昆虫愛好者のハイスクールD×D   作:滝温泉

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はぐれ悪魔バイサー

「二度と教会に近づいちゃダメよ」

 

帰り道にシスター。アーシア・アルジェントを教会に送っていった日の夜、駒王学園旧校舎の部室では兵藤とシグがリアス部長に怒られていた。

 

険しい表情で強く念を押されている、というかかなり怒っている様子だ。

 

「教会は私たち悪魔にとって敵地。踏み込めばそれだけで神側と悪魔側の間で問題になるわ。今回はあちらもシスターを送ってあげたあなたの厚意を素直に受け止めてくれたみたいだけれど、天使たちはいつも監視しているわ。いつ光の槍が飛んでくるかわからなかったのよ?」

 

兵藤があの場で感じた『寒気』はその危機感を知らしめていさのだろう、もしあの時教会の中に入っていたら……。結果として悪魔としての本能が彼を救ったのだろう。

 

「教会の関係者にも関わってはダメよ。特に『悪魔祓者』は我々の仇敵。神の祝福を受けた彼らの力は私たちを滅ぼせるほどなの、神器所有者が悪魔祓者なら尚更。もう、それは死と隣合わせるのと同義なのよ。二人とも」

 

兵藤はリアス部長の迫力に押され縮こまり、シグは内心ボケーっとしながら顔を真顔に固めていた。

 

ゆえに机に置いていた自分専用ゼリーが塔城にこっそり食べられていることにも気づいていない。

 

「人間としての死は悪魔への転生で免れるかもしれない。けれど、悪魔祓いを受けた悪魔は完全に消滅するの。無に帰すの。何も感じず、何もできない。『無』がどれだけのことかあなたにはわかる?」

 

「シグくんもよ、あなたはまだ人間とはいえ危険に変わりはないのだから。………シグくん、聞いてるかしら?」

 

「ふぁい、きちんと聞いてる」

 

真っ赤な嘘である。

 

「……まあいいわ、とにかく、これからは気をつけてちょうだい」

 

「はい」

 

「はーい」

 

リアス部長のお説教はここで終了した。そしてその後ろには副部長である姫島先輩が笑顔で立っていた。

 

「あらあら。お説教は済みました?」

 

「おわっ、いつの間にいたんですか……」

 

「朱乃、どうかしたの?」

 

「討伐の依頼が大公から届きました」

 

リアス部長は『わかったわ』と返事をすると他の部員に声をかけ魔法陣に集まらせた。

 

「あれ?誰か僕のゼリーどこにいったか知らない?」

 

「……知りません」

 

机の上にはからのカツプが置いてあったとさ。

 

 

 

 

『はぐれ悪魔』

 

はぐれ悪魔とは爵位持ちの悪魔に下僕としてもらった者が主を裏切り、または主を殺してもとを去り、各地で自由に暴れる存在である。

 

主のもとを去る理由には『自身に力に溺れる』『主からの虐待・不満』『異種族同士での関係』『制約を破る・裏切る』等様々であるが、どんな理由があろうとも同じ『はぐれ悪魔』分類される。

 

この存在は他の勢力でも危険視されており、天使側もしくは堕天使側も『はぐれ悪魔』を見つけしだい殺すようになっているとのこと。

 

人間にとって、首に繋がれた鎖を断ち切った番犬と同じ、はぐれ悪魔はどの勢力にとっても危険なのである。

 

シグを含めたオカルト研究部は共に町外れの廃屋に来ていた。最近では、毎晩ここではぐれ悪魔が人間を誘き寄せて喰らっているのだという。

 

それを討伐するための、上級悪魔からの依頼である。

 

『リアス・グレモリーの活動領域内に逃げ込んだため、始末してほしい』という。

 

 

時刻は深夜。深い夜という名に相応しい暗黒の世界。周囲は背の高い草木が生い茂り、遠目に廃屋となっている建物が見える。

 

ただしそれは悪魔のみ、人間であるシグには夜目はあまり利かない。『視覚』が制限されているのだ。

 

「……血の臭い」

 

塔城がぼそりと呟きながら制服の袖で鼻を覆う。他の部員には臭いはしないのか、同じような行為をする者はいない。

 

代わりに伝わるのは周囲全体に満ちた敵意と殺意。兵藤は足を震え上がらせながらたっているのが辛いほどである。

 

「イッセー、いい機会だから悪魔としての戦いを経験しなさい」

 

「マ、マジっスか!?俺は、まだ戦力ならないと思いますけど……」

 

