今回は大淀さんメイン回です。
「ここはこの配置で…」
「こちらの一式はどうされますか?」
「そこの棚にお願いします」
電と平和的和解ができた日の翌日
私は電を鎮守府近海の哨戒へ送りだしたあと、執務室の模様替えを始めていた。
あらかじめ送っておいた私の仕事道具を荷ほどきして執務室に配置していく。
途中から大淀さんが手伝いに来てくれた。
執務机の上には小さなカレンダーとワープロとペン立て。
大きな引き出しにはファイルを分けて収納できるように衝立を並べ、小さな鍵付きの引き出しには各印と朱肉。
執務机の左斜め後ろに本棚、本棚には参考資料などを並べた。
そこそこな広さの執務室にはソファと長机がはじめから置いてあった。
小休憩のときはリラックスできそうだ。
「あとは、この執務机のイスをどうしようか?」
「イス?」
「あ、や、この執務机とセットであろうイスはシンプルかつ、そこそこオシャンなデザインだとは思うんですけど…」
「何かこだわりがあるんですか?」
「…強いて言うなら、あのコロコロの、…キャスター付きの事務イスがいいなと、座り慣れてるし、机から本棚までくらいなら座ったまま移動できますから、」
こだわりといえばこだわりですかね、と続けようとして大淀さんの方を見ると、
「!!ングフゥ!…ヒッ!…ホッ!…コロコロって…!」
なんかめっちゃツボってる!!!?
「ホッ!…机と本棚を…ヒッ!…ヒッ!」
分からない、分からないよ大淀さん!
今の何がツボだったのか分からないよ!!
イスはセットのイスにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私は大淀、艦隊旗艦に特化設計された新鋭軽巡。
確かに連合艦隊を率いていたから、指揮に携わり戦術を考える能力は艦娘の中では長けていると思っている。
慢心している訳ではないが相手艦隊や個々の能力を情報として処理する、というのは他の娘たちにはなかなかできることではないのかもしれない。
情報を処理する能力、それが求められるのは海の上だけではない。
今世では提督の補佐として、時に代理として、私はその能力を重宝されている。
提督の横で、大本営で私の力は必要とされている。
だけど、こんな言い方をすれば悪いのかもしれないが、
ーーーーいわゆる裏方だ。
私だって海に出たい、私にはその力が、最前線で戦う力があるのだ!
連合艦隊の旗艦だって務めたことのある武勲艦だぞ!
今世だって海の上で武勲をあげたい。
戦わせろ、私を戦いに出してくれ!!
そんな感じで大本営勤めでストレスがマックスだった頃、私は斧田提督に出会った。
ーーーー
「大淀、この海域の情報と有効そうな編成、あとできれば使えそうな装備あったらまとめておいてくれ!」
「了解しました!ニコッ。(ふざけんな、海域情報ならまだしも、あとのは提督の仕事だろ!)」
「大淀、今度の作戦の現場側の提案事項なんだか……」
「そこに置いておいてください!ニコッ。(私が現場にいれば…!)」
「大淀!通信設備確保の件はどうした!?」
「今、問い合わせ中です。ニコッ。(あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"あ")」
マジでリミットブレイク5秒前。
「あのぉ、大淀さんですよね?、通信設備の件なら私の知り合いの鎮守府にコネがあるので任せてもらえませんか?」
「はい、どうぞぉおお!。ニコッ。……………え?」
「では引き受けますね。後、海域情報のまとめができたら見せてもらえませんか?自分なりに編成や装備について考えてみたいので……」
「…あ、はい。…了解しました。」
ぇ、誰怖い。
プルル…プルル…ピッ、
「あ、矢間田?私、私、え、ハンサムじゃないよ!!斧田だよっ!!ちょっと、お宅の夕張にぃ……」
ーーーー20分後ーーーー
「大淀さん、通信設備確保できました。明日には証文来ます」
「あ、ありがとうございます」
「あ、これが海域情報ですね。これは、うぅむ…ーーーー」
あれぇ、私疲れているのかしら、海軍の本拠地に不審者が…。
「ーーーーとこんな感じでどうですか?……大淀さん?」
「っ!あ、は、はい、拝見いたします。」
「…………」
「これは、…良いと思います。これは最適解だと思います!これなら戦力を温存しつつ中枢も叩けて!何よりこちらの被害も最小限に!」
「ッょし!!……それでは失礼しました」
いや、本当にいい編成ですね。
まるで大将クラスの提督のような考案力。この不審人物はもしかして士官?
