『BOB開催まで後わずかとなりました! さあ、GGO最強プレイヤーの称号はだれの手に!?』
BOBが始まる少し前、総督府の一角のカフェにて多くのプレイヤーが集まってBOB決勝戦の開催を楽しみにしていた。カフェではプレイヤー達の名前がずらりと並び、誰が勝つかの賭け事が行われている。
「なあ、聞いたかあの噂?」
「ああ、知ってるぞ。あのMMOストリームの猫耳司会、実は男なんだってな?」
「ちげーよ! そんな話してないわ! てか、どこ情報だよ!?」
「大丈夫大丈夫、俺は男の娘でもイケる派だから」
「オメーの性癖なんか知らねぇよ! そうじゃなくてBOB決勝戦の事だよ!」
あまりに突拍子もない事を友達プレイヤーが言うので、噂好きのプレイヤーは話の路線を戻す。
「掲示板でこんな噂があったんだ。あくまで釣りレスかも知れねぇけど、なんでも今回のBOBにはあの《サトライザー》が出場しているらしいぜ?」
「サトライザー……ってあのサトライザー?」
「ああ、第一回BOBをナイフとハンドガンだけで無双した、伝説のプレイヤーだ。海外からの参加者みたいで、極近接戦や軍隊式格闘術で日本人プレイヤー皆殺しにして出禁食らった奴だよ」
サトライザーの事は、GGOの日本人プレイヤーからは『舐めプをした害人』扱いされると同時に、半端伝説となっていた。
「なんでまた? サーバーは
「そこは謎なんだが……ま、日本に来てログインしているとかだろうな。とにかく、そのサトライザーって奴は、また参加している。それも、昨日のBOB予選大会ではナイフも一切持たずに素手だけで勝ち上がってきたそうだ」
「素手だけで!? なんて舐めプだよ……」
BOB予選大会の事はすでにネット上で話題になっており、誰もがサトライザーの再降臨だとしきりにもてはやしていた。スレッドや動画投稿サイトは議論で荒れに荒れ、来るBOB決勝戦がどうなるのか期待されていた。
「時には、相手の武器を奪って撃ちまくる、なんて事もあったそうだ」
「えげつねぇ……」
「ま、参加者にとっては願ってもない来客だろ。あの伝説のサトライザーにリベンジ出来るんだからな」
「ああ、FPSの本場はアメリカでも、《ザ・シード》を生み出したのは日本人だからな! 頑張ってほしいぜ!」
男の娘好きのプレイヤーは、そう言ってBOB決勝戦出場者達にエールを送る。届いたかどうかは知らないが、彼らならなんとかなるであろう。
「あ、噂といえば……」
「ん? どうした?」
男の娘好きのプレイヤーは、思い出したかのように話し始める。
「なんか……あくまで噂なんだが、昨日の深夜に優勝候補の《闇風》や《シノン》が、変なガンショップに行っているのを見たって……」
「は? 闇風とシノンが二人で?」
「いや、それどころか30人くらいのプレイヤーが集まってそのガンショップに入っていったんだ。そいつら全員、今回のBOB決勝戦の参加者なんだよ」
「なんでまた……今更装備調達か?」
「いや……実はその店はいわく付きでな……」
新たな噂を開始したプレイヤーは話を続ける。
「なんでも、普通の銃も売ってるんだが……店主のプレイヤーのコレクションなのか知らねぇけど、変態銃が大量に置いてあるんだ」
「変態銃?」
「あー、変態銃ってのは……要はアレだ、ヘンテコな銃だ」
「余計分かんねぇよ……」
「新しい銃を開発したが、様々な点で失敗してしまった銃の俗称だ。理想的な銃を追求しまくったり、バカみたいに多機能化したり、変な新技術を導入したり、完全な趣味で開発されたりしたゲテモノ達だ」
「なんでそんなヘンテコな武器を売ってるところに、BOB決勝戦の出場者が?」
噂の真意が分からないのか、噂好きのプレイヤーが質問してくる。
「……こっからが噂なんだが、BOB決勝戦の出場者は全員その店に売っていた変態銃で武装するんじゃないかと一部で言われていてな」
「はぁ!? 変態銃だけでBOBに挑むのかよ!?」
BOBとはGGOで一番の猛者を決めるための重要な大会だ。そんな所に、実用性のない武器を持っていく方がおかしい。
「あくまで噂だ。だが……一説にはあのサトライザーってプレイヤーを困らせるためらしい」
「困らせる?」
「要は嫌がらせだよ。サトライザーは第一回の時も、相手の使える武器を拾って使ったりしていたからな。だから、サトライザーに変態銃を与えて妨害をするんだ」
「確かに理に適ってはいるが……ほんとに通用するのか? そもそも、BOBでそんなふざけた銃を使うか普通?」
