堕天使と対面『黒骾象虫』
兵藤に彼女ができた。
彼、
振り向けば全員が振り返るイケメンだとか、どんな者にも優しく接する聖人君子であるとか、スポーツ万能成績優秀のエリートであり学園の憧れであり誇りである。
なんてことはなく。
学園の生徒であれば知らない者はいないほどの変態のおっぱい魔人である。そして悪友である松田と元浜を加えて「変態3人組」と呼ばれているほどに。
その不名誉の如く学園の女子からは蔑まれ憎まれ、入学早々男女割合=3:7の駒王学園では肩身の狭い思いを送ることになった生徒の一人。
それが兵藤一誠である。
この学園には善良な意味で有名な生徒が複数存在する。
最上級生ならばその美貌から『駒王学園の二大お姉さま』と呼ばれているリアス・グレモリーと
二年生ならば爽やかなスマイルと優しい性格の『駒王学園一のイケメン王子』こと
入学して間もない1年生でありながらその可愛く幼い容姿の『駒王学園の二大マスコット』の一人
そして兵藤一誠は悪い意味で有名な生徒『変態3人組』の一人である。彼女がほしいだの言っているくせにエロ発言、学園へのAVエロ本の持ち込みを辞めず覗きも行っている男子生徒。
それが兵藤一誠である。
その兵藤に彼女ができたらしい。授業が終わるなり大声で「俺彼女ができたんだぜ!」と思い切り自慢をするかの様に松田と元浜に言っていた兵藤。おまけに昼休みにはシグのところにも自慢しに来たのである。よほど嬉しかったのであろう。
シグは最初こそなぜ評判のあまりよくない兵藤に彼女ができたのかと疑問に思いこそしたが、他校の生徒という説明を受けると納得した。
そして時が過ぎ金曜日になると「俺は明日夕麻ちゃんとデートなんだぜ!」と自慢していた。ちなみに夕麻ちゃんと言うのは兵藤の彼女になった
兵藤の『彼女ができた宣言』以来、松田と元浜は血の涙を流しながら悔しがり、他の男子生徒もなんであいつが等と嘆いていた。シグは彼女というモノに興味が無かったので特に生活に何も変化が起きることはなかった。
あるとすれば新しいアルバイトを見つけたくらいである。
彼、伊瀬都シグは孤児である。それゆえ貯金は親が残した僅かな金額のみ、男子高校生が生活するのには全然足りない額である。
それゆえのアルバイト。今回見つけたのは配達である、ラーメンの。
路地に他の店に挟まれながらポンと建っているラーメンや「ら~めんキケン」。その名だけ見れば物騒で誰も寄りたがらないような感じではあるが味は絶品である。
『上手い』『早い』『安い』をモットーにしている親父さんの息子。つまりラーメンの出前をしていた見習いが転けて足を痛めたためにその代わりをしてほしいという内容である。
「タラリ~ラリ、タラリラリラ~」
古い自転車の後輪部分におかもちを取り付け、シグは出前に向かっていた。ご丁寧?にチャルメラを言いながら。口笛を吹いているのではなく、タラリ~と口で言っているのだ。
余所見をしないように彼の頭に乗っているテンが出前先まで先導していく。前回のアルバイトでは虫を見つけるたびに仕事をほったらかすのでクビになっている。次から失敗しない保険として、シグはてんとう虫のテンに先導してもらっているのだ。
「こんにちはー、ら~めんキケンです。チャーシューメンお持ちしました」
「あら、ありがとぉ」
「おかもちは明日回収しますので、お代金もその時でよろしくお願いします。じゃあさよなら」
手っ取り早く出前を済ませ、自転車をこいで店に戻るシグ。テンが彼を同じ様に先導していく。だが公園に差し掛かった所で異変が起きた。
「……んー?おしっこ?いってらっしゃい」
先導していたテンが急に止まり公園の草に向かって飛んでいった。これはテンのおしっこの合図であり、これによりシグの頭におしっこがかかるなんてことも無いのである。テンが飛んでいくのを確認するとシグも自転車を降りてベンチに腰を降ろした。
辺りはすっかり夕暮れになっており公園に人気はほとんど無かった。だが耳を澄ますと覚えのある声が聞こえてきていた。