あぁ、いやいや、やはり疲れているらしい。
もしかしてじゃなく元々軍人しかいないでしょ、ここには。
でもあんな士官は私がここに配属されて以降見かけたことがなかったが…まさか…!
まさか、妖精さん!?
「!!ヒグ!…ホッ!…ホッ!…あ、あの見た目でぇ?…ヒッ!…ヒッ!…」
(((大淀…?どうした…?)))
いけない、いけない、ツボにはまってしまった。
とりあえず、鬱陶しい追加の仕事が減ったから自分の業務に集中できるわね。
ーーーー
はぁー、休憩、休憩!!飲み物買いに行こうっと。
いやぁ、妖精カッコカリのおかげで業務がはかどったなぁ。
げ、自販機前にいつも仕事押し付ける奴らがいる。
「なぁ斧田っていうヤツ知ってるか?」
「ん…あぁ、波羅田元帥の虎の子だっけか」
「虎の子?」
「なんでも波羅田元帥自ら直々に養成所から引っ張りあげたらしい」
「あと波羅田元帥とつながりのある鎮守府と大本営を行ったり来たりしてるらしいから、見たことない奴もいるんじゃないか?」
「将来提督として期待されてるエリートだとよ」
「…へぇ、すげぇなー」
「ワイロ贈りそうな顔してるのにな」
「……」
「いや、まさかな」
「本当にエリートなら仕事ができるってことだよな?」
「…………」
あの妖精カッコカリがもしかしたら斧田って人?
その妖精カッコカリの話をしているみたいね。
とりあえず違う自販機行こうっと。
ーーーー
「斧田くん、この海域とこの海域、情報をまとめておいてくれないか」
「斧田くん、この海域での任務案を募集しているんだが…」
「斧田くん、対潜装備の確保を…」
「はい、了解です」
なんだか最近、私に仕事を押し付けられることがなくなった。
私自身の負担はだいぶ軽くなったが、代わりにあの妖精カッコカリ、斧田さんへの仕事の押し付けが見られるようになった。
…あの無能共め、自分たちで処理できないのか、全く!
しかし、仕事を押し付けられている彼は彼で文句のひとつも言わず全ての仕事をこなしている。
彼の目の下にひどいくまができているのを私は見逃さなかった。
私でもひぃひぃだった仕事量をこなしているのだ。
確かに彼は優秀な士官だ。提督を期待されているという話も聞いた。
そんな未来ある士官だからこそ、こんなところで壊れてしまってはいけない!