「分からねぇぜ……ともかく、今回のBOBは絶対に普通じゃない。これだけは言えるな」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「いよいよ始まったね、シノのんの晴れ舞台!」
青い髪色をした女性プレイヤー《アスナ》が、ついに始まった友人の晴れ舞台を祝っていた。
「ああ、BOBも今回で第四回だ。今回はかなりの猛者達が集まっているだろうから、シノンには頑張って欲しいな」
その言葉を呟いたのは黒い短髪を携えた少年、《キリト》だ。彼は端っこに座るアスナの隣で彼女と談笑している。彼女だけではない、ここには他にもプレイヤーがいる。
「しっかし、キリの字よぉ。なんで今回はGGOに再コンバートしなかったんだ? 死銃がいない今回に参加すりゃあ、今度こそは優勝狙えたのによぉ」
と、おちゃらけた様子で喋るのはサムライ風のプレイヤー、《クライン》である。
「あぁ……いやー、前回は光剣で戦ってたけど、アレは周りのプレイヤーが全員光剣に不慣れだった事が原因だから……今回は勝てるかどうか自信なくってさ」
と、キリトはとっさに言い訳をしてみるが、本当は違った。
「えー、でもお兄ちゃんの性格からしてそれでもベストを尽くしそうだけどな〜?」
「ギクっ」
と、金色のポニーテールを携えたシルフの少女《リーファ》が、現実世界では実の兄であるキリトの痛い所を突く。
「そうよそうそう、アンタなら剣でまた無双しまくりでしょ?」
レプラコーンであり、鍛冶屋を営んでいる《リズベッド》もキリトを見る
「そうですよ! なんで参加しなかったんですか?」
頭に猫耳を携えたケットシーの少女、《シリカ》も尋ねる。
「あーあはは……実はやっぱり剣で銃相手はキツくてな……一人相手にするたびに頭が痛かったんだ……」
キリトは女性陣たちの追求についに折れて、本音を出した。彼は前回の第三回BOBにて、《死銃事件》を追ってGGOにコンバートして参加していた。事件はシノンとの協力で解決したため、その後はGGOへのログインはほとんどしていない。
「それもそうだよねー。私もシノのんの協力の元でGGOにログインして光剣使ってみたけど、毎回剣で銃弾を弾くのは大変だったし……」
と、アスナもこれには思わず同感した。彼女はシノンとの友達になった後、何回かGGOにコンバートして遊んでいたことがある。というか、ここにいる全員がGGOに一度コンバートし、それぞれに合ったスタイルで戦ったことがある。
久しぶりに集まった7人と一匹が集まったのは、皆でプレイしているVRMMO、《
今回は、大型スクリーンにGGOの様子が映し出されていた。ネット放送局《MMOストリーム》が生中継している第四回BOBのライブ映像である。見ている理由はもちろん、BOB決勝戦に出ているシノンの応援だ。
「ま、まあ、そろそろ戦闘が始まる頃だろ? シノンを探そうぜ。ユイ、シノンを探せるか?」
「はいパパ! ライブ中継の中でシノンさんは……」
と、アスナの手のひらに載っている人工知能《ユイ》が、妖精としての小さい手から画面を操作する。
「あ、いました! まだ生きていますよ!」
中継画面に、シノンの様子が映る。
「おー、走ってる走ってるー」
「今は移動中ですね」
リズベットとシリカが、画面に映るシノンの様子を見てそう呟く。
「シノのん……優勝できるかな?」
「大丈夫ですよ! きっとシノンさんなら、敵にバレない位置からスナイパーでフイウチしまくりです!」
「フフッ、それもそうね」
おおよそ人工知能らしくない、人を笑わせるための冗談でみんなが笑い、シノンの活躍を期待していた。
「ん?」
「? どうしたんですかリーファさん?」
「いや……シノンさんの使っている狙撃銃って、あんな形だっけ? って思って……」
「え?」
と、リーファがそういうので、キリトは画面を拡大してゆっくりと観察する。
「あ、確かにそうだな……シノンがいつも使っているヘカートⅡとは全然違う……」
「え? なんで? シノのんにとって、ヘカートⅡってメインアームでしょ?」
アスナの疑問は、ここにいる全員の疑問であった。
「なんでだ? フィールドでロストしたとか?」
「いや、予選大会ではシノンはヘカートⅡを使ってた……直前になって武器を変えた……?」
ヘカートⅡを「自分の分身」というくらい大切にしている銃を早々に変えるとは思えない。ロストもしていない筈。となれば、何か別の理由があったのだろうか?
