笑わない提督   作:オマエモ

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艦娘の前で全く笑わない提督。有給休暇を取る。その朝。



笑わない提督23

……有給休暇。

私は今、提督となって初めての有給休暇をどうやって過ごそうかと悩んでいる。

先ほど今日の執務を終えた私に大淀から有給休暇を取るように勧められたのだ。

 

執務については大淀と電が引き受けてくれるらしいし、休みを取らない組織の頭が部下に休みを取れと言っても説得力がなくなるだろうという意見を受け休暇を取ることにしたのだが、どうしたものか…。

 

 

 

「む、斧田提督?難しい顔をして悩んでいるようだがどうかしたのか?」

 

夕食を食べ終えて、グラウンド横の喫煙所で一服しながら考えていると絵口さんが声をかけてきた。

 

「えぇ、先ほど大淀に勧められて明日は非番になったのですが何をしようかと……」

 

「ほぉ、非番の過ごし方か…」

 

特に予定も決めていない。

もったいない休みの取り方だっただろうか。

私の話を聞いて絵口さんは煙草に火を点けて考え込んでいた。

 

「……そういえば、街の駅の方に旨いとんかつの店ができたと妹から聞いたのだが」

 

「へぇ、とんかつですか」

 

どうやら休みの過ごし方を提案してくれたようだ。

とんかつか、サクリと揚がったジューシーな肉厚のとんかつに甘辛いソース、シャキシャキの千切りキャベツと一緒に口に放り込み、喉にビールを流し込む……。

先ほど夕食を食べたばかりだが、想像しただけで旨そうだ。

 

「…たまには外食も良さそうですね!明日、行ってみます」

 

「そうか、情報が役に立ってなによりだ」

 

 

よし、明日は街を適当にぶらついて、昼はそのとんかつの店で昼食を摂り、駅前の洋菓子店で皆に土産でも買って帰るとするか。

吸い込んだ最後の煙をふーっと吹き出すと、煙草を揉み消し吸い殻入れに捨て喫煙所を後にした。

 

とりあえず明日の過ごし方が決まり、少しワクワクしてきた私は風呂に入り、ハーフパンツにタンクトップのラフな寝間着に着替えて眠りについた。

 

 

 

 

 

次の日目を覚ますとマルハチマルマルを過ぎた辺りだった。

非番とはいえ大分寝過ごしたな。

窓を見ると外は良く晴れていて日射しがまぶしい。

セミの鳴き声も聴こえる。

うむ、夏だなぁ。

起き上がって洗面台に向かう。

顔を洗っていると、自室のドアをノックする音が聞こえた。

 

「開いている、入りたまえ」

 

タオルで顔を拭きながら返事をするとガチャリとドアが開く。

入室してきたのは大淀だった。

 

「大淀です。……!、……提督おはようございます!」

 

一瞬、大淀がピクリとした気がする。

そういえば今は寝間着のままだった。提督として格好のつかない姿に見られてしまっただろうか?

いや、格好がどうであれ、提督らしい堂々とした態度を心掛けていれば大丈夫だろう。

 

「うむ、おはよう、大淀。…非番とはいえ少し寝過ぎたな……」

 

「いえ!せっかくのお休みの日くらいはゆっくりなされても誰も文句は言いませんよ」

 

そう言って大淀はニコリと微笑む。

それだけで有給なんていらないくらい癒されるのだが、せっかく大淀が勧めてくれた休日だ。ありがたく堪能するとしよう。

 

「ところで提督、朝ごはんはどうされますか?」

 

「そうだな、今から軽く体を動かしてくるから朝食は後で自分で用意する」

 

「かしこまりました!」

 

高いモチベーションの籠った良い返事だ。

これなら安心して代理を任せられるな。

 

「………」

 

「………」

 

さっそく運動着に着替えようかと思ったが、大淀の前で下着姿になるのはさすがに悪い気がする。

……だが何故か、大淀はこちらにアツい視線を送ったままその場を動かない。

 

 

「……大淀」

 

「はい!」

 

