エミール/帰郷 または、天津社長の奇妙な1日〈完結済み〉 作:TAMZET
未来から来た元人間の球体・エミールと遭遇したZAIAエンタープライズジャパン社長の天津垓は、彼の記憶を取り戻す手伝いをする事に。記憶を取り戻す旅を続ける内、彼らは互いに心を開くようになり、お互いを仲間と認識し始めていた。そんな中、かつて自分が暮らしていた屋敷を見てしまったエミールは、過去の記憶が原因で暴走してしまう。止めようとする天津だったが、その前には、変貌したA.I.M.S.の隊長が立ちはだかるのだった。
A.I.M.S.隊長だった怪物……レッドアイが赤熱する眼窩より放ったレーザー線。熱く、太く、赤いその熱線は、まとわりつくように湿った空気を突き破り、曇天の雲間に穴を開けた。
それが合図だったかのように、ゼロワン達を取り囲んでいた3体の怪物達が一斉に彼等へと飛びかかる。サウザーは彼等の一体をすれ違いざまに槍で一閃し、遠方で赤眼をギラつかせるレッドアイへと突撃した。
「ふんッ!!」
緩やかな助走と共に動き出した金色の鎧軀がアスファルトの地面を疾走する。サウザーは己の槍の射程距離に標的が入るや否や、瞬時に腰を落とし、刃先が消えんばかりの鋭い一撃を放った。
コンクリートをもたやすく粉砕するサウザーの槍撃。万全のタイミングで放たれた一撃である。
だが……
「何ッ!?」
しかし、レッドアイは構える事もなく軽々と受け止めた。
レッドアイの外見は、赤眼を除けばバトルレイダーそのものであり、体軀はサウザーとそう変わらない。だが、サウザンドジャッカーの芯まで伝わる強大な膂力は、まるでアフリカ象のそれである。
サウザーは警戒を強めながらも、グリップを握る手に力を込める。
「君達A.I.M.S.は私の道具……道具風情が主人手を噛むとは、どういう了見だ?」
「簡単ですよ天津社長。我々は新たな主の命に従い動いております。人類滅亡のためにね」
「人類滅亡、だと?」
その単語から天津が連想したのは、自身がかねてより敵対するヒューマギア達の姿だった。
【滅亡迅雷.net】
人間の悪意をラーニングした巨大衛星アーク。そのアークは、己の尖兵として強力な4人のヒューマギアを使役しているのだ。彼等は人類を滅亡させ、ヒューマギアを中心とした新たな世界を作るために活動しており、これまで多くの人類を傷つけてきた。
天津は当初彼等を淘汰圧として利用しようと考えていたが、予想を上回る速度で勢力拡大を続ける彼等は、ZAIAにも少なくない痛手を与えていた。
人間がヒューマギアに屈するなど愚の骨頂……A.I.M.S.隊長の発言に、サウザーの怒りは一瞬で頂点へと達した。
「ヒューマギアに魂までも売ったか!!」
鋭い恫喝にも、レッドアイはまるで動じる様子を見せない。サウザーが槍を引こうと力を込めた瞬間、背後で爆音が轟いた。
レッドアイを突き放し、サウザーは音の発生源を振り返る。爆炎に包まれる玄関前……そこでは、ゼロワン達が巨大な怪物達に苦戦しているようであった。
「おい刃!?ZAIAはこんなものまで開発してたのか!?」
「知らない……こんな破壊兵器は、あったとして私の管轄外だ!!」
バルカンは既にランペイジバルカンにフォームチェンジしており、怪物に苦戦するバルキリーを助けている。2人が一体の怪物を相手にしている間、ゼロワンはメタルクラスタの力で他の怪物達を足止めしていた。
しかし、怪物の膂力は尋常ではないらしく、展開される鋼色の盾にはヒビのようなものが随所に見て取れる。
状況はどう見ても劣勢だ。
寸刻の逡巡の後、サウザーはレッドアイに背を向け、ゼロワンを襲う怪物達へと槍の穂先を向けた。
「これは我が社の不祥事……ここは、私に任せてもらおう」
黄金槍サウザンドジャッカーのスロットには、既に金色のアメイジングコーカサスプログライズキーが装填されており、槍の芯にエネルギーを蓄えている。
