なのは1期再構築もの   作:edsf

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第1話

不意に意識がよみがえた。体に力が入らず、手足が自由に動かない。周囲は暗く、目が見えているのかすら判断できなかった。

 機械的な振動、かすかな呼吸音、まとわりつく生暖かさ、そしてうっすらと感じる赤黒い光が今のすべてであった。

 ふと、自らが何者なのかわからないことに気付いた。それどころか、今までのことすらわからなかった。

 しかし、恐怖はない。全身に感じるぬくもりと安らぎを不思議に思いながら、意識が自然と眠りについた。

 

///

 

 海鳴市の私立聖祥大学付属小学校に辻 政一(つじ せいいち)は入学した。この学校は大学付属というだけある立派な校舎を持っていて、入学式の時に見て回った両親は、ここの環境の良さに唸っていた。

 政一は入学後まもなくすると地域のサッカークラブに入った。主だった友達はクラブを通じてできた。初めは、ただつま先でボールを蹴るだけだったが、徐々にテレビで見るような蹴り方を覚えていった。3 か月もすると、クラスメイトからハンディキャップを要求されるまでに上達した。

 反面、学業はほどほどであった。憶えは悪くないが、特に数理では過程を飛ばしてしまう癖があり、そこを指摘された。当面の悪癖であったがテーブルゲームを覚えると、徐々に改善された。結果を漠然と求めるだけではゲームに勝てないことを知り、過程を考察する癖がついた結果であった。

 クラスメイトとは、学校外での関わり合いはあまりなかった。政一はサッカークラブに所属していたし、みんな習い事をして忙しかった。そんな環境であっても付き合いが出来ている女の子達をみて、 政一は感心するのだった。

 聞こえますかと声が聞こえたのは、小学3年生となってしばらく経ってからであった。

 驚いて立ち止まると、友達が不思議そうな顔をした。政一は首を振ってこたえた。

 翌日、女の子達がフェレットの話をしているのを聞いた。怪我をしたフェレットが、診療所に預けられている。

 それが、変化の始まりであった。

 

///

 

 夜、唐突の出来事であった。

 高町なのはの頭に声が響いた。この声は、先日フェレットを助けたときに聞いたものと同じであった。

「聞こえますか、僕に少しだけ力を貸してください」

 懸命の叫びが聞こえた。 幾度となく聞こえる声に不安になったなのはは、たまらず動物診療所に駈け出した。

 動物診療所は高町家からそう遠くない場所にある。一息で到着したなのはは、すぐに異変に気づいた。

 包帯を巻いたフェレットが外に飛び出し、何かから逃げていた。不定形で、暴力的な正体不明の化物であった。

 なのはは混乱の極みに達したが、フェレットを抱きかかえるとすぐさま逃げた。懸命に走ったが、退路はないも同然であった。小学生の足である。屋根を飛び回る化物をかわしきれなかった。

 フェレットは悔しげな表情をすると「お願い、力を貸して」といった。

 フェレットがしゃべった事に驚くなのはを余所に、フェレットは事情を語りだした。

「僕はある探し物のために別の世界からやってきた。強力な力を持った結晶で、僕が君に助けられたのはそれと戦ったからです。僕ひとりの力では思いを遂げられないかもしれない。迷惑なの はわかっているけど、君には資質がある。力を貸してほしい」

 フェレットはなのはの胸から飛び出すと、改めていった。「お願いです。お礼はします。僕の力をあなたに使ってほしい……魔法の力を」

「魔法……?」

 しゃべるフェレット、不定形の化物、何もかもが非現実的だった。しかし、化物に襲れている現状を認めない訳にはいかなかった。

 夢中で今まで気が付かなかったが、辺りに誰もいないことになのはは気付いた。街頭や、家屋からの明かりもない。フェレットと化物、そして自身だけが動くすべてであった。

 化物の強襲を慌てて避ける。化物は道路に激突すると深くはまり、身動きがとれなくなった。しかし、どうすることもできない。

 活路を見いだせないことに、なのはは急激に心細くなった。

「どうすればいいの……」

「これを」フェレットは首にあった赤い宝石を渡した。「それはレイジングハート。目を閉じて、 心を澄まして。僕が今からいう言葉を繰り返して。それが力をくれる」

 そんなことをいわれても、となのはは思った。飴玉ほどの大きさしかない宝石が、この場でなんの意味をもつのかまるで分らない。

 化物はまだ動けない。しかし、徐々に復帰しつつあった。

 その光景を見ると、藁をもつかむ思いで、なのははフェレットに従うことにした。

「我、使命を受けし者なり。契約の下、その力を解き放て」なのはは宝石が暖かくなるのを感じた。

「風は空に、星は天に。そして、不屈の心はこの胸に。この手に魔法を。レイジングハート、 セットアップ!」

「Stand by ready. Set up」

 淡いピンク色の光があふれた。

「なんて魔力だ」フェレットは予想以上だと感嘆の声を上げたが、すぐに落ち着きを取り戻した。

「落ち着いてイメージして。君の力を制御する杖を、君を守る強い衣服の姿を!」

 思わぬ事態にパニック状態のなのはであったが、なんとか想像した。「と、とりあえずこれで!」

 間もなく、変身した。衣服、杖共になのはの思い通りであった。 「成功だ」

 感激するフェレットであったが、なのはには何が何だかわからなかった。

 なのはの魔力にあてられた化物は、急いで立ち直ると警戒を強め、敵意を強烈にあらわした。

 理解の追い付かないなのはは結局途方に暮れたのであった。

 

