それではどうぞ。
カミツレさんとのジム戦の後、私たちはライモンシティでプラズマ団との決戦に向けて準備を進めていた。プラズマ団が武力行使をしてきた場合に抵抗するため、私は護身用として身長ほどある棒術用の棒を、ミスティはスタンロッドを購入した。棒を選択したのは私が習っていたポケモン合気道には棒術も含まれているからだ。
その後、私はカミツレさんに教えてもらった積み技についての実験を行った。そしてわかったことなのだが、連続使用で効果が薄くなるというのはちょっと違うことが分かった。まず、積み技は能力の上昇がゲームのような一段階、二段階と言う風に断続的ではなく、中学や高校で習う数学のグラフのように連続的に上がるということがわかった。そしてゲームで言う一段階上がるまでにかかる時間が能力が上昇するほど多くなる。例えば、最初の一段階分能力が上昇するのにかかった時間が1秒だとしよう。すると次の一段階分上昇するのには10秒かかるといった具合にかかる時間が指数関数的に増えていくのだ。まあ、あくまでこれは例えで実際の時間はこの限りではない。ポケモンや技によってかかる時間は変わってくる。しかもこれはリオたちの体感なので正確なところはわからない。それでしかも限界というのがどうやらないらしい。技のエネルギー、所謂PPが切れるまでやってみたところ、PPが切れるまでに1時間以上かかった。やってみてくれたのはリオとイヴ、技はつるぎのまいとめいそうだ。どれくらい能力が上がったかは試していない。だって怖かったんだもん。実際のバトルでは数秒が限界だね。今度カノコタウンに行ったときにマリサに技の威力が測れないか頼んでみよう。
まあ、それはいい。アマダキシティへの移動手段についてだが、ライモンシティからは地下鉄が各方面に伸びている。ちなみにライモンシティからヒウンシティまでは地盤の影響で地下鉄を伸ばすのは無理らしい。アマダキシティまではちゃんと繋がっているので地下鉄でアマダキシティに行ってもいいのだがお金がかかる。そこでミスティのラティアス、ラティオス、ライカの出番だ。私とミスティ、アリアを乗せてアマダキシティに向かうことにしたというわけだ。アマダキシティはライモンシティの北あたりにある。正確な位置を地図で確認しながら行けば大丈夫だろう。こうしてジム戦のあった日は来る日に向けての準備で終えた。
次の日、私たちはアマダキシティに向けて出発し、現在上空でラティアスにはミスティ、ラティオスにはアリア、そしてライカに私が乗って飛行中である。ラティアス、ラティオスは見られるわけにはいかないのでアリアがイリュージョンをかけて別のポケモンに見せている。
「それにしても便利だね。アリアのイリュージョン」
「まあな。それなりに使える」
「それ、バトルでも使えないの?」
「いやそれは無理だ。結構集中力がいるからな。精々最初にイリュージョンを掛けておくくらいしかできない。それにダメージを受けると解除されてしまうしな」
ということは、バトルではゲームのように違うポケモンに化けることくらいしかできないというわけか。
「ふうん。バトル中にイリュージョンが使えたら無敵だったのに」
ミスティは残念そうに言う。
「ははは、そう都合よくはいかないさ」
「でもポケモンコンテストとかではかなり使えそうだよね」
「そうだな。なんでも見せられるぞ。何せ幻影だからな」
それって使えるなんてレベルじゃなく最早チートだよチート。
「それじゃあ、コンテストじゃ敵なしだね」
ミスティの言う通り、何でも見せられるということは……つまりは……まあ、そういうことだよね。
「ふふふ、そうかもな」
そんな会話をしながら私たちは和やかな雰囲気でアマダキシティへと向かい、夕方頃にはアマダキシティへと辿り着いた。かなりゆっくりとした速度で飛んできたので遅くなってしまった。
「さあ、今日はもうポケモンセンターに行こう」
「うん」
「そうだな」
そうしてポケモンセンターに入る。すると中には沢山のトレーナーたちががやがやと喋っていた。パッと見ただけでもかなりの人数だとわかる。
