ある日、私は周囲が真っ暗な場所で目を醒ました。
辺りが真っ暗だなぁとぼんやりしていると頭上にほんのりと柔らかい光が見えた。
なんとなく、そこへ向かうのだというのが分かっていた。
次第に私の周囲が白く染まりはじめて、気づいたら海の上。
目の前にはうっすらと涙を浮かべた女の子。
この娘は同胞、電だと瞬時に理解した。
電に抱きしめられた私はゆっくり、しっかりと抱きしめ返した。
「イッチバーン!」
「白露ちゃん!!」
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私がじぇいこぶ鎮守府に着任して、3ヶ月経過した。
まだまだ新米ということで我が鎮守府は大きな作戦に参加はできていないが、近海の哨戒は続けている。
この3ヶ月で頼もしい仲間が増えた。
この執務室のソファに座って2時間くらい茶をしばき続けている彼女もその一人だ。
「……」
「………扶桑…」
「!、出撃かしら!?」
「……いや、分かっているのだろ?ウチにはお前を充分に出撃させてやれる備蓄はない、と」
「はぁ。……空はあんなに青いのに」
「……このやり取りもう何回目だ…」
「289回目です」
え、すごないキミ、もしかして今まで数えてたの?
「提督ー、買い出し行ってきたクマ」
「ただいま、っと!」
今日の晩御飯の買い出しに行かせていた球磨と北上が帰ってきた。
「よくやったお前たち、あと扶桑、晩御飯をよろしく頼む」
「えぇ、仕方ないわね…」
「扶桑は、また提督の邪魔してたクマ?」
「いやぁね、私が提督の邪魔なんてするわけないでしょう?」
「どうせまた出撃させろとごねてただけクマ。あんまりやりすぎるのも提督の負担になるクマ。自重しろ」
「……そうよね…」
「まあまあ、充分に出撃させてやれないのは確かだ。それに扶桑は2時間くらい静かに茶を飲んでいただけだったよ。その辺にしといてやれ」
「て、提督…!」
「…もー、まったく提督はゴツい顔の割に甘いクマ!」
「愛だねぇ」
「いいから、ほらお前たち、晩御飯頼んだぞ!」
「はいよ~っと」
この鎮守府も少しずつ賑やかになってきたものだ。
それも電や大淀さん、明石のおかげだな。
特に電は初期艦として出撃に新入りの面倒にと良くやってくれている。
新入りと私の顔合わせも電がよくフォローに回ってくれて、フォローに…、
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「そんなガチガチにならなくても大丈夫なのです
司令官はマヤク(マジヤバクリーチャーの略)顔だけど、殺ってないのです」
「…マヤク…ヤラナイ…ゥゥ」(顔を伏せて静かに震える大淀)
「大丈夫なのです、大丈夫なのです!!」
「じぇいこぶ鎮守府提督の斧田誠一郎だ、よろしく頼む」
「大丈夫なのです!!」
「えと、陽炎よ…よろしく…」
「ゥッ…ウッッ!」
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フォローシテクレテマシタ。
っと、そろそろ電が帰ってくる時間だ。
通信を確認するか。
ピー……、《司令官(バーン!)、電なのです……あの…(ッチバーン!)白露ちゃん、拾いました。》
え、なんだって?
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私は今、とても困惑している。
私だけではない、執務室で立ち会ってもらっている大淀さんも同様だ。
ーーーー同様に動揺しているっ!!ーーーー
そんなことを考えてしまいそうになった。
目の前には電と電が拾ってきたという白露。
てっきり私は迷子になり帰投困難になった娘を曳航してきたものだと思っていた。
拾ってきた娘にお家はどこですかと聞いて元の鎮守府に帰す。
5分前の私はそれだけだと思っていたのだが。
「イッチバーン!イッチバーン!」
「本当に、この娘は白露なのか?」
「えと、白露ちゃんなのです」
「イッチバーン!」
確かに、白露型の制服に亜麻色の髪。白露っぽい格好だけど、
ーーサイズ小さくない?
妖精さんサイズほどではないが、大きめのぬいぐるみくらいのサイズだ。
っていうか、イッチバーンしか喋ってないけど、それ、鳴き声かい?