///

 

 世界から音が消え、明かりが消灯し、政一の両親が消えた。突然のことに政一は驚愕した。間 もなく、轟音があった。政一は慌てて外に飛び出した。

 破壊音のようであった。恐る恐る様子をうかがっていると、やがて強い光の柱が立ち昇り、そのうち小さくも鮮明な光が空に昇った。ピンクの光は黒い塊と対峙しているようであった。黒い塊は勇猛であったが、攻めあぐねていた。

ピンクの光も攻め手に欠けていた。しかし、攻撃が黒い塊をとらえだし、いつしか優勢になっ た。

 黒い塊は不利を感じたか、3 つに分裂し、逃走を図った。だが、遅かった。

 ピンクの光はことごとくそれらを撃ち抜いた。そして、気が付くと世界は元通りになっていた。消えていた街頭や信号機が灯り、自動車の音が遠く聞こえた。

 政一はあっけにとられたままであったが、両親の声が聞こえ、おとなしく家に戻るのであった。

 

///

 

 夜の事件は動物診療所が半壊する被害が確認されただけであった。あの戦闘から、もっと激し い被害を想像していた政一は拍子抜けしていた。

 休み時間に女の子グループが診療所の惨状について話し合っていた。例のフェレットの事である。

 フェレットはなのはの家で保護されていると聞かされた女の子達は安堵した様子であった。

 事件から 1 週間後の、よく晴れた日曜日の事である。政一の参加するサッカークラブの試合 があった。この試合には、政一も出場した。得点には至らなかったが、チームは勝利した。うまくプレイできたと政一は思った。

 応援に来ていたなのは達に応えられ、チームメイトは皆少しばかり照れていた。

 その後は、監督が経営する翠屋という喫茶店で打ち上げをすることとなった。

「よう、高町」

 政一は外にいたなのは達に声をかけた。「バニングスと月村も」

「なによ、おまけみたいに」

「そんなことはないよ、応援ありがとな」

 刺々しいアリサ・バニングスであったが、感謝されたことに悪い気はしなかった。アリサに促されて、政一は合席する。

「ここはなのはちゃんのご両親が経営してるお店なんだよ」 月村すずかがいった。

 このふたりは、なのはと仲良くしている事を政一もよく知っていた。

「え、監督って高町のお父さんだったの?」

「あれ、知らなかったの?」

「ああ、まったく」と、視線をおとすと、机にフェレットがいることに政一は気付いた。 「ユーノ君っていうんだよ」

 そう紹介されたフェレットは政一を覗き込むように見ていた。警戒心は乏しいようである。

「怪我をして倒れていたところを保護してあげたのよ。今はなのはの家で飼っているの」

「へぇ」

 政一がクラスメイトとする話は勉強とゲームばかりであったが、この時ばかりは家族や、今日の試合の事を話した。

 と、そのとき政一は奇妙な気配を感じ、あたりをちらりと見まわした。チームメイトと女子マネージ ャーの二人が帰る姿であった。なのはもあのふたりを見ていることに、政一は気づいた。

「そういえば、仲のいい男はいないのか?」

「んー、お兄ちゃんとかなら」

「いや、そうじゃなくて。学校で男と話してるのをあまり見ないと思ってな」

「それをいうなら、あんただってそうじゃない」

「俺はみんな金持ちばかりでどうも話が合わないんだよ、ピアノだ、書道でだって」

「辻君も習い事始めてみたらどうかな? 楽しいよ」

「サッカーなら楽しくやってるさ」

 打上げが終わった後も4人でのおしゃべりは続いていたが、送迎車がアリサを迎えにきたことで解散となった。

 帰路につく間、政一は先週の事件を思い出すのであった。

 学校とサッカーの事で忘れかけていたが、あの正体について、政一はいまだにつかめずにいた。世間はガス爆発としているようであったが、その日からたびたびなにかを感じとることがあった。さきだって、山の麓にある神社でなにかが起こったようだが、友人達はなにも感じないようであった。

 しかし第六感的といえど、奇妙な感覚を連続して感知していることが、問題が存在することを証明していると政一は思っていた。

 政一は、次こそはその正体をつかんでやると意気込んだ。

 だが、その機会はあっけなくやってきた。

 

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