「チルノちゃーん!遊ぼー!」
「だいちゃん!わかったよ!!」
女の子たちの楽しそうな声が聞こえてくる。昨日義縁の家に現れたチルノと大妖精の声だった。ただしそこは先が全く見えないほど霧がもうもうと立ち込める湖であった。霧の湖。その立ち込める霧からそう呼ばれている場所だ。チルノと大妖精はそこあたりに住んでいるのだ。
大妖精が呼びかけると、チルノが根城としているかまくらから
「だいちゃん!何して遊ぶ?かくれんぼ?鬼ごっこ?」
「先にリグルとかルーミアを探そうよ!」
「そうだね!!だいちゃん頭いい!」
「そうかな⋯⋯えへへ⋯⋯」
そう今日の予定を話し合っていると、
ピィィィィン⋯⋯ピィィィィン⋯⋯
という音が聞こえてきた。金属の板が弾かれるような高い音。その音がだんだん大きくはっきりしてくる。音源が近づいてきている。
「なんだろうねチルノちゃん⋯⋯」
「ちょっと見てくる!待っててだいちゃん!」
「まっ⋯⋯待って!!私も⋯⋯行く⋯⋯!」
「ならあたいの後ろにいて!」
「わかった!」
そんなこんなで前を歩くチルノの青いスカートの端を大妖精が掴みながら付いていく形で音源に近づくことにした。
近づくごとに金属音に
ザッザッザッザッ⋯⋯
という足音も混ざってきた。
やがて霧の中に黒い人影が見えた。金属音もその人影の主から響いているようだ。
「誰かいるよ⋯⋯?どうする?」
「声をかけてみようよ。おいお前!!何やってるんだ!?」
「ちょっと!失礼だよ!!」
「あん?ガキか?」
チルノが声をかけると人影が反応した。ザッザッとさらに近づく音がして、黒い人影がくっきりと姿形が見えるようになった。
とんでもなく露出の激しい服を着た茶髪で赤っぽい目の女だった。胸にサラシを巻きショートパンツを履いていて、その上から少し長めの革のコートを羽織っていた。腰には幅広のサーベルとリボルバーと何かが入って膨らんだ麻袋をくくりつけている。その手は銀のコインを弄んでいた。
「⋯⋯ガキってなんだ?」
「んと⋯⋯子供って意味。ちょっと乱暴かな⋯⋯?」
「なんだと!!あたいはチルノ、だいちゃんはだいちゃんっていう名前があるんだ!!失礼なやつめ!名前はなんだ!!」
「チルノちゃんも失礼だよ!!後私の説明なってないよ!」
「あ?あぁ⋯⋯悪かった悪かった。
「マジシャン?」
「手品をする人のことだよ。」
「まぁ見た方がいいでしょう?」
と言ってオウレアは手に持った会話を見せる。一面に大きく翼を広げた鳥、もう一面に
オウレアはそれを見せながら腕を左右に振るとコインは無くなっていた。
「おぉ!?お前何をやったんだ!?」
「すごい⋯⋯!」
「こんなものじゃないよ。」
そう言いながらオウレアは次々にマジックを見せた。手からメダルを出現させる、2人に持たせたメダルの裏表を当てる、メダルを浮かせる、二つのメダルを一体化させるなどなど⋯⋯さまざまなマジックを見せた。
「すげーなお前!次は次は?」
「次はだなぁ⋯⋯」
様々なマジックを見て興奮してせがむチルノを見てオウレアはニィッと笑った。そしてチルノと大妖精の額を指先で小突いた。
「あたっ⋯⋯」
「うわ⋯⋯」
小突かれて少しのけぞった後、力が抜けたように棒立ちになった。目から光が消えていた。まるで人形になったかのように。
「記憶消失マジックさ。まぁ君たちは見れないだけどね。」
それを見ながらオウレアが笑う。
「今
オウレアはぶつぶつと独り言を呟くと2人に手を伸ばす。額を上から下へなぞるとコインの投入口のようなものが生成される。
「何が出るかなぁ?」
ニヤニヤしてそんなことを言いながらその投入口をデコピンで弾いた。すると、投入口の穴からコロンとコインが出てくる。大妖精からは銀のメダル、チルノからは薄く発光した銀のメダル。それを見てさらに口角を上げる。
「ほーう?なるほど⋯⋯この子⋯⋯見込みがあるなぁ!メダルを『増やす』にちょうどいい。記憶は返さねえがこれをくれてやる。」