「イッチバーン!イッチバーン!」
「…お、大淀さんこの娘は…?」
「えぇと、確かに白露ちゃんで間違いないですね……艦の記憶みたいなものが同胞の白露だと認識しています」
「……だ、誰か、手の空いている者を呼んでみるか」
ーーーー5分後ーーーー
「イッチバーン!イッチバーン!」
「こいつは白露だクマ」
「そうかありがとう球磨」
「これ?白露でしょ?」
「陽炎助かる、次、夕立」
「んー、白露っぽい!」
「そうだ!!そうだよな夕立!」
「うん、白露っぽい!」
「白露っぽいんだよな!」
「白露っぽい!」
良かった、やっぱこの娘は白露っぽい娘なんや……
「司令官、白露ちゃんはウチの娘でいいのですか?」
そ、そうだ、この白露はよその娘でちゃんと帰してやらないといけないのであったな。
「電、この白露は他の鎮守府の艦娘なのだろう?ちゃんと帰してあげないと…」
喋れないみたいだし、大淀さんに他の鎮守府から捜索願みたいなものが出てないか調べてもらわないとな。
「違うのです!電が拾ったのです!」
「いや、拾ったというのは発見したということなんだろう?」
「違うのです、敵艦を撃退したあと海面が光って、手を伸ばしたら目の前に…」
「イッチバーン!イッチバーン!」
敵艦を撃退して海面が光って……?
どこかで聞いたような…
頭を捻っていると大淀さんが言った。
「提督、この娘はドロップ艦だと思われます」
「!!…ドロップ艦…!」
そうだ、ドロップ艦!確か……
深海棲艦との戦いの最初期、人間に味方した艦娘はわずかだったが敵艦を撃退し海面が光ると新たな艦娘が出現し、こちらの勢力が増えていった。
という記録が残っている。
この敵艦を撃退したあとの光る海面から出現した艦娘をドロップ艦と呼んだという記録も共にあったが、まさか…
「電、とりあえず後で今回の哨戒記録を提出してくれ」
「あの、白露ちゃんは…」
「白露は…おそらくドロップ艦だ。しかし裏付けが足りない。他の鎮守府に捜索願に類するものが出ていないか確かめなければ…」
「裏付けが取れれば、ウチの娘なのです?」
「……本当にドロップ艦なら、大本営に聞いてみないことには……何せ最後のドロップ艦は二十年以上前だったと記憶している」
「…白露ちゃんはウチの娘なのです!司令官がそう言ってくれれば白露ちゃんはもうウチの娘なのです!」
参ったな、電にはこんなわがままな面があったのか。
「確かに電たちみたいな感じではないけど、こんなにチンチクリンだけど、白露ちゃんは白露ちゃんなのです」
「…イ、イッチバーン……」
あぁ…………
「よその白露ちゃんがどんな感じなのかなんて電は知りません、でもウチの鎮守府の白露ちゃんは白露ちゃんなのです!!」
そういうことだったか。
もしかしてユニークな姿をした艦娘だから、私が敬遠していると思ったのか。
そんなことはない。決してないぞ。
本当か?
私は私が知る白露とは違うこの白露が本当に白露なのか疑った。
艦娘たちは私の外見ではなく私という人間を見て提督と呼んでくれている。
艦娘たちはいつも本質を見ている。
そんな艦娘がこの白露を白露と言った。
ならばこのユニークな姿をした艦娘は疑いようのない白露だったのだ。
白露がゲシュタルト崩壊しそうだが、つまり、ユニークな姿をしていようと白露は白露だということだ。
例えマジヤバクリーチャー顔だろうと提督は提督であるように…!
「イッチバーン!イッチバーン!イッチバーン!」
なんだか白露と私は似ているような気がする。
そう思った時、私は自然と口を開いていた。
「…白露はウチの娘だ!……誰がなんと言おうと白露はもうウチの娘だっ!!」
「「「「て、提督…!」」」」
「「「「提督~~~っ!」」」」(提督の元に皆駆け出し胴上げ)
「イッチバ~ン!イッチバ~ン!」
「なぁにこれ?クマ」
こうしてまたこの鎮守府に新たな仲間が加わることになったのであった。
登場人物
扶桑
ふそう
斧田の初建造で出現した艦娘。
執務室で茶をしばくのが日課。
球磨
くま
姉御肌、球磨型長女。
ツッコミに回りやすい。
北上
きたかみ
掴みどころはないけど
お姉ちゃんの言うことはきく。
陽炎
かげろう
提督の顔のインパクトと電の「アツくなれよ!」で提督の名前が頭に入ってこなかったのはナイショだよ。
夕立
ゆうだち
お姉ちゃんがきた!
大淀さん
おおよどさん
電の「アツくなれよ!」でも笑う。
白露
しらつゆ
二十年以上なかったとされるドロップ艦として出現。
大きめのぬいぐるみサイズ。
イッチバーンと鳴く。
電
いなずま
オカン犬拾ったんやけど…
斧田誠一郎
おのだせいいちろう
アカン元のとこ返しとき!
………しゃあないな、ちゃんと世話するんやで