やはり彼らのラブコメは見ていて楽しい。   作:ぐるっぷ

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オリキャラ祭り



唐突に極楽寺楽太郎は現れる。

 ゆか姉に美味しいご飯をたらふく食べさせて丸々太った彼女を食べる(意味深)という、現代におけるヘンデルとグレーテル的超銀河一大スペクタクルオペレーションを発動させた翌日、俺はいつも通り奉仕部へ足を運んでいた。

 ちなみに今言ったことはほとんど嘘である。言わなくても分かる。

 「ゆきのんは昨日なにしてた?」

 近頃やたら雪ノ下さんとの距離を詰めている由比ヶ浜さんが、相変わらずパーソナルスペースの存在にガン無視を決め込んでいるとしか思えないほど雪ノ下さんの近くに座り、当たり障りのない会話を振っていた。

 「そうね……いつも通りだったわ」

 読書をしていた雪ノ下さんは顔を上げて、しばらく思案したあと口を開く。

 「…………ヒッキーは?」

 由比ヶ浜さんは少々目元をヒクヒクさせたあと、話を振る対象を変更した。雪ノ下さんはもう少し友達の気遣いというやつに敬意を払うべきだな。ま、由比ヶ浜さんは彼女のそういうところを気に入っているのかもしれないが。

 「あ? ……いつも通りだよ」

 読書をしていた比企谷くんは顔を上げて、しばらく思案したあと口を開く。

 「…………し、しちりんは?」

 由比ヶ浜さんはそこそこ目元をヒクヒクさせたあと、話を振る対象を変更した。比企谷くんはもう少し異性の気遣いに真摯になるべきだな。ま、由比ヶ浜さんは彼のそういうところを気に入っているのかもしれないが。

 ……そんなわけあるか。ていうか揃いも揃ってどんだけコミュ障拗らせてるんだよ。色々すっ飛ばして感動するわ。

 「俺はどうだったっけなぁ……。あ、昨日は家帰ってから五時間くらいずっとナメクジの交尾動画観てたな。深淵なる生命の神秘を感じたね。俺も、ナメクジのように荘厳な交尾がしたいもんだ。あとしちりんやめろ」

 まるっとするっと全部嘘。あ、ナメクジの交尾を五時間観ていた経験があるのは本当だ。嘘というのは真実を織り交ぜてこそ信憑性を増すのである。

 それにしてもアレには本当に感動した。思わずエクスカリバーが天を衝くところだった。自家発電は流石にしていないが。それをやってしまえばマジでドン引きされそうだし。いやドン引きされなくてもしないけど。

 「「「…………」」」

 どうやら観ただけでドン引きされるらしい。いや、比企谷くんは何やら納得したような顔をしている。何を納得したんだ。俺はナメクジの交尾を好んで観る人間に見えていたのか。実際そうだけど。

