彼女の正体は、人々の妄想によって生み出された呂布の娘だった。
しかし、九鬼帝はそれさえも構わずに九鬼に取り込もうと考える。
通された部屋に三人の男性がいた。
二人は知っている。ヒュームとクラウディオだ。しかし、中央の銀髪の男は知らない。
「よー来たな。初めましてだ。俺は九鬼帝、よろしくな」
九鬼帝。つまりこの男は九鬼家の総帥ということだ。
「初めまして・・・。玲綺です」
しかし、トップ自ら一体何の用だろうかと思う玲綺。李の話ではこの帝という男は、大変忙しくて、ここにはほどんど帰って来ないと聞く。それに、仮にも九鬼の侵入者だったいわば敵なのに一体何のようか?
「ふーん・・・」
ジロジロと見る帝。その目は何を見定めるような目だ。
「玲綺様。以前、お話されていましたご自分についてですが・・・判明いたしました」
そんな中、クラウディオは玲綺に自らの正体がわかったと口を開く。
「!?・・・わかったのですか!」
玲綺は喜んだ。これで、自身がどんな人間で、どんな所で住んで、どうしてここにいるのかが判明する。正直、玲綺はこのまま謎を謎のままで時を過ごすというのはとても辛かった。
「それで・・・私は一体――」
「まぁ・・・待ちなよ、お嬢さん」
ワクワクする玲綺を他所に帝が片手を上げた。
「その前に、アンタには色々と罪を償ってもらわないといけないのよ」
「罪・・・?」
一体、なんの罪だろうか?
「簡単に言えば、アンタが九鬼に襲撃した被害額と身分を判明するために使った費用やここの宿泊代の請求だな」
「・・・っ!」
確かに。何事にも金がかかる。それは玲綺も自覚していた。この世には金、力、知能、信頼。この四つの神器が必要だ。
「・・・いくらですか」
払えないのはわかっていた。しかし、ちゃんと聞かないと怖い。
「まぁ・・・十億かね」
「!!!!!」
玲綺は凍った。十億である。普通の人間が逆立ちしても稼げない金額ではないだろうか?
ぼったくりの可能性が高い。これは。
「なんなら、請求書を見せてやってもいいぜ?」
帝の不敵な笑みが玲綺をひるませる。まさか、この帝という男はここまで人を追い込むのが得意なのか。
いや・・・と玲綺は思う。『これくらい』の非道人間でなればここまで大きな財団になるはずがない。もしかするともっと、この男は非道なのかもしれない。
「・・・一体、何が望みですか?」
玲綺は観念する。もともと九鬼に捕まっている時点で、こちらの命はあちらのだ。だと、すればこれから先、何を言われようと逆らってはいけない。
「・・・ふーん」
帝は少しつまらんそうな顔をした。
「・・・なんですか?」
「いや、伝説の鬼神の血をひいているからどんな風に反応するかと思ったが、そんなものかぁ~ってな」
「伝説の鬼神の血?」
伝説とはなんだろうか、それに鬼神の血とは。
「貴方は、かつて三国志という時代において武神と名を駆け巡った呂布奉先の子孫です」
「!!!」
クラウディオから語られた自身の正体。その言葉に玲綺に衝撃が走った。
「・・・」
が、すぐになんとなく違うようなという気持ちが走った。
「子孫・・・ですか?」
「ええ」
「・・・」
こうやって調べたのだから本当なんだろう。きっと、このモヤモヤ感は記憶がないせいだろうと玲綺は納得する。
「で・・・だ。借金返済という名目の元で、アンタにはある四名の武人達を強くしてほしい」
帝はクラウディオに視線で、合図を送ると彼は玲綺に四枚の紙を渡した。
「・・・っ!?」
その内容に目を疑った。
「これ・・・本当ですか?」
審議を確信してしまう内容。嘘だろうと帝に尋ねると・・・。
「ん? 本当だぜ、そいつらはクローン人間だ」
吐き捨てるようにごく自然に言った。
「・・・っ!」
次に玲綺が気がついた時、自身は九鬼襲撃の時のように鎧と武器を召喚して帝の喉元に刃を向けていた。しかし、その刃はクラウディオの糸とヒュームが自身の首に爪をたてる形で停止していた。
「ふーん・・・やっぱ、英雄さんから見たら俺は非道かね?」
「非道? 貴様は人としてやってはいけないことをした・・・」
意識がおかしいと感じる玲綺。でも、気持ちと裏腹に言葉は続く。
「まさか・・・呂布のクローンもいるというのか?」
「いや・・・あれは失敗して死んだ」
一歩動く。
「おい、小娘。次に動けば首が飛ぶぞ?」
ヒュームの殺気の入った声が耳に玲綺に響く。そして、死ぬことに対してなんの怖くない玲綺は刃にさらに力がはいる。
「一体何が気に入らないのかな? 英雄の娘」
娘・・・そこは子孫ではないのか?
