歩く。
ここではない場所へ。
歩く。
もう思い出せない場所へ。
歩く。
――…私は、何処へ行きたかったのだろう?
歩く。
……何処へ?
歩く。
何の為に?
歩く。
既に砂へと風化した記憶だけを抱えて、私は歩く。
歩みを止めてはいけない。
そんな強迫観念に、焦燥に駆られて、歩き続ける。
何年、何十年ではない。 一つの国が興て、滅びるまでの時間は歩いた。
人の身でありながら世界を内包した物を身に着けた結果として、私は老いと死を奪われた。
この世界と違う場所で楽しく笑っていた気もするが、今の私は一人だ。
相棒と言えるのは、その世界から連れ添った剣と鎧とフード付きの外套のみ。
後はこの身に宿る大層な力だけだ。
しかし、力という物は過ぎれば禍を招くものでしかない。
故に私は一か所に留まらずに、あらゆる場所を放浪している。
いつか帰れると信じて。 帰れないという事実から逃げるように。
力のある者が居るという噂を聞けば、会いにも行った。
時折私が居た世界の単語を聞く事もあった。
『ユグドラシル』『ワールドアイテム』『位階魔法』
他には『アーコロジー』や『水道』なんてのもあった。
『君が良いなら、私の所に来ないか?』
この世界でも最強格の存在にそう誘われたこともある。
しかし私はそれを固辞した。 信用や信頼ではなく、同じ場所に止まりたくなかったから。
目の前に困る者が居れば助ける事もある。
元居た世界の道具を分け与え、使い潰して、もう手持ちもほとんど無い。
私がこの世界に居るという証だけが増えて、元居た世界の証が消えていく。
そう気付いた時に泣ければ良かったのだろうが、その時にはもうそれすらも擦り減っていた。
『貴方様はそうやって、自分だけを犠牲にして、生きて行かれるのですか?』
どこかの国の女王か、王女にそう問われたことがある。
私はその問いに否を返した。 私はそんな聖人のような存在ではない。
既に人から逸脱した身であろうと、この心は人間のつもりだった。
何処までも平凡な、ただの男だと真剣に述べれば、相手は悲しそうだったことを覚えている。
まぁ、何万もの大軍を相手に一人で渡り合う存在が、そう言っても悪い冗談だろう。
そう考えれば、相手には悪い事をしたと反省できる。
出会いを経て、別れを繰り返して、私は今は一人だけで歩いている。
私の名前を知っているのは、自分を除けば件の最強格の存在だけになった。
彼は時折私を察知して使いを寄越す。 今目の前に居る中身の無い白銀の鎧が彼の使いだ。
「やぁ、元気そうだね。 アル」
「――…どうした、ツアー。 ここは君の察知の範囲じゃなかったと記憶している」
「だから、ちょっと仲間に探してもらったんだ。 『
「その名は気に入らないから止めろと、何度も言っただろう」
ここ数日、自分を見ている目が有ったのは知っている。
しかし敵意も害意も無く、接触する様子も無いから捨て置いたのだ。
一々関わっていれば要らぬ面倒を招くのは、経験則で知っていたから。
「それを私に言うのは止めてくれ。 ここ200年くらいで浸透してしまっている」
「――…だったら私を呼ぶのに使うな。 それで何の用だ」
「……おそらく、君のいた世界から来た存在がまた現れた」
私が黙って話の続きを促せば、彼は続きを話し始める。
少し前に、この鎧の使者がある存在と戦闘を行った。
吸血鬼という事だったが、それにしては異常に強く、撤退を余儀なくされたと。
故にその辺りに注意をしてみれば、理を超える力の魔法の反応が何度かあったのだという。
「……超位魔法だな」
「昔君が言っていた、今の位階魔法を超える魔法か……『ぷれいやー』だね?」
「まず間違いなく、な。 君達が言う従属神は基本的に使えないものだ」
ここまで来れば、彼が言いたい事も分かった。
要は自分をその『ぷれいやー』とぶつけたいのだろう。
その事については別に拒否する事は無い。 私も噂を聞けば会いに行くだろうから。
そして会った結果が何であろうと、私は基本的に不干渉だ。
同じ世界から来ていようが、私は彼らと友ではないのだから。
「わかった。 行ってみるとしよう」
「……すまない。 友である君にこんな事を願い出るのは、恥知らずだとは承知しているが」
「所詮私は異邦人だ。 管理者を自称する君が気に病む事ではないよ」
