「お、斧田、キサマっ!!出会って3秒で…?も…申し開きはあるか!?」
絵口さんに取り押さえられながら、私は深く後悔した。
私が、私の笑顔が電を失神させてしまった。
「……申し開きは、ありません。後悔はしています。」
「い、潔いのか、開き直りか…?」
「ままま、待って!憲兵さん待ってくださーいっ!」
「え、ちょっ、大淀、何の騒ぎ?」
騒ぎを聞きつけて大本営からの派遣である大淀と明石が駆けつけてきた。
「これは、一体…?」
失神している電、憲兵に取り押さえられた提督。
提督は艦娘にとって尊敬されるべき行動と態度を示し、艦娘を安心させる存在であるべきだと私は考えている。
こんな提督の姿を見た艦娘はショックを受けてしまうのではないか?
反省しなければ。
いや、その前に私には混乱しているであろう彼女たちへの説明責任があるだろう。
「私だ、私の笑顔が電を失神させてしまった。
…かつて友人にメキシカンマフィアみたいだと例えられた私の笑顔だ。…電にとってはさぞかし恐ろしく映ったのだろう。
かわいそうなことをしてしまったな。」
自分で言ってて泣きそうになった。
もう後は口を閉ざしておこう。
「…あ、これ、笑うとこ?」
「あ、明石っ!(普通に笑えないでしょ!!)」
「…斧田提督はこの子に何かしたわけではないのか?」
「申し遅れました、私は大本営からじぇいこぶ鎮守府へ派遣されてきた任務案内艦の大淀です。こちらは同じく派遣の工廠サポート艦の明石です」
「どもでーす」
「斧田提督とは大本営の頃より付き合いがあります。斧田提督は艦娘に手をあげたりするような方ではありません。…電ちゃんが目を覚まして、事情が聴けるまで待っていただけませんか?」
お、大淀さんっ!?
あ、明石の方は面識はなかったが、この大淀は大本営でちょくちょく顔を合わせていたあの大淀さんだったのか。
大淀さんは私のようなものでもフォローしてくれた、以前も、今も。
「貴女たちは艦娘か。…艦娘である貴女が言うのであれば、これは俺の早とちり…のようだな」
そう言って絵口さんは私の拘束を解いてくれた。
「しかし、一応その子にも話を聴いておきたい、目を覚ましたら連絡が欲しい。私は詰所におりますので」
「分かりました、電ちゃんが目覚めたら一報します。提督、大丈夫ですか?ひとまず中へ入りましょう。明石は電ちゃんをお願い」
「りょーかい」
その場は大淀さんが締めてくれて私は中へ通された。
さすがは大淀さん、仕事のできる方だ、頼りになる。
鎮守府の中に入るまでにこんな一悶着あるとは思わなかった。
いや、私が浮かれることなく注意していればこんなことにはならなかったし、電を怖がらせることもなかったのだ。
気を引き締め直せ、私はこの鎮守府の提督なのだから。
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「知らない天井なのです…」
「あ、起きた-?」
「はわわ、明石さん!?」
気がつくと電は食堂のような場所の座敷の上で横になっていました。
電は確か、玄関で司令官に挨拶をして…
それで、司令官の…挨拶を…司令官の…
「ッヒィ!!」
「だ、大丈夫!?」
思い出したのです。思い出すとヒッ!ってなるけど、電はなんて失礼なことを、はわわわわ…!
あんなに失礼なこと、あの怖い顔の司令官に解体させられてもおかしくありません。
そう思うと涙が出てきました。
「グス…ヒック…」
「え、えぇ…?と、とりあえず、大淀に連絡して、と…」
明石さんが大淀さんを呼んでいるようです。
もしかして、目が覚めたら即解体なのです!?
