笑わない提督   作:オマエモ

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艦娘の前で全く笑わない提督。扶桑回。



笑わない提督13

清々しい朝の執務室に似合わない、どんよりした空気を纏わせている娘が一人。

 

扶桑だ。

先日に外出の申請があって許可を出し、今日がその外出日だったはずだが……

 

「…扶桑、どうしたんだ?今日は出かけるのではなかったのか?」

 

「…えぇ、今日は街のデパートに行くつもりだったのですが……」

 

「何か不都合でもあったのか、私にできることがあれば協力しよう」

 

「……行きたいと思っていた物産展、先週までだったんですって…」

 

「………そうか……」

 

じゃあ私にできることはないね、とは言えなかった。

資材に余裕が出てきたとはいえ、備蓄のことを考えて他の娘たちよりも出撃する回数を減らしてもらっている扶桑だが、出撃しない日はだいたい執務室にいる。

たまに買い出しを頼むが、外にはめったに出ない娘だ。

あまり鎮守府にこもって私の顔が見える近くに居ても精神的に良くないはずだ。

かといって私が外出するように命令するのも……

 

今回の外出でリフレッシュして貰えればと思っていたのだが……

そう思っていると、高雄が執務室にやってきた。

 

「失礼します提督。外出許可証を貰いに来ました」

 

「お、そういえば高雄も外出日だったな。いいだろう…」

 

…そうだ、高雄に扶桑を連れ出して貰えないだろうか?

いや、高雄のプライベートに水を差すことになってしまうか…?

 

「あれ?扶桑さん、どうしたんですか?」

 

お……?

 

「…今日は外出するつもりだったけど、もういいの…」

 

「扶桑が行きたかった物産展が実は先週までだったらしくてな」

 

「あらあら…」

 

「…空はあんなに青いのに…」

 

落ち込んでいる扶桑に声をかけた高雄が少し考えて、

 

「…あの、扶桑さん、もし良かったら私の買い物に付き合っていただけませんか?」

 

キタ!高雄が扶桑を誘ってくれたぞ!

 

「実はデパートでコスメを見て回ろうと思ってたんですが、せっかくなので扶桑さんのオススメとか教えてもらえたらなぁって……!」

 

高雄が少し恥ずかしそうに言った。

これには私も心がほっこり。

なんだろう、女の子って感じで可愛らしいな。

扶桑はというと高雄に頼られて満更でもなさそうだ。

私は無言で外出許可証を2つ取り出し、テーブルの上に置いた。

 

 

「そうね、せっかくだし高雄とお出かけするのも面白そうね」

 

扶桑はほんのり頬を染めながら高雄に笑顔で応えた。

 

あらやだ、ウチの娘たちホント可愛い。

今日の晩御飯、私が当番だし、美味しいものでもこさえるとしよう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

困ったことになったわ。

街にはあまり出ないから人の多さに戸惑っているうちに高雄とはぐれてしまった。

デパート……は、こっちの方だったかしら…?

 

少し街をさまよっていると公園が見えてきた。

日差しが強くなってきたし、少し休もう。

自動販売機で冷たいお茶を買い、屋根とテーブルとイスのある場所で休憩。

 

「はあ…」

 

物産展はダメだったし、せっかく高雄に連れ出してもらったけど迷子になるし、ツイてないわね。

艤装を展開できれば高雄がいる場所も分かるのだけど……ネガティブな思考に陥りそうになり、テーブルに突っ伏す。

……ふと隣のテーブルに人の気配がした。

顔を上げて視線で確認すると、イヤホンをつけた外国人らしき黒人男性が頭を少し揺らしながらリズムを取っていた。

 

「~~~~」

 

かと思ったら歌い出したわね。

 

「~~~~~~~~!」

 

しかも小声でじゃなくガチで歌い出したわ!なんなのこの人!?

この暑さでやられた人なのかしら?

幸い、周りにはあまり人はいないけど、他の人もポカーンとしてるわ。

と、隣にいるのが、は、恥ずかしい…!

それでも黒人男性はノリノリで歌い続ける

 

「~~~~~~~~」

 

なんかどこかで聞いたことある曲だなぁ。

 

「ま、まさか…!」

「……ボンジョ◯おじさん!?」

「え?…ウソ、本物?」

 

周りの数人が驚いている感じね、有名人なのかしら?

黒人男性は歌い続け、またサビのようなところまできた。

 

「「「~~!~~~~!」」」

 

えぇ!?さっきの驚いてた人たちも歌い出したわ!!

なんなの、これぇ…

 

「…そこのお姉さん、…あんただよ!」

「あんたも一緒に」

「さあ!」

 

「え、えぇと」

 

「~~~~~~~~~~」

 

「「「「~~!~~~~!」」」」

 

……あれ、なんだろう…

 

「~~~~~~~~~~」

 

『~~!~~~~!』

 

なんか気持ちいい…それに心なしか一緒に歌う人が増えてるような……

 

『「~~~~~~~~~」』

 

『『~~!~~~~!』』

 

気づけば公園にいる人のほとんどが一緒に歌ってた!

黒人男性も皆の声の大きさにびっくりして、イヤホンを取って驚いた様子で周りを見回してたわ。

皆で歌っていたのに気がついて照れたように片手を上げて挨拶したあと、そそくさと去って行ってしまった。

 

「す、スゲーな…あれ、本物かな」

「本物の◯ンジョビおじさんだろ、俺は詳しいんだ」

「てかこの国に来てたの!?」

「感動した!」

 

周りの人たちも徐々に解散していったわね。

なんだか夢みたいな体験だったわね。

そこでふと私服のポケットが振動してるのに気づいた。

あ!そういえば、スマホがあるじゃない、きっと高雄からね!

 

「もしもし」

 

『あ!扶桑さん!?良かったぁ、今どちらですか?』

 

「高雄?ごめんなさいね、迷子になってしまって、今は公園にいるみたいなんだけど…」

 

『あ、スマホのGPSがあるんでした!今そちらまで行きますから待っててくださいね』

 

「ありがとう、待ってるわね」

 

良かった、高雄が迎えに来てくれるらしい。

物産展はダメだったし、迷子になってしまったけど、公園で大勢の人と一緒に歌ったのはちょっと楽しかったわね。

高雄が来たらこのことを話してあげましょう。

 

 

 

「え!ウソ!ボン◯ョビおじさん、いたんですか!?ホントに!?」

 

「えぇと、…ボン◯ョビおじさんかは分からないけど、公園で歌ってたのよ、そしたら皆で『うぉーお!りびおなぷれぃあ!』っていつの間にか合唱になってたわ」

 

「う、うぅ…」

 

「高雄…?」

 

「羨ましい!!ボ◯ジョビおじさん、私も会いたかったです!!」

 

ボ◯ジョビおじさん、私は知らなかったけど、やっぱり有名人だったのかしら。

鎮守府に帰ったら皆に聞いてみようかしらねぇ。

 

 




登場人物

斧田誠一郎
出不精気味の扶桑が外出してくれた嬉しさで作った晩御飯はハンバーグカレー。

扶桑
他人から見ると凄くラッキーな出来事に遭遇することがあるが本人に自覚はない。

高雄
扶桑さんが迷子にならないように帰りはお手て繋いで帰りました。


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