巡視船しきしま船長の死に戻り   作:スカツド

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第4話 沈めろ!大和モドキを

中央暦1642年3月1日 日本近海

 

 もはや恒例となった一人反省会を瀬戸船長は粛々と遂行していた。

 

「まさかレーダー射撃と対空砲弾を組み合わせてくるとはなあ。いやいや、余りにも当たり前過ぎるから反って盲点だったぞ。取り敢えず今回はスペクトラムアナライザでも持って行くとするか。って言うか、いい加減にあの戦艦をマトモに相手してやるのにも飽きて来たな。何か良い手は無いのかなあ…… 取り敢えずは地道にデーター収集するしかないか」

 

 瀬戸船長はノロノロとベッドから起き上がるとPCを起動した。

 

 

 

十一周目 中央暦1642年3月5日 横浜

 

 船長室へと安積(あさか)副長を呼びつけた瀬戸は一切の無駄話をしないで信用を得た。

 前回のループでどうやったら彼が人の話を信じるかを徹底的に詰めておいたのだ。

 

 作戦を前回よりスケールアップするので雇う人数も増やす。

 大きな店を借り切って全員が集まった食事会を開き、意識の共有を図る。

 

「しきしまは四月十日に日本を出港する。まずは十二キロワットのファイバーレーザーを六機入手して船に搭載する。安定架台に乗せて揺れる船の上で四十キロ先の目標を正確に照射出来ねばならん。光学系の再設計、発電機、照準システム、エトセトラエトセトラ。それと指向性の高い受信アンテナとスペクトラムアナライザを用意してくれ。あと七キロ先を一メートル単位で測れるレーザー距離計が二台必要だ。確りした三脚に乗せて遠隔操作が出来るように改造する必要もあるな。離れた所から数値を読み取れる様にもしなけりゃならん」

「お任せ下さい。必ずやご期待にお応えしますよ。それだけの金はもらってるんですから」

「とにもかくにも納期厳守。質や納期で結果を出してくれればボーナスも弾むよ!」

「ありがとうございます!」

 

 時は金なり。雑多な面々は蜘蛛の子を散らすように日本中へ飛び去った。

 

 

 

 本来ならばかなりの無茶をしなければ達成できない難事業のはずだ。だが、前回の例を参考にすれば無駄な試行錯誤は大幅に省くことが出来る。

 資金も時間も大幅に節約した上で必要機材が次々と集まって来た。

 船への搭載許可にも何の障害も入らない。びっくりするほど簡単に許可が下りる。

 

 ただ、今回が初参加のレーザー距離計には散々に手間を取らされた。

 距離十二キロまで一メートル単位で測定可能な距離計は市販品が簡単に手に入る。

 だが、遠隔操作には本当に手間が掛かったのだ。試行錯誤の末、操作には違法改造して遠距離まで電波が届くよう改造したラジコンのプロポを使った。数値の読み取りはビデオカメラで撮影した映像をこれまた違法改造した送信機で飛ばしてやる。

 

「船長。何から何まで違法だらけですねえ」

「今さら言うても詮無きことじゃよ。そもそも失明レーザーの時点で違法も良い所だろ?」

「ですよねぇ~!」

 

 二人は顔を見合わせると暫しの間、大笑いした。

 

 

 

中央暦1642年4月22日 神聖ミリシアル帝国 港街カルトアルパス

 

 シエリア課長の宣戦布告、ミニラル艦長への接触、パテスとニウムの凸凹コンビとの研究会。

 判で押した様に同じ展開が続く。だが、そのお陰で先が読めるんだから文句は言えない。

 

 しきしまは二隻の警備艇を出してフォーク海峡の東西両岸に向かわせた。

 海峡の幅がもっとも狭くなった二点を選んでレーザー距離計を設置するのだ。

 レーザー距離計はまるで七倍の双眼鏡みたいな外見をしている。それを互いに相手の方向に向けて正確に設置した。何度も何度もテストを繰り返して正確な距離が測定されていることを確認する。

 これらのハイテク機器は万が一にも敵の手に渡してはならん。時限式とセンサー式の自爆装置取り付ける。まあ、本音を言えば自分が死んだ後の世界がどうなろうと知ったこっちゃないんだけれど。

 

 戦闘が始まると例に寄って例の如く、二百機の航空機が襲撃してくる。だが、いまや決まりきったルーチンワークの様に適当に雷撃機と急降下爆撃機を始末して行く。六機に増やしたレーザーは遺憾なく効果を発揮してくれた。

 待つこと暫し。大和モドキが満を持して姿を現す。

 

「船長、東が六千九百八十七メートル。西が七千三十三メートルです」

 

 瀬戸はレーザー距離計から得た数値を必死で丸暗記する。メモしておければ良いんだがループの際に物は持って行けないのだ。そうだ! 取り敢えずメモして置いて死ぬ直前にもう一回見よう。

 

「その数字さえ取れれば後はもうどうでも良いや。んじゃあ後は適当にやってお開きに…… いやいや、大和モドキの射撃用レーダーの周波数を調べておかなきゃならん。安積君、適当に回避運動を取りながら接近してくれるかな」