サウザーはトリガーを引くと共に、怪物達目掛けて槍を投擲した。
槍は放物線を描き、怪物のうち一体の頭蓋を貫いた。
『THOUSAND BREAK ©︎ZAIAエンタープライズ』
糸が切れたように動かなくなった怪物……その周囲から、半透明の動物型エネルギー・ライダモデル達が飛び出す。
「これは……デルモの時の」
8体のライダモデル達はそれぞれ思い思いに怪物達を攻撃し、怯ませてゆく。
目を丸くするゼロワンに対し、サウザーはフフと得意げに笑ってみせた。
「コイツらの自律操縦を可能にした。コイツら程度、これであしらっておける!!」
サウザーは「さて……」と、レッドアイの方を振り返った。レッドアイは先と変わらず屋敷前の道路の中心に佇んでおり、意思を感じない不気味な赤眼で天津を見つめている。
対するゼロワンとサウザー、並び立つ双つ。仮にも仮面ライダーを知る者であればその脅威は瞬時に見抜きうるはずである。
しかし、それでもレッドアイは身動ぎ一つしない。余裕とも取れるその挙動が、2人を警戒させる。
「アレはただのバトルレイダーではない。恐らくは滅亡迅雷の連中に操られている。不本意ではあるが、ここは君に協力してやろう」
「……」
ゼロワンから返事は無い。
元より好意的な返答など期待していなかったサウザーは、肩を竦め走り出そうとした。
しかし、その進行を阻むように、ゼロワンの腕が差し出される。そこには、先程怪物達の方へと投げられたはずのサウザンドジャッカーがあった。驚くサウザーの前に出るように、ゼロワンはセイバーを構えた。
「アイツを倒したら……納得いく説明、してもらいますからね」
「いいだろう!!」
サウザンドジャッカーを受け取り、天津はゼロワンの肩を叩いた。
気合十分に、2人は……駆け出す。
左右に分かれ、ゼロワンとサウザーはレッドアイへとの距離を詰めてゆく。凄まじい脚力はアスファルトの大地を砕き進んでゆく。
10m……5m……3m……
「フン!!」
残り1mを切った瞬間、三者は三様に動いた。レッドアイがゼロワンへ向けて拳を突き出したのである。唸る豪腕は衝撃波を纏い、拳圧だけでアスファルトの道路を粉々に砕く。
だが、それが2人に当たる事はない。
攻撃を見切ったように、ゼロワンは空へ飛んでいたのだ。サウザーは姿勢を低く槍を突き出す事で、レッドアイの追撃を妨害する。
腹部から散る火花。本来であれば昏倒必至のその攻撃にも、レッドアイは動じない。
「我が神に逆らいますか、天津社長」
レッドアイは焦る様子もなく、自身の腹部に突き刺さったサウザンドジャッカーを力で引き剥がした。サウザーはそれを取り返さんと束を握る手に力を込めるが、レッドアイの膂力は凄まじく、びくともしない。
「あなたにも神の声は聞こえているでしょう?何故逆らうのです」
「生憎私は無神論者なんでね。自分の神話くらい、自分で作ってやる……君達、仮面ライダーの神話をな!!」
サウザーが槍を手放すと同時に、ゼロワンの放った銀の斬撃がバトルレイダーの頭部から火花を上げさせた。
赤眼を点滅させ、バトルレイダーは2、3歩後退する。だが、ライダーたちの追撃は止まない。
果たして……サウザーは彼の懐に潜り込んでいた。突き刺したサウザンドジャッカーのレバーを引き、バトルレイダーの力を奪ったのである。
「インベイディングホーク……バトルレイダーのテクノロジーを返してもらった。雑兵の身に余るその力で散るがいい!!」
トリガーが引かれるや否や、レッドアイの懐で爆裂的な火花が上がった。レイドライザーに装填されていたプログライズキーのデータを元に、サウザンドジャッカーが攻撃を行ったのである。
槍の穂先が赤熱する程の超絶的な火力に、赤眼の怪人もついに膝をつく。
「覚えておけ。これが、ヒューマギアを超える人間の力だ」
「あなたは勘違いをしている。私の神はあれらのような矮小な絡繰人形などではありません。あなたも、時期それを解ることになる」