無意識に放った自虐ネタに声が小さくなっていき軽く落ち込む兵藤、シグは背中を擦って励ました。

 

「ふふっ、そうね。確かにそれはまだ無理ね」

 

「元気だしなよ……ゼリーあっ、もう無かった」

 

「うん。気持ちだけでももらって置くよ……」

 

「でも悪魔の戦闘を見ることはできるわ。今日は私たちの戦闘をよく見ておきなさい。ついでに下僕の特性を説明してあげるわ」

 

「下僕の特性?」

 

「主となる悪魔は、下僕となる存在に特性を授けるの。……そうね、頃合いだし、悪魔の歴史を含めてその辺を教えてあげるわ」

 

リアス部長は語りながらも足を進めていく、兵藤もその後ろをついていく。

 

「大昔、我々悪魔と堕天使、そして天使を率いる神は三つ巴の大きな戦争をしたの。大軍勢を率いて、どの勢力も永久とも思える期間争ったわ。その結果、どの勢力も酷く疲弊し、勝利する者もないまま戦争は数百年前に終結したの」

 

「悪魔側も大きな打撃を受けてしまった。20、30もと軍団を率いていた爵位を持った大悪魔の方々も部下の大半を長い戦争で失ってしまったんだ。もはや、軍団を保てないほどにね」

 

「純粋な悪魔はそのときに多く亡くなったと聞きます。しかし、戦争は終わっても、堕天使、天使、神との睨み合いは現在でも続いています。いくら、堕天使側も天使側も部下の大半を失ったとはいえ、少しでも隙を見せれば危うくなります」

 

リアス部長に木場が姫島先輩が続き話を語っていく、二人は聞き入れながら足を進めている。

 

「そこで悪魔は少数精鋭の制度を取ることにしたの。それが『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』」

 

「イーヴィル・ピース?」

 

「爵位を持った悪魔は人間界のボードゲーム『チェス』の特性を下僕悪魔に取り入れたの。下僕となる悪魔の多くが人間からの転生者だからって皮肉も込めてね」

 

「まあ、以前から悪魔の世界でもチェスは流行っていたわけだけれど。それは置いておくとして。主となる悪魔が『(キング)』。私たちの間で言うなら私のことね。そしてそこから『女王(クイーン)』『騎士(ナイト)』『戦車(ルーク)』『僧侶(ビショップ)』『兵士(ポーン)』5つの特性を作り出したわ。軍団を持てなくなった代わりに少数の下僕に強力な力を分け与えるようにしたのよ。この制度ができたのはここ数百年のことなのだけれど、これが意外にも爵位持ちの悪魔に好評なのよね」

 

「好評?なんで?」

 

「競うようになったのよ、下僕の強さをね。その結果、チェスのように実際のゲームを下僕を使って上級悪魔同士で行うようになったのよ。駒が生きて動く大掛かりなチェスね。私たちは『レーティングゲーム』と呼んでいるわ」

 

話がここから更に長くなるので割合してわかりやすく説明しよう。

 

レーティングゲームとは!上級悪魔各々が個人で下僕にした(けんぞく)と自身を『チェス』に見立てたルールで競いあい強さを決める悪魔で大流行中の競技である。

 

しかし、この『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』が配られるのは爵位を持った上級悪魔のみ。さらに一定の年齢まで成熟した悪魔でなければ公式に参加はできないのである。以上!

 

「じゃあ塔城さんや木場もまだレーティングゲームを体験したことはないんだね」

 

「うん」

 

ここで黙って話を聞いていた兵藤が口を開いた。

 

「部長、俺の駒の役割や特性って何ですか?」

 

「そうね、イッセーは______」

 

そこまで言うと、リアス部長は言葉を止める。辺りに立ち込めていた敵意や殺意が濃くなり敵が近づいて来ているのを察知したからである。シグも殺気の方向へと構えている。

 

「不味そうな臭いがするぞ?でも美味そうな臭いもするぞ?甘いのかな?苦いのかな?」

 

「はぐれ悪魔バイサー。あなたを消滅しにきたわ」

 

地の底から聞こえるような低い声音。ケタケタと異様な笑い声が辺りにに響き、暗がりからは上半身裸体の女性で下半身が四本足の5mほどの巨大の悪魔・バイサーだった。

 

「主のもとを逃げ、己の欲求を満たすためだけに暴れまわるのは万死に値するわ。グレモリー公爵の名において、あなたを消し飛ばしてあげる!」

 

リアス部長へと吼えるバイサー。しかしリアス部長は鼻で笑い、後ろからは木場が物凄い速さで飛び出した。

 