「ようこそ。ポケモンセンターへ」
そう言うジョーイさんはなんだか元気がない。どうしたんだろうか。すると私たちに話しかけてくる男性がいた。
「やあ、こんばんは。君たちはトレーナーかな」
その男性は優しげな表情を浮かべて訊いてくる。
「えっと、はい。そうです」
「私は――」
「そうか、なら話は早い。君たちはどうしてここに?」
アリアが違うと言いかけるが男性は構わずに話を進める。どうやらせっかちな性格のようだ。アリアはやれやれと頭を振っている。私はそれを苦笑いしながら謝るポーズをして話を続ける。
「知り合いに協力してほしいと頼まれたんです」
「頼まれた? じゃあ、今の状況を知っているのかい?」
「プラズマ団とのことなら知っています」
「なるほど。ますます話が早い。こっちに来てくれるかな」
そうして男性に一つだけ空いている雑談スペースの席に案内される。
「どうぞ、座って。じゃあ、今の状況を簡単に説明しよう。まず今はトレーナーの皆は決戦に備えてポケモンたちのコンディションを整えているところだ。君たちも明日から早速コンディション調整に入ってくれ。そしてポケモンセン――」
その後も男性からの説明が続く。ポケモンセンターは今利用者が後を絶たずかなり参っている状況らしく、使用制限を掛けているとのこと。それを踏まえて行動してほしいと言われた。だからジョーイさんが元気なさそうだったんだな。そして当日の行動に関してだがまずは、様子見ということでいくつかの班に分かれて街中を監視する。どこからプラズマ団が現れるかわからないからだ。その後プラズマ団を発見した場合は現場監督の指示に従えということらしい。現場監督って誰だよ。ちゃんとした人なんだろうか。後で訊いてみよう。
「こんなところかな。まあ、これだけ人数がいるんだし。プラズマ団なんか恐るるに足らず、だね。ところで、君たちのバッジを見せてくれるかな。一応確認のためだけど当然8つ持ってるよね?」
「ああ、すいません。私、バッジまだ4つしか持ってないんです」
「! なんだって!? じゃ、じゃあ君は?」
男性は大声を上げてミスティの方を向く。そのおかげで注目が集まってしまう。
「私は8つ持ってる」
「ほっ。じゃあ最後にあなたは?」
「私はそもそもトレーナーではない」
「はあ?」
再び大声を出す男性。そのせいで人が集まってきた。
「どうしたんだ? リーダー。その女の子たちがどうかしたのか」
「…………」
リーダーと呼ばれた男性はぷるぷると肩を震わせてこう言った。
「そこの女の子はまだバッジを4つしか持っていないらしい。そしてそっちの彼女はトレーナーですらないときた。そんな何の役に立たない雑魚がなぜここにいる? こっちは遊びじゃねえんだよ!」
リーダーが怒鳴ってくる。う~ん。どうやったら認めてくれるかな? ここはいっちょバトルでも申し込んでみるか? いや、それもめんどくさいことになりそうだ。やめておくかな。
「メイは弱くなんてない! むしろ私よりも――」
「いいよ。ありがとうミスティ」
私は、テーブルを叩いて立ち上がり抗議しようとするミスティを止める。
「だけど……!」
「いいんだ、ミスティ。私がバッジを4つしか持ってないのは事実だし。それにこれだけ優秀なトレーナーが揃ってるんだから態々私が居る必要なんてないよ」
「全くだな。ここに居るトレーナーたちはさぞかし優秀なんだろうな」
アリアは皮肉を込めた感じで言った後、キッと睨み付ける。
「お前……! とにかくお前らはここから出て行け! ここは泊まる場所がないくらいなんだ。お前たちのような輩に来られても困るんだよ!」
「……わかりました。出て行きますよ」
そう言って私たちは立ち上がってポケモンセンターから出て行こうとする。
「待って。ミスティさん――」
「私をその愛称で呼ぶな!!! その愛称で呼んでいいのはメイだけ」
そう怒鳴るミスティは今まで見たことがないほどの怒りの表情をしていた。ミスティを呼び止めようとしていたリーダーはその迫力に気圧されてひっと小さな悲鳴を上げる。そんなことがあって私たちはポケモンセンターから出た。