「くだらん。人類を滅亡させようとしているのが貴様の神なら、私はそれにも抗うだけだ!!」
サウザンドライバーのスイッチを入れ、サウザーは天高く舞う。レッドアイは両腕を交差させて防御するも、その両腕は突如として現れた銀の枷に囚われた。ゼロワンのメタルクラスタの力が、彼の両腕を捕らえたのである。
「邪魔ですよ、ゼロワン」
「悪いけど、これ以上石墨さんの家は荒らさせない!!」
両腕に力を込め、レッドアイは枷を引きちぎった。だが既に、虹色のエネルギー波を纏ったサウザーの爪先は、赤眼の眼前まで迫っていた。
「はああっ!!」
両腕を封じられ動けなくなったレッドアイのこめかみに、サウザーの渾身の蹴りが命中した。
『THOUSAND DESTRUCTION ©︎ZAIA』
レッドアイは爆散し、装着者の体がアスファルトの地面に放り出される。彼の身体は、サウザーが蹴っても揺すってもピクリとも動かない。
彼の意識が完全に絶たれていることを確認したサウザーは、ふうとため息を一つ吐くと、ポンとゼロワンの肩を叩いた。
ゼロワンは心底嫌そうに彼の手を振り払ったが、やがて思い直したように「ありがとうございました」と小声で繕った。
「後はお前だけか」
武器を構えて近づいてくるバルカン達を、ゼロワンが制する。
「今は、敵じゃない」
「なに……?」
バルカンは今にも銃を撃たんばかりの勢いだ。バルキリーも銃を下ろしてこそいるものの、鋭い殺気を消してはいない。
ゼロワンはバルカンの射線とサウザーの間に身を割り込ませた。
「怪物を倒してくれたのは天津社長なんだ。それに、今は石墨さんとジーペンを助けないと」
舌打ちと共に、バルカンは銃を下ろした。
もう周囲から戦闘の音は消えている。石墨邸の前には、三体の怪物達が転がっていた。どうやら、ライダモデル達は彼らの排除に成功したらしい。
サウザーは身を翻すと、未だ火の手の上がる石墨邸へ取って返した。警戒の面持ちで見つめる三者に向けて、サウザーはサウザンドジャッカーを地面に突き刺した。
「飛電或人……邪魔者はいなくなった。あのヒューマギアの事は好きにするといい。私はエミールの元へ向かわなくてはならないのでね」
エミールの暴走は収まったのだろうか。
戦いが終わり鎮まっていた鼓動が、思い出したかのようにサウザーを責め立てる。
背中を押されるように、サウザーが火の元へと駆け出したその瞬間……彼の背後で、気絶してたはずのレッドアイが立ち上がった。
「おいッ!!?」
バルカンの叫びと共に、レッドアイはサウザーの元へと駆け出す。
全身を覆う防護服は傷だらけで、さながら重傷者のそれであるというのに、レッドアイは何の支障もないとばかりにサウザーの元へと疾走する。その姿は、生物とは思えない不気味さを醸し出している。
地に突き刺したサウザンドジャッカーを抜き放ち、再び構えるサウザー。
瞬間、赤い熱線がサウザーの視界を遮った。
「今のは……ッ!?」
状況を把握する間もなく、熱線はサウザーを焼いた。サウザーの装甲すらも軽く焼き払うそのエネルギー量に、サウザーはたまらず変身解除に追い込まれる。
熱線は次いで、荒ぶるようにゼロワン達を襲う。
「なっ!?」
辛うじて熱線を躱すゼロワン達。レッドアイの身体が、天津の眼前で砕け散る。歪む視界の中、ゼロワン達の前に立ちはだかったのは、小型の熱気球程にも膨れ上がった灰色の球体だった。
「なんだ、コレ……?」
飛電或人の問いに答えるかのように、天津は「エミール」と呼びかける。先程の傷が深すぎたのだろうか。その声は酷く弱々しい。
「僕は……兵器!!人類の敵は、殺すッ!!」
球体……エミールは、赤く染まった瞳で辺りを睨み散らすと、ゼロワン達へ向けて突進した。遥かに体軀で勝るエミールは、ゼロワンの展開した銀の盾を軽々と突き抜け、奥にあったその身体を遥か先の草むらまで吹き飛ばした。
「どういう突進力だ!?」