「……今日は一日、代理を引き受けてくれてありがとう。よろしく頼む」

 

「お任せください!」

 

「…うむ」

 

「………」

 

 

……着替えるから出ていけと言うのはなんだか自意識過剰な気がするし、男である私がそのような婦女子みたいな態度をとるのも気持ち悪いだろう。

ここは男らしくさらっと着替え始めれば大淀も退室するはずだ。

 

「さて、着替えなければ……」

 

「………」

 

いきなり着替え始めるのも配慮がないだろうし、一応、声に出して大淀に背を向けタンクトップに手をかける。

 

「………」

 

「……!」ゴクリッ

 

……大淀が部屋を出ていく様子がない。どうしたのだろうか?まだ何か用があったのだろうか、タンクトップを脱いでしまった今、訊ねるのは着替えながらで聞き流しているように思われるかも知れない。

着替え終わってからちゃんと聞くとしよう。

 

 

脱いだタンクトップを洗濯行きのかごに入れてタンスのTシャツを取り出そうとしたところで、

 

「大淀さーん、この書類は……」

 

大淀が開けたままにしていた部屋のドアから、同じく提督代理を頼んだ電がひょっこり顔を出した。

 

「!はっ、はわわ!!」

 

 

私が着替えているのを察した電が驚いた声をあげる。

やはり男といえどさすがに人前で肌をさらすものではなかったな、電をびっくりさせてしまった……。

 

「……ハッ!て、提督!し、失礼しました!!」

 

「はわわ、しっ司令官さんっ!エッr……!!」

「さぁ!電ちゃん行きましょうっ!!今日は頑張りましょうねっ!!?」

 

「はわわわ!!」

 

「………うむ」

 

 

電に呼ばれて大淀は慌てたように反応して、二人はせわしなく部屋を後にしていった。

大淀は何か用があった訳ではなかったのか。

まぁ、大淀と電ならば今日一日の提督代理は恙無くこなしてくれることだろう。

上半身裸のまま軽く首と肩をストレッチして運動着に着替えた私はグラウンドに向かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

今日は提督の代理として一日執務を行う。

毎日休むことなく執務に励む提督に有給休暇を勧めたのは、たまには提督にも息抜きをしてもらいたかったからだ。

 

電ちゃんと朝の哨戒組の娘たちを送り出し、大本営からきた電報をチェックして書類を作成していく。

ちらりと時計を見ると時刻はマルナナゴーマル。

休暇を取られているとはいえ一応提督を起こしに行った方がいいだろうか。

 

「大淀さん?」

 

「あ、電ちゃん、ごめんなさいね、どうかしましたか?」

 

「最上さんが外出許可証を貰いに来てて」

 

気がつくと最上さんが爽やかなスマイルを浮かべて待っていた。

電ちゃんは外出許可証の管理場所が分からなくて私に訊ねていたようだ。

 

「はい、外出許可証ね、最上さんも今日は非番でしたね」

 

外出許可証を取り出し最上さんに渡す。

 

「ありがとう、えへへ、実は今日、他の鎮守府の姉妹と会う約束してるんだ」

 

最上さんは嬉しそうにそう言った。

 

「最上さんの姉妹艦ですか?どうやって知り合ったんです?」

 

「艦娘SNSで知り合ってね。呉の鈴谷と熊野が提督の用事で一緒にこっちに来てるみたいだから」

 

鎮守府専用ネットワークの艦娘SNS。主に情報交換の場として取り入れられたものだ。

なるほど、そこなら確かに他の鎮守府の姉妹とも連絡が取れる。

 

「いいなぁ、電も雷ちゃんとか響ちゃんとか暁ちゃんに会ってみたいのです」

 

電ちゃんはやっぱり第六駆逐隊の娘たちに会いたいようだった。

大本営にいた頃に他の鎮守府の提督に付いて来ていた第六駆逐隊の娘たちを皆微笑ましく思ったものだ。

 

 

「そういえば、提督も今日は非番なんだね」

 

「はい、提督はお休みですよ」

 

