これはとある勇者と共にあった誰かの話。

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神に落とされた日

 人生は、どこまで長く果てしないものだと思っていた、思い込んでいた。

 特段そうであると意識したことはなく、ただ漠然とそう思っていただけだから、それは信じていたと言っても良いかもしれない。

 そう、俺は信じていた、信じ切っていた。

 どれだけの成功を収めても、どれだけの失敗を味わっても。

 それでも必ずそこから先にも道は続いていて、成功を続けることも、失敗を取り返すこともできるんだって。

 だからこそ俺は刹那的な今に総てを賭けてきた。

 最初に頑張ろうと思ったのは、確か友達作りだっただろうか。

 その次に頑張ったのは運動で、その次は料理だったと思う。

 勉強? そんなもんは知らん……なんて言えれば良かったが、それでも結局俺が四番目に頑張ったのは勉強だった。

 あれは高校生の頃だっただろうか。

 俺は初めてのテストで見事なオール赤点を叩きだして親に泣かれた、のだがどちらかといえば幼馴染に馬鹿にされた方が当時の俺には大分刺さった。

 『全部合わせて二桁は草』とか言われては流石の俺もカチンと来たというわけだ。

 以来、俺はありとあらゆる時間を勉強に注ぎ込んだと思う。

 いいや、思うだなんて曖昧な言葉はあまり良くないな。

 間違いなく俺は頑張った。出来得る限りの総てをやってきて、その結果を明日の定期試験で叩き出す。

 その筈だった、一先ずはその為に、頑張ってきた。

 あいつに負けないために、いつか並び立つために。

 

「頑張ってきた……つもりなんだけどなぁ」

 

 どうやら人生ってやつは突然フッと途切れてしまうものらしい。

 全身を轢き潰していく四輪駆動の鉄塊が、俺にそのことを丁寧に教えこんでいた。

 

 

 

 目を覚ませば一面真っ白だった。

 雪景色、というやつがあるがそれとはまた別種の、まるで真っ白なテキストファイルを見せつけられているような感覚。

 どこまで無機質で『何も無い』ということを言外に理解させてくるような、そういう類の白。

 知らない天井だ……くらい言わせてほしいもんだな、と思いながらも身体を起こす。

 

「どこだよ、ここ……」

 

 と、呟いてはみるがしかし、誰も答えてくれはしない。

 当然、返ってくる言葉はない。そもそも期待はしていない。

 ……嘘だ、ちょっとは期待した、というか大分期待した。

 死んだと思ったらこんなところに放り出されていたのだ、そりゃ期待くらいはする。

 けれどもそれは無かった、期待は見事に外された。

 たったそれだけのことが、思いの外重く心にのしかかってきた。

 人間は、期待すればするほど、応えてくれなかった時には身勝手にも失望し、落ち込むものだ。

 そこには勿論、俺も含まれている、含まれていないわけがない。

 例外はそうそうあることではない、例外は特別だから例外なのだ。

 故に、湧き上がってくる失望と織り交ぜられた不安感が胸の中で広がっていく。

 じわじわグルグルと、じっくりと四肢の末端へと伸びてくるように。

 わざわざ下らないことまで考えてまで取り返した平静を絡むように掴んで、消し去っていく。

 それでも一掴みだけ残った冷静さを掴みながら、ゆっくりと周りを見渡した。

 当然目に入ってくるのは白、白、白、白、白、白。

 上下左右、前も後ろも真っ白だ、汚れをつけることさえ躊躇われるくらいの白。

 もうしつこいくら白いし遠近感も分からない、最悪だ。

 あまりにも現実味がない、というか、これを現実だと思いたくはない。

 ここに来る数瞬前のことを含めてみても、やはりこれは夢だと思いたかった。

 だから、俺は失望と同時に、微かな安堵を抱いてもいた。

 これが全部夢なのだとしたら、それはとても素敵なことだから。

 だから、だから──

 

『や、ようこそ、転命の間に』

 