「……私が君を友だと思っている事は、真実だよ」
そうか、とだけ返して、私は鎧を一瞥する事なく歩き出す。
もう私にとっての友は居ない。 全てあちらに居る。
だから、私は彼を友とは言わないし、思わない。
◇
歩きついた場所は、既に地獄の様相を呈していた。
全身が黒い、無数の触手を持った化物が人を蹂躙する地獄。
風化した記憶が、あれは超位魔法で呼び出されるモンスターだと囁く。
確かにこの世界では、ごく一部の例外を除けば誰もあれは倒せない。
私は腰に佩いた剣を抜き、全てのスキルを起動する。
「〈
剣が金色の炎を纏い、それを化物の一体に向かって振り抜く。
炎が一条の閃光になり、化け物の体躯全てを覆うほどの力となる。
その結果として齎されるのは、化け物の消滅だ。
ただ、派手に動き過ぎて残りの化け物が私の方を見ているのは、必要経費だろう。
そして、私はそんな化物の視線を気にするほど弱くは無かった。
悠々と地獄となった平原を歩き、向かってくる相手を両断していく。
「あ、貴方様は……まさか、伝説の」
「どんな伝説かは知らんが、無関係だろう」
途中で座り込んでいた戦士の男に声を掛けられたが、それだけ言って歩き続ける。
化け物が残り一体になった所で、そいつが動きを止める。
一瞬だけ思案したが、動きを止めたので斬る必要が無いと判断してその前に立つ。
「いや、まさか、しかし……」
その化け物の触手に乗っていた存在が、何かを呟いていた。
「……『
「――…私の種族を知っている? そして黒い子山羊を一撃で倒す力……プレイヤー?」
「この世界に来て600年以上、アテもなく彷徨う者だがね」
「ろっぴゃ……!? 少し尋ねたい事があるのだが、いいか?」
触手に乗っていた存在……死の支配者たるものが妙に人間臭く感じた。
彼の問いに頷きで返せば、次に彼から出たのは3つの単語。
『ユグドラシル』『ワールドアイテム』『アインズ・ウール・ゴウン』
これらの言葉に心当たりはあるか、と。
「一つ目はDMMOの名前。 二つ目はそれの中の最強格のアイテムの総称。
三つ目だが……まさかそれをここで聞くとは思わなかったな」
「というと?」
「懐かしい名だ。 私の友がその名前のギルドに居たよ」
「……その友の名前は、憶えているか?」
「モモンガと、たっち・みーと、あまのまひとつ。
特にあまのまさんには、この剣を打ってもらった恩もある」
剣を掲げた私の言葉を聞いて、彼はその骨の手で顔を覆い隠した。
「……君の名前は、アルトリウス・ウェルシュ・オックスフォードで間違いないか?」
問いかけの声は震えていて、縋るような響きがあった。
それでも、告げられた言葉の意味ははっきりと分かる。
「……そうだね、モモンガ。 私にとって、悠久の時を超えて再び会った友よ」
「っ! やはり、やっぱりお前だったのか、このバカアルが…ッ!」
600年以上ぶりに呼ばれた、友しか呼ばない名に私は心の底から笑った。
そんな私に向かって彼は触手から飛び降り、その骨の手で殴り掛かってくる。
「笑ってる場合かド阿呆がァーッ!!!」
「ははは、笑う以外にどうすればいいんだよってイッテェ! 触んな痛いわ!?」
「てめぇ最終日にすら連絡寄越さないで何してたんだコラァッ!?」
「え、未踏の地歩いてましたけど?」
「だよね知ってたわこの踏破狂いがヨォーッ!?」
これは、超マイペースな人間の騎士が、骸骨の魔法詠唱者を振り回す物語である。
うそです!
誰を病ませますか(キャラは作者の独断と偏見
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王国勢(青の薔薇など
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聖王国勢(聖王女と他二人
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竜王国だろJK
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まさかのナザリックから
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ナンデ? ツアーナンデ?