巡視船しきしま船長の死に戻り   作:スカツド

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第3話 焼け!網膜を

中央暦1642年3月1日 日本近海

 

 巡視船しきしまのベッドで目覚めた瀬戸船長は例に寄って例の如く一人反省会を挙行していた。

 

「艦隊分離は悪手だったのか? いい考えだと思ったんだけどなあ。いや、もしかして囮艦隊を先行させれば良かったのかも知れんなあ。うぅ~ん、次はそれでやってみるか?」

 

 無い知恵を振り絞った瀬戸船長は小首を傾げる。

 

「やっぱり一人じゃ埓が明かんな。仲間を作る他ないか」

 

 瀬戸船長はベッドから起き上がるとPCを起動した。

 

 

 

十周目 中央暦1642年3月5日 横浜

 

 安積(あさか)副長を船長室に呼びつけた瀬戸は単刀直入に切り出した。

 

「唐突だが安積君。僕が未来からやって来たと言ったら信じるかい?」

「未来から? って言うか、昨日も一昨日も船長はいましたよねえ。私の知る限り一年以上は前からいましたよ。いったいいつから未来人だったんですか?」

「3月1日からだな。ちなみにやって来たのは6月30日の未来からだぞ」

「しょ、しょぼいっすね。たった四ヶ月の未来なんですか」

「だが、その四ヶ月が人の生死を分ける事もあるんだぞ。って言うかお前、全然信じていないだろ? でも、これを見れば考えが変わるかな?」

 

 ドヤ顔の瀬戸船長は三つ葉葵の印籠でも翳すかの様にスマホを見せる。

 

「へぇ~、ロト7っすか。幾ら当たったんですか…… って、十億円! マジっすか、これ。船長ったら大金持ちじゃないっすか。俺にもちょこっとで良いからお小遣いを……」

「どうどう、餅付け。これは偶然なんかじゃないんだ。何だったら来週と再来週の当選番号を教えてやろうか? とにもかくにも俺は未来からやって来た。未来を変えるためにだ。安積君、手伝ってくれるかね? 金なら幾らでも払うよ」

「はい、喜んで!」

 

 瀬戸船長は仲間をゲットした。

 

 

 

 まず初めに二人がやったのは人を雇う事だった。そこそこ信用できてそこそこ有能な人材が必要だ。伝手を頼り、八方に手を尽くして数名の人間を集める。

 続いて全員が集まった飲み会を企画し、意識の共有を図る。

 

「しきしまは四月十日に日本を出港する。それまでにこの十二キロワットのファイバーレーザーを四機入手して船に搭載せねばならん。もちろんレーザーだけでは駄目だ。揺れる船の上で四十キロ先の目標に正確な照射が出来ねばならん。そのためには光学系も作り直さにゃならん。安定架台や発電機、高速移動する目標を自動追跡する照準システムも必要だろう。普通にやったらとてもじゃないけど間に合わん。だが、我々には腐るほど金がある。富豪刑事になったつもりでやってくれ」

「分かりました。任せて下さい。どんな卑怯な手を使ってでも絶対に間に合わせて見せます」

「目的は手段を正当化する。脅迫だろうが窃盗だろうが何でもやってくれ。殺人以外なら何をやってもいいぞ。とにかく納期厳守で頼む」

「御意!」

 

 一秒たりとも無駄には出来ん。多種多様な面々が日本中に散って行った。

 

 

 

 湯水の様に金を大盤振る舞いした商談で機材の方は続々と集まって来る。他社へ納入が決まっていた機材の横取り。相場を無視した中古機器の買取り。エトセトラエトセトラ。警察沙汰にならなかったのが不幸中の幸いだ。

 

 

 

 一方でこれらの機器を船に搭載する方は簡単には行かなかった。

 

 いくら瀬戸が船長だからといって得体の知れない物を勝手に乗せるなんて出来るわけがない。

 そこでまずはムー関係で伝手を探す。そして日本からミリシアルへの航路には大型海獣が出没する危険があるという噂話を針小棒大に吹聴してもらった。

 

 同時並行してダミー会社を一つ買収する。その企業が害獣駆除用のレーザー装置を試作したので無料でテストして欲しいと海保に売り込んで来たというストーリーだ。

 

 巡視船しきしまの方でもあらかじめ乗員たちを抱き込んでおく。危険な大型海獣の噂で不安を煽る。航路の安全を確保せよという声がタイミング良く上がってきた。

 

 後は海保に顔が効く国会議員を見繕って適当に金をばら撒くだけの簡単なお仕事だ。あっけないほど簡単にレーザー装置のしきしま搭載が決定した。

 

 

 

中央暦1642年4月22日 神聖ミリシアル帝国 港街カルトアルパス

 

 シエリアの宣戦布告、ミニラル艦長への接触、パテスとニウムの凸凹コンビとの研究会。

 最小の手間でテンポ良くこなして行く。

 

 

 

 そして運命の4月25日。グダグダと続く会議とは無関係に三ヶ国連合はその他大勢の非文明圏を煽りに煽る。

 散々に煽てられていい気になった粗末な木造船たちは自分から進んで弾除けになってくれた。

 待つこと暫し。魔信から今や聞き慣れた声が聞こえて来る。

 

「グラ・バルカスと思しき飛行機械が南西よりカルトアルパスに接近中。距離七十海里、数およそ二百!」

「二、二百だと!」

 

