「なーーーー!?」
言葉を失った。漫画や小説で読んだことのある設定では最強の肉体を手に入れてハッピーエンドを迎える展開が多いじゃないか。なのになんだ、憑依?した相手が話しかけてくるなんて有り得るのか
《現にこうして有り得てるではないか。さて……貴様はどうやって私に取り憑いた?》
知るか、そんな事!いつものように目が覚めて起きたら黒翼公の身体になっていたんだよ!
《なるほど……いやはや不快な現象だ。》
とりあえず俺はなんで起きたらこの体になっていたのか、元の世界には戻れるのか、それを知るためにこの幻想郷で過ごしてたのに……まさか、まさか!
八雲紫達に目をつけられ、最強の風見幽香と戦闘する羽目になり、ヒロインは誰もいない……クソっ!
《嘆くのは後にしろ、それにしても情けない。実に情けない》
2回も情けないなんて言うんじゃありませんっ!泣きますよ!
《私の姿で泣こうとするな、みっともない。さてそれで?目の前敵にどうやって勝つつもりだ?》
あれ?助けてくれるんじゃないの?
《このまま何度も私が救っていては貴様の為にもならんだろう。アドバイスぐらいはしてやる》
なるほど、とりあえず魔力的な問題もあるから長期戦はしないつもりと言いたいが…相手が相手だからなー
魔力がそこを尽きるまで戦うしかないな
《……貴様は吸血鬼がどうやって強くなるか知っているか?》
はい?なんですかいきなり……
《いいから応えろ。その浅はかな知恵を絞ってな》
ちょくちょくバカにするの辞めて貰えませんかね!
ま、まぁ……人の血を吸ったり上位個体の吸血鬼の命を喰らうとか?
《ほぅ?馬鹿な男だと思ったがそれなりの知識はあるようだ。そう、吸血鬼とは血を喰らい、同族を増やし力を得る》
はっはっは、黒翼公さん。中身は普通の青年なのでそこまで馬鹿にされてしまったら泣きそうになります。やめてください
《さて、ここからが本題だ。貴様の後方に少ないが人の気配を感じる。恐らく小さな集落があるのだろう》
流された!?無視られた!?酷いっ!ってそんな事はもういいや。えーと、それがどうしましたかね?
《その集落まで後退し、人々の血肉を喰らえ》
はぁ!?いやいや。絶対にダメ!そんな方法は認められません!嫌でーす!却下します!
《でなければ勝てんぞ、あの妖怪には。貴様の残った魔力ではアレを打倒する事など不可能…故に血肉を喰らい、万全な状態で戦うしかあるまい》
嫌なの、それでも俺は!それぐらいなら死んだ方がまし!
《その意思は認めよう。だがどうする気だ?今の貴様に勝ち目などないぞ》
「……どうにかするさ」
「…貴方、イカれちゃったの?1人でブツブツ喋り出すと思えばいきなり黙り込む。まぁ、いいわ…消えなさーーーー」
傘を構え再びマスタースパークを放つ体勢になるが背後から無数の弾幕が風見幽香を襲う
弾幕は直撃し爆発を起こす。そして風見幽香の後ろには大妖精が震えながら立っていた
「君は……」
「あ、あの!すいませんでした、私達のせいで貴方にご迷惑を。あ、私は大妖精の大ちゃんって言います!よろしくお願いします!」
ペコッと頭を下げる大妖精。
「あ、あぁ。私はグランスルグブラックモア、吸血鬼だ」
「吸血鬼……なんですか?」
「一応な……それにしても流石の大妖怪も背後からあれを喰らっては……ッ!!避けろ!大妖精!!」
「えっ?」
爆発の煙幕でよく姿が見えなかったが、風見幽香は無傷であった。その証拠に大妖精に向かってマスタースパークを放つ
大妖精に迫る破壊の光、彼女を救うべく肉体強化の魔術をかけ地面を蹴り彼女の元に向かい、抱き寄せ庇うが、肩の付け根から先が吹き飛ばされた。そこからはボタボタと紅い鮮血が溢れ出す
抱き寄せた大妖精の身を確認しようとしたが、俺の目の前に広がっていたのは片腕と片足が無くなり地面を抉った破壊の光により飛び散った木の枝が彼女の喉や小さな身体を貫いていた
「なっ……あ……そんな……」
血がベッタリ付いた彼女の手が優しく俺の頬を撫でる
唇がゆっくりと動くが声が出ない
彼女の目には痛みによるものか、これから自分が死ぬことを理解した涙が溢れ出していた
「ま、待っていろ!今……治してーー」
その時、自身の中に聞こえる声が告げた
《無駄だ、助からんよ》
五月蝿い!助けてみせる!必ず、必ず…!