「兵藤、巻き添えを喰らわないように僕の後ろで見ているといい」

 

「お、おう」

 

兵藤はシグの後ろに下がり、戦闘を観戦した。

 

「ナイスよシグくん。イッセー、さっきの続きをレクチャーするわ」

 

「祐斗の役割は『騎士』、特性はスピードよ。『騎士』となった者は速度が増すの」

 

兵藤は木場とバイサーの戦闘を視認しようとするも、木場の動きは徐々に加速していきついには目で追えなくなった。

 

「そして、祐斗の最大の武器は剣」

 

「ぎゃあああああああああああああっ!」

 

いつの間にか西洋剣を手にしていた木場の姿は消え、バイサーの両腕が切り取られていた。バイサーは痛みによる悲鳴を上げ、体を丸めた。

 

「これが祐斗の力。目では捉えきれない速力と達人級の剣さばき。ふたつが合わさることであのこは最速のナイトとなれるの」

 

淡々と説明していくリアス部長。そして苦痛に悲鳴をあげているバイサーの足元には搭城がいた。

 

「次は小猫。あの子は『戦車』。戦車の特性は_____」

 

「グッ…小虫めぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

塔城に気づいたバイサーはその巨大な足で踏みつぶさんとばかりに足を振り上げ、垂直に叩き込んだ。しかし、その足は地へとは届かず、踏みつぶしきれてはいなかった。

 

「『戦車』の特性はシンプル、バカげた力。そして、屈強なまでの防御力。あんな悪魔の踏みつけぐらいでは小猫は潰せないわ」

 

見れば、バイサーの足は少しづつ持ち上がり、その真下には自身より数倍もある巨体を持ち上げる塔城の姿があった。

 

「……ふっ飛べ」

 

バイサーの足をどかした塔城は空高く跳びあがり、巨体の腹部に鋭い拳を打ち込んだ。それによりバイサーの体は後方へと大きく吹っ飛んだ。

 

「最後に朱乃ね」

 

「はい、部長。あらあら、どうしようかしら」

 

姫島先輩がうふふと笑いながらなんとか起き上がろうとしているバイサーのもとへと歩みだした。

 

「朱乃は『女王』。私の次に強い最強の者。『兵士』『騎士』『僧侶』『戦車』、全ての力を兼ね備えた無敵の副部長よ」

 

「ぐぅぅぅぅ………」

 

「あらあら。まだ元気みたいですね?それなら、これはどうでしょうか?」

 

姫島先輩は天に向かって手をかざした。刹那、天空が光輝き、バイサーに雷が落ちた。激しく感電するバイサーの肉体は煙をあげて黒ずんでしまった。

 

「あらあら、まだ元気そうね?まだまだいけそうですわね」

 

悲鳴をあげるバイサーを再び雷が襲った。姫島先輩は嘲笑を浮かべながら何度も雷を落とす。

 

「朱乃は魔力を使った攻撃が得意なの。雷や氷、炎などの自然現象を魔力で起こす力ね。そして何よりも彼女は究極のSよ」

 

さらりととんでもない発言をするリアス部長。だがしかし、これは『ド』がつくSであろう。

 

「普段、あんなに優しいけれど、一旦戦闘となれば相手が敗北を認めても自分の興奮が収まるまで決して手を止めないわ」

 

 

「な、なあ伊瀬都。……さっきから足の震えが止まらないんだ、しかも最初より…」

 

「……それは別の震えだと思う」

 

「怯える必要はないわ、イッセー。朱乃は味方にはとても優しい人だから問題ないわ。あなたのこともとてもかわいいと言っていたわ。今度甘えておあげなさい。きっと優しく抱きしめてくれるわよ」

 

「うふふふふふふ。どこまで私の雷に耐えられるかしらね?オホホホホホホッ!」

 

「……きっとかわいがってくれるってさ」

 

「その深い意味があるみたいに言うの辞めてくれ!」

 

それから数分ほど立ったところで、姫島先輩の興奮は収まった。

 

「最後に言い残すことはあるかしら?」

 

リアス部長は煙をあげながら四つん這いになっているバイサーに訊いた。

 

「………」

 

しかし、バイサーは横目で離れている2人の姿を捉え体に力を入れた。

 

「…せめてもの抵抗だ……アノニンゲンヲクッテクレルワァッ!!」

 

バイサーは咆哮をあげ、リアス部長の横を過ぎ去りシグのいる方へと跳んだ。その後ろには観戦していた兵藤もいる。

 