「にしてもこの銃何? なんか、昔のライフル銃をそのまんま大きくしたような見た目してるけど……」
「うーん、分からないな……あ、そろそろ戦闘が始まったみたいだ」
キリトが画面を切り替え、一人のプレイヤーの画面に切り替わる。そこでは、一人の金髪のプレイヤーが敵プレイヤーを体術のみで倒した様子が映し出されていた。
「うわぁ……強い……」
リーファが思わずそう言う。
「アレが噂のサトライザーか……」
「サトライザー?」
「ああ、第一回BOBの優勝者だ。また参加したってネットで話題になっていたけど、本当にいるとな……」
キリトもアスナの疑問符に答えながら、解説をする。
「シノンによると、第一回BOBでナイフとハンドガンのみで挑んで、日本人プレイヤーを皆殺しにしまくった伝説のプレイヤーらしい……」
「なにそれ!? ナイフとハンドガンのみで!?」
リズベットが思わず驚く。
「ああ、しかも敵の武器を奪って戦う事もあったらしいんだ。今回は……素手……だけ?」
キリトが画面を確認しながら呟くので、全員もその画面に食い入る。確かにサトライザーと名のつく金髪プレイヤーは、なにも武器を持たずに体術のみで敵プレイヤーを倒していた。
「素手だけで戦えるなんて……相当な実力者だね……」
「けどよ、こんなの舐めプもいい所じゃないか?」
クラインがアスナにそう言う。
「まあ、不利な事は変わらないけどルール違反じゃないからな。それで勝ったら伝説だし……」
「にしても一瞬でした……早すぎて見えません……」
「アレが……今回の優勝候補……」
キリトの説明、そしてシリカとリーファの関心を他所に、リズベットは目を凝らす。その目線は、サトライザーの持っている武器に当たっていた。
「ねぇ? あの武器なに?」
「え?」
「ほら、サトライザーに倒されたプレイヤーが持っていたあの武器よ。あ、今サトライザーが拾ったやつ」
と、リズベットが興味津々に言うので、キリトは拡大してみる。
「あの……ストックも何も付いていないやつか?」
「うん、そう」
「えっと……少し待っててくださいね……画像検索をかけてみす」
と、キリトとリズベットの興味がその武器を集まるので、ユイが検索をかける。人工知能らしく、膨大なインターネットデータから情報を抜き出すスピードは、どんな検索達人でも敵わない。
「あ、出ました! アレはRSC 1918SMGというサブマシンガンです!」
「RSC……何?」
「正式名称は《ショーシャ-リベイロールス1918サブマシンガン》、フランスの銃で第一次世界大戦期に生まれた銃です」
「へぇ、結構古いのねー」
「はい。ですが……この銃は試作が数個作られただけのはずですが、GGOでは実装されているのですね……」
「試作だけ?」
と、キリトが「試作だけ」という言葉に引っ掛かったのか、ユイに質問する。
「はい、色々失敗しちゃったみたいで、採用されなかったそうです」
「失敗って……何がいけなかったの?」
シノンとの話で、GGOには現実世界では試作や失敗に終わった銃までもが実装されている事は知っていた。が、アスナは名前すら知らなかったその銃の、何がいけなかったのかが気になった。
「えっと……まずこの銃なんですが、使う弾薬はフルサイズライフル弾です」
「「「「「「は?」」」」」」
思わず、部屋にいる全員の声が重なった。
「え? ちょ、ちょっと待ってくれ、サブマシンガンって拳銃弾を使うんじゃないのか?」
「はい、本来ならそのはずなんです。もちろん、PDWなどの例外はありますが、基本的には拳銃弾です。ですが、あの銃はセミオートライフルを短くしてサブマシンガン化しているので、弾薬もそのままなのですよ」
「それって……反動がヤバいんじゃ……」
リーファの憶測は完全に当たっていた。
「はい、そんな物ですから反動が凄まじく、狙ったところにはまず飛ばない暴れ馬です」
「ダメじゃん!」
「当然、テストをした現場の兵士には大不評で、試作だけになりました」
ユイの検索した口から語られるあまりのポンコツさに、一同は苦笑いである。
「? でもなんで、BOB決勝戦に出るようなプレイヤーが、そんなポンコツ品を持っていたんだ? 普通ならレアな武器を持って行くだろ?」
