歩み続けた騎士の行方   作:Fiery

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ちゃんと病んでる? それだけが不安


歩み続けた騎士の寄道

 

 

 

 アルトリウス・ウェルシュ・オックスフォードと言う人間は、だいぶおかしい。ワーカーとして半年間だけ組んで仕事をしていた頃から、私はそう思っていた。

 

 まずは見た目。初めて見た時は異国の王子様なのかと思ったくらいに整った顔立ちで、どこか気品すら漂わせる美青年だった。それだけならまだ『見た目が良いワーカー』として通らない事もない。その見た目のレベルが現皇帝なんか目じゃない程だという事に目を瞑れば、だけど。

 でも彼の立ち振る舞いが、見た目を更に引き立てている。誰に対しても礼節を持って接するソレは、まさしく御伽噺に謳われた騎士のソレであり、紳士的な物だった。私も最初にその振る舞いを見た時には驚きと共に、『この人なんでワーカーをしているのだろう?』と疑問を持ってしまった。

 

 次に強さ。これはもう説明は不要……というか、私には説明出来ない強さだ。何せ市販の安物の剣でも、彼が振るえばギガント・バジリスクを一撃で真っ二つにしてしまう。いや、今まで出会った魔獣については、私を鍛えるために割り当てられた相手以外は、彼に二度剣を振らせた存在は居なかった。ちなみに彼が振った剣を後で私が振ってみたら、岩に当たって折れた。その時に武器屋で買った安い剣だという事を知ったのだが、それはそれで驚愕したのを覚えている。

 

 性格については……善人であるのは間違いないと思う。誰にでも礼を持って接し、分け隔てなく優しい。しかし相手が敵であれば容赦せず、改心をすれば許す度量もある。苦しむ存在が居れば手を貸して、その苦しみを除き、生きていく為の方法も教授できる。理想の騎士、と言うのがしっくりとくる性格だった。

 ただ、私にはそれがあまりにも超然とし過ぎていて、たまに人なのかどうかも疑わしく思ってしまう。話をすれば彼もただの人である事はわかる。しかしそれ以上に騎士であり、導く者という感じだ。

 

「……オックス」

「なんだい?」

「オックスはどうして、旅をしているの?」

 

 彼についてのプロフィールを思い出しながら、私は問いかけた。彼と再会して二週間、今は聖王国を目指している。帝国と王国の境界の街から、途中魔導国の物になったエ・ランテルを経由して、王都へと進んでいく。そんな旅の途中の野営で、焚火を見ながらの一時。

 

「元々は、帰りたかったんだよ」

 

 何でもない事の様に、彼は語り始めた。自分がこの大陸の外から、訳も分からずここに飛ばされてきた事。帰る手段を探すために旅をしていた事。その旅の途中で、自分が居た場所から来た存在とも会った事。

 

「彼の魔導王とは友達でね。古い馴染みだ」

「アンデッドと……?」

「あぁ、アンデッドと、だ。別に私にとって、人もアンデッドも特に変わりない。意思疎通が可能でわかり合えるならば、友となる事だって出来る。流石に根本的に相容れない者とは、無理だろうけどね」

 

 そうやって笑う彼に、私は見惚れた。何の気負いも使命感も無い笑みは、彼の素だと思ったから。本気で彼は彼の魔導王を友だと思っていて、アンデッドであろうと関係無いと思っている。それは、私が生きてきた中で培った常識からは外れていて、しかし彼らしいものだった。

 

「帰れるようになったら、帰るの?」

 

 続けてはなった私の言葉に、彼は少し悲しそうな顔をした。

 

「……この帰りたいという目的は、もう惰性みたいなものだ。長い時間旅をしたけれど、向こうから飛ばされてきた存在と会った数回しか、収穫が無い」

「そ、そう……長い時間って、どれくらい?」

「……少し口が滑ったかな。そこまで話すつもりはなかったけれど、仕方ないか」

 

 珍しく、『しまった』と言うような表情をした彼が溜息を吐く。そして続けて言われた言葉に、私はかつてない衝撃を受けた。

 

「おおよそ600年、私は旅を続けている」

 

 語られるのは、彼が直に見た神話。彼が語ったのでなければ、私は絶対に信じなかった。『六大神』の真実に、『八欲王』と『六大神』の戦い。『十三英雄』からは協力を依頼され、その内のまだ生きている数人とは未だに縁が繋がっている。他にも亜人の転移者との邂逅に、今回の魔導王との出会いなど――…そんな彼の見た事実が淡々と語られた。

 

 

 

 

 

 

