笑わない提督   作:オマエモ

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艦娘の前で全く笑わない提督。最上のお茶会。



笑わない提督25

姉妹艦と会う約束の待ち合わせの場所でペットボトルのお茶を飲む。

今日は良い天気だ、海上程じゃないけど日射しが強い。

同室の筑摩さんが白い麦わら帽子(ストロウハットというらしい)を貸してくれた。

外行きの私服を持ってなかったからジャージで出かけようとしたところ、同じく同室の利根さんもせっかくだからと白くてヒラヒラの可愛いらしいワンピースを贈呈してくれた。

 

貰っといて着ないのは悪いから着てみたけど、大丈夫かな?ヘンじゃないかな?

一応、利根さんたちは可愛いと言ってくれたけど……。

やっぱりボクにはこの格好、お洒落過ぎたんじゃないかと一人でモジモジしてしまう。

 

 

 

 

 

「ねぇキミ、待ち合わせ中か何か?」

 

いきなりフレンドリーな感じで話しかけてきたのは知らない若い男の人だった。

 

「う、うん、妹たちとここで待ち合わせ、してます」

「そうなんだ!…ここじゃ暑いだろうし、どっか涼めるところで時間を潰さない?」

 

普段、海風があるとはいえ海上でもっと強い日射しの中で哨戒任務をしたりするからボクはそこまで苦じゃないけど、確かに今の気温は高い。

この男の人はボクを心配してくれているのかも知れない。

情報端末で時間を確認すると待ち合わせの10分前くらいだった。

 

「多分もうすぐ来ると思うから大丈夫です。心配してくれてありがとうございます」

「わお、可愛いうえに素直!でもホントに時間通り来るか分かんないよ?一応連絡だけ入れてさ、近くのカフェにでも行こうよ!」

 

見ず知らずのボクを心配してくれるなんて、いい人だなぁ。

でも鈴谷も熊野も艦娘であり軍人だ、オフとはいえ予定時間は守るだろうし……。

 

「ボクは大丈夫だから、妹たちもきっともう来るので」

「あ、じゃあ10分だけ!10分だけ一緒に…」

 

10分じゃあもう妹たちがここに来てるよ、

と返事をしようとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

「とぉぉおおぉおぉおぉぉ~う!」

「ぐぼぁっ!!」

 

目の前の男の人に、トーキックをぶちかます妹、熊野が現れた。

 

 

 

 

「わ、わあ!」

「最上お姉さま、ご無事ですか!?」

「も、モガミ~ン!お待たせ~!」

 

熊野に続いて鈴谷がやってきた。

時間を見ると待ち合わせの7分前。やっぱり妹たちは時間を守る良い娘たちだ。

 

 

…って、そうじゃない!男の人は大丈夫なの!?

 

「く、熊野?いきなり知らない人に暴力なんて……」

「あら?……ホントに最上お姉さま?」

 

熊野を諭そうとしたら何故かキョトンとされちゃった…。

 

「熊野、だから最上お姉ちゃんは最上お姉ちゃんでもこの最上お姉ちゃんはモガミンなんだって!」

「………確かに、最上お姉さまなら私が助けずとも『消えろ、毟るぞ』って追い払いそうですわね」

 

え、えぇ!?ボ、ボクはそんなことしないよ!

 

「あとモガミン、今の男は明らかにナンパだったよ!気をつけないと!あぁいうのは下心しかないんだから!」

 

あ…、あの男の人、そうだったのか…。

じゃあ熊野はボクを助けるつもりで……。

 

「そうだったんだ、熊野、ありがとう。鈴谷も。今度から気をつけるよ」

 

「素直っ!!最上お姉さまが素直!新鮮!カワイイッ!」

「ヤダ、ホントにモガミン、ウチの最上お姉ちゃんと同じ最上とは思えないっ!」

 

熊野と鈴谷にお礼を言うとなぜだか凄く感動した様子だった。

最上お姉さまっていうのは鈴谷たちの鎮守府のボクのことなのかな?

 

「と、とりあえず今の熊野のせいでざわついてるから、どっか行こ!早く!」

「え?」

 

「そうですわね。って!私のせいではありませんわ!其処の男が汚らわしくも最上お姉さまにナンパなどという………」

「いいからいいから!」

 

ボクは鈴谷と熊野に手を引かれて待ち合わせ場所を後にした。

熊野に蹴り飛ばされた男の人、大丈夫かな?