私はこっそりと彼のサポートをすることにした。
「斧田さん、この海域とこの海域、過去の資料で役に立ちそうなものを見つけました」
「うわ!わざわざありがとうございます」
「この海域を担当している各鎮守府の戦力と戦果情報です、任務案を考えるのに使って下さい」
「わわ!」
私のひそかなサポートのおかげか彼は身体を壊すことなく業務を続けていた。
ーーーー
休憩、休憩~!自販機、自販機っと、
あ、そうだついでに斧田さんに缶コーヒーでも差し入れしよっと、
む…また自販機の前に無能共がたむろしている。
「…斧田ってさマジで優秀なんだな」
「面倒な業務押し付けてんのに文句も言わずに…」
「……目の下のくまとかたまにすごいよな」
「……俺、あいつになんでそんなに頑張るのかついつい聞いちゃったんだけどさ…」
「やめとけ、立派な提督になりたい、とかそんなだろ?」
「やっぱエリートってのはデケー夢語ったりするんだろ?パンピーな俺らは聞くだけでしんどいっての」
「……前線で戦う艦娘のためだってさ、少しでも前線で戦う艦娘たちに安心して戦ってほしいから、できれば少しでも沈む危険を無くして帰還してほしいからとも言ってた。」
「………」
「海の上で戦うことはできないけど、艦娘たちのために戦うなら自分にはこれだけだから…ってさ」
「………そうか、俺たちも…」
「…俺たちの戦いがあるってことか…」
斧田さんは提督たるにふさわしい精神を持っているようだ。
彼の下に就く艦娘はきっと精強になるだろう。
彼はそれだけ仕事ができる。そういう戦いができる。
………でもそういうのも戦いなのだということが私の中では上手く咀嚼できないでいた。
咀嚼して飲み込んでしまったら私が海の上に出ることはなくなるような気がした。
…私はまた別の自販機に行くことにした。
「斧田さん、差し入れの缶コーヒーです。どうぞ」
「ありがとうございます!…グビグビ…ウンマーイ!」
「!!ンフフゥ!…フッ!…ヒッ!…ビ、ビールかよ…ヒッ!…ヒッ!…」
「(え、大淀さん!?)」
ーーーー
夢を見た、私が旗艦を任され海の上を走り、砲撃を撃ち込み、随伴艦に指示を出して戦う夢だ。
敵艦隊を撃退して帰港した私たちを提督が迎えてくれた。
『よくやってくれたお前たち!…今回のMVPは大淀だ!!』
『え、私の武勲が一番?あら、意外なこと。でも、何だか誇らしいですね、うふふっ。』
ーーーー
「斧田さんは提督を目指しているらしいですね」
「えぇ、海の上で戦う艦娘たちを前線で支えたいんです」
「………私は、以前まで今の業務が嫌いでした。
私の性能がよく活きる業務だとは思っていましたけど
……本当はずっと海の上で戦いたかった。
艦の力を持った艦娘として生まれたんです、本当はこの力で提督となる方の力になりたい。
そう思ってました…。
でも、私の頭脳を使って提督の側で提督の支えになるのも私にしかできない戦い方なのかなって
…思うように、最近なりました。」
「……それでも、今でも大淀さんは海の上に立ちたいんじゃないですか?」
「…立ちたいです!」
「大淀型一番艦軽巡洋艦、大淀、かつての大戦ではレイテ沖海戦、礼、北号作戦で成功を収めた。
大戦末期、かつての帝国海軍最後の連合艦隊旗艦。
呉軍港空襲で大破横転するまで戦い抜いた猛者」
「…!!」
「そんな大英雄のような艦が海の上で武を誇る様を見てみたい提督は絶対いますよ!」
「斧田さんは見てみたいですか?」
「もちろんです」
「ーーだったら、」
「斧田くん!波羅田元帥がお呼びだ。執務室へ行くように」
「はい!分かりました。」
あ…、
「すみません、波羅田元帥に呼ばれたので失礼しますね」
「えぇ、では」
ーーーーだったら、私を斧田提督の艦娘にしてください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
てっきり、顔に似合わず家具にこだわりを持つ男アピールしてくるのかと思ったら、コロコロの付いたイスがいいとのたまうなんて…!!
ちょいちょいこの人は私のツボにはまってしまう。
思えばストレスガンギマリな時、私を笑わせてくれていたのはこの人だった。
そんな私をドン引いた目で見ているこの人が私の提督になってほしい人である。
今はまだ、大淀『さん』呼びだけど
いつかは大淀とお呼びください、提督。
この大淀、帝国海軍最後の連合艦隊旗艦に恥じない戦果をあなたに手向けてみせます。
登場人物
大淀さん
おおよどさん
戦闘意欲が高め。
帝国海軍最後の、ってまるでラスボスみたい。
ツボに入ると笑い方が気持ち悪いと評判。
斧田誠一郎
おのだせいいちろう
真っ当な提督を目指して一途に勉強中。
波羅田直々の指導でハイスペックイケメンムーヴ。
だがイケメンでもフツメンでもなくどちらかといえばグロメン…。