「あ、あぁ電ちゃん?大丈夫だから落ち着いてね?」
「グス、電は、解体処分なのですか?」
「へぁ!?いや、何で?」
食堂の入り口に大淀さんがやってきたのが見えました。
電の姿を確認してゆっくり近づいてきます。
「電ちゃん、身体は大丈夫?」
「電は大丈夫なのです、でも司令官にとても失礼をことを…まだやりたいことはいっぱいあったけど…覚悟は…できているのです!」
「はい?」
最後に司令官に直接会って謝りたかったけど、ここにいないということは相当頭にきてて電の顔すら見たくないってことなのかもしれません。
司令官、ごめんなさい。
あと、暁ちゃんに響ちゃん、雷ちゃんに会ってみたかった…。
「あの、電ちゃん? 覚悟って…なんか顔つきが武士のそれっぽい感じだけど?」
「…司令官に無礼をはたらいた電は解体じゃないのです?」
「あぁ、えぇっと電ちゃん、提督は別に無礼だとか思ってないわよ」
「え?」
「逆に電ちゃんにトラウマを植えつけてしまったんじゃないかって、斧田提督、顔はあんなだけど中身は優しい人だから。ここに来てないのも電を怖がらせてしまうからだって言ってたわ」
「…これ、笑うとこ?」
「明石っ!」
「そ、そんな…」
そして、電が気を失ったあとのことを大淀さんに教えてもらいました。
憲兵さんまで出てきて司令官にあらぬ疑いを掛けさせてしまうなんて、電、初期艦なのに…。
……そうなのです!電は初期艦なのです!
初期艦である電は司令官を支えていかなければならないのです!
確かに顔は怖いけど、大淀さんの言葉を信じるならば失礼をはたらいた電を気遣ってくれる優しい人なのです。
会わなければ、直接会って謝らなければいけない。
直接謝って、そしてもう一度挨拶をやり直させてほしい。
電は大淀さんと明石さんのお話を聞き終えると執務室へ駆け出しました。
執務室のドアの前で一度深呼吸します。
司令官は優しいクリーチャー、司令官は優しいクリーチャー…
気持ちを落ち着かせ、ドアをノックしました。
「うん、大淀さん?どうぞ」
司令官の声が聞こえました。今さらながらバリトンボイスのいい声だと気づきました。
「電なのです!失礼しますなのです!」
「 」
司令官は無表情でこちらを見ていました。
心なしかびっくりしているような気がします。
「司令官、さっきはご挨拶の途中で失礼なことをしてしまって……ごめんなさいなのです!」
「(天使か…)」
「え?」
「あ、いや、こちらこそ怖がらせてしまって、すまなかったな電、悪気はなかった。…その、身体に影響はないか?」
「大丈夫なのです!」
「そ、そうか、…これから仲間は増えていくと思うがウチは現状、お前だけが頼りだ。どうか国防のためにこの鎮守府の支えとなってほしい、これからよろしく頼む」
そう言って司令官は立ち上がり、こちらに頭を下げました。
電はその一連の所作が綺麗だと感じました。
そして司令官の誠実さも伝わってきたような気がします。
「今後の指示だが、大淀に伝えておく、後で大淀に聞け、出撃や任務の報告も大淀にするといい」
司令官は続けてそう言いました。
きっと司令官は己の顔を見せないようにと電に配慮しようとしているつもりかもしれません。
でも、
「大丈夫なのです!」
「え、何が?」
「電は初期艦なのです!
初めは司令官のマジヤバクリーチャー顔にびっくりしたけど、頑張って慣れるのです!
だから、指示も報告も司令官に!」
「お、…おぅふ…!そ、そうか、分かった」
「…あと…挨拶のやり直しをさせてください」
「…(やっぱり天使か)、いいだろう。始めろ」
「改めまして、特Ⅲ型駆逐艦、電です、よろしくお願いいたします!」
「じぇいこぶ鎮守府、提督の斧田誠一郎だ。…よろしくな電」
今度は司令官の笑顔はありませんでした。
トラウマになりかけたはずなのに少し残念な気がします。
執務室を出たあとは憲兵さんにお話しして司令官の疑いを解消してもらいました。
『これから仲間は増えていくと思うが、ウチは現状お前だけが頼りだ』
『鎮守府の支えとなってほしい』
『ウチは現状お前だけが頼りだ』
『支えとなってほしい』
『お前だけが頼りだ』
『支えとなってほしい』
もちろん、電が初期艦なのです。
頼りにしてください司令官。
電が、あなたを支えるのです。
登場人物
電
いなずま
じぇいこぶ鎮守府の電は口が悪いわけではなく、わりとストレートな性格をしている。
優しく、素直な艦娘。
大淀さん
おおよどさん
大本営で斧田と面識があった艦娘。
じぇいこぶ鎮守府に派遣されたのは偶然か必然か。
頼りになる娘。
明石
あかし
大本営でも基本工廠にこもるかたまに売店にいるくらいなので、斧田とは面識がなかった。
若干空気が読めない娘。