 俺以外の声が耳朶を打ったとき、薄っぺらい安心感はボロボロと崩れて落ちた。

 後ろから襲いかかってきた言葉に怯え、けれどものそりと振り返れば、そこには一人の青年がいた。

 半端に金に染まった短髪に、病的なまでに白い肌。

 瞳の色は瞬きする度に彩りを変えている。

 だから、すぐに分かった。

 この人はきっと、俺と同じ人間じゃあない。

 もっと別の何かなんだって、否が応でも理解させられてしまった。

 だけど、それでも。

 それでも俺は、言わずにはいられなかった。

 

「あんた、誰だよ……つーかてんめいのま?って何?」

 

『それ、本当に言わないと分からない? 薄々でも気付いていないなら、流石に察しが悪すぎると思うんだけど』

 

 返ってきた言葉は思いの外辛辣だった。

 つーか初対面の相手に投げつける言葉じゃなくない?

 動揺しちゃって怒ることも悲しむこともできないんだけど……。

 

 

『ま、いっか。この役目を担うのも久しぶりだし、このセリフ、結構気に入ってるし』

 

 そう言って、彼は再度口を開いた。

 そっと両目を細め、感情を伝えないような面で笑って。

 彼は言う。

 

『ここは現世と幻世の狭間、命をどう生みどう捨てるかをその場のノリと勢いで決める遊び場。故に転命、命を転がす間──つまり、残念ながら貴方は死にました。そりゃもう無残に無様に、みっともなくトラックに轢き潰されてお亡くなりになりましたってこと』

 

 そして僕は君らの言うところの”神様”ってやつさ、と彼は付け加えて言葉を切った。

 

「────っ」

 

 わかっていた。

 言われずとも、理解はできていた。

 嫌な予感ってやつは、いつだって当たるものだ。

 だから、そう言われれうであろうことは、なんとなくわかっていた。

 ただ、そうであって欲しくないという気持ちで、抑え込んでいただけだ。

 けど、あぁ、やっぱり。

 

「態々言葉にされて言われると、結構クるな……」

 

『の割には結構余裕そうじゃん』

 

「そう見えるなら、あんたのその目に痛い目ン玉は相当節穴だよ」

 

 そう吐き捨てて、こみ上げる吐き気を無理やり飲み下す。

 そうするだけで、精一杯だった。

 

『君も結構言うじゃん……ま、良いけど。それよりもほら、ショックなんて受けてないで話をすすめるよ』

 

「……は? これ以上なんかあるのかよ?」

 

 そういえば彼は驚いたように両目を見開いて、それから馬鹿なのか? といった呆れ顔を見せつけた。

 

『あったりまえじゃん、ここは転命の間だって言ったろ? これからの君の処遇を考えないと』

 

「あぁ、そゆこと、なるほどね……」

 

 つまりアレだ、天国とか地獄とかが本当にあるってことなのだろう。

 で、俺はこれからそのどっちに行くかを決める、そんなとこなんだと思う。

 これまた、現実味が無いな、と薄く笑えば、彼は『おいおい』と言った。

 

『何笑ってんのさ、ていうか、天国と地獄とか、そんなもん無いよ。娯楽を信じすぎ』

 

「──!? 今、俺何も言ってないよな? どうして、考えてることを──」

 

『いやいや、いやいやいやいやいや、流石に自己紹介はしてないけどさぁ、それくらい分かれよ。僕は"神"だぜ? 人間が考えてることくらい、まるっとお見通しに決まってるだろ』

 

「……何でも、ありだな」

 

『そりゃそうさ、ていうかそろそろシャキっとしなよ、ここ、結構レアなんだぜ?』

 

「レア?」

 

『そう、レア。君のやってたソシャゲで表すならウルトラレアってとこだ。何せ普通は死んだらそのまま消えてなくなっちまうんだからね』

 

「消える……」

 

『だけど君は違う、特別なのさ。何億に一回っていう超低確率の可能性を引き当てた』

 

「だったら、何か良いことでもあんのか?」

 

『勿論だ、君にはね、異世界に行ってもらう。わかりやすくいうなら、異世界転生ってやつさ、どうだ、燃えてくるものがないかい?』

 

「てん、せい……」

 