「アイアイサ~!」

 

 しきしまは右へ左へとランダムに回避しながら近付いて行く。

 スペクトラムアナライザの画面を見詰めていた瀬戸船長は満足げに頷いた。

 

「周波数は750MHzくらいだな。それじゃあ今回はこれでお仕舞い。あとは宜しくね」

 

 これ以降は何をやっても時間の無駄だ。瀬戸船長は拳銃で頭を撃ち抜いて自決した。

 

 

 

 

 

中央暦1642年3月1日 日本近海

 

 今回は特に反省する事は無い。それよりもやらなきゃならん事が山ほどてんこ盛りだ。

 

「750MHzって言うと旧アナログ放送の59chから60chくらいだな。放送局の中古機材でも探してみるか」

 

 瀬戸船長はのそのそとベッドから起き上がるとPCを起動した。

 

 

 

十二周目 中央暦1642年3月5日 横浜

 

 安積副長と話をして最短時間で信用を得る。作戦を更にスケールアップして雇う人間も大幅拡大だ。もういっそ法人化した方が良いかも知れんな。

 雑居ビルの三階に事務所を借りて電話も引いた。十数名のスタッフが一同に会した決起会を開いて意識の共有を図る。

 

「しきしまは四月十日に日本を出港する。まずは十二キロワットのファイバーレーザーを八機入手して船に搭載してくれ。細々した仕様はこの書類に書いてある。それから指向性の高い送信アンテナとUHFの送信設備一式が必要だ。あとは七キロ先を一メートル単位で測れるレーザー距離計が二台と遠隔操作用の機材。そうそう、忘れちゃならん物があったっけ。エマルション爆薬を…… えぇ~っと、十トンほど入手できるかな? もちろん雷管もだ」

「ば、爆薬を十トンですって? 戦争でもおっ始める気ですか、船長」

「いや、あの、その…… その気ですけど、なにか?」

「何か? じゃないですよ。そんな物が簡単に手に入ったら苦労しないでしょう? って言うか怖いじゃないですか」

「そ、そんなものかなあ? 例に寄ってムー経由で動いてもらえば良いんじゃね? 鉱山やトンネル工事で使うから輸入したいとか何とか適当な理由をつければ良いじゃんかよ。な? な? な?」

「そうかも知れませんね。そうじゃないかも知らんけど」

 

 イマイチ納得が行かないといった顔の面々は渋々ながら従った。

 

 

 

 今まで散々と横紙破りをやって来たが流石に爆薬十トンのハードルは高い。半端なく高い。

 まずは経済産業省に顔の効く国会議員を探して賄賂を送りまくった。

 だが、悲しい事に専門知識が無いのでそこから何をどうすれば良いのかさぱ~り分からない。仕方がないので札ビラを切って火薬類取扱保安責任者をヘッドハンティングすると全てを一任した。

 

「船長。こんなに大量の爆薬を船に積んでも大丈夫なんでしょうかねえ?」

「含水爆薬はとっても安全らしいぞ。エマルション爆薬は雷管が無いと起爆すら出来ないんだとさ」

「ですけど戦闘の真っ只中を航行するんでしょう? 流れ弾とか飛んで来たらどうすんですか?」

「その時は次の周回に期待だな。百万回生きた猫になったつもりで頑張ろう! おぉ~っ!」

「おぉ~っ……」

 

 疲れ果てた顔の副長はおざなりな返事を返してくれた。

 

 

 

中央暦1642年4月22日 神聖ミリシアル帝国 港街カルトアルパス

 

 シエリア課長、ミニラル艦長、パテスとニウムの凸凹コンビとのイベントを淡々とこなす。

 いい加減、このプロセスを省略できたら良いのになあ。そうだ! この辺りの事も人を雇ってやらせれば良いんじゃね? 次からはそうしよう。って言うか、もう何から何まで全部誰かが代わりにやってくれんもんじゃろうか。

 

 まずは二隻の警備艇でフォーク海峡の東西両岸にレーザー距離計を設置する。

 続いて正確に距離を測って大和モドキの通過ポイントを探す。位置が特定できたら巨大なコンクリートブロックを沈める。正確に水深を測り、水面下十二メートルに二トンのエマルション爆薬を設置した。爆薬は水面から見た時に見え辛くなるような色の袋で包み込んでおく。

 念のために四十メートル間隔で左右に二つずつ同様の爆薬を設置する。大和モドキの幅は三十九メートルほどだ。万一、コースが左右にズレても確実に始末するための保険を掛けておかねばならん。

 

 

 

 運命の4月25日。例に寄って例の如く、二百機の敵機がやって来た。八機に増やしたレーザーは凄まじい勢いで可哀想なパイロットたちの視力を奪って行く。

 ブリッジクルーたちはのんびりと紅茶を飲みながら寛いで待つ。暫くすると待ちに待っていた大和モドキが姿を現した。

 二つのレーザー距離計を結んだ線に近付くのを今か今かと待つ。

 

「敵速二十七ノット。艦首が通過して九秒後に起爆してくれるかなぁ~?」

「いいともぉ~! 三十秒前、二十秒、十秒前、通過、一、二、三、四、五、六、七、八、ぽちっとな!」

 

