『そっちで合同演習をしないか』
と電話口でそう提案してきたのは海軍養成施設で共に候補生時代を過ごした同期の友人、矢間田だった。
候補生時代は、ただ単に提督になってハーレムを作りたい一心でひたすら勉強し、鍛練に励んだ。
今、客観的に省みるとなんという俗物だったのだろうかと恥ずかしく思う一方、そのおかげで飛び級で施設を卒業して士官になれたことに対するなんとも複雑な思いがある。
わずか一年ほどだったがその候補生時代に何かとツルむことが多かった同期生がいた。
矢間田時雨。
訓練や講義でタッグを組む際はだいたい一緒で、休日のバイトも遊ぶ時も一緒だった。
男とは思えないようなキレイな顔立ちのくせに、体力がありスポーツ万能、休日のバイト先の喫茶店では私は厨房で裏方だったが、そいつはその甘いマスクで接客を任されていた。
顔立ちが良く、成績も良い人気者の素質を持っていた彼。
訓練や講義では密かにヤツを参考にしていたものだ。
そんな王子様感のある矢間田だったが、当時私がハーレムの夢を語った際、彼が語ったのは
「白露型ハーレムを作りたい、キャワイイよね、あぁ、白露型…!」
という夢だった。今思えば、人のことを言えないが少々残念なところのあるヤツだった。
完璧なヤツなどいない、どこかそういう残念なところがあるほうが親しみが湧きやすい。
ましてや、私と似たような目標を持ったそいつに私は好感を覚えたものだった。
私が養成施設を卒業して2、3年くらい経ち、まだ各鎮守府、大本営で下積みをして本物の提督像を学んでいた頃にヤツは持ち前の優秀さで新しく建てられた鎮守府の提督として抜擢された。サポートとしてヤツの鎮守府に赴いたこともある。
いわば、ヤツは提督としては先輩だった。
『ーーそれで、どうだろうか?合同演習』
「あぁ、ありがたい申し出だな、是非やろう」
提督として、鎮守府として後輩であるこちらからしたらかなりありがたい。
ウチの娘たちもよその鎮守府の娘に学べるところがあるだろう。
「ウチとしては対空の演習を取り入れてもらえるとありがたい、ウチにはまだ空母がいないから充分な訓練ができてないんだ」
『いいよ、僕のところには飛龍、蒼龍、瑞鳳、祥鳳がいるから』
「羨ましい戦力だな」
『ふふ、僕からとしてはお互い水雷戦隊での模擬戦をお願いしたいかな。聞いてるよ、戦艦棲姫を撃破したって。ククッ、さすがじゃないかこのニヒルなマフィア提督め!』
「ぐ、そのネタでいじるのはヤメロ、それは私に効く!
いいだろう。ウチの娘たちの力を存分に見せてくれる!」
こいつめ、いつまであの提督特集での私をいじるつもりだ…。
「日取りはいつが良いだろうか、こちらは基本的にいつでもかまわないが…」
『こちらの連れて行く娘たちを厳選して、出撃スケジュールを調整して、そうだね1週間後でいいかな?』
「1週間後だな、分かった、こちらも歓迎の準備をしておこう」
『ふふ、じゃあよろしくね。会えるのが楽しみだよ、誠一郎』
「…あぁ、じゃあまたな」
…何が、会えるのが楽しみだよ、だ、お前はカヲル君か。
イケメンキャラの台詞もヤツが言うと違和感がないな。
1週間後か、まずはウチの娘たちに知らせて、誰に参加させるか考えて、当日の任務スケジュールを調整しなければな。
「いつもより声色がよろしいような………電話、どなたからですか……?」
「あぁ、扶桑、私の士官候補生時代の同期生でな。
鎖武尊(さむそん)鎮守府の提督、矢間田時雨少佐だ」
「(やまだ……しぐれ…?)…その……女、ですか…?」
「いや、男だ。
1週間後にウチで合同演習をすることになった」
「………へぇ…」
久しぶりの友人と再会できることに心を躍らせながら、私は執務を再開した。
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「ご主人様?どうしたんですか、妙に機嫌が良さそうですね」
僕の機嫌の良さを察したのか、秘書艦の漣が私に尋ねた。
「ふふ、士官候補生時代の同期だった旧友のところで合同演習の約束を取りつけてね」
「……オトコか…!」
「ふふふ、そうさ、僕の、イイオトコさ…!」
「ほーん」
「………」
…あれ…?漣のことだからもっとこの話題に食い付いてくるかと思ったけど…。
「…まぁ、貴女は艦娘として今まで頑張ってきたんだし、艦娘あがりの今ならそういうものの一つや二つくらいあったって良いと思いますよ!」
「さ、漣……!」
……いや、イイオトコってのは分かり易い冗談なんだけど…。
いつもはお調子者のような態度の漣だけど、今みたいに背中を押してくれるようなことを言ったり、こちらに親身になってくれたりすることがたまにある。
提督になった時から支えてきてくれた頼もしい初期艦だった。
「それで、そのイイオトコってのはもしかして漣の知ってる人?」
「そうそう、僕が提督になったばかりの頃に執務のサポートで3ヶ月くらい一緒だった斧田誠一郎だよ」
あの時は3年ぶりの再会だったな、候補生時代に比べて随分提督という存在に対して真摯になってたけど顔は相変わらず残念なままで絶大な安心感があったよ。
「……あぁ~、ハハ、そりゃイイオトコだ、草」
漣にさっきの冗談が伝わったらしい。
艦娘あがりだからといっても、僕は軍人として海軍に戻ってきた。男女のイイ仲なんてものに現を抜かしてはいられないだろう?
誠一郎はただの
大事な友人さ。
さっきはたまにしかないキレイな漣を見せてもらったけど、これは期待を裏切ってしまったかな。
「…んで、ご主人様が留守の間は漣がこの鎮守府の主として君臨できるわけですね」
「いや、別に鎮守府の主の座は渡さないけど、話が早くて助かるよ。1週間後にじぇいこぶ鎮守府に行ってくるからその間お留守番お願いするね」
「はいはい、りょーかいしましたよ~」
さて留守の間は漣に任せるとして、誰を連れていこうか、誠一郎は空母をと言っていたね。
二航戦は主力だから残っておいてもらいたいし、祥鳳は漣を心酔していて離れたがらないだろうから瑞鳳に頼むしかないな。
あとはウチの水雷戦隊か……。
空母のいない誠一郎のじぇいこぶ鎮守府は水雷戦隊が主力なのだろうから相当な手練れ揃いだろう。
こちらが胸を借りるつもりで、
誠一郎の胸を借りるつもりで、
せ、誠一郎の胸板を!…クンカ、クンカ……!
っはぁ!!?な、何を考えているんだ僕は!誠一郎は大事な友人だ!!
友人でそんな妄想なんて、いかんですよ!とりあえず合同演習のメンツを考えろ!
えぇーと………ーーー。
合同演習が終われば、空いた時間でまた昔みたいに一緒に街を回ったり、抱きついて一緒にプリクラ撮ったり、一緒にご飯食べたりできるはずだ。
……トモダチなんだ!それくらいフツーだろう?
ポケットから取り出した手帳に貼られた古いプリクラシール(ズッ友、はぁと。)に心の中で語りかける。
そんな僕の様子を漣は何故か残念なものを見る目で見つめていた。
登場人物
斧田誠一郎
矢間田は女顔の小柄イケメンだと思っている。
矢間田時雨
さむそん鎮守府の提督。斧田とはトモダチ。
漣
自分の提督が見た目が残念な男に男だと思われているのを察している。