 

 

 

 

 

 

 

少し歩いて駅前の洋菓子店に併設されたカフェに入った。

店内には、ほんのりと甘い香りが漂っている。

空調も効いていて中々居心地が良さそうだ。

 

「テキトーに入ってみたけど、なかなか良さそうじゃん」

「本当ですわね、いい匂いがしますわ」

 

ウェイトレスさんに案内されてカドのボックス席に座った。

サーブされた水を一口飲んで鈴谷が口を開いた。

 

「えぇと、改めまして、呉鎮守府所属の鈴谷だよ」

「私が熊野ですわ」

「…ボクはじぇいこぶ鎮守府の最上!って、姉妹艦同士で自己紹介はなんだか照れくさいね」

 

 

 

 

 

 

ドリンクバーとおやつを楽しみながら姉妹とのおしゃべり。

お互いの鎮守府がどんな感じか、提督がどんな人か、仲の良い娘の話とか、鈴谷と熊野は次々にボクに聞いては自分たちのことも話してくれた。

 

呉の鎮守府では提督が野球好きで艦娘達に野球を教えているとか、提督は食堂のおばちゃん(お母さんと呼ばれているらしい)と結婚しているとか、那珂ちゃんが自作の新曲CDを出したとか。

 

そんな話を聞く内にボクが気になっていたことを聞いてみた。

 

「そういえば、そっちのボクってどんな感じなの?」

 

「え…………」

「…………!!」

 

ボクのその質問に鈴谷の笑顔がフリーズする。

熊野は対照的に笑顔をさらに眩しくさせた。

 

「最上お姉さまは、そう!言うなれば『カリスマ』ですわ!」

「『カリスマ』?」

「ウチのモガミン、最上お姉ちゃんはその実力と言動から天龍や摩耶たちの一部の娘たちから圧倒的に崇められてるんだけど……」

「わたくしも最上お姉さまをお慕いしておりますのよ!」

 

「…鈴谷はノーコメントで……」

 

「…………」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

じぇいこぶ鎮守府の最上お姉ちゃん、モガミンからウチの最上お姉ちゃんについて聞かれてしまった。

 

ウチの最上お姉ちゃんは、なんというか言動がガサツなところがあって実は鈴谷は苦手な時があるんだよね…。

 

 

 

~~~『あーっ!!最上お姉ちゃん、鈴谷の洗顔、勝手に使ったでしょ!?』

『あ?アタシが洗顔する時に目の前にあったからそれはもうアタシのもんでしょ?』~~~

 

~~~『おい鈴谷、水上偵察機使ってつまみ食いしようぜ!』

『嫌だよ、お母さんに怒られるよ!?』~~~

 

~~~『うー、さむさむ、おら鈴谷、コタツのそこはアタシの席だ、四の字固めくらいたくなかったら席をあけな?』

『痛い痛い!やめてよ、横の席座れば良いじゃん!』~~~

 

~~~『ウィ~、飲んだ飲んだ、最上お姉さまが帰ってきたぞぉ……クソ眠ぃ、鈴谷ぁ!こっちこい!抱き枕にしてやるぞぉ!』

『わぁ!酒臭い!?放してよぉ!!』~~~

 

 

 

 

でも絶対に嫌いという訳じゃない。

 

トラック沖で双子の深海棲艦と会敵して鈴谷が大破させられちゃった時、最上お姉ちゃんがドックの鈴谷の頭を撫でて、摩耶たちを引き連れて出撃し、敵討ちしてくれた。

 

あと、呉鎮守府選抜野球チームの1軍でエースピッチャーだ。

鈴谷は野球にあんまり興味ないけど、野球が流行ってるウチでエースなのは凄いことだって摩耶たちが言ってた。

 

最上お姉ちゃんは鈴谷を姉妹艦として仲間として大切にしてくれてはいると思う。

野球が上手くて強くて仲間想いでたまに優しい、そんな最上お姉ちゃんはちょっと自慢だ。

 

でもでも、普段の最上お姉ちゃんは素直じゃないし、ぶっちゃけガラが悪いんだよね。

よその最上お姉ちゃんはだいたい優しくて素直でカワイイ。

もちろん今目の前にいるじぇいこぶのモガミンもだ。

こんな風にヒラヒラのワンピースを着せて、白いストロウハットを被せればウチの最上お姉ちゃんも可愛くなるのだろうか?