 あれ、ピンとこない? と彼は言うが、それに片手を出して待ったをかける。

 幾ら俺でも、それくらいは知っている。

 創作物なんかで良くあるあれだ、何か色々力とかをもらって、良くある創作の世界だったり、異世界だったりに飛ばされてエンジョイするあれだ。

 それを、俺がやるらしい。

 なるほどな、意味わかんねぇ。

 

『あれぇ、あんまり嬉しそうじゃないなぁ、どうしたんだい? これじゃあ折角君を選んだのに、拍子抜けだよ』

 

 あまりにも下を向き続ける俺に神はそう言って、同時にそれに引っかかりを覚える。

 

「選んだって、何だ?」

 

『言葉の通りさ、僕が君を選んだここに連れてきた─……隕石かトラックかで悩んだんだぜ? でも流石に隕石は他にも影響が──』

 

 瞬間。

 今まで出したことのないような絶叫が、俺の口から飛び出て響く。

 直後に、振るったことなんて一度もない拳を全力で振り抜いていた。

 右の拳が、すかした面の神を殴って飛ばす。

 

「ふざっけんな、ふざけんなよ、お前、お前が俺を殺したんじゃねぇかよ、ふざけんな!」

 

『あーらら、怒っちゃった。けどさ、最初に言ったろ、ここは遊び場だって』

 

 殴られた頬を抑えながらそう言い放つ男に向けて、もう一発拳を放ち──しかし、止められる。

 

『あーもうそう泣くなよ、みっともないなぁ……よし、仕方ない! そんなに辛いなら戻してやるよ!』

 

「───は?」

 

 無理やり振り払おうと込めた力が霧散する。

 それほどまでに予想だにしなかった言葉だった。

 

『そら行ってきな、そしてすぐ戻ってくると良い』

 

 そう言って、彼はパンパン、と手を打ち鳴らした。

 瞬間、浮遊感。

 足元に大きく円状の穴が開いて、俺はそのままろくに何も言えずに落ちていった。

 

 

 

 トン、と突き出した腕が、一人の女性の背中を押して出す。

 驚いたように振り返りながら、それでも勢いに押されて倒れ込む女性。

 それを視界に捉えながら、弾けるようなブレーキ音が鋭く宙へと響き渡った。

 瞬間、衝撃、激痛。

 身体がふわりと浮いて、電柱かなにかに挟まれたことを理解しながら、意識はズルリと抜け落ちた。

 

 

 

『おかえり、気分はどうだい』

 

 ──目を覚ませば、そこは例の白い空間だった。

 戸惑いながら身体を持ち上げれば、あの男が憎たらしげな笑みを引っ提げて笑っている。

 

「……神様ってのは、随分と悪趣味なんだな」

 

『はて? 僕は君の願いをこれ以上ないほどに完璧に叶えてやったはずなんだがね』

 

 これ以上ないほど憎々しげに見てやるが、しかしそんなことは気にもかけず平然とそいつはそう言った。

 

『クク、悪い悪い、ちょっと意地悪だったね。だけど残念ながら今のが僕にできる限界さ。僕がどう足掻いても、君を戻せるのはあそこが限界だ』

 

「…………」 

 

『さて、と。これで元の世界に戻りたい、なんて馬鹿げたことを言うのをやめる気になったかな』

 

「……ざけんな」

 

『へ?』

 

「二度も言わせんな、もう一回だつってんだよ。次こそは上手くやる」

 

 およそ不可能だと分かっているにも関わらず、そう言ったのはもしかしたらただの反骨心から生まれたものだったのかもしれない。

 どうにかして生き延びてやるという、いっそ無駄ともいえる抵抗だったのかもしれない。

 あまりにも無謀、あまりにも無策。そんなことはわかりきっていた、けれども、諦めることなんて出来はしなかった。

 そんな俺を、彼──神と名乗った青年はぽかんとしたように見て、それからプハッ空気を吐き出した。

 

『フッ、ククク……ハハハハハハハハハ! 良い、良いね! 最高にイカれてる! それでこそだ! よぅし、良いぞ、行ってこい!』

 

 パンパン、ともう一度彼は手をたたく。

 同時に俺の意識は下へと溶け落ちていった。

 

 

 

 突き出した腕が、確かに彼女の背中を押して出し──同時にもう一歩、無理矢理にでも踏み込んだ。

 身体は完全にバランスを崩す、それでも、それでも!