しばらく歩いてから私はミスティとアリアに話しかける。
「ごめんね、二人とも。嫌な思いさせちゃって」
「別にメイは悪くない。悪いのはあいつなんだから」
「そうだぞ。それにどうして言い返さなかったんだ。あいつとバトルでもしてわからせてやればよかったじゃないか」
「今はそんな無駄なバトルをしてる場合じゃないでしょ。それにそのせいであの人たちの連携にひびが入ったらまずいし。相手はプラズマ団なんだから不安要素は出来るだけ取り除いておいたほうがいい」
「でも……!」
「だが……!」
「いいんだよ。ありがとう、ミスティ、アリア。私は気にしてないから。……あ」
私たちがそんな会話をしているとばったりと二人組と出くわした。トウコとトウヤだ。
「あ、あんたは! Nから聞いたわ。あんた、Nの姉なんだって?」
トウコはそう言ってミスティを睨み付ける。心なしかトウヤも表情が険しい。
「最初っから怪しいと思ってたのよね。プラズマ団の女王様が自ら敵情視察? 随分と殊勝な心がけね」
トウコは皮肉を込めて言う。
「待って。ミスティはプラズマ団とは関係ない。変な言いがかりはやめて」
私はトウコの物言いに反論する。
「はっ。どうだか。俺にはどこからどう見てもプラズマ団に見えるが?」
トウヤもかよ。いい加減にしろ。私は今機嫌が悪いんだ。
「ミスティはプラズマ団に誘拐された挙句犯されそうになったんだよ!? それなのにプラズマ団と関係あるわけないでしょ!」
「ミスティ、ね。それが本名? ま、どうでもいいことだけど。それも演技だったんじゃないか? お前を信じさせるためのな」
「そうそう、案外演技派で現在進行形で騙し続けてるんじゃない?」
騙すだと? ……あぁ、初めての経験だ。ここまで腸が煮えくり返るのは……!
「へぇ、そんなこと言うんだ。じゃあ、あれか。無表情だけど感情豊かなミスティが見せてくれたあの楽しそうな顔も、辛そうな顔も、私のために流してくれた涙も、私との別れを本気で悲しんでくれたのも、嬉しそうな顔も、幸せそうな顔も、全部うそだったって言うの? そんなはずないでしょ! 私はずっとミスティと旅をしてきた。ずっとミスティのことを見てきた。本気で向き合ってきた! 何も知らないお前達にミスティの何がわかる!!!」
私の激昂にトウコがたじろぐ。
「な、なによ。そんな奴庇う必要なんか――」
私はトウコとトウヤを睨み付ける。こんな奴らだとは思ってなかった。
「はあ、残念だよ。メイちゃんがそんな奴に騙されているなんて。今俺がその呪縛から解放してあげる。バトルをしよう。ここで君たちを倒せば大いにこちらが有利になる。やろうトウコ」
トウヤは真剣な表情でバトルを持ちかけてくる。トウコは少し悩んだ様子を見せるが直ぐに持ち直した。
「……ええ。いいわよ。2対3でちょっと不利だけど私たちならいける」
「どうしてもやるって言うなら、私が相手になるよ……!」
するとミスティが口を挟んでくる。
「待って、メイ。私もやる」
「ミスティ、いいの?」
「いいもなにもメイは私のために戦ってくれるんでしょ? それに私もちょっとイラついてる」
「うん。わかった」
『私も出よう』
すると目の前にはゾロアークに戻ったアリアがいた。驚いて後ろを振り返るとそこには人間状態のアリアもいた。イリュージョンの幻影か。
『私も友を侮辱されて少々腹が立っている。やらせてもらうぞ』
「わかった」
「出てきて、コジョンド」
『よくも好き勝手に言ってくれたわね……!』
ミスティも相棒のコジョンドを出して臨戦態勢に入る。
「へえ、そっちは二人でいいのか? 俺たちも随分舐められたものだ」
「そうね。私たちは今まで色んな困難を乗り越えてきた。その程度のハンデなんかなんともないのに」
「ふん。その鼻っ柱を叩き折ってあげる」
人の話も碌に聞けない状態のトレーナーに負ける道理など、ない!
「後悔したって遅いわよ。いきなさい――」
「待った!!!」
私たちがバトルしようとしたその時、誰かの声が響き、私たちは声のした方を向いた。
ありがとうございました。