「んー?あ」
声の方を見るとそこには同じクラスの兵藤が最近できた彼女、天野夕麻と噴水の前で話をしていたのが見えた。シグはそれを見ながらそういえば今日デートするって言ってたなーと思いだしながらこっそり話を聞いた。
「ねえ、イッセーくん」
「なんだい、夕麻ちゃん?」
「私たちの記念すべき初デートってことで、一つ、私のお願い聞いてくれる?」
「な、なにかな?お、お願いって」
シグの位置から兵藤たちの姿は見えるが、距離や障害物が多いので向こうからこちらは見えないようだ。シグは楽しそうな二人の会話をBGMにテンの帰りを待っていた。
だがそれは、すぐに終了となった。
「死んでくれないかな」
「!」
その言葉を耳にした刹那、シグのすぐ横に光の槍が突き刺さった。
シグは槍が突き刺さった位置からすぐさま離れた。槍が突き刺さったベンチは半壊している。シグはそれだけ確認すると今度は槍が飛んできた方向に顔を向けた。
「……見られていたか、それならば殺してしまうしかあるまい」
矢を投げたらしき人物は空を飛んでおり、その背中には黒い翼が生えていた。さらにその男はスーツを着ており、右手には光る槍を構えている。
「……だれ?」
シグは見たことのない姿に若干戸惑いつつ尋ねた。
「…いいだろう。冥土の土産に教えてやろう、俺の名はドーナシークだ」
その瞬間、先ほどと同じようにドーナシークから光の槍がシグ放たれる。
「…………」
「なんだと?」
だがその槍はシグに突き刺さることなく、槍の切っ先がシグの手で掴まれていた。
ただ先ほど違うのは、シグの姿が変化していることである。体は一回りほど大きくなり、その全身は漆黒の鎧で包まれていた。
「……正当防衛」
『
学名『Pachyrhynchus infernalis』
フィリピン~沖縄県八重山諸島に生息している甲虫目ゾウムシ科カタゾウムシ類の昆虫である。
全身漆黒色で全長13mm内外。その体は光沢を放ち長い脚が特徴の一つである。
だが一番の特徴はその『硬さ』である。
クロカタゾウムシは『擬態』もせず、『捕食』固すぎてされず、『翅』固すぎて開かず。固さを追求して進化した昆虫である。それゆえに、硬さを追求したゆえに羽が退化し飛ぶことが適わなくなった昆虫でもある。
『作成されたゾウムシの標本』カタゾウムシ類の項目だけは針で止めるのではなく、糊で台座に貼り付けられる。
その理由は名の通りの硬さゆえに、針が通らないからである。
その硬さの強度は人間が踏んでも気にも留めず、人間が力を込めてコンパス大の太さの針を使うことでやっと貫通できるほどである。
『人間の押力+コンパス以上の太さの針』
ではそのクロカタゾウムシが人間大の大きさだった場合どうなるか。
その体は、もはや剣でも傷つけることのできない『鎧』となる。
「えーい」
「!うおおっ」
シグは光の槍をドーナシークに投げ返す。ドーナシークはそれを寸前で体を捻らせかわした。その槍はドーナシークの頬を掠めそのまま飛んでいった。
「人間ごときが…なんという力ぁ!?」
だが、それだけでは終わらなかった。ドーナシークがシグから目を離した一瞬。その一瞬の間にシグはドーナシークの下まで跳び、重く、硬い蹴りを喰らわせた。
「ぐうおおおっ!」
クロカタゾウムシは飛ぶことはできないし高い跳躍力も持っていない。シグが飛んでいたドーナシークに蹴りを喰らわせることができたのは高度があまり高くなかったことだからこそである。
ドナーシークは蹴りを喰らい数10mほど吹き飛んで行った。シグはそれを見届けると姿を戻した。
「……勝ったのか」
公園に人気が少ないのが幸いしたのかシグの姿を見た者はいなかった。周りに誰もいなかったことに安堵したシグはテンが帰ってくると逃げるよにして自転車を走らせたのであった。
「…彼はいったい……」
その姿を見られていることに気づかないまま……。
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