 前へと踏み出していく、彼女を救い、自分も助かってみせる。

 ギリリと奥歯を噛みしめて、もっと先へと姿勢を下げて──そして。

 身体の下半分を持っていくような、強烈な衝撃が響いた。

 ゴボッと血を吐き出してそのままギリギリ女性に触れず、トラックは俺の身体だけを持っていく。

 畜生が、と掠れた声でそう呟いた。

 

 

 

『まだやんの?』

 

「当然だ」

 

『良いね、行ってきな』

 

 二回、拍手の音が、響いて渡る。

 

 

 ぐっと彼女の背中に手を当てている。

 どうするか──などと、考えている余裕はない。

 すでに壮絶なブレーキ音は響き渡っている。

 時間はない、早さが足りない、力が足りない。

 わかっている、分かっているんだ、間に合わないってことくらいわかっている。

 だけど、だけど。

 

「間、に、合、えぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 叫びをあげる。

 自分を鼓舞するように、未来を変えられるのだと願いを込めるように。

 一歩二歩と踏み込んで、三歩目。

 届け、届け、届け。

 何度も願う、何度も思う、何度も叫ぶ。

 ──しかし。

 確定された未来は、その在り様を変えることはない。

 四度、衝撃は身体へ響く。

 

 

 拍手の音が、二回響いた。

 磨り潰されるように巻き込まれて殺された。

 拍手の音が、二回響いた。

 一瞬の衝撃だった、運よく頭を打ったみたいですぐに意識が飛んだ。

 拍手の音が、二回響いた。

 次は直ぐに死ねなかった、石垣とトラックに挟まれて、暫く薄い呼吸をし続けていた。このまま粘れば生きられるかもと思ったが、恐ろしい速さで抜けていく力にそんなことはありえないことを悟った。

 拍手の音が、二回響いた。

 下を潜れないかと勢いよく姿勢を下げてみた、迫りくる巨大かつ分厚いタイヤが視界を一瞬で奪った。

 拍手の音が、二回響いた。

 当たり前のように死んでしまった。

 拍手の音が、二回響いた。

 予定調和のように亡くなった。

 拍手の音が、二回響いた。

 決められた運命を変えることはできなかった。

 拍手の音が、二回響いた。

 そろそろ限界なのかもしれないと、そう思った。

 拍手の音が、二回響いた。

 もう良いじゃないかという誰かの声が聞こえた気がした。

 拍手の音が、二回響いた。

 どうしてこんなことをしているんだろうと、なぜか思った。

 拍手の音が、二回響いた。

 いいや違う、俺は彼女と生きたかったんだと思い出す。それだけで動かなくなった足が動く気がした。

 拍手の音が、二回響いた。

 何度でも繰り返そう、何度でも、何度でも、何度でも。

 拍手の音が、二回響いた。

 何度でも、あきらめない限り道は続く。続かせる。

 あの神の笑い声が、聞こえてくるようだった。

 拍手の音が、二回響いた。

 拍手の音が、二回響いた。

 拍手の音が、二回響いた。

 拍手の音が、二回響いた。

 拍手の音が、二回響いた。

 拍手の音が、二回響いた。

 拍手の音が、二回響いた。

 拍手の音が、二回響いた。 

 拍手の音が、二回響いた。

 拍手の音が、二回響いた。

 拍手の音が、二回響いた。

 拍手の音が、ずっと鳴り響いていた。

 何かが折れる音が、どっかで鳴っていた。

 あぁ、もう駄目だと、他の誰でもない、俺の口からそう、零れ落ちていた。」

 

 

 

『……まだ、やるかい?』

 

 青年の声が耳朶を打つ。

 毎度毎度、懲りずに聞いてきた言葉であった。

 もしかしたら生涯でいっちばん聞いたかもしれない。

 それほどまでに、繰り返して聞いた。

 嫌気がさすほどに、聞いてしまった。

 もう抗う気力すらも、残っていない。

 

