時空管理局に”任意同行”を要求されて、3人は次元航空艦アースラに搭乗した。アースラはなのはの想像を絶するほどの大きさであったが、ユーノの様子を見る限り珍しいものではないのかもしれない。金属光沢の目立つ無機質な構造物と、落ち着いた内装の調和に関心しながら歩いていると、クロノが扉を開けた。
「艦長、ロストロギアを集めていた現地の人間を連れてきました」
通してください、と落ち着いた女性の声で返答があった。
「艦長?」
「ここの偉い人のことさ」
「一番偉い人?」
「その通りだ。君たちやロストロギアについて聞きたがっている」
クロノはなのはの理解力を注意深く計ろうとしていたが、表情からは掴みきれなかった。
「艦長というのは、どんな人なんだ?」
「すぐにわかる」
政一の問いににべもなく返答したクロノは、入りますと扉越しに声をかけて、引き戸を開けた。12畳ほどの畳敷きの部屋に、長い髪をひとつに束ねた女性が座っていた。軍服ながらも母親とは違った女性的な魅力に、なのはの目は引き付けられた。
「どーもどーも、あなたたちが、ロストロギアを集めていたこの世界の住民ね」
「あなたは?」
「私はリンディ・ハラオウン。このアースラの艦長よ」
「一番偉いというからてっきり年寄かと思っていたけど、随分若そうですね。ハラオウン? 姉弟かなにか?」
「あら、怖いおじいちゃんの方がよかったのかしら」
少なくとも優しくなさそうなお姉さんのようだ、と政一は思った。
「俺は辻政一。近くから高町なのは、ユーノです」紹介されたふたりは小さく会釈した。「それで、どんな話をしたいんですか?」
「そんなに委縮しなくていいわよ。話を聞きたくてここまで来てもらったのだから、まずは座ってお話ししましょう……あ、靴を脱いでから入ってね」
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「そもそも、ロストロギアについてどれぐらい知ってるのかしら」
「人の思いを増幅させて、暴走させてしまうって聞いてます。それで街が滅茶苦茶になったりしました」
うーん、とリンディは唸った。「それはロストロギアというより、ジュエルシードの特性ね。そうね、お茶菓子を食べながらでいいわ。少し講義をしましょう」
そういって、立てたお茶を差し出しながら歴史について話を始める。「逸失世界の遺産といってもわからないわよね。次元世界にはこのとおり、色々な世界があって、技術があまりに進歩しすぎてしまい、制御しきれなくなって滅んだ世界もあるの。ロストロギアはそういった世界の超高度な技術で造られたものの総称なの。だから、ロストロギアは適切に保管されなくてはならないの。もし悪用されたら大変なことになる」
「俺にはあなたたちとあの女の子の違いがわからないけどな、それに世界を滅ぼすようなものを管理なんて出来るのか?」
まるで時空管理局なら適切に使えるという言い草に、政一は難色を示した。
政一の態度に苛立ったクロノを、リンディがなだめた。
「あのロストロギアは輸送途中で時空管理局と合流して、護送することになっていたの。だからこれは任務の一環でもあるわけ」
ユーノはその通りだったと頷いた。「僕の乗っていた船は一般的な性能しかなくて、海賊対策が必要だった。だから近くにいた時空管理局の巡視船を頼るつもりでいたんだけど、その前に一撃で沈められるとは思わなかった」
経緯が見えてきて、政一に納得の表情が見えてきた。
「だから、安心して私たちに任せなさい」
「私は、続けます」
「高町?」
「確かに、そういうことだったのかもしれません。でも、今任されているのは私たちなんです」
これまでの努力を否定する時空管理局に対して、なのはは静かに憤った。
「そして、これは私が自分でやり遂げたいと思ったことなんです。だから、私は続けます」
「僕も捜索を続けます。輸送中の事故とはいえ、そもそもこれはスクライア一族の問題です。でも僕だけじゃ力が足りない。だから今後も僕はなのはを頼るつもりです。あなた方もなのはの魔力を感知したでしょう。一時的でもなのはを味方にすることは、時空管理局にとっても有益となるはずです」
「協力関係になったらどうかってことね」アースラから見たなのはとフェイトの戦闘映像を思い起こす。あれだけの戦闘が出来るアースラ搭乗員は自身とクロノ以外にはいないだろう。ユーノの発言は予想できていたが、魅力的であった。
「管理局が捜索して、あなたたちが封印する。全部終わったらスクライアが封印したロストロギアを適切に保管する。確かに、管理局側としては損はないわね」
「管理局はこの仕事を適切に監督した、という実績も残る。誰にとっても損はない」
「いえ、ただの子供たちを働かせるとこちらの労使条約上問題があるわ。だから、現場判断であなたたちを嘱託として雇います。もちろん、お給料を払うわよ」
ひとまずの解決に、なのはがほっとした表情を見せた。
「ただし、きちんと親御さんの了承を得たうえでの話よ。今まであなたたちがやってきたことは、ただの遊びじゃないんだから」
解決の糸口が見えたことに政一たちは安堵した。
「問題はフェイトっていうあの女の子ね。いったい何者なのかしら」
「少なくとも友達ではない。ただ、嫌われているわけでもなさそうだ」
政一の一言に、なのはは驚く。
「どうしてそう思ったの?」とリンディ。
「なのはを跳ね飛ばして封印したからだ。ジュエルシードがほしいだけなら、なにも自ら痛い目に合う必要はない。なのはに安定させてから奪えばいいんだ。フェイトには自分でやり遂げたい事情があるんだろう」
「その事情が分かれば、どうなるの?」
子供らしくない話だったが、促した。
「この件から手を引かせられるかもしれない。なにもこれだけが方法じゃないはずだ」
「ジュエルシードだけが手段だったら?」
「敵対したいわけじゃないが、俺たちの手段に納得してもらうだけだ」
「納得、ね」
現状を鑑みるに、交戦は避けられそうにないらしいし、避ける気がないようだった。
「であれば、やることはふたつね。ひとつ、ジュエルシードの回収。ふたつ、相手方の情報収集。諜報はアースラが全面的に行うわ。現場仕事はあなたたちにお任せするわね」
政一となのはは顔を見合わせた。
「はい」
「相手のことがわかったとして、うまくいくかしら」
「約束はできないが、ジュエルシードへの執着は弱くなるはずだ」
希望的観測を排除しようとする政一に、リンディは胸を痛めた。前線にこそ参加していないが、この子も戦闘を知っているのだと知ったのだった。