しかし、今はこの質問に答えるのが先だと玲綺は思う。
「人の命をなんだと思っている?」
「宝だな」
嘘だな・・・とならそんな複製に手をかける必要があったのか。
「時代が変わったといったら、納得できるかな英雄の娘」
「時代だ、と?」
「時代は常に進化しているのさ。昔のルールがあるから自らの首を絞めることにもなることだってある」
それは一理ある。
李との会話の中で、三国志やこの日本という戦国時代や世界大戦も時代と流れと共に戦い方は変わって、人は学んで勝利を手に入れている歴史がある。
「つまりは・・・クローンを手にかけないと勝利が手に入らないことがあると?」
「ああ。そうだ・・・」
この帝という男の思考は一体何を見ているのだろうか。きっと、玲綺の見る世界とはまた違ったのを見ているに違いない。そして、それについていくこの大勢の部下達。
「・・・貴方は曹操という男に似ている」
「曹操か・・・確か、自分の目的のために沢山の人材は引き抜いているらしいな。まぁ・・・従わない奴とか意思合わない奴は殺しているけど・・・」
自分もなぜかだが、曹操は嫌いだ。だから帝の考え方に抵抗したのかもしれない。
「ん、で? 俺は曹操みたいな人間だから従わないと?」
「・・・ここは三国志ではないし、貴様は曹操ではない。それに、借金を返すなら私をただの部下として言えばいいのに、強くして欲しいというのが気になった」
帝は微笑む。
「川神百代。世界で一番強い女であり、武神とも評されている」
武神という名に玲綺の眉が動く。当然、それは帝は見逃さない。
「その武神というが、あまりに強くてな。こっちはヒュームがいるだが何より歳だ。すぐに世代交代しちまう」
「貴方の子供とかいないのか? それに継がせば・・・」
「いや、そこまでいかなかったよ。だから、悔しくてクローンに頼っちまった」
つまりはその武神を倒すためだけに、クローンを生み出したということだ。なんとも勝手な理由だろうか。逆にクローンとして生まれた彼らはカゴの中の雛鳥か。
「でもな。クローンを作った理由は他にもあるのさ」
「?」
「変革だよ。世界の」
「・・・」
玲綺はこの男の目が輝いているのことに気づく。李から一応聞いてはいたが、彼はある本当に世界を変えようと考えているらしい。その支配を九鬼に。
「世界征服・・・か?」
「まぁ・・・言葉を変えたらな」
「・・・」
玲綺は刃を下ろした。すると帝も片手を上げ玲綺に対する刃を二人もやめる。
「・・・」
征服。なんとなく、それは懐かしさを覚える。呂布の子孫だからそのような血を求めるのだろうか。
「わかった。その四人の指導の件引き受けよう」
「ん? 俺が嫌いだから断ると思っていたんだが?」
玲綺は微笑みながら首を横にする。
「申し訳なかった帝殿。元々、断われるはずもないのに失礼なことをした」
「・・・」
帝は玲綺の微笑みに何かを気づく。
「いや、いいさ。・・・なら、今後は四人の先生として指導してくれ。それで、チャラにするからよ」
「了解した。その任務を心から引き受けよう」
空気の糸が和やかになる。そして、その後は事務的に契約や内容を聞いてサインしてもう一度玲綺は帝に頭を下げて、その場を出ていった。
「・・・」
帝はしばらく沈黙してから呟く。
「呂布にはもう一つの通り名がある・・・」
『裏切りの呂布奉先』
・・・玲綺の心はいかに?
どうなんでしょうね、この流れとか動機とか・・・?
とりあえず、これにて第一部『玲綺の誕生』は終了。
次回から、第二部『学園生活』です。