高町なのはは、クラスメートの月村すずかからお茶会に誘われ、兄の恭也と参加することとなった。月村家は森の中に豪邸を構えている。高町家とは忍を除き、兄妹がそれぞれ同級生である。
高町兄妹は月村家のメイドに案内されて、すずかの待つ客間に案内された。客間ではすでアリ サ・バニングスと一緒にお茶会を始めていた。足元には猫がくつろいだ様子で転がっていた。
「なのはちゃん、恭也さん、いらっしゃい」
「にゃはは、おまたせ」
ひと通りの挨拶が済むと、メイドがお茶の用意をするために退室すると同時に、恭也はすずか の姉と退室した。
「すずかのお姉ちゃんとなのはのお兄さん、ラブラブだよね」
すずかの姉と恭也が腕を組んで親密にしている様子から、なのはもはっきり聞いたことがない が、ふたりが恋人関係にあることは想像できた。
「お姉ちゃん、恭也さんと知り合ってから、幸せそうだよ」
「お兄ちゃんは……少し優しくなったかな」 ふうん、とアリサも嬉しそうに微笑んだ。
「ところで、なのは」アリサが呼びかける。「あんた、辻とはどうなのよ」
「え?」
「え、じゃないわよ。最近仲がいいじゃないの」
「そ、そんなことないよ」
慌ててなのはが否定するが「そういえば、辻君もなのはちゃんのこと 見てるよね」すずかがすかさず追い打ちをかける。
「も、って。だから違うってばー」
念話の練習をしている様子を見ていたんだ、となのはは思った。
なのははレイジングハートというインテリジェントデバイスの補助を経て念話の送受信をしているが、政一は道具をもっていない。念話を送信するというのは、受信と比べると扱いが難しいようで、送信先の魔力の波長や顔といったいくつかの特徴を捉えることが条件のようであった。政一がなのはを見ていたのは、なのはのそういった特徴を把握するためであった。
しかし、それをいえる訳がなかった。
「お、お父さんが監督だってわかったから、様子を伺ってるんじゃないかな」
「なのはに嫌われたら試合に出られないなんてことあるの?」
「ほら、お父さんちょっと過保護なところあるから」
それよりも、と無理やり話を切り上げさせると「せっかくのお天気なんだから、外で飲まない?」
ガラス張りの張り出しから外を仰ぐ。澄み渡った青空があった。
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玄関先に机をだして、お茶会を再開した。屋内にいた猫たちもついてきて、3 人の足元ですっかりとくつろいでいた。
アリサはそのうちの 1 匹を抱きかかえた。アリサの家は、月村家と違い犬屋敷になっている。 猫と触れ合う機会が乏しいこともあり、いい機会だと抱き心地を堪能していた。
なのはは猫に追い回され、満身創痍になっていたユーノを肩にアリサの様子を楽しんでいた。
ジュエルシードが発動したのは、その時であった。
その力はすぐ近くで発現していた。このままではすずかとアリサ、それに月村家にいる兄にも 被害が出てしまう。
なのはが対応に迷っていると、ユーノがなのはから飛び降り、ジュエルシードの方角へ走った。なのはがその意図に気が付くと、ふたりに断わってユーノを探しに行くふりをした。
はたして、ユーノはひと足早くジュエルシードの元についていた。発動させたのは子猫のようであった。おそらく、すずかの猫だ。 ユーノは発動を止められないと悟り、結界を張ることにした。結界とは現実世界と位相をずらすことで、現実そっくりの別世界を作り出す魔法である。この中であれば、どれだけ暴れられて も現実世界は脅かされない。
ユーノが結界を貼り終る頃に、なのはと合流する。
眩い光と、強大な力の奔流を放つと、ジュエルシードは子猫を、巨大な子猫へと変貌させた。
過去数回、ジュエルシード回収戦を経験したなのはであったが、これは予想外であった。攻撃的な雰囲気がない、ただの巨大な子猫の姿に、ユーノですら言葉を失ったようであった。