「さすがに起こしに行ったほうが良いんじゃない?提督も何か予定があるかも知れないし」

 

「うーん、そうですね、ゆっくりお休みかも知れませんが一応声をかけてみます」

 

「電がここは見ておくのです。大淀さんお願いできますか?」

 

提督の椅子に座った電ちゃんは動きたくないようだった。

執務はきちんとやってくれているが、小さな娘が提督ごっこをしているようで微笑ましい。

 

「はい、かしこまりました電提督代理」

 

「えへへ!」

 

「それじゃボクはこの辺で」

 

最上さんは自室に帰っていき、私は提督の自室に向かう。

 

 

 

提督の自室のドアをノックすると返事がきた。

 

「開いている、入りたまえ」

 

提督は起きていらっしゃったんですね。

挨拶だけでもしておこう。

 

「大淀です。……っ!?」

 

ドアを開けて目に飛び込んできたのはハーフパンツにタンクトップ姿の提督。

普段白い提督服の上からでもわかる鍛えられたカラダが生地の薄いタンクトップ越しにあった。

 

「……提督、おはようございます!」

 

「うむ、おはよう、大淀。…非番とはいえ少し寝過ぎたな」

 

「いえ!せっかくのお休みの日くらいはゆっくりなされても誰も文句は言いませんよ」

 

ふぁぁ、スッゴイ、肩、腕、胸、腹筋、…バッキバキやないかいっ!!

なんですかその腹筋、板チョコかっ!!

提督の鍛えられたカラダに思わず頬が緩む。

 

「ところで提督、朝ごはんはどうされますか?」

 

「そうだな、今から軽く体を動かしてくるから朝食は後で自分で用意する」

 

「かしこまりました!」

 

用事は終わったけど、提督のカラダから目が離せない!

特に首から肩にかけての部分!

鎖骨!鎖骨!

 

「……大淀」

 

「はい!」

 

「……今日は一日、代理を引き受けてくれてありがとう。よろしく頼む」

 

「お任せください!」

 

提督はそう言って軽く頷く。

提督に信頼されているのだと思うと嬉しくなり、鼻息が荒くなりそうだ。

 

「さて、着替えなければ……」

 

提督が背を向ける。

って、え、脱ぐ、脱ぐの!?

私の鼻の穴と目がこれでもかと見開く。

ゴクリッ!

 

ほ、ほあ~~~!引き締まった背中が、尻が!

 

提督が着替えのTシャツを取り出そうとして動く度にそのカラダの筋肉達が躍動するのを目に焼き付ける!

さ、触りたい……ハアハア!

 

「大淀さーん、この書類は……!はっ、はわわ!!」

 

「……ハッ!て、提督!し、失礼しました!!」

 

イカン!なに私はナチュラルに提督の生着替えを熟視しているんだ!

 

「はわわ、しっ司令官さんっ!エッr……!!」

「さぁ!電ちゃん行きましょうっ!!今日は頑張りましょうねっ!!?」

 

「はわわわ!!」

 

電ちゃんにはまだこういうのは刺激が強いだろう。

私達は慌てて提督の自室を後にした。

 

 

 

「お、大淀さん、司令官さんの部屋でナニしてたのです?」

 

「え、いや、ただ提督にご挨拶してただけですよ」

 

「ご挨拶してただけで提督の、その、カラダを…」

 

「……電ちゃん、このことは皆には内密にお願いします」

 

「……わ、分かったのです。…でも次は電が起こしに行くのです!」

 

「……い、いいでしょう。でもこれは二人の秘密ですよ」

 

 

 

 

 




登場人物

斧田誠一郎
提督。顔はグロメンだが体は日々のトレーニングでバッキバキ。

絵口信二
憲兵。妹から聞いたとんかつ屋の情報を非番前夜の斧田に提供する。

大淀
普段は白い提督服の斧田がラフな格好で引き締まったイイカラダを晒しているのをガン見。

電
司令官の背中がとてもイイと思いました。

最上
艦娘に与えられる情報端末で呉の姉妹艦と会う約束をしていた。
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