 私はかつて、人類の極点を目にした。

 叔父から聞いた冒険譚に憧れて冒険者を志した私は、出会った仲間と共に数々の冒険をした。何度も死にかけた事もあるし、窮地に陥った事は数知れない。その中で、一人で冒険をしていた頃に私はその光を見た。

 

『こんな所で一人は危ないよ? 特に君のような女性なら尚更だ』

 

 簡単な依頼のはずだったけれど、駆け出しでその前に色んな依頼を熟して増長していた頃の私は、モンスター達に襲われて身を潜めていた。手持ちのアイテムも無く、魔法も使い切った絶体絶命の窮地。そんな時に優しく、モンスターなど意に介さずに声をかけてきた御方。

 その御方は、手に持った剣で瞬く間にモンスターを殲滅して、私に手を差し伸べてくれた。艶やかな黒い髪に、深い闇のようだが確かな温かさに溢れた瞳。何よりも、その体から立ち昇る圧倒的でありながら誰も威圧する事の無い清純なオーラ。

 

『あ、貴方様は……一体?』

『ただの通りすがりさ。怪我は……一応癒しておこうか。《大治癒(ヒール)》』

 

 翳された手の平から温かな光が零れ、私の体に降り注げば、瞬く間に負っていた傷が消えて疲労していた身体も軽くなる。見た事も無い魔法に、卓越した剣技。しかし使った魔法は回復させるものだったから、この二つを為しえるとすれば、可能性は一つしかない。

 

『聖騎士、様……?』

『それは正解だ。さて、歩けるかい? ここを離れたいのだけれど』

 

 その言葉を聞いて立ち上がろうとして、足が縺れた。御方に抱き留められ、顔から火が出るかと思うくらいに赤面した事を覚えている。そして、仕方ないと、御方が私の体を抱き上げて走り出した所で私は恥ずかしさが許容量を超えたために気絶した。

 その後は、依頼を受けた町の入口の前で目を覚まし、御方とそのまま別れた。依頼達成の証拠を持ってくるのを忘れた事を思い出して、私はまた蹲った。

 

 御方の事を知ったのは、だいぶ後になってから。私が当時フリーだったガガーランともう一人、リグリットとチーム『蒼の薔薇』を結成した後。その時の出来事を話した時にリグリットが目に見えて動揺したからだ。いつも泰然として、老婆でありながらそれを感じさせない飄々とした所を持つ彼女がそこまでになる存在。興味を抱かないはずがなく、問いただせば彼女は渋々と言った体で教えてくれた。

 

『そいつは多分、アルトリウスという聖騎士じゃな』

『アルトリウス……様』

『伝説の『原典の騎士(ナイツ・オブ・オリジン)』と言うのは、聞いた事くらいはあるじゃろ?』

『えぇ、まぁ……え?』

『そいつの事じゃ。何某かの要因で、人間でありながらわしよりも長く生きとる。外見の歳は……おそらく二十と言った所じゃな』

『まって、え、あの伝説って、少なくとも三百年前からあるって……え?』

『わしの友が言うには、六百年近く生きとるという事らしいな』

 

 開いた口が塞がらなかった。そんなにも昔から生き、それでいて高潔なままでいる聖騎士。その話を聞いて、私の中で得体の知れない感情が大きくなっていくのを感じた。理想――…そう、冒険譚で聞いた冒険者よりも。神話で語り継がれる英雄よりも。あの御方は私が目指すべき到達点だと思った。この時、リグリットが戦慄した表情で私を見ていた。一体どうしたというのだろうか、今でもわからない。

 

 それからも、順調とは言えないがしっかりと冒険や依頼を熟していく日々だった。その日々の中で変わった事と言えば、私が祈る存在があの御方に変わった事だ。『四大神』の水神を信仰してきた私だが、魔法が使えなくなったという事は無い。何なら威力も位階も上がっていると確信できるほどに、私の魔法は強くなった。そして、目指す理想が聖騎士であるあの御方であるならばこそ、私は剣も振るった。戦士であるガガーランから教えてもらって剣を振り、魔法を学んでいけば、いつの間にか私は英雄級と言う領域に足を踏み込んでいたらしい。

 

 その頃には、新しいメンバーに忍者であるティアとティナを迎え、そしてリグリットが引退するというので、その代わりの人材であるイビルアイと決闘して迎え入れた。

 

『イビルアイは、アルトリウス様の事は何か知っているの?』

『何だ藪から棒に。()()()がどうかしたのか?』

『……いえ、何でも無いわ』

 