「……猫の大きくなりたいという願いを、正しくかなえたみたいだね」 ユーノの精いっぱいの一言であった。
「苦しまないように、さっさと終わらせよう」
なのはが気を取り直して変身しようとした時であった。背後に強力な魔力が発生する。強烈な 魔力が子猫に直撃した。
悲鳴を上げる子猫に、追撃が迫る。なのははシールドを展開し、子猫を守った。
「誰!?」
攻撃元を睨み付ける。髪の長い女の子であった。
女の子はなのはのシールドを確認すると、拡散型の魔法を放つ。シールドを展開したが、防ぎきれない。衝撃で子猫が倒れこんだ。 次弾に備えるなのはの前に、杖を構えた女の子が姿をさらした。年頃は同じぐらい、瞳は戦意に満ちていた。
「ロストロギアの探索者か」
ロストロギアという言葉に、なのはは息を飲んだ。
「間違いない、僕と同じ世界の住人だ」ユーノは動揺していた。
「ジュエルシードの正体を知って いる」
女の子は値踏みをするようになのはを観察する。
「バルディッシュと同系のインテリジェントデバイス……」
女の子の杖を見た。杖に埋め込まれた黄色い球がバルディッシュなのだろうと見当をつけた。
「あなたは誰?」
「ロストロギア、ジュエルシード――」 女の子の杖から刃が伸び、巨大な鎌へと変形した。
「――申し訳ないけど、いただいていきます」
女の子はなのはを強襲した。足元を刈ろうとするが、 レイジングハートが反応した。飛行して回避する。
この行為に、なのはは困惑していた。どうすればいいかわからなかった。女の子はなぜジュエルシードを探すのか、敵対するのか、そもそも何者なのか。なにもかもが不明であった。
女の子は攻撃姿勢をとった。杖を逆袈裟に振り、魔力の刃を飛ばす。レイジングハートがシールドを展開、着弾した。衝撃でなのはの顔が歪む。体勢を立て直し索敵するが、見失った。
首を振りあたりを見回す。かすかな風音が上からした。上から振り抜く、強烈な一撃を受け止める。ふたりの杖から火花が散った。
「なんで……こんなことを」
「あなたには関係のないこと」
女の子は抑揚のない声で答えると、魔力を解放して距離をとった。
迷っていても仕方がない。なのはは決心した。レイジングハートをシューティングモードに変形させる。女の子も刃を消すと、杖をなのはへ向けた。
綺麗な瞳と綺麗な髪を持つ女の子が、人形のように無表情で、冷淡な声を放つことが、なのはには想像できなかった。
にゃあ、と力のない鳴き声がした。気絶していたのか、子猫は気が付いたようであった。なのはの集中が明らかに反れる。その隙を、女の子は見逃さなかった。
「ごめんね」
女の子はバルディッシュに魔力を集めると、強力な魔力弾でなのはを撃ち抜く。吹き飛ばされたなのはは地面に叩きつけられると、そのまま気を失った。
女の子は猫に狙いを定める。
「ロストロギア、ジュエルシード 14、封印」
雷にも似た一撃が子猫を襲うと、ジュエルシードが姿を現した。そのまま、バルディッシュで確保する。
子猫は元の大きさに戻り、再び気絶した。
戦闘は、終わった。
女の子はなのはを一瞥した。なのはのそばで、ユーノが警戒していた。その様子に女の子は安堵すると、そのまま去った。
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なのはの目が覚めたのは、夕刻であった。手当を受けた状態で月村邸のベッドに寝かされていた。ユーノが助けを呼んだようであった。
恭介やすずからがベッドの傍らで心配する姿を見ると、無力さと、申し訳ない気持ちでなのはの胸が痛んだ。
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とある高層マンションの月がよく見える一室に、女の子はいた。額に宝石を持つ赤毛の犬に、今日の出来事を話しかけていた。母さんのためになるなら、私は頑張るよ。女の子の声に、微かながら熱がこもった。