屋上で物思いにふける。肩までかかる青色の髪が風に吹かれてさらさらと靡いた。
俺にとっての
自己紹介でもしておこうか。俺ことトネ・オーゼイユは仕事の都合で転校してきた少女で、元男の転生者だ。そしてなんと、実は宇宙から来た邪神である。
仏教用語でない方の転生、いわゆる生まれ変わりは昔から取り扱われてきた題材で、現実でも誰々の生まれ変わりだと自称する人間は少なからずいた。まあ、彼もしくは彼女らは豆腐に頭を打って錯乱でもしているのかというような目で見られていたのだが。
実際にそうなってみると実に複雑な気分だがな。
時は大分前に遡る。
「残念。君は死んでしまったんだ」
気がつくと俺は、白い部屋の中にいた。目の前には白い髪の少年。おかしい、さっきまでのんびりと漫画を読んでいたはずじゃ……まさか誘拐か!?
「おい!あんた一体ッ」
「うるさいよ貧弱脆弱無知無能な地球人。僕は神様だよ」
少年が苛立った声を上げると、とてつもなく高い音が響く。頭が割れそうなくらい痛い。苦痛で俺が部屋で倒れている幻覚まで見えてきた。
「それは幻じゃないよ。僕が君の身体の姿を見せてるんだ」
身体の姿って、じゃあ今の俺は!
「だから死んでるんだって。もう少し物分かりよくなりなよ。あ、心が読めるのかとか言わないでね」
頭痛が止んだ。
「で、神様が俺に何の用だよ」
「いやいや、君を間違って殺してしまったから転生させてあげようかと思って。最近の流行りだろ?こういうの」
「──殺してってどういうことだよッ!」
「暇つぶしに別の世界を覗いていたら偶然君に干渉しちゃって。世界がそのつじつま合わせで君を突然死させたんだよ。で、君が元の世界に帰れなくてかわいそうだから転生させてあげようってこと。つまり、全部僕のせいだね。まあ僕は謝らないけど」
怒りが湧くが、さっきの時点で俺はこいつに敵わないと分かってしまった。
「安心しなよ。僕がいた世界に転生したら、僕と同じくらい強くなれるようにしておくからさ。いわゆるチートってやつ」
「そうか、後悔するなよ」
このクソ神と同じくらい強くなれるなら、いつか絶対にこいつを倒してみせる。俺は決意を固めた。
「そうだ、名乗っておこう。僕はトルネンブラ。どこにでもいるしがない邪神さ。よろしくね、僕の娘」
「は?おい!ちょっと待て!それってどういうッ」
とまあ、こういう経緯があったんだ。転生してから思い出したこととしては、トルネンブラとは音楽そのものが本体だというクトゥルフ神話の邪神だ。とはいえあいつは正確にはトルネンブラという種族の内の一体だったので、大して役に立たないことだったが。
どうして俺がそれを知っているかというと、俺はその邪神となっていたからだ。あのクソ神と同じ種族だということは嫌だが、そう生まれた以上はしょうがない。物心ついた、というか前世の記憶を取り戻したときにそのことは自然と理解していた。あと、男性器がついていないことも分かったが、それどころではなかった。あいつが娘って言ったのはそういうことだったのか。
自らが邪神であると気づいた俺が次にしたことは、着替えてから幼稚園に行くことだった。幼稚園に行く時間だと母親に連れて行かれたのだ。訳が分からなかった。俺は邪神じゃなかったのか。なんで幼稚園に行っているんだ。そもそも宇宙に幼稚園なんてあるのか。
そんな疑問を抱きながら日々を過ごしていた俺だったが、ある時転機が訪れた。それは小学校へ上がった時のことだ。未だに困惑を抱えたまま新しい教科書をぱらぱらとめくっていた時、その時俺は答えを得たのだ。
シチズン・ブライト出版の教科書、『すごいぞ!ぼくらの宇宙CQC』
あ、ここ、這いよれ!ニャル子さんの世界か。
この世界がアニメや小説なわけねーだろとか脳裏によぎったが、そもそも転生したら女になっていましただの、挙句の果てに邪神になっていましただのといったことを体験した以上、そういうこともあるかと納得するしかなかった。そこからは気が楽だった。どんなに理不尽なことがあってもそれはそういうものだとスムーズに理解できたし、よくよく調べてみれば宇宙TOEFLだのなんだのと宇宙とさえつけば大体なんでもあった。まさしく何でもありだった。
そうして変なテンションのまま過ごした中学から大学生活までの結果が、オタクに優しいギャルという幻想生命体扱いだ。
いや、違うんだ。俺だって前世がオタクだったから、そういうやつの気持ちが分かるわけで。そういうのを見るとどうしても放っておけなかったんだ。独りぼっちで過ごす青春は寂しいもんな。それに、地球のアニメの話ができることが、思いの外嬉しかったんだ。
で、その時に同性の距離感で接したせいでギャルだなんて言われるようになってしまったわけだ。
まさか高校卒業までに告白された人数をダース単位で数えることになるとは思わなかった。
で、大学卒業後は犯罪者を捕まえる賞金稼ぎとして働いている。決して捕まえた相手のボタンを毟ったりはしていない。
そして今回受けた仕事が、地球にて行われる違法オークションの開催者を捕まえることだ。長い年月を経てようやく、俺は地球に来れた。貯金は十分にある。とりあえずオークションに商品として出品されるかもしれないと聞いている少年の周辺を監視するために、彼が通っている高校に転校生として入ったところで気づいた。
そもそも入る学年を間違えたんだ。少年は二年生だが、俺が入ったのは一年のクラスだった。
そしてもう一つ。その狙われるだろう少年の名前だが、八坂真尋だ。そう、八坂真尋である。『這いよれ!ニャル子さん』の主人公にして出会う邪神をことごとく惹きつける男。
何としてでもメス堕ちだけは避けなくては。俺はそう心に誓った。俺は絶対に主人公なんかに屈しない!
(邪神によって)神様(に)転生です。