 リグリットと歳が近いという事で何となく聞いてみれば、彼女は仮面をつけたままそっぽを向いた。その表情はわからないが、声音は何となく上擦っていたように思う。()()()()()()()私は会話を切り上げた。何故かはわからないが、イビルアイがあの御方の事を話す度に私の中に黒い淀みが溜まっていく。仲間である彼女に、こんな思いを向けてはいけない。高潔なあの御方に追いつくためには、こんな感情は不要のはずだ。

 

 今のメンバーになってからも冒険を続けた。そして私が十九歳の頃、私達『蒼の薔薇』はアダマンタイト級……最上級の冒険者となっていた。あの御方に並んでいるとは思わない。でも、あの時助けてもらった駆け出し冒険者がここまでになりましたと、あの御方に知ってもらいたい思いはあった。

 

 そんな時に聞こえてきた、『輝煌(きこう)聖騎士(パラディン)』の噂。カッツェ平野にて、王国の二十万を超える軍をたった一人で壊滅にまで追い込んだ規格外の存在である『魔導王アインズ・ウール・ゴウン』の噂と共に流れてきたそれが、私の胸をざわつかせる。

 

 

 

アナタサマノトナリニハ、ワタシダケイレバイイデスヨネ?

 

 

 

 

 

 

 私は仮面を外し、窓辺から見える王都の街並みを見る。眼下には、命辛々と言った体で逃げてきたと思わしき兵士達……それ以外にも徴兵された農民なども混じっているが、皆一様にいつもの帝国との戦争に参加していた者達で間違いはない。今回はどうやら、いつもの戦争ではなく、大虐殺だったようだが。

 

『僕を汚物と呼ぶならそれも良いだろう。この身が、この世界に取って異端である事など百も承知。しかし、それを廃する為とは言え、この世界の命ある者に無限の苦痛を強いるお前も、この世界にとって汚物と成り果てたと知れッ!』

 

 あの時、私とあの竜王の間に立ち、その力を惜しみなく振るった貴方なら。星のように優しくも苛烈なる光を纏った貴方様なら……罪無き民が死する前に、彼の魔導王の前に立ったでしょうか。

 

 

 あの方との出会いは、もう二百年以上も前の事だ。かつて私は、今は亡き国の王女として生活していた。厳しい父と優しい母、メイドや教育係と過ごす日々は幸せだった。しかし、それは突然崩れ去る。一日……いや、それよりも短い時間で私が居た国の民は、両親もメイドも教育係も含めて全員ゾンビになってしまったのだから。私だけ何故か吸血鬼(ヴァンパイア)として知性を持ったまま意識を取り戻した。

 何が起こったのか、皆目見当もつかないままに私は両親を、民を元に戻すための方法を探し続けた。今になって思えば、高々10歳程度の箱入りのお姫様が何か出来るというわけでもないし、原因を探すのならば外に出るべきだったのだが……まぁ今になって思うだけで、当時の私にはそれしか考えられなかった。

 

『――…どうやら君は『生きている』ようだね。何があったか、聞かせてほしい』

 

 方法を探して何年か経った時、城内に強力なアンデッドが現れた。第二位階の魔法しか使えなかった当時の私では到底倒す事も出来ないアンデッドを前に、私は逃げる事を選ぶ。死んでしまったら両親も民も戻せないと言い訳をしながら、だ。その逃げている途中で、私はあの方と出会い、そう問われた。人と言葉を交わす事も無かった私は、咄嗟に声が出なかった。アンデッドが追いかけてくる中で、迫る脅威を伝えようとして、あの方が振るった一閃はその脅威を容易く打払って見せた。

 呆然とする私が復帰するまで、あの方は傍に居てくれていたように思う。記憶がその辺りは曖昧だから仕方ない……それから私は自分の身に降りかかった事、この国に降りかかった事を全て説明した。言ってどうにかなるとは思わず、ただ誰かに聞いてほしかったのだと思うその独白を、あの方はずっと聞いてくれた。

 

『――…インベルン嬢。この杯に注がれた水を飲んでみてくれ』

 

 話を聞き終えたあの方は、水を注いだ淡く輝く黄金の杯を差し出してきた。あまりの神々しさに私は遠慮したが、『何か好転するかもしれない』と言うあの方の言葉に縋り、それを飲み干した。変化は劇的だった。私の中に有った隙間のようなものが埋まる感覚と共に、無数の光の玉が杯へと還っていく光景を、私は一生忘れる事は無いだろう。

 

『なるほど……インベルン嬢。王と王妃……いや、当時君の周りに居た者達は何処にいる?』

 

