巡視船しきしま船長の死に戻り   作:スカツド

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第2話 たった一つの地味なやりかた

中央暦1642年3月1日 日本近海

 

 巡視船しきしまのベッドで目覚めた瀬戸船長は優雅に一人反省会としゃれこんでいた。

 

「とことん接近戦に持ち込めば大和モドキは決して倒せない敵ではない。それが分かったのは大きな収穫だったな。とは言え、直後に駆逐艦が三隻。更に後方には空母四隻、戦艦二隻、巡洋艦や駆逐艦が控えていたんだっけ。これって結構な難易度だなあ」

 

 瀬戸船長は頭を抱えて小さく唸る。

 

「とは言え、別に一隻残らず沈めなきゃならんって話でも無いか。艦載機は三度も四度も続けて出撃することは出来ない。そもそも空母が最前線に出てくるわけが無い。そうなると護衛のために巡洋艦や駆逐艦も空母から離れられない。大和モドキと駆逐艦さえ華麗に沈めれば残った敵は尻尾を巻いて逃げ帰る可能性が高いかも知れんな。そうじゃないかも知らんけど。よし! 今回はミリシアルとムーも巻き込んでみよう」

 

 くよくよしたって何にもならん。瀬戸船長は勢い良くベッドを飛び出した。

 

 

 

八周目 中央暦1642年4月22日 神聖ミリシアル帝国 港街カルトアルパス

 

 例に寄って例の如く先進十一ヵ国会議でケバい化粧のシエリアおばちゃんが全世界に宣戦布告する。

 その直後、瀬戸船長はムーの関係者に接触を図った。

 祖国から遠く離れた所で海の男が出会ったのも何かの縁。一杯行きましょうや。

 とか何とか言って言葉巧みに食事に招待する。この時期のムーと日本は既に友好国と言っても良い関係だ。ラ・カサミ艦長ミニラルは上機嫌で誘いを受けてくれた。

 飲みすぎない程度に酔いが回ったのを見計らって瀬戸船長はおもむろに本題に入る。

 

「ミニラル艦長。貴方と知り合った記念にこれをプレゼントさせて下さい。ご笑納いただければ

幸いです」

「いったい何ですかなこれは? 光人社の戦艦大和図面集ですと! ちょっと待って下さいな。技術流出防止法とかは大丈夫なんでしょうか?」

「ご心配には及びません。戦艦大和は七十年以上も昔に沈んだ船なんですから。とは言え、その構造はグラ・バルカス帝国の戦艦グレードアトラスターにくりそつ(死語)とのこと。見ておいて損は無いですよ」

 

 ミニラル艦長は小首を傾げながらも図面集をパラパラとめくる。

 

「うぅ~ん、とは言え、厚さ四百ミリもの装甲を持った戦艦とどうやって戦ったら良いんでしょうねえ。主砲の射程なんて四十二キロもあるんですか! マトモにやっても勝ち目があるとは思えんのですけど」

「だったらマトモにやらなければ良いんですよ。そうだ、閃いた! ミニラルさんはミリシアル帝国海軍にお知り合いはいらっしゃいませんか? もし良ければミリシアルさんもお誘いして一緒に勉強会でもやりましょうよ」

「べ、勉強会ですか?。まあやってみるのも面白いかも知れませんね」

 

 ちょっと引き気味な笑顔を浮かべたミニラル艦長は迷惑そうな顔で帰って行った。

 

 

 

 予想に反して翌日、ミニラル艦長からの呼び出しが瀬戸船長の元に届く。

 慌てて昨日と同じ店に駆けつけてみれば見るからにミリシアルの軍人らしき男たちが座って待っていた。

 

「いやいや、お待たせして申し訳ありません。巡視船しきしまの船長をしております瀬戸です。どうぞよろしく」

「神聖ミリシアル帝国、南方地方隊巡洋魔導艦隊の艦隊司令パテスだ。お招き頂き感謝する」

「旗艦アルミスの艦長ニウムです。こちらこそよろしく」

 

 二人ともエルフなんだろうか。人間離れした外見がちょっと怖いなあ。瀬戸船長は握手を求めるべきなのか暫しの間、逡巡する。散々に迷った末に結局は止めておいた。

 

「それで? 瀬戸船長、勉強会と申されましたかな。いったい何を教えて下さるというのでしょうか?」

「いやいやいや、何をおっしゃいますやらパテス司令殿。世界に冠たる神聖ミリシアル帝国の司令官様に私如きがお教え出来る事などあろうはずがございません。勉強会と言ったのは言葉の綾ですよ。研究会くらいにしておけば良かったですかな。とにもかくにも、あの最強最悪の不沈戦艦とどうやって戦うか。今日のお題はそんなところで如何でしょうか? 面白そうなテーマでしょう? ね? ね? ね?」

