お昼ごはんを食べ終えて加賀さんを弓道場まで案内する。
着任したばかりの頃、電ちゃんに鎮守府内を案内してもらったから場所は分かってる。
というのも、私はまだ弓道場を使ったことがなかったので使うのは実は今回が初めてだった。
履き物を下駄箱にしまい、加賀さんと弓道場の入り口に立つ。
「道場に出入りする時は必ず神棚、もしくは上座に一礼すること」
そう言って加賀さんは入り口から見える神棚に一礼して入場した。私も加賀さんの真似をして道場に入る。
へぇ、弓道場ってこんな感じなんだ。
床が板張りで縁側の先に的が置かれた土壁…。
「瑞鶴さん」
「へぁ!?」
私がキョロキョロしていると加賀さんがさん付けで私を呼んだ。
「ウフフ、ごめんなさいね、道場では相手を呼ぶ時は敬称を付けるのが基本なのよ」
「わ、私は瑞鶴で、呼び捨てでいいです…!」
「あらそう、分かったわ、瑞鶴。稽古の前後に軽く掃除をするのだけど、ここは随分綺麗にしてあるわね」
「あ、えと、私は初めてだし、使われてなかったから…?」
「いえ、使われてなかったとしたら傷んでいる箇所があるはず……矢道の芝も安土もちゃんと手入れされているようね。きっと斧田くんね」
そういえば提督さんは待望の空母がきたと喜んで歓迎してくれてた。
きっと、いつか着任するであろう空母の為に毎日手入れをしてくれていたのかも知れない。
私の為に、そう思うとより一層、みんなの為に強くなろうという想いが強くなってきた。
今日、加賀さんに弓道場を使った鍛練を学んで、明日からできるだけ毎日やってみよう!
床を乾拭きして加賀さんに教わりながら道具を準備し、弓の引き方を手取り足取り教えてもらった。
加賀さんは丁寧に教えてくれてたけど、加賀さんの温かい手が私の体に触れる度にちょっと顔が熱くなっちゃいそうだった。
だって加賀さんのキレイな顔が近くて、いい匂いがしてるんだもん。
…いけない、いけない!ちゃんと集中しなきゃね。
射位と呼ばれる立ち位置から、安土の的までの矢道が28メートル。
加賀さんは静かに綺麗な所作で弓を引き的の中心に矢を中てた。
矢を放ったあともまさに静謐だった。
「き、きれい…」
「弓道の稽古を通して精神を鍛え、戦場で弓を引く時に落ち着いた精神が集中力と冷静な判断力をもたらしてくれるはずよ」
加賀さんはそう言って二拍手して安土の的に刺さった矢を引き抜いて戻ってきた。
「そうそう、安土まで矢を取りに行く時は二拍手して取りに行きますよと自分の存在を示してから取りに行くの。事故が起きないようにね」
「やってみる」
気持ちを落ち着けて、弓を引く、的を狙って……。
ストン。
「あ、当たった……あ、」
射ったあとの所作もちゃんとしないと…!
安土まで矢取りに行き、戻る。
「瑞鶴……そうね、的を射るのが本質ではないわ。無心で放つ矢の進む先は本当は何も無くて良いの。矢の進む途中に的があるからそこに中たって刺さるだけで……教えるのって難しいわね」
私の射を看た加賀さんはそうアドバイスして考え込んでしまった。
でも、加賀さんの言いたいことはなんとなく伝わってきた。
「精神を鍛えて集中力を高める稽古、というか訓練だから、無心になることに集中して弓を引いてみましょう」
加賀さんの話を聞いてまた弓を引く、的が引き絞った矢の先にあるけど、その先まで、何もないその先まで矢が飛んで行くイメージで、放つ。
ストン。
的の中心に矢が刺さる。でもイメージの中だと私の矢はいまだにまっすぐに飛び続けている。そして中たったと感動するでもなく、心静かに加賀さんをイメージして残身する。
残身を終えて加賀さんに振り返ると
「良いわね」
加賀さんが頷いていた。
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お昼ごはんの時は兼ねてより経験してみたかったシチュエーションのひとつ、
《瑞鶴のおべんとを取ってあげる》
を遂行することができたわ!
指先で感じた瑞鶴の頬っぺたのやーらかさしゅごい!尊い!
というか、この瑞鶴、素直過ぎて激カワなんですけど!?
いいのかしら?私、この娘お持ち帰りしてしまってもいいのかしら?