 問われるままに私は城を案内し、皆が変わり果てたその日からゾンビとなって動かぬ両親達が居る場所へと辿り着く。あの方は再び黄金の杯に水を注ぎ、動かぬ両親やメイドのナスターシャ、教育係のベラン老師へと振り掛ける。

 

『あ、あぁ……っ!』

『き、奇跡か……』

 

 私から出てきた光の玉は4つ。丁度あの時に私の近くに居た人の数と一致する。両親と、ナスターシャと、ベラン老師。だから、あの光の玉が4人の魂だったんだと何となく気が付いた。その魂を取り込んで私はゾンビにならずに、吸血鬼(ヴァンパイア)となって居たのだとわかった。そして、4人以外の魂は既に無く、民はもう救えないという事もわかってしまった。あの方は『中途半端に希望を持たせた』と真摯に謝罪を繰り返したけれど、私達にとっては救世主である。感謝こそあっても責める事など無かった。

 

 ただ、問題としてゾンビ化が解けた4人は寿命のある人間種だが、私はどうやら吸血鬼(ヴァンパイア)として固定され、異形と化したままだという事がある。これについてはあの方にもどうしようもない事象であったので、私は両親を安全な街にまで送った後にこのゾンビ化を起こした存在を突き止める事にした。両親と老師から全ての魔法と知識を学び、それらを学び終える頃には十年と言う時間が流れていた。

 

 その頃にはあの方も元凶を探すために旅をしていて、私はあの方の後を追った。旅立つ前に細やかな送別会を開いてくれた4人にはもう、それから会っていない。

 

 私の国と同様の被害に遭ったのは他に3国あり、範囲としてはとてつもなく広い。虱潰しに探していては時間はいくらあっても足りないが、あの方の足跡はまるで運命に導かれるように元凶へと迫っていた。故に私はそれを読んで先回りする事が出来――…国を滅ぼした元凶である、アンデッドと化した竜王と対峙した。奴は国の人間を全てゾンビに変えて、あの方を含めた『ぷれいやー』なる存在に備えていたという。曰く『竜帝の汚物』と蔑み、その力を振う奴は確かに人智を超えた強さであった。

 

 しかしそんな奴は、真に気高き者が振るう聖剣によって討滅される。世界を守る為に、その世界に生きる命を犠牲にする。あの方はそれを間違いだとは言わなかった。ただ、お前は自身が汚物と蔑んだ存在と同じ所に堕ちてしまったのだと言い放った。

 

『故に、異物たる僕が敢えて示そう。これは、この世界に生きる命を守る戦いであると!』

 

 その言の葉と共に開帳されるのは、(まこと)の聖剣。幾重にも光を束ね、天にも突き刺さらんとするほどに立ち昇る、光の聖剣。

 

『《完全開放(フル・リリース)》! 我が剣に集いし、命の光を見よ!』

 

 光の聖剣が振られたのはただ一度。それだけで、4つの国に居た全ての命を束ねていたアンデッドの竜王は、その全てを浄化されて消滅していった。消滅した後で見えたのは、柔らかく立ち昇っていく無数の光の粒達が、開放された民達の魂であるような、幻想的な光景。

 

 そして、その光景に背を向けて歩いていく、英雄の姿。

 

『ま、待ってください! どちらへ!?』

『復讐は終わりだ、キーノ嬢。君はもう新しく、君の道を歩むと良い』

『嫌っ! 待って! 新しく歩むというなら私は――』

『それ以上はいけないよ。君はまだ、何も知らないままだ。だから、私のようなろくでなしと関わる必要はないさ』

 

 あの方はそう言って笑って、私の前から姿を消した。

 

 

 柄にもなく、昔を思い出していれば既に日が傾いていた。食事も睡眠も不要な吸血鬼(ヴァンパイア)とは言え、無為に時間を過ごしてしまったと苦笑する。

 

「……確かに私は、何も知らぬ小娘でした」

 

 あれから魔神と戦った。親しくなった友と言える者も失った。出会いと別れを繰り返して、今は仲間と言える者も居る。

 それでも、あぁ、それでもだ。あの時から欠けてしまった、この胸の内を埋めるには足りない。代わりなど無い、唯一無二が欠けてしまっている。いくつもの事柄を知って私がたどり着いたのは、たった一つの単純な事だった。

 

 

 

ワタシノトナリニ、アナタサマガイナイノデス

 

 

 

 




亡国持って無いよ……めっちゃ調べたけど粗は多分あるよ……


この世界線の蒼の薔薇、下手するとラキュースvsイビルアイが勃発して王都滅びたりしない……?
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