「確かにそうですな。あの戦艦は我が国のみならず全世界に宣戦布告して去って行った。いずれ戦う日が来るのは火を見るよりも明らかであろう。して、瀬戸殿には何ぞ良い考えでもあるのかな?」

 

 それが無いから相談してるんだろがぁ~! 瀬戸船長は喉まで出掛かった言葉を飲み込む。

 だが、代わりにムーのミニラル艦長が答えてくれた。

 

「その答えならばこの本に書いてありましたよ。あの戦艦とくりそつ(死語)な大和という戦艦の話なんですけれども」

「何ですと? それを早く言って下さらんか! それで? 何と書いてあるのですかな? 早く教えてはくれぬか」

「あの戦艦は自らの装備する四十六センチ砲の砲撃に耐えるよう作られておるそうな。まあ、至近距離では耐えられないでしょうけれども。ですから我がムーの戦艦ラ・カサミの三十センチ砲やミリシアルさんの三十八センチ魔導砲では零距離でも撃破は困難かと思われます」

「な、なんじゃと! そんな馬鹿な話があるか! 絶対に沈まぬ船などありはせぬぞ! あってたまるものか!」

「しょうがありませんよ。そのために作った戦艦なんですから。とは言え、砲撃のみであの戦艦を葬ろうとした場合、四十六センチ砲より大きな砲が必要なのも自明の理ですね。それと向こうの四十六センチ砲に耐えられる装甲も必要です。要するにあの戦艦より強力な戦艦が必要ということです」

 

 これ以上はないといったドヤ顔でミニラル艦長が顎をしゃくる。

 お前が自慢する要素は一ミリも無いんじゃないのかなあ。瀬戸は心の中で突っ込みを入れるが決して顔には出さない。言葉が途切れたタイミングを見計らって話を拾いに行く。

 

「ところがぎっちょん! 大和は建造当時には想定もしていなかった方法で沈められたんですよ」

「何じゃと? それは何なのだ? 早く教えてはくれんか」

「答えはなんでしょう? ドゥルルルル~、ジャン! 魚雷でしたぁ~! 旧日本海軍は魚雷が大好きで自分たちも沢山装備して研究もしていたんですよ。なのに自分たちの主力戦艦が魚雷で沈められるって事を想定していなかったんですね。何だか馬鹿みたいな話でしょう?」

「ぎょらい? 何ですか、それは?」

「魚雷をご存知ありませんか? 正式には魚形水雷と言って水中を進む爆弾みたいな代物ですよ。まあ、魚形って言っても鯛焼きみたいにリアルな魚の形はしていないんですけどね」

 

 瀬戸船長はスマホを取り出すと鯛焼きの画像を表示して皆に見せる。

 一同がさも感心した様子でスマホ画面を覗き込んだ。

 嬉しくなった瀬戸は次々と鯛焼きの画像を切り替えた。

 

「瀬戸殿、その板切れには鯛焼きとやらの写真が随分と沢山入っておるのだなあ。いったいどういった仕掛けになっておるのか教えてはもらえぬか?」

「えぇ~っ、気になるのはそこですか? 今は鯛焼きの話が先でしょうに。まあ、先に説明しておきましょうか。これはスマホと言って別に鯛焼きの写真を入れておくための物ではないんです。いいですか? こうして……」

 

 その晩、ムーやミリシアルの海軍関係者を前にした瀬戸船長はスマホの説明に時間を費やした。

 

 4月25日、グラ・バルカス帝国の戦艦グレードアトラスターを前にした日本、ミリシアル、ムーの連合艦隊は満足な連携を取ることが出来ずに各個撃破される。

 瀬戸船長は死んだ。

 

 

 

 

 

中央暦1642年3月1日 日本近海

 

 巡視船しきしまのベッドで目覚めた瀬戸船長は真剣に反省していた。

 だって反省だけなら猿でも出来るのだ。

 

「ムーとミリシアルは思ったよりも使えなかったなあ。前々回のクリティカルヒットは本当に万に一つの偶然だったのかも知れん。とは言え、しきしまに砲戦能力が無い以上はあいつらを当てにするしかないし。もうちっとだけ手を変えて試してみるか」

 

 瀬戸船長はベッドから体を起こすと顔を洗って歯を磨いた。

 

 

 

九周目 中央暦1642年4月22日 神聖ミリシアル帝国 港街カルトアルパス

 

 シエリアの宣戦布告を待っていたかのように瀬戸船長はミニラル艦長に接触を図る。

 今度は光人社の戦艦大和図面集に加えて『水中兵器』という文庫本も一緒に手渡す。

 パラパラと本をめくったミニラルは何とも形容し難い顔をしていた。

 

 翌日、ミニラルからの呼び出しに応じて出掛けるとパテスとニウムの凸凹コンビが雁首を揃えて待っていた。

 