 大和モドキの艦橋は四十メートルを越える高さがある。だが、爆発の水飛沫はそれをすっぽり覆い隠すほど高くまで上がった。数秒後、徐々に視界が戻って来る。大和モドキは前後の二つに分離して横転し、無残な姿を晒していた。

 

 戦艦大和のバイタルパートには垂直装甲は四百十ミリのVH鋼、水平装甲は最低でも二百ミリのMNC鋼が使われていたらしい。

 だが、艦底の最も薄い部分のCNC鋼は僅か五十ミリしか厚みがなかったそうな。

 

 ひょっとして弾薬に誘爆でもしたのか。あるいは缶室で水蒸気爆発でも起こしたんだろうか。

 予想以上の快挙に瀬戸船長は喜びを禁じ得ない。思わずガッツポーズ(死語)を取ると安積副長がハイタッチを求めてきた。

 

「やったぁ~っ! とうとうあの大和モドキをやっつけたぞ。とは言え、いざ成功してみると大して面白くも無いもんだなあ」

「船長、まだ安心するには気が早いですよ。駆逐艦が三隻接近して来ます」

「夕雲型にくりそつ(死語)だな。ってことは五インチ連装砲が三基六門ってところか? アレの射程は二十キロくらいあるぞ。それに六十一センチ魚雷の四連装発射管が二基八門だしな。マトモに相手にしたら大変だぞ」

「どうせマトモに相手する気なんてないんでしょう?」

「Exactly!」

 

 瀬戸船長は親指を立てるとドヤ顔で答える。

 待つこと暫し。三隻の駆逐艦は大和モドキの生存者の救助活動を開始した。

 

「邪魔とかはしないんですか?」

「救助活動の邪魔なんて非人道的な真似をするわけがないだろう。それに救助が済んで艦内や甲板が負傷者で埋め尽くされてから攻撃した方が効率的だしさ」

「そ、それもそうっすね。流石は船長。やることえぐいっすね」

「お褒めに預かり光栄だよ。さて、そろそろ行きますか」

 

 ムーには無線で、ミリシアルには魔信で連絡を入れる。即席の三ヶ国連合艦隊は猛然と突撃を開始した。ラ・カサミの三十センチ砲や魔導巡洋艦の二十センチ魔導砲から次々と巨弾が放たれる。

 だが、残念ながらしきしまには射程の長い兵器が無い。仕方がないので射撃用レーダーの妨害やレーザー目潰しで精一杯の貢献をする。お陰で駆逐艦は禄な反撃をする事が出来ない。次々と砲弾を受けてはあちこちから炎を吹き出した。遂には抵抗虚しく沈んでしまう。

 

「やっぱ駆逐艦の防御力がブリキ並みっていうのは本当の話なんだなあ。おや? いまだに生存者とかいるみたいだぞ。異能生存体かよ! 面白そうだからちょっと拾ってみないか? やられたらやり返す、倍返しだ!」

「処刑でもしようっていうんですか? 相変わらず趣味が悪いですねえ」

「おいおい、他人の趣味に口出しするもんじゃないぞ」

 

 そんな馬鹿な話をしている間にも無数の死体の中から生存者が引き上げられる。奇跡的に生き残っていたのは意外や意外、瀬戸船長の見知った人物だった。

 

「これはこれは外務省のシエリア課長。生きていらしたんですねえ。ラクスタル艦長は死んじゃったんですか?」

「私を知っていると言うのか? ならば即座に拘束を解いてもらおう。私は外交官だぞ。もしかして外交官特権を知らないのか? それに生存者は他にも大勢いるぞ。速やかに救助して捕虜として正当に取り扱うよう要求する!」

 

 結束バンドで後ろ手に縛られた女外交官は怒りを顕に詰め寄って来た。その口調は相変わらずの上から目線だ。

 イラッと来た瀬戸船長は一瞬、ぶん殴ってやろうかと思ったが空気を読んで我慢する。

 

「貴方が外交官だと主張するのはあなたの勝手でしょう。しかし、残念ながら我が国は貴国と外交関係を結んでいない。よって外交官特権も無効です。ご愁傷さまでした。それと我が国は貴国と戦争をしているつもりは毛頭ございません。そもそも我々は軍人ではありませんし。貴方がたは海賊として討伐されたのです。当然ながら捕虜としても扱いません」

「では…… では私をどう扱おうと言うのだ? 事と次第に寄ってはグラ・バルカスは絶対に貴様らを……」

「いま言った様に貴方たちは捕虜ではありません。単なる犯罪者です。とは言え、ここに日本の司法権は及んでいないので逮捕する事もできない。正当防衛として貴方たちと戦う事になりましたが当方に損害は無いようです。よって特別の温情を持って貴方を解放しましょう。副長、放してやってくれ」

「アイアイサ~!」

「ちょ、おま……」

 

 副長はシエリアの髪を乱暴に掴むと後甲板へ引き摺る様に連れて行く。後ろ手に縛られたままの哀れな女外交官は二十五ノットで疾走する船から勢いよく海へと放り込まれた。

 

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