いや、見た目はほぼ同じだから可愛いことは可愛いだろうけど、言動が台無しにしちゃうだろうし。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「とまぁ、ウチの最上お姉ちゃんはこんな感じかな…」

 

呉のボクについて鈴谷が苦笑いしながら教えてくれた。

苦手なところがあると言いつつも鈴谷の語り口は親しい姉妹ならではのダメ出しみたいな感じで、まだじぇいこぶに姉妹がいないボクは正直羨ましいなと思った。

 

「鈴谷は特に最上お姉さまと仲が良いですわよね」

「まぁ鈴谷はウチの最上型では熊野と三隈姉よりは先に着任したから……」

「三隈も呉にいるんだね、いいな、姉妹揃い踏みだ」

「…あー、そうだね……」

 

「……?」

 

三隈の話を出すと鈴谷は少し言葉を濁したようだった。

何かあったんだろうか?

 

「三隈さんは、最上お姉さまと少しウマが合ってないようでして……」

「何かあったの?」

「最上お姉ちゃんは今言ったとおり、ガラが悪くてなまじっか強いものだからスタンドプレーに走りがちで……まぁ、それを良く思わない娘もいるんだよね……三隈姉もその一人で…」

 

鈴谷も熊野も呉のボクを心配しているようだった。

それを見てボクは少し不謹慎かもだけど、ボクを想ってくれているようで嬉しいとも感じた。

 

 

 

 

 

《ピコーン!》

 

突然、鈴谷の上着のポケットから音がなった。

鈴谷はポケットから携帯端末を取り出して操作する。

 

「あ、提督からじゃん、……あー、もうか……」

 

鈴谷が残念そうにそう呟いた。

おそらく提督の用事が終わり、呼び出しがかかったんだろう。

ボクも情報端末で時間を確認すると、なるほど、カフェに入っていつの間にか二時間程経っていた。

 

「あ、呼び出しでしたのね、もう少しお話ししたかったですわ」

 

「まぁ、またSNSでお話しできるよ」

 

三人でお会計を支払いお店を出る。

今日は利根さんと筑摩さんに服装でお世話になったし、お土産でも買って帰ろうかな。

そんなことを考えていると、不意に誰かがボクたちに声を投げた。

 

「あぁ!み、見つけたぞ!おい、お前ら!こっちだ!!」

 

声のした方を見ると若い男の人が四人こっちを見ていた。

その中の一人は先ほど熊野が蹴り飛ばした男の人だった。

 

「おいおい、お前、こんな可憐な娘にやられたのかよ?」

「ワハハ!」

「う、うるせー!いきなりだったんだよ!」

「まぁまぁ、…で、お嬢ちゃんたち、ちょいと話を聞きたいんだが、オレたちのツレが世話になったようだなぁ?」

 

ああ、やっぱり怒ってる。

そうだよね、あんな往来で寝かせたままなのは良くなかったなぁ。

 

「えぇと、」

「モガミン、大丈夫だから」

「モガミンお姉さま、さぁ、わたくしの後ろへ…」

 

一応、謝ろうとしたら鈴谷と熊野がボクの前に出た。

 

「お世話なんてしてません、お姉さまにまとわりつこうとする虫を払っただけですわ」

 

「んだとぉ!!お嬢ちゃん、ちょっと可愛いからって、オイタが過ぎたようだな……!」

 

「あれぇ?こんなに人の多いところで何かするわけ?」

 

あぁ、鈴谷と熊野、そういう風に煽ったりしたら…

 

「て、てめえ……!」

 

ほらもっと怒っちゃったよ。

男の人の一人が肩をいからせて、一歩前に出る。

その瞬間、今度は後ろから低くて太い声が響いた。

 

「なんだなんだ、シャバ僧ども、ウチの娘に何か用か?」

 

「「「「「「!」」」」」」

 

「え」

 

振り向くと、そこにいたのはサングラスをしたスキンヘッドで色黒の大柄な男の人。

うん、中々良い体つきをしているね。

で、誰?ウチの娘って?