「お待たせして申し訳ありません。巡視船しきしま船長の瀬戸です。本日は研究会へご参加いただき恐悦至極に存じます。魚雷に関してはご理解いただけましたかな?」

「水面下で爆弾を自走させるとは実に驚かしき考えですな。しかもバブルパルスでしたかな? 空中で爆発させるより水中爆発の方が遥かに大きな効果があるなどと夢にも思いませんでした」

「あんなにも大きな戦艦が十発ほどで沈んでしまうとは。魚雷とやらは実に恐るべき兵器ですなあ」

「まあ、大和の場合は構造的な問題もあったんですけどね。装甲を電気溶接でなく、リベットで留めていたのも不味かったですし」

「それで? 瀬戸殿、魚雷とやらは持って来ておられるのでしょうな?」

 

 キラキラと目を輝かせたラクスタル艦長が擦り寄って来た。瀬戸船長は半歩だけ距離を取る。

 

「結論から申しますと残念ながら持って来ておりません。なぜならば現代では魚雷はほとんど使われていないからです」

「巨大戦艦を駆逐した魚雷が使われておらぬですと! それはいったいなぜですか」

「それは戦艦がいなくなったからですよ。何千億円もの建造費を掛けて作った戦艦が数千万円の魚雷数本で無力化されたら馬鹿らしいでしょう? だから誰も作らなくなったんです。まあ、潜水艦ならば未だに長魚雷を装備していますが。とは言え、一万キロの彼方から呼んでも間に合いませんしね。ですから今ある装備で戦うしかないんです」

 

 瀬戸船長は肩の高さで両の手のひらを掲げると肩を竦めてみせた。

 三人の顔が面白い様に失望に歪む。

 

「今あるって言われましてもなあ…… 爆弾や砲弾ではバイタルパートは抜けない。そうなんですよね?」

「いかにも。ですが、非バイタルパートには効果があります。ですから主砲より前や後ろをチクチク攻めて浸水させて傾けるのが上策ですね。五度も傾けば主砲は撃てませんから。それに艦橋や副砲、高角砲なんかに防御力はないんですよ。その辺りさえ潰せば沈めなくても無力化できちゃうんです」

「何とも地味な作戦ですが今の我々にはそれくらいしか戦う術はないようですな。分かりました。日本の話を信じましょう」

 

 何となく結論らしき物が出た所でこの日はお開きとなった。

 

 

 

 日が代わって4月23日。日本、ミリシアル、ムーの研究会は対空戦闘の話で盛り上がっていた。

 

「対空砲は好き勝手に撃たせちゃ駄目ですよ。きちんと担当区画を割り当ててやるんです。そうすれば無駄弾や撃ち漏らしが減らせますからね」

「魚雷を迎え撃つ方法は無いんでしょうか? 高射砲や高射機関銃で破壊できませんか?」

「奴らは千メートル手前で魚雷を投下します。四十二ノットとして命中まで五十秒弱といったところでしょうか。まあ、他にする事が無いんなら撃ってみるのも良いんじゃないですか? 上手く行った例も無くは無いそうですし。対潜迫撃砲みたいな物があれば良いんですけどねえ」

 

 

 

 4月24日には合同練習を行った。三ヶ国連合艦隊はフォーク海峡まで行って待ち伏せポイントを選ぶ。

 

「この切り立った崖は使えるんじゃないですか? これを真横にして進めば雷撃機の進路は非常に限られる。無理な角度で飛行すれば対空砲も当たりやすくなるはずです」

「そうだな。単縦陣で崖に沿って航行するのが良かろう」

「我々も賛成です。何だか明日が楽しみになってきましたよ」

 

 ミニラル艦長が獰猛な笑顔を浮べるとパテスとニウムも禿同といった顔で頷いた。

 

 

 

 運命の4月25日。結論の出ない会議をブッチ(死語)して三ヶ国連合艦隊はカルトアルパスを出港した。

 他の非文明圏は足手まといにしかならないので囮になっていただく。

 暫くすると魔信からいつもの声が聞こえて来た。

 

「グラ・バルカスと思しき飛行機械が南西よりカルトアルパスに接近中。距離七十海里、数およそ二百!」

「二、二百だと!」

 

 お約束お約束。と思いきや、二百機全部がこちらに向かって来る。ちょ、おま! 話が違うやん……

 港から離れすぎているのでエアカバーも間に合わん。完全に詰んだな。

 

 しきしまの三十五ミリと二十ミリ機関砲は鬼神の如き戦いぶりを見せる。だが、(しゅう)()(てき)せず。五十機ほど撃墜した所で即応弾が尽きた。そのタイミングを突いた急降下爆撃によって巡視船しきしまは真っ二つになって轟沈する。

 瀬戸船長は死んだ。

 

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