「あー確かにそれ私も思った。日本一のGGOプレイヤーを決める大会だから、普通は強い装備を持って行くよね? なんであんなポンコツ品を持って行ったんだろう……?」
キリトとリーファーが疑問を呈する。
「どうせふざけてたんでしょ? ほら、そうしている間にサトライザーが次のプレイヤーを狙ってるわよ」
リズベットがそう言っている間に、相手プレイヤーの後ろから不意打ちをしたサトライザーが相手を吹き飛ばし、先程のRSC 1918SMGを撃ちまくる。
しかし、最初の1発以外はすべて外れた。あまりに反動が強すぎるため、制御しきれなかったのだ。そして相手にショットガンを撃ち返され、慌てて避ける。そして、至近距離に近づいて体術を喰らわせ、首を締める。
「あらら……やっぱり制御できなかったか……」
「あ、新しい銃に切り替えた」
と、サトライザーが銃を切り替えるのを見て、キリトにまたも疑問が生じる。
「? あの銃も変じゃないか?」
「え?」
「ユイ、あの銃はなんだ?」
ユイがまたも検索を掛かる。
「あ、出ました。アレは《メタルストームMAUL》というショットガンです」
「あの銃……弾倉がないんだけど……」
「アレですか? そういう銃なんです」
「「「「「「え?」」」」」」」
銃として弾倉があるのは当然だ。しかし、それが無いとは一体どう言う事だろうか?
「あの銃は、銃身の中に直接弾が5発装填されているんです」
「銃身の中に直接!?」
「オイオイ、そんなのどうやって撃つんだ?」
クラインの疑問にも、ユイはすぐさま答える。
「あれはケースレス弾という、薬莢がない弾を使ってます。電気信号を炸薬に取り付けられたセンサーに送って着火し、バレル先端に込められた弾から順番に発射しているんです」
「え!? 弾丸にセンサーがあるの!?」
「なんでまたそんな面倒臭い事を……?」
「この銃はライフル銃などの下に付けるアドオンタイプなので、コンパクトにしたかったんでしょう」
「よ、世の中には色んな銃があるなぁ……」
と、キリトはその解説の中で頭の思考を巡らせていた。なぜ、こうもおかしな銃が二連続で出てくるのだろうか?なにか、このBOBには裏があるのでは? と。
そうしているサトライザーは3人目のプレイヤーと森で戦っていた。相手のプレイヤーの武器を奪い、何発も連射をする。
「あーあ、ありゃ死んだな」
「うん、至近距離からの連射だからね……」
「にしても……あのサトライザーって人、やっぱり強いね……」
それぞれが感心するが、やられた筈のプレイヤーが不意打ちで銃を構えた。
「「「「「「な!?」」」」」」
ピストルが放たれ、サトライザーを仕留めようとするがその直前で避けられる。
「ユイちゃん、あのピストルは何!?」
「あれは《ウェブリー・フォズベリー》、オートマチックのリボルバーですね」
「「「「「「「は?」」」」」」」
と、思わずユイのエラーを連想してしまう回答に、全員が聞き返す。
「えっと……オートマチックとリボルバーって全くの別物じゃ……」
「はい、ですからあれは、オートマチックとリボルバーのハイブリットなんです」
「ハイブリット?」
「つまりは、射撃の反動を利用してシリンダーの回転とハンマーのコッキングを行うという拳銃です。射撃を行うとその反動で銃の一部が後退し、シリンダーに彫られた溝に沿ってシリンダーが回転、ハンマーのコッキングが行われるという仕組みです」
「へ、へぇ……面白い銃ね……」
それは意味あるのか? と思ったが、一同は着いて行けなくなり、試合観戦に集中する事にした。
「あの銃は? えらくのっぺりとしていますが……」
サトライザーが拾うのを諦めた、木製の銃をリーファーが見る。
「あれは……《ジャイロジェット・ピストル》ですね」
「どんな銃なの?」
「あれは、世界初のロケット式ピストルです」
「「「「「「「は?」」」」」」」
今度もまた、声が重なった。
「ロ、ロケット式ピストル?」
「はい、炸薬ではなくロケットの弾丸を発射します。そうすると発砲音もしないですし、飛距離も稼げるんです」
「へぇ……意外に強そう……」
「いえ、あれは使い物にならない失敗作ですよ?」
「え?」
リーファの憶測を、ユイは完全に否定した。