 「や、バカにしてるけどな? 家帰ったらインターネットか何かで調べてみ? ガチで感動するから。シチノスケ、ウソ、ツカナイ」

 「……色々と言いたいことはあるけれど……。そうね、まずそのような異常性癖をあけすけに語るのは軽犯罪よ、七里ヶ浜くん」

 雪ノ下さんが重い口を開いた。

 感動して言葉もないのかと思っていたが、どうやら俺の趣味に感銘を受けていた訳ではないらしい。

 「……セクシャルハラスメントって軽犯罪なのか?」

 「セクハラって認めちゃってるし……キモ……」

 由比ヶ浜さんも感動していなかった。ドン引きしていた。知っていた。

 「まぁまぁ、比企谷くんも似たようなことしてただろ? 言ってみ?」

 こういう時は比企谷くんに全部ぶん投げるのが一番丸い解決方法である事を、俺は経験上学んでいた。

 雪ノ下さんはともかく、由比ヶ浜さんは分かりやすい程に彼へ対して矢印を出しているので、大抵の事は笑って流されるのである。

 「俺にはお前みたいな異常性癖はねーよ。プリキュア観てただけだし……」

 藪蛇な感のある比企谷くんの返答に、女性陣はまたもやドン引きしている。

 いいじゃん、プリキュア。作画凄いし。作監当てゲームが遊戯王より楽しいし。ちなみにこのゲームに参加してくれる知り合いはゆか姉と楽太郎のみである。寂しい遊びだ。

 「まあなんにしろ、男ってのは浪漫を求める生き物なんだよ、なぁ?」

 強引に話を打ち切って、比企谷くんに同意を求める。

 「まあな。求めすぎてドン引きされるまである」

 「それは浪漫と言うより、単に欲望を満たしてるだけなのでは……」

 雪ノ下さんは頭が痛くなったのか、何度かかぶりを振りながらもなんとか言い切る。由比ヶ浜さんも似たような感じで比企谷くんに対して呆れていた。俺にも呆れていた。

 「バッカお前。人類っつー生き物はなぁ、食欲やら性欲やらの欲望を満たす事によってその版図を拡大してきたんだよ。つまり欲求に素直なのは生存競争において大事な事だ。だからマクロな視点で見ると、俺には働きたくないという欲望を満たす、生物種としての義務がある!」

 凄まじい力技で自己を正当化した比企谷くんは、異論反論更生勧告は全て無視だと言わんばかりに再び読書に戻った。

 女性陣は物凄く何か言いたげにしていたが、言っても無駄だと悟ったのか、雪ノ下さんは読書へ、由比ヶ浜さんはケータイ弄りへ──なんか桃太郎の冒頭みたいになってんな──戻っていた。

 ……あ、働きたくないといえば、そういえばもうすぐ職場見学とやらがあったな。

 昨日だったか一昨日だったか、それの希望場所について平塚てんてーに呼び出し食らって怒られたのが記憶に新しい。

 ちなみに俺はバーむらさきと書いた。そんなにダメか? ダメかも。ダメだな。

 「別の場所を書くまで家には帰さん」という平塚てんてーのありがたい言葉を受け、ない頭を絞った結果、呉服屋という選択肢が出てきた。

 呉服「極楽屋」。何か銭湯みたいな名前だが、創業三百五十年の歴とした老舗呉服屋らしい。

 ピンときた人もいるだろうが、材木座くんの友人であり、ゆか姉に散々泣かせれてきた哀れな少年である、極楽寺楽太郎の実家である。

 ま、楽太郎には家を継ぐ気なんて毛頭ないらしく、将来は中学の頃からやっている御用聞きとして生計を立てていく気らしい。俺もタバコや瓶コーラなどを楽太郎から仕入れる事が多い。どうやら、奴は最近調子が悪いらしく、あまり精力的にはやっていないようだが。

 とにかく、ダチの家だというのもあるし、何より楽太郎と一緒に適当にフケる事が出来そうなので、職場見学は是非とも極楽屋へ行かせてもらいたいものである。

 寝転びながらそのような益体もない事を考えていると、我らが奉仕部の開かずの門にノックの音が響いた。普通に開くけどね。

 「どうぞ」

 雪ノ下さんが再び読書を中断して、凛とした声音で応対する。

 「しっつれいしまーす!」

 そんな、明らかに悩みなんてなさそうな能天気かつ軽薄な声と共に、背の高い男が部室へと入ってくる。

 俺にはその声に、顔に、ものすごい覚えがある。

 というか、楽太郎だった。

 「どもー。奉仕部ってここであっとる?」

 「……その不快なエセ関西弁をやめて今すぐ立ち去れ」

 「またまたぁ、シチみたいなこと言う奴やなぁ」

 相変わらず奴はヘラヘラ笑いながら、まさしく柳に風と受け流す。

 「そうだよ」

 「そかそか……って本物やないかい!」

 「とりあえずゆか姉召喚されたくなきゃ今すぐ出ていけ」

 「そ、それだけは堪忍してくれ……後生や……」

 怪訝な顔で見つめる奉仕部メンバーを尻目に、楽太郎は恥も外聞もなく突然ガクガクと震えはじめた。お前どんだけゆか姉のこと怖がってんだよ。

 「……七里ヶ浜くん、あなたの知り合い?」

 雪ノ下さんがツカツカとこちらに歩いてきて尋ねてくる。

 「ああ、極楽寺楽太郎っていう……材木座くんの友達」

 自分の友達だというのは楽太郎の手前恥ずかしかったので、あえて材木座くんを引き合いに出して説明する。

 「え? あいつに友達なんていんの?」

 比企谷くんが真剣にびっくりしながらこちらを見る。流石に失礼過ぎるだろ……。

 「アレも人類皆兄弟思考で、比企谷くんに言わせりゃ脳内お花畑野郎だ」

 「……お前みたいな奴だな」

 「そりゃ、物心ついた時から知ってるからな。考え方に相似点もあるさ」

 「つまり、しちりんの幼馴染ってこと?」

 由比ヶ浜さんが邪気のない瞳を俺へと向けてくる。

 「……まあ、そうなるな。あとしちりんやめろ」

 業腹だけどな! ……や、嫌いじゃないんだけどね?