刃が驚きの悲鳴を上げる間に、エミールの両眼から赤紫の怪光線が放たれた。周囲の大気をコレでもかと言わんばかりに揺らしたその凄まじいエネルギーの轟線は、ゼロワンの消えた方角で大爆発を引き起こす。
「おい刃!!アレもZAIAの新型か?」
不破の問いに、刃はうんざりしたように「だから私に聞くな」と叫ぶ。
両者がエミールの背に向けて武器を構える中、天津だけが、倒れたその身でエミールへと手を伸ばしていた。
「エミール……よせ……」
灰色に煤けたその身では辿り着くことは叶わないと分かっていても、焼けて血の滲んだその手が届かないと知っていても、天津は手を伸ばす。
「君は、私の……希望だ……私が……君の約束を叶えてみせる……」
天津のかすれ声を切り裂くように、バルカンとバルキリーによる銃撃がエミールを襲った。鉄をも貫く銃撃も、球体には傷一つつけることができない。だが、攻撃はエミールを2人の方へと振り向かせた。
釣り上がったその両眼は、2人を……いや、その奥で倒れる天津を垣間見た一瞬、あの丸い人懐こいものへと戻った。
「天津さんは、いい人。いい人の敵は、人類の敵。でも、僕はへい……きッ!!」
束の間、空を舞うバルキリーの銃撃が、エミールの左眼に直撃した。薄まりかけていた両目の赤化が、再びその深度を増してゆく。
エミールは凄まじい速さでその身を回転させると、やたらめったらに熱線をばら撒き出した。バルカンは身をかがめることで辛うじて躱すが、空中にいるバルキリーはそうも行かない。間も無くして、熱線がバルキリーの羽を焼いた。
「ぐうぅっ」
「刃!?」
バルキリーの変身が解除され、刃の細身がアスファルトに打ち付けられる。打ち所が悪かったのか、彼女は起き上がってこない。
残されたのはバルカン1人。
だが、絶体絶命の状況に追い込まれても、彼は前へと歩を進める。その手の内には、ランペイジガトリングのプログライズキーが青い光を放っている。
「なんだか知らねぇが、手加減はしねぇぞ」
バルカンは気合十分に、キーの上部に取り付けられたシリンダーを回した。
『RANPAGE BULLET』
シリンダーの回転を待たずして、展開させられたキーの先端がショットライザーに装填される。未だ回転を続けるエミールへ向けて、バルカンはショットライザーの引き金を引いた。
『FULL SHOTRISE』
ショットライザーの銃口より放たれた弾丸は半透明の動物型ライダモデルの形を取り、エミールの灰軀を攻撃する。回転して熱線を放ち続けていたエミールも、その攻撃にたまらず停止した。
ライダモデル達は次々とバルカンの元へと舞い戻り、アーマーへこ姿を変えて彼の左身に装着されてゆく。
『Gathering Round! ランペイジガトリング!
マンモス!チーター!ホーネット!タイガー!ポーラベアー!スコーピオン!シャーク!コング!ファルコン!ウルフ! 』
やがて、七色のフィンが彼の顔面の左半分へと装着された時、そこには青の鎧に身を包んだ戦士、仮面ライダーランペイジバルカンの姿があった。
奇しくも天津の前に立つように、バルカンはエミールに向けてショットライザーを構える。
「ZAIAの兵器は、俺が一つ残らずぶっ壊す!!」
そう叫ぶや否や、バルカンはエミールに向けて突進した。
天津にとっては最悪の状況で、ZAIAの粋を結集した現代最強の兵器と未来最強の兵器は激突した。
最終話(前編)をお読みくださり、ありがとうございます。
最終回を前編後編と分けてしまうことになり大変申し訳ありませんが、週一回の更新を途絶えさせたくなく、この手法をとらせていただきました。最近は忙しさも鎮静化の兆しを見せ、ようやく執筆をする余裕が出てきました。このシリーズもラストスパートまであと少しなので、頑張って駆け抜けていこうと思います。
次回の更新は、今週の日曜日とします。お楽しみに……
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