頭の中に疑問が駆け巡ったけど、いち早く反応したのは 鈴谷と熊野だった。

 

「「て、提督!!?」」

 

……どうやら呉の提督らしい。

なるほど、さっき話の中で聞いた野球好きの提督か、良い体つきなわけだ。

 

「ひ、な、なんだ、アンタは?」

 

こっちに近寄りかけていた男の人が震えた声を出す。

なんだか動揺しているようだった。

どうしたのかな?

 

「お、おい、もう違うとこ行こうぜ」

「あ、あぁ!そうだな」

「……ちょっと用事を思い出した」

 

残りの三人は呉の提督を見るや、そそくさとその場を後にしようとしている。

すると、三人の男の人の後ろから、今度は見覚えのある、というか見間違えようのないボクが敬愛している人がゆっくりと近づいてきていた。

 

「あ!提督!おーい!!」

 

ボクは思わず提督に向かって手を挙げた。

鎮守府じゃない場所で提督服じゃない提督が珍しくて、ついはしゃいでしまったんだ。

 

「む?」

 

ボクの周りの視線はボクが手を振る先に集まった。

皆の視線の先には両手に買い物袋を提げ、ワインレッドのシャツを着てサングラスをかけたボクの提督。

胸元は第二ボタンまで開いていて厚い胸板がチラリズム…っと、いけない、そこまで見ているのはこの場ではボクだけだよね。

 

「うひぃ、は、挟まれた!?」

「あれは絶対ヤバそう、た、助けて…!」

「違うんです、僕は通りすがりですっ!!」(バタバタ…!)

 

「お、最上…、やっぱりウチの最上か、奇遇だな…って、あー!!」

 

提督は三人の男の人の横を素通りしてボクたちの前にきた。

そして鈴谷と呉の提督を見て珍しく声を上げたんだ。

呉の提督も提督を見て驚いているようだった。

 

「い、今の内に逃げよう……って、待って、お前ら置いてかないでー!」(バタバタ…)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

鎮守府のみんなにお土産を買って帰ろうと駅前の洋菓子店へ赴きカスタードケーキを購入した。

そして店を出た時のことだ、なにやら近くが騒がしい。

ふと騒ぎの方を見ると見覚えのある艦娘らしき娘がいた。

 

白いワンピースを着てはいるが、あれはもしかして、最上ではないか?

しかも、なんとなくウチの最上のような気がするんだが……。

そう思って近づいてみると最上らしき娘が私に向かって満面の笑みを浮かべて手を挙げた。

 

「あ!提督!おーい!!」

 

「む?」

 

ほらみろ、あの可憐な格好の可憐な最上はやっぱりウチの娘だ。

皆さん、ウチの娘がカワイイヤッター!!

そういえば、最上も今日は外出するって先日に言っていたな。

同じ街中とはいえ奇遇だなぁ。

 

「お、最上…、やっぱりウチの最上か、奇遇だな…って、あー!!」

 

内心ほっこりしながら最上に近づいて声をかけたところで、最上の周りにいる人物に気がついた。

かつて提督になる前の頃、呉鎮守府でお世話になった懐かしい顔。

 

「え、えぇ!?斧田じゃん!!」

 

呉の最上型重巡の鈴谷と、

 

「おぉ!?なんだ、斧田の小僧ではないか!」

 

波羅田さんの同期で呉鎮守府提督、万津崎隼人(まつざきはやと)大将だった。

 

 

 

 

 




登場人物

最上
いつも優しい笑顔を絶やさない天使。
厳つい顔のタフガイやグロメンにも全く動じない。

鈴谷
呉の最上型で最上の次に着任した。
斧田とは面識がある。

熊野
呉の最上型で最近着任した。
斧田とは面識がない。

斧田誠一郎
有給休暇中に街中で偶然にも天使最上に会った嬉しさのあまり、最上以外見えてなかった。
有給休暇中の格好がヤーサン。

万津崎隼人
呉鎮守府提督で大将。波羅田の同期。
野球好きで鎮守府内で艦娘達に野球を教えている。
呉鎮守府の食堂のおばちゃんと結婚している。
色黒、大柄、スキンヘッドで見た目が厳つい。



またも三隈ちゃんを三熊と誤表記するデカイ間違いを犯してしまいました。
ご指摘していただいた方々ありがとうございました。
頭が高いオジギ草さん、修正助かりました、感謝です。
戒めとしてアズールなレーンのログインを1週間くらい封印します。
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