夕方、バイトから帰った義縁はゴロリと横になった。縁側を見ると、ちょっとした庭があり、その先には森が広がっている。

 

「・・・僕1人住むには広すぎるなぁ。まぁ住めるだけありがたいんだけど・・・。面白い本もあるし。」

 

と後ろの本の山を見る。殆どが和本だが、いくつか洋本が混ざっている。

 

(・・・妖怪・怪異・伝説・怪談・奇譚・説話などなど・・・すごい量だな・・・八雲紫さんも集めるのも大変だっただろうに・・・。ん?)

 

義縁はそこまで考えてから声に気づいた。庭の方・・・正確には森の中からキャッキャッという子供の声が近づいてくる。

 

「・・・なんだ?子供?もうそろそろ子供は家に帰る時間じゃ・・・?」

 

一応『戯厭』を手に取り、縁側に出る。庭の周りに植えられた植え込みの一角がガサガサと音を立てる。

 

「・・・あの・・・そこにいるのは・・・」

 

と、声をかけようとしたその時、植え込みから何かが転がり出た。

 

「うぇ!?」

 

「つーかまーえたー!」

 

「くそー!あたいが捕まるなんてー!」

 

転がり出たのは2人の少女だった。1人は薄い青でセミショートの髪、頭に青いリボンをつけていた。青と白のワンピースを着て、首元に赤いリボンを結んでいた。そして、背中から氷の結晶のようなものが3対浮いていた。もう1人は緑の髪で左側頭部にサイドテール揺れている。他方より色の薄い青と白のワンピース。背中からは虫か鳥かわからないが、そういうような羽が一体ついていた。

 

「あのー・・・」

 

「あはは!私の勝ちだね!チルノちゃん!」

 

「くそー!さいきょーのあたいが捕まるなんてー!次は負けないぞ!だいちゃん!!」

 

「ええと・・・お嬢さん方?」

 

義縁はキャッキャッとはしゃいでいる2人に恐る恐る声をかける。

 

「ん?誰だ?お前?」

 

「チルノちゃん!初対面の人に『お前』って言っちゃダメだよ?」

 

「あぁ・・・えっと僕はニ兎咬義縁。最近ここに住み始めたんだよ。君たちは?」

 

「あたいはチルノ!さいきょーなんだよ!!」

 

「私は大妖精です。私もチルノちゃんも霧の湖に住む妖精です。」

 

「霧の湖・・・ねぇ?近いのかい?」

 

「あっちの方ですよ。」

 

と、大妖精は森の奥の方を指差す。

 

「ふぅん・・・チルノちゃんに大妖精ちゃんだっけ?もう暗くなるからお家に帰りなさいよ?」

 

「あたいを子供扱いするな!!お前よりも長く生きてるんだぞ!!」

 

顔を真っ赤にして怒るチルノ。

 

「あぁごめんなさい。ええと・・・お菓子食べる?」

 

「食べるー!」

 

「わーい!」

 

2人は義縁が差し出したおかき(時々様子を見にくる紫から貰った)を子供のように無邪気に喜んで食べ始める。

 

「むぐむぐ・・・美味しい!お前いい奴だな!」

 

「それはどうも。」

 

「すみません、義縁さんでしたっけ?質問していいですか?」

 

ニコニコでおかきを頬張るチルノを眺めている義縁に大妖精が声をかけた。

 

「貴方・・・何者ですか?人間?妖怪?よくわからないです。」

 

「僕もよくわからないんだよね。記憶が飛んじゃっててね。」

 

「そうですか・・・ならいいです。帰りましょうチルノちゃん。」

 

「んー?いいよー!バイバーイ!」

 

「あぁ、バイバイ。」

 

去っていく2人の妖精に手を振って見送る義縁であった。


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