「しまった!?2人とも____」

 

「オオオオオオオオッ!」

 

バイサーは大きく口を開け、そのまま2人を飲み込まんとする勢いで突撃していく。

 

しかし______

 

「どうしたの?やってみなよ?」

 

その巨大な口は届かなかった。バイサーの動きが、届く寸前でピタリと静止したからである。

 

さらにシグの姿は、鮮やかな赤と黒の紋でできた薄い鎧に包まれたような姿に変化していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七星天道(ナナホシテントウ)

 

 

『学名Coccinella septempunctata

 

 

アフリカ、ヨーロッパ、さらにはアジアにまで広く分布する甲虫目テントウムシ科の代表的な昆虫である。

 

 

体長は8mmほどの小型、翅は赤く、その名の通り7つの黒い紋が存在する。

 

 

最大でも僅か1cm程度、成虫は半球形の体型で、脚や触角は短い。

 

 

そしてこの虫の最大の特徴は外敵を退ける構造の体である。

 

 

この幼虫・成虫はとも強い物理刺激を受けると偽死を開始し体は硬直状態へと陥る。偽死を行ったナナホシテントウは葉から落ち、極めて見つかりにくい地面へと落ちたまま動かないことで見つからないようになる。

 

 

一般に昆虫は多くの脊椎動物と異なり、自らの体長の数倍から数十倍の高さから落下しても無事であるということが確認されている。

 

 

だが、さらにテントウムシ科の成虫は関節部から体液を分泌することが可能。この液体には強い異臭と苦味があり、近づいた外敵は多くの場合捕食するのを諦める。

 

 

 

 

「オッア、アアア……」

 

バイサーの大きく開いていた口は自分でも気付かないうちに閉じ、鋭い歯はカチカチと震えていた。涎を垂らし、拒絶反応を起こしている。本能が告げているのだ。

 

 

 

___こいつ(ナナホシテントウ)を食してはいけない。

 

 

 

「食べないの?食べようとしてたじゃん……ほら」

 

「ヒッ……!?」

 

シグは自身の赤い腕をバイサーに近づける。するとバイサーは後ろに後ずさりをしていった。

 

 

 

シグがとった行動は簡単。バイサーの口の中に体液を飛ばしただけ。

 

口中に異臭ととてつもない苦みを放り込まれたバイサーの体は拒否反応を起こした。瞬時に体に異変を感じたバイサーの巨体は一時停止、そしてそこに警戒色と呼ばれる鮮やかな赤色の体を見せつけ擬似的に恐怖させたのだ。

 

「…アッ!?」

 

なにかにぶつかり動きが停止する。怒りの形相を浮かべ手に巨大でドス黒い魔力の塊を持ったリアス部長であった。

 

「よくも私のかわいい下僕を食べようとしてくれたわね……!」

 

以前のバイサーであったのならば、リアス部長はその巨体に吹き飛ばされていたであろう。

 

しかし、受けたダメージに感電が加わった上での最後の抵抗に失敗し、体が恐怖で震え巨大な『消滅』の魔力を見せつけられたバイサーにはもう、地面を這いずる力も残ってはいなかった。

 

「消し飛びなさいっ!」

 

怒りが混じった声音。撃ち出された魔力はバイサーの体を余裕で覆い、その巨体とともに消滅していった。

 

「…ごめんなさい2人とも、怖い想いをさせてしまったわね……」

 

「だ、大丈夫っスよ!部長のせいじゃないですって!」

 

「うん。なにより無事だったんだし、それよりもみんなに称賛の言葉を送った方がいい」

 

「……ありがとう。みんな、ご苦労様」

 

リアス部長がそう言うと、周りはいつもの陽気な雰囲気を生んでいた。これが『王』の力なのだろう。

 

「ところで、一体何をしたのかしら?バイサーは酷く怯えていたようだし……」

 

「テントウ虫の体液を飲ませただけ。ただしすごい異臭と苦さ」

 

シグの簡潔な説明に苦笑いする全員。その中で兵藤がはっと思いだした。

 

「部長、そういえばあのとき聞きそびれてしまったんですけど」

 

「何かしら」

 

「俺の駒……っていうか、下僕としての役割はなんですか?」

 

兵藤の問いにリアス部長は笑顔で答えた。

 

「『兵士』よ。イッセーは『兵士』なの」

 

兵藤は膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 




テントウ虫
始めたときから出したいと思っていた昆虫です。テラフォには出ていませんがね。
感想評価等お待ちしております。
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