 「ていうかお前、何しにこんな所まで来たんだよ。恥ずかしいだろ。俺が」

 「あなたに羞恥心が残っていたということが驚きだわ……」

 雪ノ下さん、あんた俺の事何だと思ってんだ。

 「や、ちょっと相談があってな」

 何とか立ち直ったらしい楽太郎は、雪ノ下さんに一瞥してから手頃な椅子に座った。

 「つまり、依頼ということかしら?」

 「そそ。平塚センセーにここ行け言われて。今大丈夫なん?」

 「ええ、今は受けている依頼もないし、構わないわよ」

 珍しく雪ノ下さんがやりやすそうにしていた。話がちゃんと通じるというのは大切なのである。

 「んじゃ早速……あ、待って。シチ、ちょい席外してくれへん?」

 楽太郎が申し訳なさそうに俺を見る。

 「ああ? ……ああ、ナナ絡みか?」

 「おおぅ……せーかい」

 「や、別に気にしねーから言えよ。めんどくさそうな話なら、俺は勝手に寝てるし」

 「ほな……」

 そうして語り出した楽太郎の話を纏めると、どうやら楽太郎は最近元気のない仲の良い友達の妹をどうにかしてやりたいらしい。そのことで悩んでいるせいで、ここ最近はすこぶる調子が悪いのだと言う。

 「……その妹さんは、この高校の生徒なのか?」

 比企谷くんの疑問はもっともである。何故なら、他校の生徒に関係する悩みの解決などたかが一部活である奉仕部の手には盛大に余る問題だからだ。

 「もちろん。一年の子や」

 楽太郎が鷹揚に頷く。ムカつく。

 …………ん? あれ?

 「……ちょっと待て、ナナって総武来てたのか?」

 これは無視出来ない問題点だと思います。というか、もうすでに答えが出てしまった感しかない。

 「はぁ? シチ知らんかったん? 流石にあり得んやろそれは……。どんだけゆか姉とこ入り浸っとるんよ……」

 楽太郎がドン引きしていたが、それに尊敬の眼差しも混ざっていたのを俺は確かに感じた。どんだけゆか姉苦手なんだよこいつ。

 「……この話、俺一人でやらせてくんない?」

 これに奉仕部の奴らを関わらせるのは半端じゃなく恥ずかしいだろ。軽く死ねるわ。

 俺の言葉を聞いた雪ノ下さんは、何を思ったのか首を横に振る。

 「これは奉仕部に持ち込まれた依頼よ。あなただけに任せることは出来ないわ」

 とても良い笑顔で言われた。比喩でなく、俺は完全にフリーズする。あれは獲物を狩るチーターかなんかの目だ。ネコ科だ。

 「それにしても、今日はエラい恥ずかしがり屋やな、シチ。今月のスローガンか?」

 「……関係ねーよ。今月のスローガンは『妥協』だ。ちなみに先月が『人類皆兄弟』」

 「そら丁度良かったやん。妥協して、みなさんと一緒に解決しいや」

 楽太郎がニヤニヤ笑う。ブン殴りたいが、確かに今月のスローガンは妥協なので、ここは折れることにしよう。我慢だ、我慢。

 「で、そのナナさんとやらには、どうやって会えばいいのかしら」

 「あ、それやったらもう呼んでるから安心して。おーい!」

 「はぁ!?」

 こ、心の準備ってのがあるだろうが!

 俺は飛び起きて、やたら大量に積んである椅子と机の山に紛れ込んで隠れることを選択する。

 ガタガタ音が鳴るのも気にせず飛び回ると、何故か部室の「後ろ」の扉が開き、そこそこ見知った、しかしここ最近はめっきり見ていなかった女が、ニコニコと笑いながらこちらを見つめていた。

 「久しぶり……お兄ちゃん」

 そして俺は、見事に机から足を踏み外し、爆音を立てて約一メートルの高さから落下した。




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※ユニークアクセス7777は華麗に見逃しました。辛いです。

あと、キャラのイメージアニマルを決めようと思ってるんですがなんとも決まらず。まあ書く所も決める必要もないんですが。
主人公の尊敬する人物が七色インコなんですけど(七推しなのはそこから)、インコにしては可愛く無い奴なんで良いとこカラスなんですよね……。

なんにせよ、御意見御感想お待ちしてナス!

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