すると彼女の口が動く、口から血が溢れ出し声にもならないほど小さな音が囁く
【はやく逃げて】っとーーー
彼女の顔を見ると涙を流しながら笑みを浮かべる
血の匂いが俺を誘う、そして本能が俺に命じる、血を喰らえとーーー。
気がついた時には彼女のか細い首筋に牙を突き立て血を食らっていた……
《そうだ。それでいい……》
俺を強く抱き締める大妖精。血を吸い終わると彼女は光となって消滅した
「あら、やっぱり吸血鬼なのね…死ぬ前に妖精の血を取り入れるなんて」
「……あぁ、最悪の気分だ。何が起きても血を吸わないと心に誓ったのに……あぁ……」
肩の付け根から流れ落ちていた血は止まっておりぐちゃぐちゃと醜い音を立てながら腕が再生した
先程受けた傷も全て消え、力が漲る
《どうだね?それが吸血鬼の力だ。彼女には感謝しなくてはならないな青年よ》
五月蝿い。アンタが俺に血を吸わせるように仕向けたんだろう
《そうやって決め付けるのは関心しないな……それにもはや貴様は人間ではない。私なのだ、化け物であり吸血鬼であり死徒である。故に、以前自分が人間であったと一般人だなんだと自分を擁護するのは止めろということだ。どう抗おうとしても今は化け物なのだよ》
……逃げるなって言いたいのかよ、黒翼公さんよ
《違うと言えるのかね?今の貴様はまさに化け物だ。救おうとした相手の血を食らって生き延びようとするただの吸血鬼…理解したかね》
待つのも疲れたのか風見幽香は溜息をつきながらマスタースパークを放つ。3度目とはいえ威力など落ちる訳もなく俺に迫り来る
《では、開演だ。黒翼公の力、存分に使うがいい》
それだけを言い残すと脳裏に様々な記憶が流れる
魔術に関する知識、戦いによる知識、様々な記憶と知識が俺の脳に身体に流れる
破壊の光は目前まで迫ってきた。が、魔術の結界がそれを阻んだ
「へぇ……貴方、血を喰らえばそんなに変わるのね」
驚きと興味津々の表情、そして笑みを浮かべる風見幽香
対して俺は顔に手を当て流れる記憶と知識の処理に頑張っていた
「……生憎と今日は手加減できそうにない。早々に決めさせてもらおう」
スゥッと深く息を吸い、呪われた呪文を唱える
「———気をつけたまえ。
我が夜に舞う鳥たちは死者にのみ厳しいぞ———」
固有結界『ネバーモア』。この言葉と共に辺りの世界が変わった薄暗く、じめっとした世界。
風見幽香は先程まで余裕の笑みを浮かべていたが、突然の出来事に驚いていた
その刹那、舞い散る羽に触れた彼女の身体に異変が起きた。身体中から煙が上がり羽が触れたところから服が熔け火傷をおっていた
《ほぅ、我がネバーモアを使うとは……死者には勿論。生きている者でさえ苦しめる我が固有結界。無機質には意味を成さないが……妖怪である彼女なら多少効果はあるだろうな》
「くっ、くそっ!お前ぇ!!」
痛む身体を抑え殴りつけようと接近するも彼の放った無数の魔術が彼女の身体を抉る
「ガハッ……私が……こんな……」
腕をダラリと下げ、薄れゆく意識の中見つめる幽香。
諦めたわけではない、ただ認めたのだ。己の、敗北を
見下したように相手を見る黒翼公、それが意識を失う前に幽香の見た最後の光景であった。
「……終わったか」
倒れた彼女を見て固有結界を解除する
そして彼女の傷を見る。あちらこちらから血が溢れ出していた
《さて、トドメを刺せ。もう1人の愚かな私よ》
「それは断る。今の私は貴君のような黒翼公ではない」
彼女に治癒の魔術を使い傷を癒す
その光景を見ていた彼の内に潜む黒翼公が呆れたように呟く
《殺そうとしてきた相手を救うとは、馬鹿にも程がある……これだから元人間の考えはわからん》
「それが私のやり方だ。それに今回はこちらに非がある……彼女の命を奪うなどお門違い…そして何よりも…これは大妖精の意思だ」
血を吸った際に感じた大妖精の感情。俺に対する罪悪感と風見幽香に対する罪悪感。風見幽香が大切に育てたひまわり畑を台無しにした事が申し訳なかったのだろう
《……好きにするがいい。私は暫く眠らせてもらおう、ではまた会おう。愚かな吸血鬼(元人間)よ》
「あぁ、いずれまた会おう。黒翼公よ」
それだけを言い残すと声は聞こえなくなった
そして風見幽香の治療を終え、抱き上げると木のそばに寝かせた
もう用は終えた、はやく人里に戻ろう
漆黒の翼を広げ静かにその場から離れた
「アイツが大ちゃんの初めてを奪った奴かー!」
「ち、チルノちゃん!言い方!誤解を招きそうな言い方はやめて!」
シリアスな雰囲気をぶち壊す2人の妖精
1人は先程死んで消滅した大妖精と風見幽香のひまわり畑を凍らせたお馬鹿な妖精
ただ大妖精は飛び去った彼の後ろ姿を見つめていた
「……ブラックモアさん……ありがとう」
「あれ、大ちゃん?顔赤いけど大丈夫?」
「ふぇっ!?//だ、だ大丈夫!それよりも幽香さんが起きたらちゃんと謝るんだよ!チルノちゃんー!!」
「えぇー!!やだよー!怖いし、絶対傘でぶん殴られるー!」
「私なんか半分消し炭されたんだよ!絶対に幽香さんに謝ってね」
ニッコリと鬼嫁のように微笑む大妖精にビビる氷の妖精チルノであった
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