私は溢れ出そうになる想いをなんとか封じ込め、頼りになる先輩を演じている。
そうしないと前の瑞鶴(?)みたいにガツガツいくと逃げられてしまうかも知れないから。
私は同じ失敗を繰り返さないようにあの日の戒めとして瑞鶴(?)の下着を肌身離さず持ち歩いている。
今も白い胴着の内側に入れてあるわ。
お昼からは弓道場で瑞鶴と二人っきり、文字通り手取り足取りオシエテあげないといけないわね。
指先で触れたやーらかいところよりももっとやーらかいところをこの手で……エヘヘ。
瑞鶴は弓道場を使うのが初めてのようだった。
私と初体験ね……ひゃっふー↑↑
……おっと、いけない……、まずは作法から教えていかないと。
思ったより綺麗にしてあるわね。瑞鶴と一緒に軽く掃除して準備を終えたら、いよいよ手取り足取り教えるわ。
オシェイ!!
エーイ!オッシェ~イ!(心の掛け声)
瑞鶴に密着するようにして片方の手で瑞鶴の手を握る!
瑞鶴のお手手やーらかい!いい匂い!
このまま、時よ止まれ…!
もう片方の手で、お、ヲシリィ~ズ!!
ふぅ、堪能したわ。
名残惜しいけど、やり過ぎるとアブナイからこの辺でヤメときましょう。
気持ちの昂りを落ち着かせる為にまず一射。
私の心の矢の飛ぶ先は……瑞鶴のハート!!
………ふぅ。
「き、きれい…」
お、瑞鶴のハートに中たっちゃったんじゃないのくぉれは?
瑞鶴も射に入った。その姿を後ろから眺める。
瑞鶴のうなじ!うなじ!うなじ!
お、瑞鶴もちゃんと的に中たったようね。正直、瑞鶴のうなじしか見てなかったけど、何か、何かアドバイスっぽいことを言わなきゃ…!
とりあえずそれっぽいこと言うと瑞鶴はまた射位に立ち射に入った。
あらら~^素直な瑞鶴の性格が表れた良い射ねぇ~^
そして瑞鶴のうなじ、
「良いわね」
瑞鶴が振り返り照れたようにはにかんだ。カワイイ。
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加賀さんと長門さんが帰る時間になった。
朝は演習を指導して、昼からは長門さんは白露や夕立たちの遊び相手をし、加賀さんは瑞鶴と弓道場で射込みを行ってくれていたらしい。
かつて同じ釜の飯を食った誼とはいえここまで私達に手を貸してくれる彼女たちと波羅田さんに本当に感謝だ。
扶桑と電を伴い港で二人を見送る。
「長門さん、加賀さん、お疲れ様でした。特に今日は加賀さん、わざわざウチの瑞鶴の為にありがとうございました」
「いいのよ、後進を育て上げるのも先輩の務めだわ」
「不知火も可愛いヤツだったなぁ、陽炎の後ろをちょこちょこ付いて回ってて…」
港から海上に立つ二人に礼を言う。
艤装を展開して立つ二人の姿はまさしくこの国の守護神のように輝いて見える。
その強者的で心強く頼もしい存在感、素直に格好良いと思う。
加賀さんのいつでも落ち着いた精神は私も見習っているほどだ。
「「「長門さ~ん!また来てねー!」」」
「イッチバ~ン!」
「またドッジボールやるっぽい!」
「長門さ~ん!」
「またご教授お願いします」
白露や夕立、朧、潮、磯波、陽炎に不知火。
長門さんの見送りにやってきたようだ。
ウチの駆逐艦に大人気だな、長門さん。
「加賀さーん!今日はありがとう!」
駆逐艦たちに交じって瑞鶴もやってきた。
瑞鶴はウチで現在唯一の空母。同じ艦種で先輩の加賀さんに指導してもらえたことによほど感激したのだろう。
「瑞鶴、また聞きたいことがあれば、いえ、聞きたいことがなくてもいつでも連絡をちょうだい」
「ティヒヒ、ありがと、加賀さん」
どうやら随分仲が良くなったらしい。お互いの連絡先を交換しているようだった。
艦娘たちの親交が深まるのは良いことだな。
「心配はご無用でしょうが、帰り道もお気をつけて」
「ふふ、ではな誠一郎」
「また来てあげるわ」
敬礼して二人を送り出す。
二人も敬礼して後ろに向き直り、横須賀に向けて出港していった。
そのマブシイ後ろ姿を目に焼き付ける。
みんなもいずれは彼女たちのような立派な存在になって欲しいと願っている。
その為にも私自身が学び成長し、彼女たちを上手く運用できるようにならなければな。
登場人物
瑞鶴
憧れの加賀さんとLIN○交換した。
素直。カワイイ。
加賀さん
懐には深海鶴棲姫の下着、心の内には瑞鶴への下心を忍ばせながらでもクールな表情を崩さず完璧な射込みを行える。
つよい。
斧田誠一郎
艦娘の前で全く笑わないポーカーフェイススキルは実は加賀さんの薫堂を受けているから。
素直。