足りない。
全くもって足りない。
これだけの人間を集め、これだけの素材を集めたというに全くもって足りない。それだけ大きい物事を成すには準備が大切だということ。
『影』は一度ため息を吐く。
それは可能ならしたくなった手。一度使えばもうバレてしまい今後に影響してしまう。
しかし、予想よりもこれだけ足りないのならば仕方がない。
「・・・だから、まずは貴方方で試させてもらう」
影は懐から数枚の札を取り出した。
相手は目の前の二人の男女。この二人はつい先日川神に息子を見に来た夫婦らしい。
――貴方は中身を――
――貴方は肉体を――
――そして、私は支配を――
周囲が光輝き、一瞬だけ視野が暗くなった。
舞台は変わる。
彼は呼び出された。別にそこに疑問も不信もなかった。
「父さん」
呼び出したのは彼の父親。しかも彼は父親を尊敬していた。だからこそかもしれない。
「大和」
父親は一度だけ微笑み、彼に近づく。
「・・・?」
一瞬だけ、彼は違和感を感じた。でもそれでは遅すぎた。
一枚の札が彼に貼り付けられた。
「・・・!?」
気づいた時には、もう遅い。
激しい頭痛共に彼の自我が消えていくのを―――。
舞台と時間が変わる。
一人の少女が呼び出された。
「・・・!」
彼女はすぐに異変に気づく。目の前の相手が知り合いでも。
「京。俺と仲間を天秤にかけるならどっちを取る?」
彼は『男』としての風格を備わり、以前のように弱々しい覇気ではなく、完全に性格が変貌していた。
「・・・本当に大和?」
彼女は突然の変貌に偽物なのかと疑うが、彼を愛するゆえなのか肉体面では本物だとすぐに見破った。
しかし、あくまでもそれは肉体面であり精神面は全くの偽物の可能性が高い。そもそも仲間と自分を天秤にかける考え方など以前の彼には全く考えなかった思考だ。
「本物だよ?・・・でも、確かに以前の俺だと考えられない質問だもんな」
彼は懐からナイフを取り出して、首元に寄せる。
「大和!?」
彼は微笑えんだ。
「でも、俺は本気だぜ京。お前が今の俺を受け入れてくれないなら俺はこのまま首を斬って自害するよ」
「・・・!??」
彼女の思考が止まった。いや、それなりの知を持つものなら彼の行動に対して冷静に対処して思考も保つことはできた。
だが、彼女は違う。彼を愛しすぎたために彼を想いすぎたためにこの一瞬の想定外行動に対して思考が止まってしまった。
それが彼女の『油断』だ。
気づいた時には、もう遅い。
彼女も激しい頭痛共に自我が消えていくことを―――。
表と裏。
戦いは始まっている―――。