 今度のグラ・バルカスはどう動くんだろう。wktkして待っていると二百機全部がこちらに向かって来る。いい具合だ。瀬戸は一人ほくそ笑む。

 

「レーザーの調子はどうだ?」

「セルフテスト正常。安定動作しています」

「ある程度は引き付けてから使うぞ。敵に学習されるのを極力遅らせる必要があるからな。所詮は一発芸に過ぎん」

「そうですか? 敵にこれが防げますかね」

「防げるに決まってるだろ。この光学濃度7のレーザー保護メガネはアスクルで四万円で売ってるんだぞ。こんな物を通販で買うだけで波長八百十ナノメートルから千百ナノメートルのレーザーを一千万分の一にできるんだ。ネタが割れたら二度と使えない手だな」

 

 ドヤ顔を浮かべた瀬戸船長は濃い緑色のゴーグルをクイッと持ち上げ直す。

 

 二百機の航空機が幾つかに分かれ、それが更に三つに分かれてしきしまに向かって来た。

 低空に降りてきた二十機くらいが雷撃機。上空から急降下してくる二十機くらいが急降下爆撃。残り二十機くらいが護衛戦闘機なんだろうか。

 

「レーザー照射開始!」

 

 レーザー発振器から千七十ナノメートルの赤外線が照射される。だが、肉眼では何も見えない。

 

「あんまり面白くないっすね。って言うか、ちゃんと効果あるんすか?」

「あるんじゃないのかな。とは言え、この肉眼で見えないって所が重要なんだよ。可視光だったら目に入った瞬間に目を瞑ったり視線を反らせたりできるだろ? だけど赤外線だと気付かないうちに網膜に回復不能の火傷を負って失明するって寸法さ。凶悪だろ?」

「まさに鬼畜の所業ですね。ですけど敵がこのゴーグルを入手すれば無効化されちまうってわけですか」

「ところがぎっちょん。対抗措置は簡単さ。今回は赤外線レーザーを使ったけれど、可視光レーザーや紫外線レーザーも合わせて照射してやれば良いんだよ。あらゆる波長の光線を防ぐゴーグルなんて目隠しと同じだろ」

 

 そんな馬鹿な話をしている間にも半数以上の雷撃機と急降下爆撃機が撃墜された。残った機も明らかに挙動がおかしい。きっと失明してしまったんだろう。どうやら危機は去ったようだ。

 

 ムーやミリシアルの艦に若干の損害が出ている様だが致命傷にはなっていないらしい。

 しきしまは艦隊を組み直すと海峡入口の東側に姿を隠して待機する。

 待つこと暫し。大和モドキが姿を現した。

 

「吶喊!」

 

 巡視船しきしま、戦艦ラ・カサミを旗艦とするムー艦隊、ミリシアルの魔導巡洋艦八隻は一斉に動き出す。

 ムーの三十センチ砲やミリシアルの魔導砲が猛然と火を吹いた。

 しきしまも四機のレーザーを大和モドキの艦橋、前後の副砲、高角砲群に手分けして照射する。

 

 

 

同時刻 グラ・バルカス帝国 戦艦グレードアトラスター

 

「目が、目がぁぁぁ!」

「な、何も見えねぇぇぇ!」

「いったい何が起こっているんだ?」

「衛生兵! 衛生兵!」

 

 艦内の各部署は今や地獄絵図さながらの様相を呈していた。

 防空指揮所にいた艦長ラクスタル、高射長、測的長、外交官シエリアら十数名が失明。作戦室にいた軍医や参謀も失明。第一艦橋の航海長ら数十名も大半が失明。作戦室にいた副長が指揮を継承し、通信長が航海長を代行していた。

 副長の元に断片的で支離滅裂な報告が集まって来る。

 

「見張員や射撃手が次々と失明しているとの事です。原因が全く分かりません。ただ……」

「ただ? ただ何だ! 早く言わんか、早く!」

 

 お前が言葉を遮らなければとっくに言い終わってたんですけど? 報告に来た下士官は苦虫を噛み潰すが決して顔には出さない。

 

「敵艦隊と反対側にいる者には失明者はおりません。方法は不明ですが何らかの攻撃を受けている物と思われます」

「そんな事は言われんでも分かっておるわ! それより今は何をなすべきかと言う事だ。何か対抗策は無いのか? 敵を見ずに攻撃する方法は無いのか?」

「あ、あの……」

「あの? あの何だ! 早く言わんか、早く!」

 

 お前が言葉を遮らなければとっくに言い終わってたんですけど? 砲術課員はイラっとしたが空気を読んで我慢した。

 

「レーダー射撃を行えば宜しいのではありますまいか?」

「そ、それもそうだな。って言うか、俺も同じ事を考えていたんだ。いま言おうと思ったのに言うんだもんなぁ~! とにもかくにもレーダー射撃開始だ。急げ急げ急げ!」

 

 グレードアトラスターは四十六センチ砲による砲撃を開始した。

 

 

 

 九発の対空砲弾はしきしまの船橋の直前で破裂する。

 しきしまは巡視船としては異例なほどの重防護を施されていた。窓の内側はポリカーボネート製の防弾ガラス。外壁には防弾板も追加されている。弾片防御しか持たない現代の軍艦と比べれば幾分かはマシなくらいだ。

 とは言え、所詮は防弾ガラス。軍艦が本気で攻撃して来たら耐えられるはずも無い。

 

「レーダー射撃とは盲点だったな。うぅ~ん、もう一周!」

 

 瀬戸船長は死んだ。

 

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