「もう、良い」

 

 故に。

 

『お? おおお?』

 

 故に、もう良い。

 もう、良いんだ。

 

「俺には、何も変えられない。変えられなかった。だから、もう良い。好きにしろよ」

 

 そう言った瞬間、彼は笑みとも失望とも取れないような曖昧な表情で俺を見た。

 なんだよ、と文句をつける気にすらもならなかった。

 ただこの身も、この心も、今は深い諦観へと包まれていて、気にすることなんてできよう筈もなかった。

 

『ん、まぁ良いだろう。随分と大人しくなったようだし、これはこれで好都合だ』

 

 それじゃあ、始めようか。

 と、彼はそう言った。

 ふてぶてしい表情で、初めて会った時から変わらぬ笑みで、そっと両手を広げる。

 瞬間、烈風が身体にたたきつけられた。

 鋭く煽られて浮かされて、彼の前へと持っていかれる。

 

『質問だ、君はどうしたい?』

 

「したいことは、もう何もない」

 

『では君は、どうありたい?』

 

「在り方なんて、とうに忘れた」

 

『では君は、どういう世界を望む?』

 

「唯一望んだ世界には、もう戻れない」

 

『クハー! 面倒な拗らせ方しちゃったなぁ! でも、ま、良いや。君には特別にこの"SSR級転生特典"をプレゼントだ! 中身はあっちに行くまで分からない、ワクワクするだろう?』

 

 そう言って彼は、どこからともなく強烈かつ巨大な光の玉を取りだした。

 見せつけるように高々と掲げている。

 

「……どうでもいいな」

 

『まぁ、そういわずにもらっておけよ!』

 

 ドン、と光を胸に押し付けられる。

 瞬間、するりとそれは吸い込まれるように消えてった。

 特別違和感は感じない。

 

『さーて、後は行く世界だけか、でも君希望ないしなぁ……ここはテキトーに決めちゃうか』

 

 言い切るが否や、彼はパチンと指を鳴らした。

 途端に現れたのは一束のカード、その裏表紙はトランプのようにも見えるが、実際何なのかは知る由もない──が、先ほどの発言と合わせて考えればその答えは自ずとわかるだろう。

 それを彼は丁寧にシャッフルした後にサッと扇状に広げて押し付けてきた。

 

『引き給へ』

 

 その一言を断る理由はない。

 断れるだけの意思はもうない。

 のろのろと右手を伸ばして一枚だけつかみ取る。

 特に考えはなかった、ただテキトーに伸ばして、テキトーに抜き取った。

 その表面を見る前に『オーケーだ』と取り上げられる。

 

「なっ……」

 

 待てよ、という前に動きを止める。

 別にどこでも構いやしない、それは今だって変わらない。

 であればどうでも良いじゃないか、と。

 そんな俺を横目に彼はカードをめくり見て、そして小さく目を見開いた。

 見開いた後にニヤリ、と大きく笑みを浮かべる。

 

『なぁに、分かってると思うが行ったらすぐにどこか分かるようになる、それまでの楽しみにしておけばいいさ』

 

 彼はそう言ってから『準備はできた』と言った。

 

『君の準備はいいかい?』

 

「する準備もないだろ」

 

『ま、そうなんだけどね。クク、あっちでもしっかりと頑張ってくれよ、せめてまた、僕の目に留まるくらいにはさ』

 

「それは……二度とごめんだな」

 

『冷たいなぁ!』

 

 まぁ良いんだけどね、と何度目かの同じ言葉を口にしてから彼は

 

『さよならだ、いってらっしゃい』

 

 と言った。

 言った直後、足元の安定感が失われる。

 それに動揺することはなかった。既に何度も体験してきたことだ。

 だから俺はゆっくりと目を閉じて、このまま消えられたら良いのにな、と少しだけ思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして神に選ばれ、神に弄ばれた一人の少年は神の手づから落とされ──奇跡の出会いを果たす。

 

 

「きゃ、きゃあ! な、なに!? 何か──いいえ、()()()()()()()()()! リンク!」

 

「──! お下がりください姫様! ここは私が!」

 

 ──声が、聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──next order ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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