「まず、至近距離で鉄の帽子を撃ち抜けませんでした」
「拳銃なのに!?」
「これはロケット式なので、加速するまで時間がかかって初速が遅いんです」
「なるほど……さっきのプレイヤーは近すぎて殺せなかったんだ……」
「おまけに、飛距離もそこまで延びなくてたったの50メートルです」
「ダメダメじゃん!」
「はい、しかも近すぎてもダメ、遠すぎてもダメで、シビアすぎる代物だったんです。当然、どこにも採用されませんでした」
あまりにもポンコツ過ぎて、使い物にならなかった銃であった。
「なんでそんな使い辛い物を持ってたんだろう……?」
「さ、さぁ……?」
アスナの疑問に、キリトは答えられなかった。その後も中継は続く。サトライザーはゴテゴテとした分厚いボディーアーマーを着込んだプレイヤーと対峙する。
「な、何あの銃……?」
アスナが指さしたのは、二つの銃身が繋ぎ合わされた様な、奇怪な見た目をした銃であった。その銃はとんでもない連射速度でサトライザーに弾幕を張る。
「あれは《ビラール・ペロサM1915》、サブマシンガンの元祖とも言える銃ですね」
「な、なんで銃身が二つ繋がってるの……?」
「あれは元々航空機用機関銃で、とにかく弾幕を張るために手数を増やしたんです。つまりは、銃身が2つなら火力も2倍だぜ!!……です」
「馬鹿じゃないの……?」
リズベットの呟きはあまりに辛辣だったが、この場にいる全員の気持ちを代弁していた。
「ねぇ、キリトくん……この大会何かおかしくない?」
「ああ、参加者たちがこうもこぞってヘンテコ武器を使うのは、普通ならありえないからな」
キリトはウィンドウを操作し、観戦者だけが見えるマップとプレイヤーの位置を表示する。
「……なるほどな」
「? 何か分かったの?」
「ああ、この大会の残り人数を見てくれ」
アスナ達は全プレイヤーのDEADとARRIVEが表示された中継画面の左側を見る。
「残りは26人……あれ?」
「四人しか減ってないね……」
「そう、しかもサトライザーの近くのプレイヤーが一斉に森に向かっている。そしてさっきからヘンテコな武器しかプレイヤー達は持っていない。つまりこれは……」
「サトライザーを倒すためだけに、結託をしたの!?」
リーファの予測は当たっていた。
「ああ、そういう事だ。ついでに言えば、あのヘンテコな銃達は、例え鹵獲されてもいいようにするためだな」
「例え鹵獲されても、ヘンテコな銃ならむしろ邪魔になる……と言うわけね!」
アスナの憶測に、キリトは頷いた。
「でも……それってチーミングじゃないんですか?」
「いや、それが問題なら運営は今すぐこのBOBを中止するだろ? それに、本来ならサトライザーも第一回で大暴れしたせいで出禁を食らっているんだ。そんな奴が、ブロックをすり抜けて無双舐めプをしようとしている。しかし、出場者達はヘンテコな武器でしか武装していない。なら、サトライザーを懲らしめるのに丁度いい、とザ・スカーは思ったんだろうな」
「ああ、それなら納得するわね……」
「たしかによぉ、あのサトライザーって奴は銃ゲーで素手って言う舐めプを平気でやる奴だから、これを機に懲らしめるのもいいかもしれないしな!」
リズベットとクラインの納得の声に、キリトは肯く。
「そう言う事だ、今回のBOBはかなり面白くなるぞ」
もちろん、変な意味でだが。
さて、舞台は森に移る。サトライザーは地面に隠れて潜伏し、丸腰に見える相手に向かって駆け出した。しかし、その足はヘンテコな銃によって止められる。
「な、何あれ!?」
「け、拳銃が二丁くっ付いている……?」
「あれは《ドッペルグロック》ですね。二丁の拳銃を同時に撃てば反動も相殺できる!……と思ってくっ付けたらしいです」
「馬鹿じゃないの……」
サトライザーはそいつを倒し、森の中で何かの決め台詞を言おうとする。が、次に出ていたのは、木の上に居座る迷彩服の男だ。
「あれは?」
「《ウェルロッド》です。サイレンサーと一体化した消音拳銃で、一発撃つごとにボルトを引かなくてはなりません」
「拳銃なのにボルトアクションかよ!?」