2枚の銀のメダルを仕舞うと代わりに金縁のコインを取り出す。色は青。サメのようなシャチのようなそういう魚の絵柄がついている。
「どのコインもガンガン使うし『増やし』たいんだよなぁ。この子には『水のコイン』を入れよう。相性が良さそうだ。」
そんなことをぶつくさ言いながらチルノの投入口にコインを入れた。チャリーンという音と共にコインが消え、そのあと投入口が引っ込んだ。大妖精のものは何も入れないまま引っ込めた。
「よし、君たちは
そう言ってオウレアは銀のコインを弾く。クルクルと回って飛ぶコインに手を伸ばすとオウレアの姿がブレた。そして手からコインに吸い込まれるように消えた。オウレアを飲み込んだコインも地面にぶつかると同時に銀の粒子となって消えてしまった。
「⋯⋯あれ?」
「⋯⋯んぁ?」
しばらくして2人の意識が戻ってきた。
「⋯⋯私たち何してたんだっけ?」
「んー⋯⋯わかんない!そんなことより早くルーミアたちを探そうよ!」
「⋯⋯うん⋯⋯そうだね!」
「急ごう!早くしないと日が暮れちゃ⋯⋯う?」
チャリーン!チリチリ⋯⋯
チルノが足を踏み出した時そんな音が聞こえた。
「⋯⋯あたい何か落としたかな?」
「ええと⋯⋯これじゃない?」
大妖精が少し地面を探ってみるとあるものを見つけた。一面に何かの魚の絵、もう一面に
「⋯⋯チルノちゃん?拾った覚えある?」
「⋯⋯ないよ⋯⋯?こんなもの知らない⋯⋯河童のにとりに渡せば喜びそうだ⋯⋯ん?」
チャリーン!チリチリ⋯⋯
チャリーン!チリチリ⋯⋯
また落ちた音がする。今度は数が増えている。チルノはすごく怪訝な顔をする。
「あたい動いてないよ?でもまた落ちたよ⋯⋯?今度はどこに⋯⋯」
「チ⋯⋯チルノちゃん!!足!!」
大妖精が怯えた顔でチルノの足を指差す。
「どうしたの?だいちゃん?」
「足!足見て!」
チルノは首を傾げながら頭を下げ、足を見た。そして大妖精が怖がっていた意味を知る。
コイン、コイン、コイン、コイン⋯⋯。チルノの両足がさっきの銀のコインに覆われていたのだ。しかも未だに増えているようで、
ジャリ⋯⋯ジャリ⋯⋯と金属が擦れるような音を立てながら上へと侵食している。
「うぉあ!?なにこれ!?」
「チルノちゃん!動かないで!痛かったらごめん!!」
恐怖を友人のために無理矢理押し込めた大妖精はチルノを襲うコイン群に向かって弾幕を放った。そのグリーンに輝く光弾がコイン群を破砕する────大妖精はそのつもりだった。しかしそれは甘かった。光弾が近づいてきたのを察知したのかコイン群が前へ迫り出し、銀の壁となって光弾を防いだのだ。
「そ⋯⋯そんな!!チルノちゃん!!」
「多分あたいでも無理だと思う⋯⋯。助け、霊夢か魔理沙か誰でもいい。とにかくだいちゃんは離れるんだ!!」
「でも⋯⋯!!」
「行って!!」
尚も行こうとしない大妖精にチルノが厳しく突き放す。大妖精は泣きそうな顔をし、後ろを向いて走り出した。
「⋯⋯このやろ!!」
それを確認したあと、チルノは能力を使ってつららを作り出し、コイン群に向かって何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も突き立てた。
「クソ!クソ!クソ!なんなんだよ!!」
折れようが砕けようが能力で復活させて必死に突き立てる。
しかし、氷がぶつかる音がやがてなくなり、そしてチルノの声も小さくなって消えた。
*
「⋯⋯はぁ、いつも思うけど⋯⋯アクセス悪すぎじゃ⋯⋯ないですか?」
息を切らし疲れ切った義縁は膝に手をついて息を整えていた。
「仕方ないじゃない。博麗神社はここにあるもの。」
そんな義縁を横目で見ながら霊夢は涼しい顔で箒で掃除をしている。
「もっとこう⋯⋯スロープをつけるとか⋯⋯色々と⋯⋯できることは⋯⋯あると⋯⋯思います⋯⋯よ?」
