誰にでもなれる、誰でもない存在   作:波津木 澄

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第2話 -ボクはきっとー

 なんで、僕に友達ができないんだろう。

 ボクに友達ができないのは誰かの想いを理解することができないからだった。

 だから僕は誰の想いであっても理解できるようになったのに。それなのに、僕は誰かと友達になることができない。

 

「そんなこと思ってたの? だったらちゃんと自分で話し合わなきゃダメだよ!」

 

「…………自分で、話し合う?」

 

 どうしても友達ができなかった僕はついに優しい家族の一員であるAsrielに相談を持ち掛けた。

 その中で得ることができた回答がそれだ。

 けれど、それじゃあだめなんだよ。ボクじゃあ誰かと友達になることなんてできない。

 誰もを理解できないボクじゃ誰かと仲良くなるなんてできやしない。

 

「……逆に考えてみろ。自分とも、自分の嫌いな相手とも考えが完全に一致するヤツなんて――」

 

「ちょっとChara!!」

 

「……わかった。私は黙るさ」

 

 Asrielとは違って自分のベッドに腰かけて我関せずでそこにいたCharaの意見はAsrielによって途中で遮られてしまった。

 けれど自分と自分の嫌いな相手と考えが完全に一致する。それのどこが問題なのだろう。

 そんなこと、気にしなければいいと思うのだけど……。

 

「……何もわかってないな」

 

「Chara!!!」

 

「はぁ……。見てられん。私は書庫にいるからな」

 

 誰かになることはできても、誰かの思っていたことを完全に覗けるわけじゃない。

 だから今Charaが何を思っていたのかはわからない。けれどとにかく呆れられてしまったことだけはよくわかった。

 ……きっと、Charaからしても僕は気持ち悪いってことなんだろう。

 僕は、誰にでもなれるのに。

 

「ねぇ、じゃあ試しに僕とキミとでお話してみようよ!」

 

「お話……?」

 

「勿論キミの言う"ボク"ってやつでさ! そしたらそのままのキミでも誰かと仲良くなれるってことがわかるだろう?」

 

 ……なるほど。確かにそれなら試してみるのもいいのかもしれない。

 元の、ボクのままで。

 

「――元の、ボク?」

 

 ボクって、一体誰だったっけ。

 いや待て、いくらなんでもそれはおかしい。

 ボクは僕じゃない。それはわかる。けれど具体的な"ボク"が浮かんでこない。

 これまでは確かにそこにいたはずの"ボク"がどこかに行ってしまっている。

 根幹であるはずの"ボク"がいなくなっている。そんな訳はない。けれど事実として存在していない。

 考え続けている内に気分が悪くなってフラフラとしながらも部屋を出ていく。

 きっとAsrielじゃだめだ。Asrielに聞いたらきっと悲しませてしまう。

 だから、聞くべき相手は違う。

 

「ねぇ、Chara」

 

「……なんだ、死にそうな顔をして」

 

「"ボク"って、誰」

 

「誰にでもなれるからみんなの考えが分かる、だったな」

 

 それは僕だ。"ボク"じゃない。そう文句を言おうとしてもCharaは手で制してくる。

 おとなしく聞けってことらしい。……きっと、これは聞かなきゃいけないことだ。

 

「誰かになるうちに少なからず影響を受けていたんだろうさ。そもそも自己なんてそう簡単に変えていい物でもないからな――」

 

 話を要約するとこういうことだった。

 自分ではない誰かになるうちにボクはその誰かの影響を受けていた。

 何度も何度も回数を重ねるごとに影響が徐々に重なっていって……。

 そして、"ボク"を覆い隠してしまった。

 

「とまぁ、そういうことじゃないか」

 

 じゃあ、つまり……。

 もう"ボク"に友達はできないってことじゃあないか。

 ボクは…………。ボクはただ、誰かと友達になりたかっただけなのに。

 

 楽しそうに遊んでいる皆を眺めるだけなのが嫌で、ボクも仲間になりたかっただけなのに。

 それなのに、もう"ボク"は居ない。ここに残されたのは中身のないがらんどうの僕だけ。

 表だけ取り繕って、そして何にもなれなくなった僕独り。

 

「アハハ……」

 

 最後に残っていたボクの想いが砕けて散る。

 これでもう本当に"何もない"

 

「もしも……。もしも死にたいって思うのなら、そのソウルは私が活用してやるが?」

 

「好きにしなよ。もう生きている意味なんてないんだからさ」

 

 差し出されたのは毒を持つ花、バターカップ。

 いつかの日にAsrielが間違えてAsgoreに食べさせてしまった罪の花。

 その花に蝕まれることで、初めて誰かの役に立つことができた。

 

「ありがとう、Chara――」











ボクはきっと、誰かの為に何かをしてみたかったんだ。

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