木の上に居座る迷彩服のプレイヤーを、サトライザーは引き摺り下ろして地面に叩きつける。先ほど奪ったビラール・ペロサを撃ちまくる。が、相手のプレイヤーはそれを巧みに避け、むしろナックルダスターで殴りかかる。
「ナックルダスター?」
「あれはアパッチ・ピストルですね。拳銃とナックルダスターとナイフの機能を合わせ持っていて、変形させる事で使用できます」
「あれ……GGOで不意打ちに使われたら困るなぁ……」
そして森の中では3人目、今度は薬莢を排出しない銃をフルオートで撃ちまくっている。
「《VAG-73》ですね。ケースレス弾と言う、先程のショットガンにもあった薬莢がない拳銃弾を使います。しかも、ロケット式弾薬です」
「え? ジャイロジェットで失敗したのに……?」
「はい、欠点もそっくりそのままです。しかも、マガジンの弾丸は前後二列配置で、おまけに安全装置もありません」
「く、狂ってるわね……」
「この銃はソ連の銃で、冷戦期のソ連はアメリカに対抗するためにヘンテコな武器や兵器をたくさん作っていたそうです」
「いやこんなんじゃ対抗できねえだろ……」
と、サトライザーはそのVAG-73持ちをとっさに盾にした。すると向こうから、巨大な銃を携えたプレイヤーが突撃してくる。
「何あれ!? 銃!?」
「デカ過ぎんだろ……」
「《パイファー・ツェリスカ》ですね。全長は550ミリ、重さは6.0キロにもなります。文字通り、世界最強の拳銃です」
「なんであんなに大きくしたのよ……」
「象を撃つための弾丸を、拳銃の形で撃ちたかったんだと思います」
「あんなの頭おかしいわ……」
それは使うやつも大概だが……とキリトは思ったが口には出さなかった。と、そのゲテモノ持ちに勝利したサトライザーであったが、その直後彼のいた場所を巨大な弾丸が抉った。
「え? は? あれ何……?」
リズベットが指差すのは、岩の上で拳銃の形をした物体を構える二人のプレイヤー。
「あれは《トビーレミントン》です。なんでも、世界最大の拳銃だそうです」
「え!? さっきのツェリスカっていう拳銃が最大じゃないの!?」
「いえママ、あっちが最大です。大きさは全長1260ミリ、口径28ミリ、弾頭重量136グラム、総重量は約45キロにもなります」
「なんでそんなの作ったのよ……」
「多分、作ったガンスミスさんの趣味ですね。大きいのが好きだったんでしょう」
が、それすらもサトライザーには通用せずに真っ直ぐ近づかれる。一方の相手のプレイヤー二人は後ろを向いている。
「あの逆さまの拳銃は?」
「《MC-3》です。反動を打ち消すために上下逆さまにした競技用拳銃です」
「あ……後ろ……」
『雷電』という名前のプレイヤーが引き摺り下ろされ、サトライザーが引き金を引いたトビーレミントンで吹き飛ばされる。
「うわっ。って、あの大きな拳銃は何?」
「《サンダー.50BMG》ですね。あれは、対物ライフルとかに使われる大きな弾丸を拳銃で発射することのできる銃です」
「つまり……ヘカートⅡとかの弾丸が……そのまま撃てるのか?」
「はいパパ、そういう事です」
「シノンのサブアームには丁度いいかもな……」
と、そんなことを言っている隙に、ツェリスカをゼロ距離で発射したサトライザーが、森の中での勝者となった。
「……………………」
「なんかもう……付いてけ行けねぇ……」
呆れるクラインに、全員が賛同した。
「でも、あのサトライザーってプレイヤー、確かに強い。こんなヘンテコな銃しか出てこないのに、一つづつ使いこなしている……」
「多分、本人は相当困惑していると思うけどね……」
キリトの関心に、アスナが答える。
「これ……サトライザーさん勝てるのでしょうか……?」
シリカの純粋な問いに、答えられる人はいなかった……
この作品のオチはどうするか?
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サトライザーが生き残る(トラウマになる)
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サトライザーが誰かにやられる。
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爆発オチなんてサイテー!!!!