「そんなの時間もお金かかるじゃない。そんなことやりたくない⋯⋯ふわわ⋯⋯」
「⋯⋯そうですか⋯⋯」
呑気にあくびをする霊夢を見て諦めた義縁であった。
「まぁいいわ。茶でもいる?」
「珍しいね。いつもお金お金って言ってるのに⋯⋯」
「私は卑しい守銭奴じゃないわ。あとついでよついで。客が来たわ。」
霊夢はそう言って空を仰ぎ見た。青く澄み切った空。そこに黒い点が一つついた。それはだんだん大きくなり人だとわかるほどまでに近づいた時、箒の先を上げ強引にスピードを落とすと強風を撒き散らしながら着陸した。
「よーっす!遊びに来たぜ!」
「魔理沙⋯⋯もうちょっと静かに来れないの?」
「霧雨魔理沙さん、おはようございます。」
「よう!義縁!霊夢!」
人影────魔理沙はにっこり笑った。
「魔理沙、あんた茶飲むでしょ?たまにあんたは勝手に飲んでるけどね。数は⋯⋯あうんはまだ寝てるし三つでいいわね、」
「お?ありがとうよ!義縁もこっちに来いよ!」
「あぁ⋯⋯はい。」
魔理沙は霊夢に言われる前には既に縁側に座り、義縁は言われてから彼女とは距離を開けて座った。
「なんだよこっちに寄ればいいのに⋯⋯」
「それは⋯⋯うん?」
魔理沙から目を逸らすように母屋の中を見た。そして三段の木のタンスの上に木の写真立てに入った写真を見つけた。それは朗らかに笑う幼い霊夢のような子供を巫女服の女性が抱いて微笑んでいる写真だった。巫女服の女性は黒髪のストレートロングに鷹のように鋭い目つきで黒目、子供を抱く手は傷だらけであり、頬にも古傷があった。
「⋯⋯誰だろう?」
「それ?私と母親よ。」
義縁の疑問にお茶を入れて戻ってきた霊夢が淡々と答える。
「私が子供の頃、射命丸が撮ってくれたのよ。」
「あうんさんに射命丸さん⋯⋯当然だけど知らない人たち⋯⋯」
「すぐ会えるわよ。特に射命丸はもうそろそろ突撃取材が来るんじゃないかしら?むしろあのマスコミ烏にしては遅い方よ。」
「そうですか⋯⋯ところで、博麗霊夢さんのお母様は⋯⋯」
「消えたわよ。」
「あっ⋯⋯その⋯⋯ごめんなさい⋯⋯えっと⋯⋯亡くなられたではなく『消えた』?」
「そう。消えた。私がいくつの時だったっけね。一人前って言ってもらえた翌日にいなくなったわ。紫にも手伝ってもらって幻想郷中を探してもどこにもいなかったし多分死んでると思うわ。」
「⋯⋯ドライですね。」
「そう?でもやってられないのよ。割り切らなきゃ。」
お茶を配る霊夢の顔はいつも通りだった。しかし、その声は少し寂しそうだったと義縁は感じていた。しかし、ここまでの交流で彼女にそういうことを言うと拳が飛んでくることが多い(ほとんど魔理沙が殴られている)ことを学んでいるので言わないことにした。
それを悟られないように気をつけながらお茶を啜る。香ばしく美味しいほうじ茶だった。
「⋯⋯そうですかね。お茶美味しいです。ありがとうございます。」
「どうしたしまして。義縁君。」
「れ⋯⋯霊夢さん!魔理沙さん!助け⋯⋯ぁ痛!!」
義縁が礼を言った。そんな時、彼らを呼ぶ声が博麗神社に響いた。その声の主は空を飛んでやってきたようだが、相当慌てていたようで鳥居の上部に足を引っ掛け頭から地面へと墜落した。石畳に顔面をぶつけズシャシャッと痛そうな音を立てる。
「あんた⋯⋯大丈夫⋯⋯?」
「大丈夫です⋯⋯そんなことよりって義縁さん!?」
「あ、大妖精ちゃん。昨日ぶり。チルノちゃんはどうしたの?」
「そうです!!チルノちゃんが!チルノちゃんがぁぁぁ!!!」
大妖精はチルノの名を聞いて大泣きしはじめ、事情をなんとか聞いて動き出すまでに結構な時間を要することになった。
お久しぶりです。戯言遣いの偽物です。遅くなってすみません。ブーストかかるのに時間かかりました。多分これからも不定期になるのでごめんなさい⋯⋯。それでは、『偽奏録』をよろしくお願いします。